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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第二章 ホーロウ中年
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どこかにいるお友達

 死に物狂いで学校から離れる。

 まりもさんはいつでも僕を見ている。

 まりもさんはいつでも僕を見ていた。

 それなのに僕は正体を知らない。

 暑い上に全力で走っているおかげで汗がとめどなく溢れてくる。でもそんなこと気にしていられない。汗が目に入るとか乳酸が溜まって足が重いとか水分が足りないせいでふらふらするとかそんなことはどうでもいい。とにかく学校から離れたかった。死ぬほど恐ろしい。とにかく誰かと顔を合わせて安心したかった。

 だから僕は山を登った。

 一番早く出会えるのが馬山さんだからだ。

 馬山さんに会って安心したい。その一心だ。

 しかし、


「あ、あれ?!」


 馬山さんはいなかった。

 僕の目の前にあるのは以前のような寂しい秘密基地だった。


「ど、どうして……」


 もうすぐいなくなるとは言っていたけれど、まさか次の日にいなくなるなんて考えていなかった。悲しすぎるよ。

 なんだかんだ言っても、僕にはちゃんとお別れを言ってくれるのではないかと思っていたけれど、それはうぬぼれだったようだ。やはり馬山さんにとって僕はただのうっとおしい子供だったみたいだ。


「……悲しいな」


 少し泣きたくなってきたよ。事前に別れを知らされていても、名前を知らされていなくても、いつだって誰だって別れは悲しいものなんだね。

 などと寂しい気分に浸っていると、


「少年がいるじゃねえか」


「え!」


 後ろから声をかけられた。汗を飛ばす勢いで振り返る。

 いつも通りの無精ひげでぼさぼさの頭の馬山さんがコンビニの袋を持って僕の方に向かって歩いてきていた。


「もう来たらダメだって言っただろ」


 特に怒っている訳でもなく僕の横を通り過ぎて木陰の下に腰を下ろした。


「よかった……」


「何がよかったんだよ。全然よくねえよ」


「馬山さんどこかへ行っちゃったのかと思った」


 袋の中からお弁当を取り出しふたを開けた。


「いつかはどこかへ行っちゃうよ。だからもう来ない方がいいって」


「うん……でも……」


 馬山さんがお箸を動かしながら僕に言う。


「でもじゃねえって。青春は待ってくれねえぜ。用もないのにここに来るのは時間をどぶに捨てるようなもんだ」


「あ、そうだ!」


 忘れてた!

 僕の出した大きな声に手を止めた。


「何事か少年」


「ぼ、僕監視されているみたいなんだ!」


「ははは。何言ってんだよ。監視って誰がそんなことするんだ。あの黒髪のねーちゃんか? 金髪ヤンキーか?」


「どっちでもないよ! その、僕、まりもさんに監視されているんだ!」


「まりもって誰。黒髪は楠さんだろ。金髪は雛ちゃんだろ。もしかして楠まりもってのか? それともまりも雛ってのか?」


「どっちも違うよ! あの、その、僕の、ネット上での友達が、僕のこと知っている人みたいで、その人から、手紙をもらったんだ……」


 きっと、馬山さんなら何かいい事を教えてくれるはずだ。

 でも。


「ふーん。まあ頑張ってくれ」


 とても興味がなさそうにお弁当を食べ始めた馬山さん。


「え、っと、その……」


「なんだ少年。俺ならどうにかしてくれると思っていたのか? とんだ勘違いだな。何もしねえよ」


 当然だよね……。まりもさんのこと何も知らないんだからこんなこと言われてもどうしようもないよね……。


「ごめんなさい……。そうだよね……」


「そうなんだよねぇ。残念だったな」


「うん……」


 でも、話しただけでかなり楽になったよ。これも馬山さんの力だね。


「なあ少年。もう無駄らしいから来るなとは言わないけど、本当に近いうちに俺はいなくなるからな。あんまり仲良くしないほうがいいんじゃねえの」


「あまり時間が無いからもっと仲良くしたいなって思うのは、間違っているのかな」


「俺に対しては間違いかもなぁ」


 なぜ馬山さんに対しては間違いなのだろうか。


「相手が俺じゃなくても、信じすぎるのはよくねえと思うなぁ」


「えっ、信じるのって駄目なの?」


「信じる事は結構だけど、信じすぎるのがよくねえんだ」


「信じすぎたら、駄目なの?」


「そうだな。その結果が今の状況だろ?」


「……そう、かも……」


 まりもさんを信じていた分、その悲しみは計り知れないものだった。そういうことを馬山さんは言いたいのだろう。


「友達ってのは裏切る生き物だからな。あんまり依存するなよ」


「うん……」


 若干遅い気もするよ。僕はまりもさんに依存して生きてきたのだからね。

 しかし裏切る前提で友達と付き合うのは、僕嫌だな。

 裏切らない人だっているはずだよ。


「でも」


 自分で言ったことをフォローするわけではないだろうけど、馬山さんが言った。


「友達に裏切られたからって、絶対に責めるなよ」


「う、うん……」


 責める事はしないよ。だって僕が勝手に信じていただけなのだから、まりもさんを責めるのは間違っているもんね。


「いやぁ、少年は出来た人間だな。俺にその生き方は無理だな」


「え? 馬山さん友達を責めた事があるの?」


「まあな。今思い出してもつらいぜ。最近の事だからまぶたに映像が鮮明に焼き付いちゃってるよ」


 そういって目を閉じた馬山さん。きっとつらい事だったんだろう。

 目を閉じて数秒、ゆっくりと目を開いて僕を見てきた。


「まあ、だから俺も信じるなよ」


 信じることは罪なのか。

 そんな訳ないよね。


「信じるよ」


 責める事が罪なんだよね。


「そうか」


 苦笑いを見せてお茶を一口飲んだ。


「それで少年。一体それには何と書かれてあったんだ?」


 僕が手に持っているものを指差し馬山さんが言った。


「え? あ、見てなかった」


 逃げることに必死だったから……。


「ちょっと見てみよう……」


 内容は特に変わったものではなかったけれど、まりもさんからの手紙と言うだけで怖いよ……。

 しかも脅迫状のように新聞を切り張りして作られた手紙なのでより怖い。

 夏の恐怖体験、と言うより脅迫体験だね。……あんまりうまくないか……。


「少年は相手のことを知らないんだろ?」


「うん」


「へぇ……。なんだか怖いな」


「うん……」


「まあ、がんばってくれ。俺には応援しか出来ねえ」


「う、うん。頑張る」


 頑張ろう。


「んでだ、少年」


「え?」


 何だろう、神妙な顔をしているけれど。


「さっき近いうちにいなくなるって俺言っただろ? もうすぐ俺の友達の誕生日なんだけど、俺それが過ぎたらふらりといなくなる予定なんだ。ここで祝って、俺はどっかに行く」


「そ、そう、なんだ……」


「そうなんだよ。そのときにはお別れなんて言わねえから、今から言っておくわ」


「ありがとう……」


 この場合はありがとうでよかったのかな……。まあ、いいや。さようならなんて言いたくないから。

 でも、どうして友達の誕生日をここで祝うのだろう。友達をここに呼んだりするのかな? まさか、そんな事はないよね。

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