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<ガイア>列伝  作者: 樹実源峰
防衛準備編
27/69

俺たちがやるのは、ただの会議じゃない、戦争だぞ

床で伸びている海斗を見てリュウは思わずため息をついてしまった。


傍から見ると、最後の頭部への攻撃が強過ぎたとか、最後の攻撃が容赦なさ過ぎたとかということを後悔しているようにも見えた。


が、彼はそれを考えていたのではなく、海斗の弱点である。つまりは、熱中し過ぎると周りが見えないということなのだが。


技量的にも速度的にも、そして筋力的にも成長はしていたのだから、弱点もある程度直ったかと思った時にこういう結果であるため、彼はため息をついたのだ。


「まぁ、だからと言ってこのまま起きるのを待つのもな…」


そう彼は呟いて、海斗をズリズリと引きずって道場から出した。出したのは困るからだ。

そして、適当に海斗を置いて、バケツ一杯の水を持ってきた。


…もうお分かりだろう。彼がなにをする気なのか。


そして、彼は躊躇することなくそのバケツ一杯の水を海斗の顔めがけてぶちまけた。


「ぶぉっ!?ぎゃああああああああああ!!!!」


そして、海斗は凄まじい叫び声とともに起きた。

その海斗の頭めがけて今度はバケツを放り投げる。


「ゴッ!」


鈍い音を立ててバケツが海斗の頭にヒットし、もう一度鈍い音を立てて地面を転がった。


後は呆れた顔で海斗を見る龍牙と、痛そうに(実際痛い)頭を抱える海斗がそこにいた。




時間は少しずれて5/1 20:00

場所も少しずれて大陸中央の『教会』近くにある勇者スクールの校門前。


そこで、睦月破凪は水無月葵を待っていた。…かれこれ一時間近く。


そんな彼の周りには金沢をはじめとする水無月様護衛隊の死体があった。いや、あくまで表現であって本当に死んでいるわけではないが。


彼が待っている一時間の間に何やらワラワラと集まってきて相手にする気もなかったが、襲いかかってきたのだ。何やら『愛の巣』やら『女神』という言葉が聞こえたがよく分からないというのは彼の弁だ。


死体となった彼らは、水無月様をお守りするというある意味ストーカーじみた何かしらの義務感から彼と戦ったのだが、彼にとってみればどうでもよかった。


また、どうでも良かったのは彼らが睦月から歯牙にもかけられないほどに一瞬で壊滅したからであるが。


さて、そんなことをしているが、彼とて暇ではない。迎えの馬車もすでに来ている。なのに、葵はこない。


そう彼は苛立っていた。イライラしながら足元の死体…もとい、金沢を踏みつけていた。その度にウーッと唸るわけだからもはや、彼は魔王とか悪魔とかにも見えたが、幸か不幸か彼の周りには彼の関係者しかいなかった。


そして、踏むことにも飽きた彼はとうとう観念して葵を迎えに行くこととした。


御者にしばらく待つように伝えて校門をくぐり直す。そして、女子寮へと歩き出す。


その途中で彼が女子寮へと行くのを見た女子からキャーキャー言われていたが暇ではないしどうでもよかったので彼は無視した。


ズカズカと入り込もうとしたところで、入り口にて寮監に止められた。


「ちょいと待ちな、あんた」


彼は少し頭を冷やした。いくらなんでもこのまま直進するのはまずいだろうと。そう思ったので寮監に言って葵を呼んでもらうことにした。


「すみません、水無月葵を呼んでもらえませんか」


本日二度目のざわめきが始まる。しかし、彼はそんなことを気にせずに寮監の答えを待った。


「いいだろう…。伝言だったら、私が代わりにやってやろう」

「では、彼女に伝えてください。『出発時間が迫ってるからさっさと校門前に来い』と」


そう言うと、寮監は何も言わずに階段を上がって行って、すぐに葵を連れて来た。


当の葵は若干涙目である。


「…荷造りは?」


肝心の懸案について聞く。…まぁ、聞かずとも彼には予想できていたが。


「できてない……まだお菓子を詰め込んで…」


彼の予想通り、また要らないものを詰め込もうとしていただけだった。彼はそれ以上の言葉は聞かず、静かに寮監に黙礼し、葵を引きずって校門前に連れて行った。


「おい、馬鹿」


そう呼びかけるとすぐに答えがあった。


「馬鹿っていうな!」


だが、彼にとってどうでもいいことなので、無視をする。そして、言葉を続ける。


「いい加減、家の名を背負ってる責任を自覚しやがれ、馬鹿が」


今度は答えはなかった。…渋々ながら承知したと言った感じかもしれない。


「俺たちがやるのは、ただの会議じゃない、戦争だぞ」


そう言って彼は彼女を馬車に放り込んだ。




今度は時間を遡り、場所は海斗を尋問した直後の『教会』、円卓議会


…若干周りの目が冷たい気がする。と思って、滝沢副議長はため息をついた。


彼にとっての姫川…ではなく青崎優香は特別な存在なのだ。

娘…というには少し遠く、孫というには近い存在だ。


彼は『教会』の円卓議会副議長という、役割柄上彼は各国王と頻繁に顔を合わすのだが、紫陽花の国の現国王の青崎神庭とは馬が合い、個人的な付き合いもあった。


…つまり、優香と会って世話をすることもあった。


青崎神庭は、ほとんど皆に公平を示す男だが家族に関しては非常に厳格だ。


信頼できない人には絶対に家族のことを教えないのだ。


そして、ある日夫婦共々出かける日に優香一人を置いて行くこととなった。


いつも頼っていた、神庭を育てたこともある乳母はすでにいなかったので、同じくらい信用できる彼に白羽の矢がたったのだった。


かくして、彼の中での優香は娘ではないが娘に近い存在という地位を占めてしまったのだった。


要するにさっきまで海斗が感じていたただならぬ視線は親バカという一種の子供への愛情表現だったのだが。


その時に、扉が開いた。


もう会議が終わったはずなので人が来ると思っていなかったため、誰もがそちらを見た。


そこには若い男がいた。この中にいる誰よりも若い、20代の男が。


その男は黒いスーツを身に纏い、黒い髪で、黒い帽子をかぶり、黒い靴を履き、黒い手袋をしていた。

黒でないところは直接肌をさらしている顔と、白いシャツくらいなものだ。


その男を見た滝沢副議長は、ため息をついてから、口を開いた。


「こんにちは、神無月議長殿。如月海斗の尋問は終わったが?」


それに対して、スーツの男、いや、神無月議長はニコニコとしたまま言葉を返した。


「おやおや、それはそれは。私としたことが、どうやら遅刻してしまったようですね」


と、言いつつ芝居がかった動作で肩をすくめてみせた。


「それで、彼の処遇はどうなりましたか?」


と神無月は続けた。

なぜ処遇を定める必要があるのかを問われれば、それは彼が『教会』に、巨大ゴブリン—オーガの存在を知らせないまま交戦したという点にある。


脅しをかけられたという事実もあるので、悪いと決めつけることはできないが。


もう一つの問題は、確かにオーガは『他の勇者を殺す』と言ったがそれが可能なほどに強かったのかがわからないことである。


如月海斗は、これについては、いきなり近くに現れたことから相当に強いと直感したと語り、さらに洞窟奥では死闘をしている。


だが、その基準となる海斗が、どの程度に強いのかがわからないためにその脅しを聞き入れる必要が果たしてあったのかなかったのかという問題がある。


といった諸々の状況を考慮した彼の処遇は…


「厳罰注意、及び一週間後の最前線維持隊への編入だ」


最前線維持隊と、いうのは、前にも説明した通り選出されたBランク勇者が、週に一回に集まり『闇の領域』と人間の土地の境目で、向こうからやってくるゴブリンやらを討伐するための部隊である。


隊と言っても別に決まりはなく、あるのは実力と少しだけの約束事である。


決闘をしないとか、不寝番は三人立つなどである。


ちなみに、これは強制であるが勇者ランク昇格のためのポイントが付与されるのである。


ここから更に脱線させてもらうと、勇者ランクとはE〜Aまであって、最初は当然Eから始まる。


なぜ、こういう決まりがあるかと言えば、もちろんそれは勇者たちのやる気を引き出すためである。


自分がクエストをやると、その難易度によってポイントがもらえ、そのポイントが一定値溜まると、『教会』から通達があって晴れてランクが上がるのだ。


ランクが上がっていいことは、『教会』が運営する公共施設で若干の特典があること、給料があがること、さらにクエストの選択肢が増えることである。


上位になればなるほど、報酬金が高いクエストを受けれるようになる、ということである。ある意味これも実力社会である。


さて、そんな話はさておいて、話を戻すと、なぜこういう処分がくだされたかというと、やはり如月海斗の実力が不明な点にある。


だから、現地で勇者たちがどれだけ討伐したかの記録班のいる最前線維持隊に送り込み、彼の能力を図りつつゴブリンを討伐するという一石二鳥な考えに基づいている。


「それだけ…ですか?」


ニコニコ笑いながら—いや嗤いながらにも見える—神無月はそう言った。


「なんだ?何が言いたい?」


そう滝沢は尋ねた。

それに対して神無月はやはり芝居がかった動作で以下にも熟考しているかのような雰囲気を出してから、言った。


「いえ、ね。私は、今回彼は頑張ったと思うんですよ。たとえ、あの—ええとオーガでしたっけ?—怪物を倒した以前に、ほぼ一人で何十体というゴブリンを殺しているんですよ。もし、その時いたのが彼ではない勇者なら…止めれたと思いますか?」


最初から静まり返っていた議会が、今度は違う意味で静まり返っていた。


厳粛に…ではなく、音を立てれば殺される…というくらいの緊張によって。


「つまり、神無月議長は彼に褒賞をやれ、とおっしゃるわけですか」


滝沢が、神無月の言葉から彼の真意を類推してみて、答えた。


「まぁ、そうですね。ただ、これは褒賞ではないと思いますがね」


「褒賞ではない…?」


「ええ。私が彼に与えようとするのは、彼の家が失った貴族特権及び、如月家の義務ですから」


再び静まり返る。無論、皆反対するわけではないが、余計なことを言えば、殺されるとでも考えているかのように黙り込む。


「それは、議長としての意見か?もしくは、十二師族の連合長としての意見か?」


滝沢は、そのプレッシャーを物ともせずに、失礼であることを承知の上で尋ねた。


「いえ、私は議長として言ったまでですよ。…十二師族としての私が『教会』の意向に関与なんてできませんしね」


その答えを聞いて内心、嘘ばかりだろと吐き捨てたかったが、その気持ちを抑えて彼は如月海斗の処遇を改める。


「では、先の二つに合わせ、彼の家の貴族特権及び、義務を与える」


こうして、如月海斗の本当の判決は終わった。

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