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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第三章 空回る僕ら
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みたらしだんご

 新学期は、僕の想像以上につらい始まりを迎えた。

 夏休みの序盤までは新学期が始まっても平気だよと思っていたのだけれども、夏休み中盤からの二学期序盤までの展開がとてもつらい物だった。

 僕が甘かった。

 夏休みがずっと続けばよかったのに。

 そうしたらテストもしなくて済んだし、みんなからの辛辣な視線を知らなくて済んだんだ。

 一学期の頃の視線はまだ救いがあった。一学期の終わりにはかなりきついものになっていたけれど、それでも今よりはましだった。今のそれは人を見るそれじゃない。自分のことをこういうのは嫌だけど、まるで僕が汚いものであるかのようだ。

 楠さんや雛ちゃん、小嶋君や三田さんといった友達がいなければ多分結構本気で自殺を考えていたことだろう。でも今はいるから大丈夫。死にたくないよ。まあ、友達がいない状態でも、もともと僕には死んだりする度胸なんかないからそんな馬鹿なことをすることは無いだろうけど。

 そもそも、僕はこの立場と引き換えに友達を手に入れたのだから、友達がいない状態のままならこんな視線もらうことも無いのだけれどね。

 つらい立場と友達を交換したんだ。

 でも、それなら、とっても素晴らしい交換だと思う。

 失うものよりも、得る物の方が明らかに大きいもの。

 かの有名な等価交換の法則を無視しているね。僕はもしかしたら賢者の石を持っているのかもしれない。

 だとしたら、なんでもできる。

 石ころを金に換えたり、不老不死になれたり。

 なんでもできる。

 でももし本当にそれを持っているのだとしたら色々出来るのだろうけど、僕にはできないのでやっぱり賢者の石は持っていないのだろう。

 しかし。

 無限のお金や、永遠の命を得ることは出来ないけれど、同じくらいとても価値がある物を、僕は得ることが出来る。

 ずっと続いていく友情なら、僕の頑張り次第でどうにかなると思うんだ。

 言わば、僕の頑張りが、賢者の石ということなんだね。

 頑張ろう。

 ところで、全く関係ない話ではあるのだけど、昔の人たちが賢者の石を作ることに成功していたら……いくらでも金を精製できるようになっていたら、金が値崩れを起こして大した価値が無くなってしまうと思うんだ。だから今度は金以上の珍しいものを作るための、新しい触媒を探したり作ったりしなければならなくなるのだと思う。

 望めば望むだけ、終わりなんてないんだ。

 だとしたら、みんなは何のために頑張っていたのだろうね。

 妥協をすれば終わるけれど、きっとそんなことはしない。

 最高で究極な物を求めている限り、人っていうのは幸せになれないのかもしれないね。


―――



 だから僕は、最高で究極な結末を選べなかったんだ。



―――


 テストの結果が帰ってきてから四日。九月十六日金曜日の放課後。

 文化祭の準備は着々と進んでいる。今日も調理実習室でみたらし団子の作り方講座が開催されるというので、エプロン姿の僕はホワイトボード前にたむろしているクラスの女の子達の後方で必死に教えを聞いていた。

 色とりどりのペンを使い分かりやすく解説しているのは委員長の楠さん。楠さんがおいしいみたらし団子の作り方をみんなに伝授すべくわざわざ調理実習室を借りてくれたのだ。そして僕は男子としてただ一人その作り方講座に参加させてもらっている。……肩身が狭いよ……。だけど、お団子の作り方には興味があるし、何よりも一応は副委員長という立場なのだから。参加しなければ。


「とりあえずこんな感じ」


 にこりと笑いペンにふたをした。


「簡単なんだ」


 クラスメイトの誰かが感心したように楠さんに聞いている。


「でしょ? 別にむずかしい事なんか何もないよ。じゃあ、早速やってみようか。材料はもう各テーブルに置いてあるから好きなところで作って。私は歩きながら様子を見るから、分からないところがあったらガンガン質問してね」


「「はーい」」


 すごい。先生みたいだ。


「じゃあ――」


 楠さんはペンを置き、手を叩いた。


「頑張ろうね!」


 ――そう言うわけで。

 みんなでわいわいお団子を作っている中、僕は一番後ろのテーブルを一人で占領して作業することに。ものすごく寂しいです。

 でもいいや。みたらし団子は作ったことないから、作り方を覚えられたらそれだけでも今日参加した意味があるよね。頑張ろう。

 などと寂しさを紛らわしながら作業を始める。

 えーっと、上新粉を――


「……あの……」


 上新粉を練ろうかとしていたところに、誰かに話しかけられた。まさか僕なんかに話しかけてくれる人がいるだなんて。少し驚き振り返る。


「あ、三田さん。どうしたの?」


 三田さんが可愛いエプロンと可愛い三角巾を付けて儚げな笑顔で立っていた。

 三田さんも説明を聞いていたんだね。みんなに混ざっていたから気づかなかった。


「……一緒に作ってもいい?」


「え、あ、もちろん!」


 孤独じゃなくなった。これで作業がより楽しくなる。よかった。

 もしかしたら、三田さんは僕が一人だったのを見て気を遣ってきてくれたのかもしれない。もしそうだとしたら、とても申し訳ない。僕になんか気を遣わないでいいのに。三田さんだってみんなと作りたいよね……。


「佐藤君、当日は料理担当だよね……?」


「うん……。僕、女子の制服を着ておはぎを作るみたい……」


 当日のことを考えると憂鬱だ。


「それは、何と言えばいいか……残念だね」


 三田さんも同情してくれる。


「うん……」


 もう一度くらいは抵抗してみようと思うけれど、間違いなく却下されるだろうね……。

 とりあえず、練って行こう……。


「……なんだか手慣れているね佐藤君。すごいね」


 日ごろの成果が出ているのかもしれない。嬉しいな。


「えと、そうかな。その、料理とか、するときもあるから、かな」


「そうなんだ……。私は、全然できないから……」


「僕もそんなに得意じゃないよ。好きだから作るのは苦痛じゃないけど」


「すごいね……。主夫になれるね」


「主夫、ですか」


 喜んでいいのかな。良いよね。


「佐藤君、得意な料理とかあるの?」


「得意料理……。えっと、目玉焼きとか……」


 これなら失敗なく作れるよ。半熟だって完熟だってターンオーバーだって作れるよ。自慢できるようなことじゃないけど……。

 三田さんも僕の得意料理に困惑している様子。


「それは……誰でも作れるんじゃあ……」


「うん。僕はその程度だよ」


 料理をしているといっても、結局僕は不器用だからね。


「……でも、お弁当作ってきてるんだよね……?」


「え、あ、うん」


 そう言えば、楠さんがみんなの前で公表していたっけ。


「なら、もっと得意なものが……」


「え、えーっと……」


 どうしよう……。目玉焼きが一番の得意料理なのは本当なんだ。でもそれじゃあ納得してくれないらしい。

 なんて言えばいいんだろう……。ゆで卵とかは……ダメだよね……。

 と、困っていると、背後から綺麗な声が聞こえてきた。


「君は甘い卵焼きを作れるじゃない」


 そう言って僕の隣に来てくれるのは楠さん。


「ね、佐藤君」


 僕の顔を見てにこり。

 あのとき食べてもらった卵焼きがおいしかったのかな。なら、得意と言っても問題ないかな。


「えと、うん。甘い卵焼きが得意」


 お姉ちゃんの好みだけど。


「佐藤君は卵焼きが得意なんだって、三田さん」


 僕の向こうにいる三田さんにも笑いかける楠さん。


「……あ、はい」


 親しそうな楠さんに比べ、三田さんはとても畏まっている。やはり楠さんのようなすごい人と話すときは緊張してしまうのかな。僕も初めはそうだったし、楠さんが僕に態度を崩してもいいよと言ってくれてやっと緊張することなく話せるようになったのだから三田さんがかたくなるのはしょうがないよね。


「そんなに怯えないでいいよ三田さん。私、そんなに怖い?」


 とても親しみやすく邪気なんて感じない綺麗な笑顔で三田さんに問う。


「……そんなことは、ない、です」


 それでも三田さんはうつむき緊張したように答えた。


「もー。ずっと言ってるでしょ? ですますはやめてって。友達なんだからもっとフレンドリーにしようよ!」


「……はい」


 俯いて楠さんと視線を合わせようとしない三田さん。それほど緊張しているんだ。


「あははっ。三田さんは恥ずかしがり屋だね」


 楠さんがそう言いながら、三田さんからは見えない僕の左腕をぎゅーっと抓ってきた。い、痛いです、楠さん。


「佐藤君からもお願いしてよ。私三田さんともっと仲良くなりたいんだ」


 抓ったまま僕に要求する。


「は、はい分かりました」


「佐藤君がそんな言葉づかいで返事したら意味ないでしょ。もっとフレンドリーに返事してよ」


 フレンドリーと言ったら、こんな感じだよね。


「うん分かったよ」


「全然駄目」


「え!」


 これ以上のフレンドリーを僕は思いつかないよ!?


「もっとフレンドリーな感じで。海外の青春ドラマ顔負けの胡散臭い爽やかさで」


「そ、そんな……」


 無茶ぶりだよ。


「あ、なるほど。君は私と三田さんが仲良くならなくていいって思っているんだ。ふーん、そっか。罰ゲームだねこれは」


「ば、罰ゲーム?」


 腕を抓っていることは罰ゲームにはならないのかな。その、いい加減痛くて泣いてしまいそうなのですが。


「文化祭当日女子のスクール水着着ておはぎ握ってもらおう」


「もう本当に勘弁してもらっていいですか!? そんなことしたら僕学校にいられないどころかこの町にもいられないよ!」


「だったら、フレンドリーに返事してよ」


「……わ、分かりました」


 じゃなくて、


「え、えっと……」


 フレンドリーと言われても、困る……。


「ほら、アメリカの通販みたいな感じで」


「つうはん……? えーっと、つうはん……」


 通販、ですか……。

 とっさのことでどうしていいのか分からなくなっているので、とりあえず、


「……ワカーリマシタ」


「「…………えっ!」」


 とりあえず外国の人という事で、片言で返事をしてみたのだけれどもどうやら大間違いらしい。楠さんどころか三田さんまで驚いたように声を上げていた。

 楠さんは思わず抓っていた手を離したし、三田さんも驚きのあまり僕の顔をまじまじと見つめている。

 自分の顔が熱くなっているのが分かる。


「……その、いい今のは、な、な、無しで!」


 恥ずかしさのあまり僕は頭からシャツをすっぽり被り全力で顔を隠した。「やぁマイク!」にしておけばよかった!

 しばらくの沈黙の後、楠さんの口から空気の抜ける音が聞こえてきた。


「さ、佐藤君……っ」


 笑いをかみ殺しながら楠さん。


「君は、本当に……ぷっ!」


 うわあああああああ!

 もう本当に嫌だよ!

 僕を笑う楠さんと僕を励ます三田さん。


「……さ、佐藤君……。その、失敗は誰にでもあるから」


 励ましたり気を遣ったりなんかせずにいっそのこと馬鹿にして笑ってくれた方が幸せな気がする。


「佐藤君…………ワカーリマシタ。……ぷっ!」


 ……励まされるよりも馬鹿にされる方がいいと思ったけれど、やっぱりどっちも嫌だ……。


「もうやめてください……! 恥ずかしくてお団子作れないよ!」


「ワカーリマシタ。モウヤメマース」


「うぐ、く、く、楠さんっ」


「何?」


「その、本当に、やめていただいてよろしいですか?」


「………………ワカーリマシタ」


 僕こんなに恥ずかしい思いをしたのは久しぶりだよ! 楠さんにちゅーされた時以上かもしれないよ!


「いや、面白いよ? うん、笑える。滑稽で面白い」


 僕は顔を隠しているので楠さんの顔は見えないけれど、その表情は容易に想像できる。


「…………喜んでもらえたのなら、幸いです」


「あー、びっくりした。どうして海外の通販で片言の日本語が使われているの。ちょっと考えればわかりそうなものを、まさかこんな面白い答えを持ってくるなんてね、いやはや参った。さすが佐藤君」


 僕としては全然面白くないよ……。でも、笑ってくれたのならそれでいいよ。


「録音しておけばよかった。今のは後世に残すべきスベリ具合だったよ。君以外なら自殺物だよこれ。真似するのでさえ恥ずかしいよ」


「ご、ごめんなさい」


「謝る必要はないよ。ただもう一回言って」


「絶対に嫌だよ……」


「お願いだから。是非もう一度場の空気を凍らせて」


 僕はそれほど強いハートを持っていないから、もう無理だよ……。

 お願いしてくる楠さんと必死に断る僕。

 それを何度か繰り返していると、三田さんが楠さんに言った。


「……楠さん、ちょっと無茶を言いすぎじゃあ、無い、ですか?」


 情けない僕を見かねて、三田さんが制止してくれる。ありがとう三田さん。


「あ、ごめんね。ついつい面白くって。別に佐藤君をいじめている訳じゃあないの」


 それはもちろん分かっているよ。楠さんが僕をいじめるわけないよ。

 しかし、そう思えるのは僕だけらしい。

 三田さんは少し語気を強くして言う。


「……少し前から思っていたん、ですけど……、楠さんは佐藤君に対してちょっと、酷いと、思います……」


「え?」


 僕はそれに驚きシャツから顔を出して三田さんを見る。

 三田さんはうつむきがちながらも、上目遣いで楠さんに視線を送っていた。……睨んでいたと言っても、いいのかもしれない。


「……ごめんね、三田さん、佐藤君もごめんね。少しふざけすぎたみたいだね」


 楠さんはシュンとなり目を伏せた。そうしながらも楠さんの右手は、僕の体に隠れるようにして僕を抓る作業を再開していた。


「不快に思ったのなら、謝るね。本当にごめん、佐藤君、三田さん」


 謝る必要なはいので、僕の二の腕をねじ切る勢いで抓っている右手を離してください……!


「……できる事なら……佐藤君を許してあげて、欲しいです」


「僕を許す?」


 何のことだろう。僕は怒られているのかな。


「佐藤君……楠さんに酷い事をしたと……言われているので、できる事なら、許して、酷い扱いを止めて欲しい……です……」


 そういえば、そうだった。僕は楠さんに酷い事をした最低の人間だとみんなに思われているんだ。三田さんはそれについてのことを言っているんだ。僕のことを許してあげてと、楠さんにお願いしているんだ。人の為にお願いをしているんだ。すごく優しい。


「大丈夫だよ三田さん。佐藤君の事怒っている訳じゃあないから。ね、佐藤君」


「う、うん。大丈夫だよ、三田さん」


「……嘘、だよね。だって、今も佐藤君の事、抓っているし……」


 え! ばれてるみたいだよ楠さん!

 楠さんが慌てて僕の二の腕から手を離した。


「これはただのスキンシップだよ。別に佐藤君が憎いからやっていたんじゃないよ?」


「そんな痛いスキンシップ、ない……です」


「そうだね。今度からは気を付けるよ」


 楠さんが困ったように笑っている。


「……佐藤君は、いい人なので……。酷い事はしないで上げてください」


 小さく頭を下げた三田さん。僕の為に頭を下げてくれるなんて、いい人だ。


「うん、分かったよ。安心して三田さん。私は佐藤君を恨んでいる訳でもないし仕返しがしたいわけでもないから」


 楠さんの人を安心させるような笑顔に対しても、


「……それならよかった、です」


 相も変わらず敬語で接する三田さん。


「……それじゃあ、お団子づくり頑張ってね……」


「あ、楠さん」


 楠さんはここにいるのがつらくなったのかそそくさと僕らから離れて行った。その姿を目で追っていた僕だったけれど、実習室内に居るみんなが僕のことを冷たい目で見ていたので慌てて三田さんの方を見る。

 三田さんはほっとした表情で目を瞑っていた。

 とりあえず、お礼を。


「僕の為に、ありがとう」


「……ううん」


 とても嬉しかったけれど、この勘違いは正しておかないと。


「……その、三田さん。僕は、本当に楠さんに何もされてないからね? 楠さんは、友達だよ」


 三田さんの顔が少しだけ悲しそうになった。


「…………佐藤君」


 いつか図書室でしてくれた時のように、三田さんが僕の手を握ってまっすぐ目を見つめてくれる。僕の手は粉だらけなのに、それも気にせず握ってくれた。


「……私は、佐藤君の味方だから……」


「えっと、その……」


 三田さんが横目でちらりと楠さんの位置を確認して、再び僕を見る。


「……楠さんは、佐藤君に対して酷い扱いをしているよね……」


「酷い事なんてされてないよ」


 むしろ、酷い事をしたのは僕という事になっているのだから、三田さんが僕を庇う必要はないよね。


「酷い事されていないって、でも、今も、今までも、ずっと冷たい態度で当たられているよね……?」


「それは、その、楠さんなりに、気を遣ってくれているんだと、思うよ。そう言う態度の方が、きっといいと思って」


「そんなことは無い」


 う。とても力強く否定された。


「あれだけみんなに優しい楠さんが、こんな冷たい気の遣い方するはずない」


「そ、その、それはですね……」


 僕に対しての態度が、楠さんが本当の姿なのだけれども、そうは言えないよね……。


「それに」


 三田さんが言葉を続ける。


「……楠さんは、なんだか、怖い」


 え?


「どうして? なんで? 楠さんは優しいよ?」


 よく分からない。


「……あの人は、なんだか、人じゃないみたい」


 怯えたように目を伏せる。


「人じゃ、ない?」


 楠さんほど人間らしい人はいないと思うけど。


「何でも出来て怖い。人間らしくない……。欠点の一つでもあるのが普通なのに、なんでもできる。勉強も出来て、運動も出来て、性格もいい、それに何より……驚くくらい可愛いし……。まるで、そうあることが決められているような。演技のような、機械のような。それが、怖い」


「楠さんは楠さんだよ。楠さんはとっても素敵な人だよ」


 怖くなんてない。


「…………。あの人は佐藤君をいじめているときだけ人間らしく見える。多分……あれがあの人の本質で、佐藤君はストレス発散の捌け口になっているんだと思う」


 う……。なんだか、ほとんど正解のような……。


「そ、そんなことは、無いと思うよ」


 とりあえず、否定しておこう。


「……全部私の妄想だけど、きっと、佐藤君がみんなから冷たい目で見られていることに関して……楽しんでいるんじゃないかな……」


「楽しんでは、いないと思うけど……」


「佐藤君も、本当は楠さんにいじめられて、困っているんだよね……?」


「いじめられてなんか、いないよ?」


「でも佐藤君にだけ冷たい態度をとっているけど……」


「えっと、だからあれは、気を遣って……」


「それが、気を遣っているという事になるの……? 私は違うと思う。機械のように優しい楠さんは、演技のような気の遣い方をすると、思うんだけど……」


 気を遣わないことで気を遣っているという事なのだけど、そう教えられないのがつらい。それを教えるという事は楠さんについてのあれこれを教えなければならないからだ。残念でならない。

 楠さんを庇っている僕を見て、三田さんが不思議そうに聞いてきた。


「佐藤君は、今のままでいいの?」


「う、うん、うん。これでいいんだよ。これが、いいんだよ」


「……そ、そうなんだ」


 もしかして僕のことをドMと思ったのかもしれない。若干引いているように見えるよ。


「佐藤君がいいというのなら、それでいいと思うけど、困ったら……、私に……」


 握っていた手に力を込める三田さん。緊張してしまう。


「私は、ずっと、佐藤君の味方だから。佐藤君は一人じゃないから」


「う、うん」


 なんだか、楠さんと三田さんの仲が良くないように感じるけれど……僕のせいっぽいよね。僕がもっと楠さんと仲良くしていれば、きっと勘違いせずに楠さんと三田さんは素敵な関係を築けるんだ。

 頑張ってみよう。

 二人とも優しいんだから、すぐに仲良くなれるよ。


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