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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第二章 ホーロウ中年
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國人君とおしゃべり

 日曜日。逆から読んでも日曜日。

 だんだん曜日の感覚が無くなってきたのでしっかりとカレンダーを見て意識しておこう。


「おはよう兄ちゃん」


「おはよう祈君」


 みんなに挨拶をする。

 普段の休日の朝だ。

 家族が勢ぞろいできる朝。両親の仕事も休みで僕らの学校も休み。それはとても素敵なことだね。国レベルでそんな時間を増やしてくれてもいいと思うの。

 日本人は働きすぎだとよく聞く。確か海外では大人の夏休みも三十日があるとかないとか。

 そう考えたら日本は凄い。お盆休みの三日間とかしかないのだから。

 家族の為にお金を稼がねばならないのは分かるけれど、家族の為に時間を作ることも大切だと思う。家族と過ごす時間よりも仕事の時間の方が長いなんておかしいよ。

 だから僕は思うのだけれども、みんな一斉に賃金を上げればいいのではないかな。そうすれば収入が上がってみんな贅沢をしだすし、みんなが贅沢をすればきっと企業も儲かるはず。僕ら子供を学校へ通わせたりする負担も軽くなるから、少子化問題も解決!  さらに企業が儲かることにより残業とかをしなくてもいいようになる! そうすれば家族と過ごす時間も増えるしいい事尽くめだよ! きっとそうだよ!

 ……なんて甘い事はありえないのだけれども。

 でも僕は思うんだ。

 僕だから思うんだ。

 最近まで家族に依存していた僕だからよく分かるんだ。

 家族と過ごす時間がとても少ないんだ。

 学校から帰ってきて、お姉ちゃんや祈君が遊びに出かけているとき、僕は一人で本を読んでいたんだ。六年生の時に雛ちゃんと喧嘩してから、僕は空想世界にしか居場所を見つけられなかったんだ。友達が作れない僕が悪いのだけれども、友達を作ろうとしなかった僕が悪いのだけれども、やっぱりその時に家族にいてほしいと思っていたんだ。

 当然、今だってみんなと一緒に仲良くしたいと思っているよ。

 お姉ちゃんと仲直りもしたい。

 でも、お姉ちゃんはどう思っているのだろう。

 家族はいらないのかな。

 僕はいらないのかな。

 友達を作るなっていうのは家族との時間を大切にしろという事なのか、ただ単に僕に嫌がらせをしているだけなのか。

 お姉ちゃんのことはよく分かっているから、嫌がらせという事は絶対にないけれど、謝っても説明しても許してくれないのはどういうことだろう。「友達は裏切る」と言うお姉ちゃんに僕は何度もそんなことは無いと説明した。でもお姉ちゃんは僕の言うことを聞き入れてくれない。僕の言うことが信用できないという事だ。

 信頼されていない僕は必要とされているのかな。

 僕はいらないのかな。

 家族がたくさんいる朝なのに僕はまったく清々しい気持ちになれなかった。

 なんだかニュースも暗いものだし……。


『犯人の行方を追って――』


 少し前に起きた殺人事件と、同じころに起きた集団の強盗事件。その二つ、どちらも解決していない。

 殺人事件の方は目撃されていた人は犯人ではなかったし、強盗事件は同一犯とみられる事件が別の場所で起きている。しかも二件目の強盗が起きた場所は一件目の現場に比べて僕の家に近い。こちらへ近づいてきているようだ。夜は気をつけなければいけない。何も起きなければいいのだけれど。

 暗い気持ちに暗いニュース。

 僕は溜息をついて朝食の席についた。




 そう言えば、海から帰ってきてからまりもさんからの電話が無い。海へいるときはあれだけ電話が鳴っていたのに、家に帰ってきてからはまるでその様子を見ていたかのように電話が止んだ。もしかしたら本当にみられているのかもしれないけれど……。いや、そう思うよりもまず電話を無視し続けた僕に愛想を尽かしたと考えた方がまだ可能性がある気がする。

 そうなのだとしたらほっとする反面悲しい気持ちにもなる。

 今のまりもさんは少し怖いけれど、それでも僕にとっては家族と同じくらい僕を支えてくれた大切な人なのだから。

 まりもさんがいなければ、僕はもっとアニメや小説にどっぷりとはまっていたことだろう。それが悪い事とは言わないけれど、やっぱり一人で楽しむよりみんなで楽しめる物の方が幸せだよね。

 今の僕があるのはまりもさんのおかげだと言っても過言ではないかもしれない。

 まりもさんは僕を守ってくれていたんだ。

 でも僕は嫌われているし……。

 もし会えたとしたらどうなるのかな。

 仲良くしてくれるのかな。

 その前に、僕自身が仲良くできるのかな……。

 まりもさんのことは好きだけど、恐怖感を抱いてしまったから……。

 うーん。

 ……。

 まあいいや。

 まあいいやと割り切れるほどまあいいやとは思っていないけれど、とりあえずそれはまりもさんに出会ったときに考えよう。

 さぁ。時間は止まらないんだ。

 何かしよう。

 誰か誘って遊んでみようかな……。

 僕は受け身な人間だから、僕発信の遊び計画なんて今まで無かったけれど、僕は変わろうと決めたんだ。僕が計画してみんなを誘って遊びに出かけよう。

 だ、大丈夫。何も怖がることは無いよ。だってみんな友達だもん。



「暑いから遠慮」


 一人目から僕は撃沈してしまった。

 ここは國人君の部屋。

 そこで二人きり。

 椅子に座る國人君と床に座る僕。

 雛ちゃんは留守みたい。


「それに俺は忙しんだよねー。まだまだ俺のことを待っている娘がたくさんいるんだ。それに夜の為に体力を残しておきたいし。ふひひ」


 昨日海へ行けなかったから國人君を誘ってみたのだけれども、無理みたいだ。


「夜、何か用事があるの?」


「何言ってるの! ダイエットダイエット! 今絶賛ダイエット中だから! jkと戯れるためには外見が大切だからね……。うひひ……」


「そ、そうだね」


「そうなんだよねー。夜一緒に走る?」


「えっと、その、僕は、いいや……」


「なになにつれないニャー優大タンは!」


「ご、ごめんね……」


 僕が一緒にいたら足手まといだから、本気でダイエットをしている國人君の邪魔はしたくない。


「まあそう言うわけでなんにアニメについて語らう? ロリもの? ツンデレ? 燃えバトル? 添い寝でもいいけど!」


「その、僕は國人君みたいに詳しくないから、語らえないかも……」


「またまた。冗談きついぜ優大タン! 本当は語らいたいんだろ?! よし、じゃあ雛タンについて語らおう。雛タンの事なら何でも分かるっしょ!?」


「そ、えっと……」


「よし決定。いやぁ、雛タン可愛いよねぇ……。さすがは俺の妹。リアル妹には萌えられないって言っている人間の気がしれない!」


「そ、そう」


「雛タンは髪の色とか服装とか結構怖い感じだけど、とっても優しんだからな」


「それはよく分かってるよ。僕、雛ちゃんにいつも助けられてるよ」


「優しいよねぇ。ぐぶぶ……」


 雛ちゃんは國人君を酷く扱っているように見えるけど、実はそんなことないんだもんね。僕は知っていたよ。


「しかも俺のことを学校のみんなに紹介したからって文化祭のコンテストの出場権を持ってきてくれるなんて……。ハァハァ」


「優しいね」


「ねぇー」


 いいな。仲がよくて。


「でも最近おかしいんだよね……」


「え? どうおかしいの?」


「……なんだか、最近翔とこそこそと話しているみたいなんだ」


 翔。小嶋君のことだ。小嶋翔君。


「……そ、そうなんだ。こそこそ話しているって、いったい何のことかな……?」


「うーん。まあ、想像通りの事じゃね? いちゃいちゃしてるんだろ」


「そう、なんだ……」


 ここは喜ばなきゃいけないところだ。

 友達二人が幸せになろうとしているんだから。

 こんな顔してはダメだ。


「……その、それはとてもおめでたい――」


「俺は認めないからなぁ!」


 うっ。怒鳴られた。


「アニメは貸してやるが雛タンは渡さん! 雛タンは俺の嫁だ!」


「え、いや、それは」


「あの野郎……、どうせ今頃雛タンと……! 想像しただけで興奮する!」


「國人君何かおかしいよ。道徳的に。お願いだから変なこと言わないで」


「優大タン! これはいわゆる寝取りなんだ! NTRも行ける俺としては興奮せざるを得ない……! 悔しい! でも感じちゃう! ビクンビクン!」


「僕帰るね。また来るね」


「いやあああああああ! 優大タン! 待って! 待って優大タン! ビクンビクンしないから待って! うわああああん!」


 う、泣かせてしまった……。


「ご、ごめんね。もうちょっといるね」


「ありがと。お礼に接吻でもどうかね」


「遠慮しておきます……」


 國人君のキャラがよく分からないよ……。

 僕は上げた腰を下ろして再び國人君と向かい合った。

 國人君は先ほどの、何と言えばいいか、言葉が悪いのを承知で言わせてもらうと、先ほどのふざけた態度を改めて真面目な顔をして背もたれに体を預けた。


「でも実際、あの二人最近仲がいいんだよな。翔が家に来る度に、雛タンの部屋でなんか話してるんだよ。俺といる時間より雛タンといる時間の方が長い。これはよろしくないでござる」


「その、仲がいい事は、素敵なことだよね」


 小嶋君は雛ちゃんのことが好きと言っていたし、きっとうまく行っているんだろう。


「喧嘩するほど仲がいいっていか」


「喧嘩?」


「うん喧嘩。いっつも雛タンの部屋から二人の怒鳴り声が聞こえてくんだもん。まあマジ喧嘩ではないみたいだけど、軽い喧嘩?」


「喧嘩、してるんだ……」


 僕は最低だ。少し喜んでいる。


「まあ、誰と付き合おうと雛タンの自由だから、口出しは鬱陶しいだけだろうな。とりあえず何も聞かされていない今は喧嘩するほど仲がいいと信じておこうかな。兄としては可愛い妹の幸せを願わずにはいられないのであった」


「そうだね」


 友達としてもそれを願わなければならないはずなのに。

 僕は最低だ。


「よし、なら俺達も対抗して付き合うか。突き合うでもいいけど」


「僕帰るね。また来るね」


「いやあああああああああ! 待ってええええええ! うわああああああああああああん!」


 泣く國人君を僕は見捨ててしまった。ごめんね國人君。


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