大嫌い
昔、幼馴染ととても悲しい喧嘩をしてしまった。
名前を呼ぶなと怒られてしまった。嫌がっていたことを知らなかった僕が悪いのだ。
確か、その頃だったと思う。お姉ちゃんが僕のことをお兄ちゃんと呼びだしたんだ。
幼馴染と喧嘩をして、落ち込んでいた僕に向かってお姉ちゃんが「なんで祈君のことは名前で呼んでお姉ちゃんのことは名前で呼ばないの」と怒ってきた。ぼくはお姉ちゃんはお姉ちゃんだからと説明したのだけれども、お姉ちゃんは納得しなかった。「優大君が私のことをお姉ちゃんと呼ぶのなら私もお兄ちゃんって呼ぶから」と、よく分からない理屈で僕のことをお兄ちゃんと呼びだした。やめてくださいとお願いしたら、「嫌なら私のことをお姉ちゃんと呼ぶな」と怒られた。姉が弟のことをお兄ちゃんと呼ぶのは絶対に変だよと訴えても、「祈君はよくて私はダメなの?!」とまた怒られてしまった。祈君に対抗しているのかなと思い、僕はいつか飽きる日まで我慢することにした。でも結局お姉ちゃんがそれに飽きることは無かった。
晩御飯を食べ終えた食卓。お姉ちゃんは友達の家に泊まっているから僕と弟の二人だけしかいない。
「ねえ祈君」
僕はテーブルの上に宿題を広げている弟に声をかけた。
「何」
顔を上げて僕を見てくれる。
「お姉ちゃんはどうすれば許してくれると思う?」
「姉ちゃんは兄ちゃんが他の人と仲良くしているのが嫌らしいね。姉ちゃんをとるか友達をとるか、どっちかじゃない?」
「それは、どっちも選べないよ……」
「まあね。でも姉ちゃん今回は本気みたいだよ。全然機嫌直らないじゃん」
「うん……。僕、どっちかを選ばなくちゃいけないのかな」
「うーん。俺なら友達をとる」
「えっ、お姉ちゃん怒らせたままでもいいの?」
「よくないけど、姉ちゃんならいつか忘れるから。家族だし。でも友達はそうはいかないでしょ」
「う、うん。そうかも」
でも、それなら僕はしばらくお姉ちゃんを怒らせたまま過ごさなければならないのかな……。そんなの、嫌だなぁ。
悩む僕に、祈君がペンをくるくるとまわしながら言う。
「いいよいいよ。姉ちゃんのことなんか無視しておけばいいよ」
「う、うん……」
無視か……。文化祭のこともあるから、それもできないんだよね……。
「あ、そうだ祈君。お願いがあるんだけど、ちょっといいかな」
聞くのを忘れていた。
「うん。なに?」
「あのね、十月に文化祭があるんだけど、そこで兄弟コンテストっていうのがあって、それに出てもらいたいなぁって」
「え、なんで俺」
「う、うん。その、色々と事情があって……」
いろいろ。
生徒会長との一件を祈君に話す。兄弟を連れてこなければ僕らのクラスの『和菓子喫茶』が認められないという事だ。
「ふーん。別にいいよ」
「え! ほんと?!」
とてもあっさり了承してくれた。さすが祈君。かっこいいや。
「もしかして、姉ちゃんにもお願いするの?」
「うん……」
「なら仲直りしなくちゃいけないんだね」
「そうなんだよね……」
どうしよう。
祈君に出場してくれてありがとうとお礼を言って、僕は自室へ。あとは姉にお願いするだけだけれど、家にいない姉のことは一時忘れよう。
今はまりもさんだ。もう一度スカイぺで話して事情を聞いてみよう。
僕はスカイぺにログインした。
まりもさんはいつものようにそこにいた。
ユウ:まりもさん
まりも:やあ。調子はどうだい
ユウ:あんまりよくないです。早速だけど、あなたは誰ですか?
まりも:私は私さ。何を言っているんだい優大君
ユウ:何故僕のことを知っているんですか?
まりも:知っていて当然だろうw もう三年の付き合いになるじゃないかw
ユウ:でも僕はあなたのことを何も知らない
まりも:そうなのかい? まあ教えないけど
ユウ:僕のそばにいるんですよね。手紙を僕によこしましたよね
まりも:手紙見てくれたのかい。そうだね、私はいつも君を見ているよ。ほら、後ろを振り返ってごらん。そこに立っているよ
ユウ:誰もいないよ
まりも:振り向くのが一歩遅かったねw
ユウ:あなたは誰ですか?
まりも:私は私さ
ユウ:あなたは誰ですか?
まりも:おやおや。余裕がないね。私のことが嫌いになったのかい?
ユウ:まりもさんのことは今でも好きだよ
まりも:どうしてだい?
ユウ:どうしてって、どういうこと?
まりも:怖くないのかい?
ユウ:もちろん怖いよ。でも、ずっと優しくしてくれていたから
しばらく反応が無かったあと、
まりも:もっと君を怖がらせなければいけないらしいね
ユウ:怖がらせないでよ
まりも:ダメだよ。君を絶望させるのが私の仕事なのだから
ユウ:なんでそんなことよするんですか
まりも:簡単な話さ
まりも:君のことが大嫌いだから
「……っ」
僕は何を信じればいいのだろう。
もう分からない。