私と手を組まない?
「ということは今回の試合は貴方が勝ったんですね」
「はい、そうです」
試合があった次の日の5/9、俺は破凪との試合の結果を報告するために世界安全維持機構の最高権力者たる円卓議会議長室にいた。
その席に現在座っているのは我らが十二師家の序列第一位神無月狂月だった。
その彼がすこしおどけながら言った。
「まぁ、仮にも広場で何十というゴブリンを斬ったかの『真紅の殺戮者』が負けるとは思いませんでしたが」
「は…?」
真紅の殺戮者って…あれなんか公式になってる?
「いやぁ〜、しかしあの武闘派の睦月家を倒してしまったということは…楽しみですねぇ」
「えっ?楽しみって何がですか?」
「決まってますよ、『睦月家の復讐』ですよ」
……やっばいすっかり忘れてた。
睦月家の復讐…。睦月家特有の風習で、まぁ、武闘派として当たり前のようなことなのだが、試合で負けた相手に勝つまで執拗に試合を申し込むというのだ。
過去にそれにあった者の中ですぐに実力を越えられ自信を喪失したり色々と悲惨な目に遭った者もいるというとか。
「いやいや、冗談ですよ。貴方ほどの実力さえあれば早々越されませんって」
「あとで…やられるってことですか?」
「・・・」
完膚なきまでの無言っぷりでした。
じぃーっと顔を見るが全く表情は読めない。ポーカーフェース。
「あぁ、報告は終わりですか?」
「え…?ええ」
「では、警備に戻ってください」
「い?あ…はい、失礼します」
「……ククク、あと少しか。……取り敢えずお前たちは合図を待てや」
背中で何か聞こえた気がしたが、気にしないでパタンと扉を閉じて廊下に出て息を吐く。
いつものことだが、あのこちらを見透かしたようでいて、自分の本心を隠すようなポーカーフェースを相手にしていると疲れる。
だが、瞬き一つでリセットして頭を仕事モードに切り替える。今はクエスト中なのだ。
クエストの内容は王族の護衛。なのにクエスト報酬はなし。なぜなら、王族の護衛は十二師家の義務であるからだ。おかげで強制力はあって、半強制とか生易しいものではない。
全く泣けるし、しかも責任も重大。
ただまぁ、だからと言って投げ出すわけではないのだが。
そのまま俺は階段を下り最上階の13階から5階に降り立ち小さい部屋のドアをノックする……前にドアが静かに開いた。
ピタリと固まってしまった俺を見て部屋にいた人物は声をかけた。
「いつまでも突っ立ってないで入ってきたらどう?」
その部屋にただ一人いて、ドアのそばにいないのにドアを開けた人物、弥生姫華がそう言った。
その言葉におとなしく従い部屋に入る。
「座ったら?」
そう彼女が言うと、彼女の座ってる丸いテーブルの椅子の内、彼女の対面の席が後ろに動いた。
まるで、俺がそこに座るようにという彼女の意思を汲んだかのように。
もちろん、椅子やドアが自分勝手に動いたとは思っていない。
動いたのは彼女がそう魔法で動かしたからだ。
風魔法…で、一切風を感じさせることなく、動かしすぎることもなく、ちょうど良い位置に。
それだけで彼女の技量は測れる。しかし同時に本当に彼女の技なのかとも思う。
弥生姫華、職業勇者。その二つ名は、『雷の姫』。雷の魔法を使わせると右に出るものはいないからなのだが、その他の魔法がやや苦手という噂がある。
「…あぁ、安心して。その魔法は私が使ったのよ」
まるでこちらの心を読んだかのようにそう言ってきたため、俺はおとなしく座った。
その言葉が真実であれば、彼女が苦手と言われてる他の魔法もそうとうな腕なのが分かる。
なら、得意魔法たる雷魔法はどうなるんだ…。
「貴方、睦月破凪に勝ったそうね」
「え…?どうしてそれを?」
その情報はあまり出回っていないはずの情報だった。
正式な発表は護衛任務が俺の番になってから発表のはずだのに…。
「情報源は伏せておくわ。まだ教える時ではないし。それより、貴方、私と手を組まない?」
「手を組む?なぜですか?」
手を組むといってもメリットも何もない。十二師家は政治的なことに対して中立でなければならないのだから派閥などできそうもない。
「いえ、別に深い意味はないわ。ただ、貴方は将来有望だから今の内に仲良くしておこうと思ったのよ」
「将来有望だと言うのなら、破凪…睦月破凪もでは?」
相手の目的を探るため敢えて破凪の名前を出してみる。
「いえ、彼は私と合わないだろうから」
…何も分からずじまいと。
「では、本題に入るわ」
何も納得してないし理解してないのに話は先に進むようだ。
「来週、三国の王の子供である紅龍牙、青崎優香、白城花音の三人は王族としての仕事で一旦勇者の職から離れる。その時にでも一緒にクエストへ行きましょう」
「待ってください!何が目的…!」
「最初に言ったわ。貴方に取り入るためよ。それ以外に何もないわ。それより、貴方のメリットを考えたら?」
「俺のメリット…?」
その時、外で爆発音がした。だが、俺はなぜか弥生の目から逃れられなかった。
「そう、例えば私がとても強いとかね」
バァン、とドアが吹っ飛び廊下から緑の何かが入ってきた。
「キシシ!リー様の登じ…」
ゴブリンだ!しかも数体と思って席を慌てて立ち剣を抜いて斬りかかろうとしてそちらを見ると、既にそのゴブリン達は凍っていた。
俺の後ろから紅茶カップを皿におくカチャリという音が聞こえた。
「どうかしら、私の実力は?」
彼女の言葉に俺は返すことはできなかった。




