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<ガイア>列伝  作者: 樹実源峰
はじまりの物語
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懐かしい夢

バタン!と乱暴にドアを閉めてから姫川はベッドへダイブした。ここは、彼女が借りた宿屋の部屋。先ほど如月海斗に先に戻ると言って戻ってきたのだった。


さて、今の彼女はとても悩んでいた。他でもない先ほどの彼の質問『どうして俺に優しくしてくれるの?』のことだ。


「なんででしょうか…?」


胸にモヤモヤとした気持ちが広がった。


「むむむむむ…分かりません…」


それがなぜなのか彼女は分からなかった。もう一度彼の顔を思い出して見るとふと顔が熱くなる気がした。


「私は彼のことが好きなんでしょうか…?」


だが、彼女の胸の内にふと一つの感情が疼いた。まるで昔を思い出した時に感じる恋しさ、懐かしさである。


「?なぜ、懐かしいと思うのでしょう?私は彼とあったことがないはずです…」


彼女の出生は特殊なもので、俗に言う箱入り娘のような育て方をされていた。だから、会う男はすべて高貴な生まれの男ばかりだった。


高貴な生まれの息子は、家が没落しない限りそのまま家を継ぐか分家の主人となる。娘はそういった名家の嫁になる。


そして、血の力で家が大きくなっていくのだ。娘や息子は高貴な者にとってとても大切なものだから外に出さないよう大切に大切に育てるものなのだ。彼女の場合は特殊なので今は勇者の職についているのだがそこらの話をすると長くなるのでここでは割愛する。


「今度、聞いてみましょうか?」


そこから彼女は暫く会話の切り出し方に迷うのだった。



一方の海斗はというと、こちらもさっさと宿に引き上げてきたのだった。姫川さんの起こった理由を考えるためである。


「しっかしなんで怒ったのかねぇ…」


女心と秋の空、ふとそんな言葉が彼の胸に浮かんだ。


「やっぱり、よく分からん。分かるのは、まぁ本人に聞いたらダメということくらいか」


やれやれとため息を吐き、これからどうしようか考えているとふと姫川の最初の質問を思い出した。


どこであの剣技を習ったのかである。たしかにあの『薔薇の剣』は王族に伝わる剣術である。が、彼は王族ではなく、どころか貴族ですらなかった。つまるところ平民の出である。


父は普通の農家、母はそんな父を支える優しい母だった。怒るとすごく怖かったが。


そんな彼が勇者になれた理由は、一つに魔法適性の高さである。魔法適性とは、どの程度の魔法を操れるかというもので高ければ高いほどかなり強力な魔法が使えるわけだが、全くなくとも日常に使う魔法に不自由することはない。


二つ目はとある事件のことだ。これはあまり喋るべきことではないので割愛しよう。


三つ目は、まぁ聞こえは悪いが裏で手を回したということもある。手を回したと言っても彼がやったわけではなく、彼の知り合いが勝手にやったことである。それに関して彼は感謝すべきかしないべきか迷うこともあるのだが。


などと考えてる内にベッドに寝転ぶと案外疲れていたのか彼の意識はすぐに闇へと沈みそして、昔の記憶へたどり着いた。



「ぎゃふ!」


俺は地面に顔をぶつけた。俺はいつもと同じように奴とチャンバラごっこをしていて、負けてこけたのだ。


「遅いぞカイト!このままだと敵にあった時にやられるぞ!」


そう言ったのは、赤い髪に赤い目をした俺の友人だった。勝ち気な目をして体も幼いながら鍛えてあった。つい五年前のことである。そして、張本人は俺を立ち上がらせた。


「まてまて、リュウ。俺は農民の子供だよ。敵って誰と戦うのさ?」


俺は奴に反論した、が奴はすぐに返してきた。


「そりゃあ、悪い奴に決まってるじゃないか!ゴブリンとか!」


「いや、ゴブリンは勇者たちがいつも境界線付近で守ってくれてるじゃないか。来るわけないだろ、ここまで」


俺が文句を言うようにブツブツと言った最後の言葉を見事に聞き取り奴はさらにこんな事をいった。


「そんなの、分からねーだろう。

たしかに何十年も奴らの進行はないけど、それがいつまで続くかも分からない。もしかしたら、奴らとは別の脅威が襲ってくるかもしれないんだぞ」


「まー、そーかもしれないけどさ…」


俺がブツブツいってると


「分かったんなら続きだ。全力で来いよ!」


「何回も全力は出したよ!お前が強すぎるだけだよ」


奴の返す言葉に俺も何か返す。すると奴はまた返してきて俺も返す。そんな悪口の応酬が繰り広げられていると、俺らの近くに人がやってきた。俺らと同じくらいの年の女の子だった。髪は黒で長く伸ばしていてとても綺麗な子だったが、なぜか顔が思い出せない。しかし、最近見たようで見てないような妙なむずがゆさを感じた。


「あら?貴方達は何をしていますの?」


彼女は俺らにそう言った。


「何って、男の戦いだよ」


そう答えたのはリュウの奴だった。


「あぁ、そうだな」


そう言って俺は同調した。


「チャンバラですの?でも危ないのでは…?」


「これは体を鍛えるものだからな。多少の危険は仕方ない」


「そうですの」


ふんふんと頷く彼女にリュウは尋ねた。


「あんた、誰?」


「私ですか?私は青崎優香です。よろしくお願いします」


と彼女は綺麗なお辞儀をした。それを見てリュウは


「あぁ、あんたが父さんの言ってた…」


と言った。


「知り合いか、リュウ?」


と尋ねてみると、


「あぁ。今日は父さんの知り合いがくるって言ってたからな。名前もたしか青崎だったと思う」


「あの、」


そこで、彼女は声を出した。


「ん?なに?」


リュウが聞き返すと彼女はこういった。


「貴方達の名前は?」


「おっと、忘れてた。俺は龍介、リュウって呼んでくれ」


「俺は如月海斗。よろしく」


そこから俺たちは何時間も遊んだ。彼女の父親とリュウの父親が呼びに来るまで。そして、皆で食事をとり、俺はそのあと家に帰ったのだ。と、そこまで思い出したところで俺は意識を取り戻した。



「…ん…?今のは?」


場所は戻り姫川の部屋。彼女は先ほどまで夢を見ていた。


「懐かしい夢でした。彼らと遊んだのは楽しかったです。でも、なぜでしょう…顔を思い出せません」


赤髪の彼とは一年に数回くらい会っているのでその時の顔を思い出さずともいいのだが、問題はもう一人のほうだった。彼とはそれ以後会う機会がほぼなくて存在も忘れていたような気がする。ただ、彼から海斗と同じような懐かしさを感じるのだった。


「なぜ、彼を覚えてないのでしょうか?」

それは知られてはいけない事実。一人の少年の人生を大きく変えた真実。そして彼らと彼女らが出会うことになったきっかけである事件。

一月四日更新!

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