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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第二章 ホーロウ中年
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楠さんと雛ちゃんとの夏休み。

 お昼ごはんを作らねばならないのをすっかり忘れていた。忘れてしまってはよりいっそうお姉ちゃんに怒られてしまう。

 山から駆け足で帰ってきた僕。まりもさんに対する恐怖は馬山さんのおかげで散っているけれど、急がねばお姉ちゃんと祈君を待たせてしまうという事で大急ぎで家へ帰った。


「ただいま」


 声をかけて居間に入る。


「ただいま祈君」


 居間では祈君が一人テレビを見ていた。


「お帰り兄ちゃん」


 僕のほうを振り向いてすぐにテレビに目を戻す。


「すぐにお昼ご飯作るからね」


「うん」


「お姉ちゃんは二階?」


「姉ちゃんはいないよ」


「え? どこか出かけているの?」


 すぐに帰ってくるのかな?


「友達の家で勉強してる。今日は泊まるって言ってた」


「あ、そうなんだ」


 聞いてなかった。


「俺にそれを伝えて家を出て行ったけど、それよっぽどでしょ。普通は兄ちゃんに伝えて出て行くのにね。いつまで怒り長引くんだろう」


「ちょっと分からない……。ごめんね迷惑かけて」


「迷惑じゃないけど」


 それならいいんだけど……。

 今日はお昼ごはんは二人分でいいんだね。

 僕はキッチンへ一歩踏み出した。


「あ、兄ちゃん、その前に」


 振り返り僕を引き止める祈君。


「え?」


 お昼ごはんを作る前に何か用事があるのかな?


「お客さんが来てるよ。今部屋にいる」


「あ、そうなんだ」


 靴は無かったけど、下駄箱にしまっているのかな?

 誰だろう、小嶋君かな?


「ご飯ちょっと待っててね」


「うん」


 一体誰だろう?




 扉を開けた瞬間もうあれだった。空気か死んでいるのがはっきりと分かったよ。


「お前マジでふざけんな。出て行けよ」


「最初に来たのは私なんだからそっちが出て行けば?」


「うるせえ。出て行け」


 どうしよう。いやどうしようもないけれど。

 僕の目の前には二人の美少女がいらっしゃった。

 ミニスカートで大胆にニーハイソックスを履いた足を見せつけている楠さんと、ホットパンツで大胆に生足を見せつけている雛ちゃん。

 目のやり場にはとっても困るよ……。

 仕方がないので不自然に窓の外に目をやりながら聞いてみた。


「あ、あの、二人とも……」


「ん? ああ、優大お帰り」


 僕に気付きにこやかに挨拶をしてくれる雛ちゃん。しかしすぐににこやかな顔を解いて楠さんを睨みつけた。


「お邪魔してます佐藤君」


 雛ちゃんに対して楠さんはにこやかに挨拶をしたまま僕を見続け、そのまま言葉を続けた。


「お帰りって、ねえ。自分の家じゃないんだからお帰りはおかしいでしょ。そう思わない? 佐藤君」


「えと、僕は別に、おかしいだなんて思わないよ?」


「だよなぁ優大! 何言ってるんだろうなぁこの女は!」


 嬉しそうに言う雛ちゃんを見て楠さんの顔が不快を表した。


「何? なら私がおかしいって言うの?」


「いえ、どちらも、おかしいとは、思いません、ケド……」


「お前がおかしいんだよバーカ」


 雛ちゃんの暴言が楠さんの眉根を寄せた。


「口の悪い人ってどう育てられたのか気になるよホント。佐藤君だって口の悪い人好きじゃないよね」


「その……雛ちゃんは好きだよ?」


「うえっへっへ~。何だよ照れるじゃねえか優大~! 優大って本当に良い奴だよなぁ!」


「そんな事は、ないんじゃないかな……」


 雛ちゃんの機嫌は直ったようだけれどもそれに相反するように楠さんの機嫌がとても悪くなった。


「ちょっと佐藤君。私が悪いって言うの?」


「いえ、そんな事は、言っておりませんが」


「何? 私より有野さんの方が好きなんだ。ふーん」


「うっ……。それは、二人とも同じくらい……」


「なんだよ優大! そんな奴に気を遣うなよ!」


 困ったことにどちらかの味方をしたらどちらかの敵になってしまうらしい。

 でもこういう状況には何度も立たされているからどうすればいいのか分かってるよ。

 こういう時は、話をそらすに限るよね。


「えっと、お二人は何故僕の部屋なんかに……」


「遊びに来たんだけど。迷惑だとでもいうの?」


 ううぇ?!


「そんなことは無いよ! ありがたいよ!」


「じゃあ私が迷惑だっていうのかよ! 若菜と二人きりがよかったのかよ!」


 うえぇ?!


「だ、誰もそんなこと言ってないよ?!」


 どうしてとんでもない捉え方するの?!


「あ! そうだ! せっかくだからお昼ご飯をみんなで食べましょうか!」


 なんて素敵な提案だろう!

 二人とも乗ってくれるよね!


「絶対いや」


「嫌だ!」


「え?! 食べてくれるかと思ったのに!」


 予想外だった。


「ご飯はおいしく食べたいし。この三人でおいしくご飯が食べられるとは思わない」


「いやぁこういう時は意見が合うな。おいしい楽しい食卓なんて絶対に無理だな」


「そ、そんなこと言わずに、ね?」


 ご飯を一緒に食べれば仲良くなれるよね。だから何とか食卓を共にしてもらいたい。


「そんなに食べたいのなら二人で食べればいいよ」


 楠さんが不機嫌全開で言った。


「え?! 帰っちゃうの?!」


「帰りたくないけど、仕方ないよ……。我慢すればいいだけの話だから」


「そ、そんな……」


 そんなの嫌だよ……。


「じゃあね有野さん。道中お気をつけて」


「え、私が帰るの?! 何言ってんだお前!?」


 なんだかとっても息が合ってるね。


「じゃあ分かった。私が帰るよ。我が強いねホント」


「お前に言われたくねえよ」


「私のどこを見たらそんなことが言えるんだろうね。もう一秒でもここにいることが不快だから早く帰ろう。行こうか佐藤君」


「なんで優大を連れて行くんだよ! お前一人で帰るんじゃねえの!?」


「そんなわけないでしょう。ご飯食べなくちゃいけないんだから」


「なんでお前と優大が一緒にご飯食べる事が決定してるんだよ!」


「普通そうでしょ」


「お前は普通じゃねえんだよ!」


 仲がいいね。




 なんだかんだ話した結果三人でファミレスに行くことになった。僕が作ってもよかったけどね。祈君にご飯作れなかったのが取っても悔やまれるよ。

 お店に楠さんが一番に入って雛ちゃん僕と続く。


「何名様ですか?」


「二人です」


「三人だよ!」


「一般人二人とヤンキー一人です」


「ヤンキーじゃねえよ!」


「こわぁい」


「かわい子ぶってんじゃねえよ!」


「そう言う有野さんは怖い子だよね」


「私のどこが怖いんだよ!」


「全て?」


 二人でじゃれ合っている。楽しそうだけれども店員さんが困っているよ。


「あの、三名です……」


 店員さんに迷惑をかけるのは、よくないと思うよ。

 僕らが案内されたのはお店の一番端っこ。椅子とソファが向かい合っている席。

 席に案内されてまず困る。

 楠さんと雛ちゃんが別々のサイドに座った。

 どっちに座ればいいのだろう。できれば僕一人で座りたいのだけれども。


「有野さん、私のカバン隣に置いてもいい?」


「はぁ? 何言ってんだお前。ここには優大が座るから無理だ」


「佐藤君はこっちの椅子に座るってさっき言ってたけど」


「んなの言ってねえよ。おい優大。お前はどっちに座るんだ。ソファか椅子か」


「えっと……」


 非常に困るよ。


「あの、雛ちゃんと楠さんが一緒のサイドに座るというのは……」


「んなの嫌に決まってんだろ」


 そうですか……。


「なら、僕下座に座るよ……」


 多分楠さんの隣の椅子が入口に一番近いから下座だよね。


「おい……優大。お前、そうなのかよ」


「そうなのかよ、が何のことを言っているのか分からないけど、多分違うよ……。ご飯はおいしく食べようよ」


「……ふん」


 不機嫌そうだけど納得してくれた。

 それにしても、僕を自分の持ち物のように扱うのはやめてほしいよ……。僕の座る場所で争っていたのはそう言うことだよね。僕だって生きているんだからね。

 そう言うわけで僕の隣に楠さん、正面に雛ちゃんというクラスメイトに見られたら後ろから刺されそうな状況でお昼ご飯が開始した。


「そう言えば、佐藤君。文化祭に出場してもらえるようにお姉さんたちを説得した? 私はもう説得したよ」


「ううん。僕はまだ……。楠さんも雛ちゃんもすごいね。すぐに説得しちゃったね」


「へぇ、有野さんも説得に成功したんだ。生意気にも」


「生意気とか言うんじゃねえ。っていうか、優大お前姉ちゃんと仲良いんじゃねえの? そんな記憶があるんだけど」


「仲はいいと思うけど、今は喧嘩しちゃってて……」


「ふーん。そうなんだ」


 あまり興味がなさそうだった。

 それを見て、楠さんが不思議そうに聞く。


「有野さんと佐藤君のお姉さんは仲がいいわけじゃないの? 佐藤君と有野さんが幼馴染だから、お姉さんとも仲がいいと思っていたんだけど」


「別にそんなことねえよ。名前も知らねえし」


「名前知らないんだ。かっこ悪い」


「んなっ?! お前は知ってるのかよ!」


「知らないけど。知る必要もないけど」


「なら私を罵るんじゃねえよ」


「ごめんね、喜ぶかと思ったんだけど」


「喜ばねえよ! お前私のことをどういう人間だと思っているんだ?!」


 おしゃべりもいいけど、メニューも見たらどうかな? 楽しい会話に水を差したくないから言わないけれど。


 やっとのことでメニューを決めてそれぞれの注文したものが届くころにはすでに空気を殺すことに成功していた。

 空気は死んでいるけど、オムライスは美味しい。


「おいしいね」


「そうかぁ? レンジでチンだろ。おいしくはねえよ」


「そうだね。こんなのがおいしいっていうのなら私の作るご飯は高級レストランだよ」


 なんで貶すときは意気投合するのかな?

 だからすぐに仲良くなれると思うんだけどな……。


「そう言えば佐藤君朝からどこに行ってたの? 弟君から学校に行っていたって聞いたけど」


「うん。僕学校の図書室で三田さんと勉強していたんだ」


「なんだとてめえ?」


 うっ。二人からものすごく睨み付けられているよ。


「君この前も三田さんと一緒に図書館にいたよね」


「なんだとてめえ!」


「佐藤君、三田さんととっても仲がいいね」


「なんだとてめえ!?」


 雛ちゃんがさっきからなんだとてめえしか言ってないよ! 大変だよ! 主に僕の命が!


「佐藤君と三田さんって一体どういう関係?」


 ジト目を僕に近づける楠さん。


「た、ただの、友達です」


「ふーん」


 離れるときもじっと睨み付けていた。ごめんなさい。


「おい優大。お前美月と付き合っているってことはねえよな」


 美月っていうのは、三田さんの名前だ。三田美月みつき。素敵な名前だね。って、そんなことより。


「そんなことは、絶対にないよ」


「ならなんで二人きりで何度も会ってんだよ」


 なんでこんなに怒っているのでしょう……。

 あ、そうか。そういうことなんだね。


「今度からはみんなに声をかけるね」


 きっと二人とも三田さんと一緒に遊びたいっていうことだよね。


「次は四人で一緒に勉強しようね」


「何言ってんだてめえ?」


 物凄いツッコミをもらったよ。冗談言っていないのにね。


「佐藤君。君は殴りたくなるくらい鈍いね。ハーレム系漫画の主人公でも演じているの? 君の好きなアニメの主人公にでもなるつもり?」


「え、いえ、そんなつもりは、ないけど」


 なんだか、みんなを不快にさせてしまっているね……。申し訳ない。

 申し訳なく思っている僕。

 雛ちゃんは何かが気になる様子。


「……おい若菜。それはどういう意味だ?」


「別に他意はないから」


「……なら、別にいいんだけど……」


 ……?

 一体これがどういう意味なのか、本当に分からなかった。


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