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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第二章 ホーロウ中年
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初めての〇〇

 僕にはこれと言った才能が無い。

 頭は悪い。体力も無い。性格は最悪だし。コミュニケーション能力だってないし。

 もし人の生きる理由が子孫を残す為なのだとしたら、僕の遺伝子は後世に残すような立派なものではないので、そんな僕は人としての価値が無いのだと思う。

 資源を無駄にするだけの迷惑な存在だ。

 でも、だからと言って死にたいとかは全く思わない。死んでもいいだとかも思わない。

 ずっと生きていたい。死にたくない。

 人として生きる価値のない僕だけれども、自分勝手に生きていたい。事故になんて遭いたくないし、事件なんてなおさら遭いたくない。死にたいだなんて、今まで生きてきて一度も……、……何度かは思ったけれど、これから先絶対に死にたいとは思わないだろう。

 だって僕には友達がいるから。

 少し前まで、小説や漫画やアニメのようなファンタジックな世界に憧れていたけれど、今はもっぱら日常系に憧れる。

 以前の僕は自分の世界から逃避するためにファンタジーに憧れて、今の僕はみんなで楽しい事がしたいから日常系に憧れているんだ。

 みんなと過ごしたいから、死にたくない。みんなのおかげで生きていることがとても楽しく思えるんだ。

 でも今はそれが壊れかけている。

 僕が一人だった時から支えてくれていた人との関係が、二つも壊れかけている。

 まりもさんとお姉ちゃん。

 まりもさんの方の問題は僕のことを知っているけれど、僕はまりもさんの正体を知らないこと。

 お姉ちゃんの方の問題はお姉ちゃんが怒っている理由が分からないこと。

 どちらも綺麗に解決したい。どちらも僕は失いたくない。

 お姉ちゃんとは話し合いができるから何とかなるような気はする。話し合いに話し合いを重ねてさらに話し合えばきっとお姉ちゃんだって納得してくれるはず。お姉ちゃんは優しいんだから。お姉ちゃんはずっと僕を見守ってきてくれたんだから。

 でも……まりもさんは。

 今、僕は夜の自室で携帯電話を耳に当てている。


「……まりもさん、だよね……?」


『そうだよ』


 ディスプレイに表示されていた非通知の文字と変成器越しの声。


「どうして、非通知で電話をかけるの?」


『君から電話をかけてもらいたくないからさ』


 どこの誰かも分からないし、僕から連絡をとる手段はスカイぺしかない。

 結局はまりもさんからの連絡を待つことしかできないんだ。簡単に話し合うことができない。

 しかも――


『嫌いな人間とそんなに多く話したいと思うかい?』


 ――僕のことが嫌いらしい……。


「で、でも、今は僕と話してくれているよね……? それは、どうして?」


『君を怖がらせようと思ってね。からかうためさ』


「……まりもさんは、優しいからそんなこと、しないよ……」


『何を言っているんだい。まだ君は私を信じようとするんだね。愚かにもほどがあるよ』


「でも、沢山助けてもらったし」


『助けられたと思っているのは君だけさ。私は助けた覚えなんてない。勝手に恩を感じないでほしいね』


「……でも……」


『何もしていない私に恩義を感じるなんて君はいい人だね。でもそれだけさ。いい人止まりさ。適当に利用されて必要無くなったら捨てられていく人間なのさ。それが分からないのかい? 私が君と話していることもただの暇つぶしだっていつになれば気付くんだい?』


「暇つぶしでも、僕はまりもさんに支えられてきたから、ありがとうって思うのは、当然だよ……?」


『へぇそうかい。やはり君はヒエラルキーの最下層がふさわしい人間だね。必要のないありがとうや過剰なまでのごめんなさいを多用するどうしようもない存在さ。君が友達だと思っている人たちみんな君のことを下に見ていることだろうね。君は所詮他人の人生において脇役にもなれない寂しい人間で、君のことを真に考えているのは血のつながった家族だけなんだよ。寂しい人生だとは思わないかい? でも仕方のない事さ。それが君なのだから。その事実を受け入れてひっそりと暮らすことにするんだね。人生が変わったと勘違いして羽目を外していたらとてつもない目に遭ってしまうよ。まぁ、他人である君の人生だから、私がどうこう言う筋合いはないのだけれどもね』


 酷いよ。

 こんなにきついことを言うまりもさん初めてだよ。

 とても、悲しい……。

 悲しいけど……。


「その、アドバイスをくれているの……?」


 生き方についての助言をしてくれているように感じる。もしかしたら、僕がまりもさんに対していいイメージを持っているから勝手にそう捉えてしまっただけなのかもしれないけれど……。


『ははははは。そうかもね。全く君は。本当に面白いくらいに腹立たしいね』


 怒らせてしまったのかな……。


『人を憎むことを知らないのかい? 相手疑って、憎んで、噛みつきなよ。そうやって、離れて行かない人とだけ付き合えばいいのさ』


「そんなの嫌だよ」


『だろうね君はクズだから』


 っ……。


『こんなことを言われても私に噛みつこうと思わないんだね。なんと臆病な他人だろう。まあ、知っていたけどね』


「まりもさんは、僕の事をどう思っているの?」


『嫌いだって何度も言ったはずだけど覚えていないのかい? それとも信じられないのかい?』


「信じたくない。まりもさんは、ずっと僕を支えてくれてきたんだもの」


『支えられてきたと思っているのは君だけだって言っているだろう。全く、君は信じられないほど性格がいいね。早めに痛い目に遭った方がいいよ。君の生き方は大間違いだ』


「……でも、僕、まりもさんと仲良くしたいから、まりもさんを信じたい……」


『そうかい。でも現実は非情だね。君と仲良くしたいと思う人間は誰もいないのさ』


「……」


 まりもさんは、本当に僕のことが嫌いで、僕のことをよく知っているみたいだ。だからやっぱり、仲良くしたい。僕のことをよく知っている人と仲良くしたい。

 でも僕のことが嫌いだという。どうすればいいのか。

 簡単だ。

 僕が好かれる人間になればいいんだ。


「その、まりもさん。どうすれば、僕と仲良くしてくれる?」


『ふん。そういうところが嫌いなんだよ。じゃあね』


「あ」


 電話が切られた。一方的に。

 取りつく島が無いとはこのことか……。


「……なんだか、今日急に遠ざけられてしまった気がする……。たくさん、怒られてしまったよ」


 前の方が優しいとか今は優しくないとかは言いたくないけれど、僕を支えてくれていた、あの優しかったまりもさんにもう一度会いたいよ。

 でも、いったいどうしてまりもさんは怒っているのだろう。

 現実での僕の姿を見て幻滅してしまったので、友達になりたくないと思ってしまったのだろうか。

 もしそうなのだとしたら、やはり僕が悪いのだろう。

 まりもさん。

 僕はまりもさんとずっと仲良くしていきたい。

 まりもさんが僕と仲良くしたくないと思っているのだとしても、僕は一方的に好意を押し付けて行くんだ。

 みんなまりもさんのことをストーカーだというけれど、そう考えたら僕がストーカーなのかもしれない。法律を犯してでも……、とまでは言わないけれど、それくらいの気持ちをもってこの関係を守っていきたい。

 まりもさんは素敵な人だから。

 初めて好きになった人だから。


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