死神に迎えられるほど甘くない
ドラゴンやら自分の中身と戦ったあの日から一週間がたちそうな二三日前に俺は優香とリュウに話があると呼ばれた。
その話とは先日の『教会』襲撃事件の折に姫華に聞いていた、王族の仕事のことだった。内容は機密らしい。俺にまで秘密にするようなことか?と若干茶化すように言ったら、リュウは、
「父上は万難は排しておきたいとのことらしい。つまり、下手に外で話せば誰かが聞き耳を立てているかもしれないということを警戒しているのであって、君を信用してないわけではないさ」
と、言っていた。
そこで話は終わり、じゃあ次会えるのは多分勇者大会くらいだね。と言い残して二人は去り、俺は一人、宿の机に残された。
すると、目の前に人が座った。
艶やかな黒髪のストレートで、少し釣りあがったような目。そして、美人で少し目を引く自己主張のやや激しくない胸元。言うまでもなく姫華だった。
「それじゃあ、話し合いも終わったわけですし、クエストにでも行きましょうか?」
まるで今までの話を聞いていたかのような言葉…聞いていたんだろうなあ。
だが、俺はとても寝不足でそんな気分ではなかった。
「すまない、昨日あまり寝てな…」
「キュアー」
俺の言葉を遮るかの如く姫華は回復魔法を使った。…如月海斗の眠気と気怠さは回復した。睡眠要らず。
「そんな魔法まで使えたんですか…」
通常、眠気回復のようなあまり実用的とは言えない魔法は、使用者が金を取ったりするため(寝ずに過ごしたいという人のため)滅多に見れるものでないのに…あっさり使われた。
しかし、これには副作用があって…
「安心しなさい。使うのは今日だけよ」
副作用とは、この魔法を多用すると眠くても寝れなくなるということなのだが、一日くらいなら大丈夫か。
まぁ、いい。惰眠は今夜に貪ることにしよう。昨日寝れなかった分。
「じゃあ、行きましょうか。番人狩りへ」
「…は?」
番人狩り…だって?
「いや、あの姫華さん…?」
俺は困惑を隠しきれず姫華に事情を尋ねようとするが中々言葉にできなかった。
何故なら相手は番人だからだ。
番人、凄まじい力と凄まじい魔法を使う戦闘力がドラゴンとすら一線を画する怪物。
そして、この世界に存在するダンジョンの入り口に立っており、条件を満たしていないものが入ろうとすると力を以って排除にかかる。つまり、逆に言えば条件さえ満たせば何もしてこないのだ。
因みに公にもなってないが、番人を倒したという報告は一昨年に神無月狂夜と師走春仁が二人掛かりで倒せたというものしか上がっていない。
化け物レベルの強さを誇る人間二人でようやくなのだ。百歩譲って姫華がその二人に負けるとも劣らぬような強さを誇っていたとしても、化け物はただ一人なのだ。
つまり、まぁ俺があの化け物に匹敵するような力でも持ってりゃ倒せるんだろうが俺はただの一勇者だ。
「大丈夫よ」
その時、俺の心を読んだかの如く姫華は言った。私が守るからって?惚れるだろーが。
「骨は拾ってあげるわ」
前言撤回、惚れるわけがなかった。今の言葉で俺の死の可能性があることがわかり俺の背筋と俺の脳を冷やした。
「つまりは、そんだけ危険だということだけど、どうして俺みたいなパッとしないような奴を選んだ?」
「前も言ったでしょう?貴方とは気が合いそうなのよ」
言葉だけ取れば告白のセリフっぽいな、これ。だけど、これなら行く場所は死に場所になりかねないような場所なのだ。有耶無耶にすべきではない。
「気が合う、って理由だけで普通ならパーティを組むのは十分だが、今から行くのはあのドラゴンよりも強い化け物だぞ?会ったばかりで能力すら分からない奴と行くもんじゃないだろ?」
「能力なら知ってるわ。この前のドラゴンを討伐をした時に見たわ。貴方は信用できるわ。だから行くのよ」
「死んでもしらねーぞ」
「この程度で死神に迎えられるほど私は甘くないわよ」
「死神を寄せ付けないってことか?」
「死神が来た時には、連れて行かれる番人ってことよ」




