お姉ちゃんと僕達
僕は二人と一緒に家に帰った。
なんだか、僕の部屋が溜まり場のようになっている気がするけれど、それはとてもいいことだね。
「あの、二人とも」
僕は家の前で二人を振り返った。
「何?」
「僕のお姉ちゃんに見つかったら面倒くさいから、ササっと部屋へ……」
「よし分かった」
雛ちゃんが全力で頷いてくれた。さっきから少し静かだったもんね。お姉ちゃんとあまり仲が良くないからね……。
「有野さんは佐藤君のお姉さんが苦手なようだね。ぷぷぷ」
「……おめえは苦手じゃねえのかよ」
「苦手じゃないよ。嫌いだけど」
「……どっちも変わらねえだろうが」
「天と地以上に違うよ」
「……そうかよ」
お姉ちゃん、嫌われているんだ……。弟としてとても悲しいよ。
「……とりあえず、入ろう」
僕は落ち込みながら扉を開けた。
玄関に入った僕らは、大方の予想通り、お姉ちゃんとバッティング。
「……。……ぐぐ……!」
偶然居間から出てきたお姉ちゃんが、二人を見てものすごい顔で歯噛みしている。
「また偽物の友達なんか連れてきて……!」
「お、お姉ちゃん……。別に、かまわないでしょ」
「……ぐぐ……! ふん!」
お姉ちゃんがどたどたと足を鳴らしながら階段を上がって行った。
「……優大。お前の姉ちゃん、どうしたんだ?」
雛ちゃんが心底不思議そうに首をかしげていた。
「……えっと、多分、昨日のことを、申し訳なく思っているんだと……」
「路上強盗に出くわしちゃったこと? お姉さんのせいなんだ」
「お姉ちゃんのせいじゃないけど、お姉ちゃんはそう思っているみたいで……」
僕に対して負い目を感じているから、強くは言えなかったんだ。でもやっぱり二人には謝ってくれないんだね……。二人に一番に謝って欲しいのに。
「ふーん。とりあえず家にあげてよ。こんなしょうも無い玄関で話す趣味はないから」
「あ、うん」
「で、お姉さんのお話を詳しく聞きたいんだけど。どうして申し訳なく思っているの?」
きぃきぃと椅子を鳴らしながら机の前で回る楠さん。
「ただの、勘違いだよ? ただの」
「じゃあどう勘違いしているのか詳しく教えて」
「えっ」
そりゃ、そうだよね。
「その、別に大した勘違いじゃないし」
僕の言葉に、くるくる回していた椅子を止めた。ピタッと止めた。
「だからぁ、その大したことのない勘違いを教えろこの野郎って言っているの」
怖い……。
「ごめんなさい……」
僕が悪いので謝りました。
「おい若菜。もっと優しく言えねえのかよ」
ベッドの上から雛ちゃんがフォローしてくれる。
「ごめんね。あまりにも物わかりの悪い子だったからちょっとイラついちゃった」
「ったく……。もっと優しく聞けよ」
あ、聞くのはいいんだ。聞くのは止めてくれないんだ。
「で、優大。その勘違いってのはなんだ」
あ、雛ちゃんも気になってたんだ。積極的に聞くんだ。
こうなってしまえば言わないわけにはいかない。
「……その、別に、本当に大したことじゃなくて、ただ、昨日お姉ちゃんと喧嘩して、僕が家を飛び出したから、お姉ちゃんはそのせいで殴られたんだって思ったみたいで。ね、勘違い」
「へぇ、大した理由じゃないね」
……だからそう言ったのに……。
楠さんはすぐに興味を失ってしまったようで、話を変え始めた。
「佐藤君殴られたって言ってたけど、もしかしたらその強盗っていうのは私の兄を襲っていた人と同じかもね」
そう言えば、楠さんのお兄さんは何度も何度も路上で襲われていたんだったね。
「お兄さんは、五人くらいの人に襲われたの?」
「兄を襲ってきたのは一人って言ってたけど、なんだか佐藤君が殴られていた現場にいそうな気がして」
「なんかすげえ話してるな。若菜の兄ちゃん襲われてたのかよ。怪我したのか?」
「残念ながら怪我はしてないよ」
「海でからまれた時に見たけど、お兄さん喧嘩強かったから、撃退していたんだね?」
「みたいだね。そのまま逝けばよかったのに」
「なんでお前はそんなに兄ちゃんのことを嫌ってるんだ? かっこよくていい兄ちゃんだったじゃねえか」
「私は相手に一つでも欠点があれば嫌うことが出来る女なの。完璧じゃない兄には生まれ変わっていただきたいね」
「欠点ってなんだよ」
「敵に弱点を教えるわけないでしょ」
「私は敵かよ……」
「人類のね」
「スケールでかいな私!」
みんなの家も兄弟の関係がうまく行っていないみたいだ。
どうしてもそうなっちゃうのかな……。
それは、悲しい事だよね……。
お兄ちゃんやお姉ちゃんが一番長く一緒に人生を過ごす家族になるのだから仲良くしておきたい。ギスギスしたまま生きていくのは絶対に嫌だ。
喧嘩をしたままの状態を維持することなんて考えられないよ。
だから、仲直りしよう。
お姉ちゃんを説得して、みんなに謝ってもらおう。
今までずっと僕を守ってきてくれたお姉ちゃんだから、きっと分かってくれるよ。