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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第一章 キョーハク少女
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夜の郵便配達

まりも:へえ。なるほど。色々あった金曜日だったね。


ユウ:うん。でも、なんだかこれから楽しい毎日が続きそうな予感がするよ。


まりも:いい予感だね。それが当たることを願っているよ


ユウ:僕もそうなったらいいと思うよ


まりも:ところで、最近お姉ちゃんの話を聞かないね。何かあったのかい?



 日常のことばかり話していたまりもさんとのスカイぺ。

 以前の僕には、遊び相手と言える人がお姉ちゃんと弟しかいなかったので日常のことを話すとなれば自然とお姉ちゃんや弟のことが話題になってしまう。でもここ最近はお姉ちゃんと遊ぶことも少なくなっていたのでまりもさんにお姉ちゃん話をすることがほとんどなかった。

 今まで毎日のようにしていた家族の話。突然それが無くなってしまったので、もしかしたら僕とお姉ちゃんの間に何かがあったのかもしれないと、まりもさんは心配してくれているのだろう。



ユウ:大丈夫だよ。何もないよ


まりも:本当かい? 毎日遊んでくれていたユウ君が構わなくなってしまってお姉ちゃんは悲しんでいるんじゃないかな


ユウ:お姉ちゃんには友達いっぱいいるし、それはないよ。むしろ僕にかまわなくなった分自分の時間が取れるようになったから喜んでいるんじゃないかな


まりも:そうだといいんだけどね。なんだか後々厄介なことになりそうで心配だよ



 厄介なことって、何だろう?

 僕がお姉ちゃんと遊ばないことによって何かおもわしくない事が起きるのだろうか。

 想像もつかないや。

 とりあえず、まりもさんの不安を取り除かねば。



ユウ:大丈夫だよ。お姉ちゃんと僕はずっと仲良しだから


まりも:それは嬉しいことだね。まあ、そもそも。私なんかが口を出していいことではないのだろうけどね



 うん。

 無事に不安も取り除けたみたいだね。

 何も心配することは無いよ。

 家族内の関係も、僕の人生も。

 僕はパソコンを切って伸びをした。少しめまいがして机に手をついた。うう、伸びをした時のこの意識が遠のく感じってなんなんだろう。もしかして僕の伸びの仕方が間違っているのかもしれないね。

 深呼吸をして、窓の上にかかった時計に目をやる。

 十一時前。

 明日は休み。まだ寝るには早い。

 時計の下から覗く星空を見たら、なんだか少し散歩がしたくなった。

 ……うん。

 少し散歩しよう。

 心配をかけないために家族に一声かける。

 そのときに、弟が「隣町で殺人があって、犯人は捕まっているけど物騒な世の中だから気を付けて」と言ってくれた。

 ……散歩、やめようかな。



 結局僕は散歩に出かける。

 こんなにきれいな星空が見えるんだ。散歩しない手はない。

 なんの偶然か今日は新月。

 新月と言えば真っ先に國人君を思い出すけれど、もう新月の災厄は起きないはずだから何も心配することは無いよね。

 新月の夜は星がよく見える。

 でも、月が見えた方が夜空は素敵だよね。

 暗い夜道。もう人通りも車通りも少ない。明りが消えている家もある。

 とっても静かな街並みだ。

 虫の声が季節を感じさせる。

 もう夏だね。

 七月一日。

 あと三週間もしないうちに夏休みになる。待ち遠しい。

 この夏休みは何をしよう。宿題は早く終わらせよう。お姉ちゃんたちと海へ行こう。弟と山へ行こう。何か目標を立ててそれを達成しよう。文化祭の準備もある。一生懸命頑張ろう。できる事なら、今年の夏は、友達と沢山過ごしたい。僕は人を誘うことを今までしてこなかったけれど、今年は僕から誘ってみよう。断られることを恐れずに、僕から声をかけよう。きっと、そのほうが、いつもの夏より楽しくなるから。

 そんなことを考えながら、暗い夜道をひたすら歩く。

 マンホール。

 何となくその上で立ち止まってみる。

 いつもは聞こえない水の音が、底の方から響いてきた。

 音まで昼とは違う。

 夜の散歩も悪くない。

 楽しいな。

 …………弟から話を聞かなければ……。

 正直怖いです。

 何も気配を感じていないのに無意味に何度も後ろを振り返ったりして風景を楽しめていなかったりする。

 ……、もう、帰ろう。

 何もないのだろうけれど、こんな気持ちじゃあ楽しめないよ……。

 夜の散歩は十分ほどで折り返し。僕は来た道を引き返して家に向かった。

・ 

 ……。

 ……大変だ……。

 家の前に、怪しい人がいる……。

 夏なのにニット帽をかぶり、顔を隠している。背は僕と同じくらいで高くない。多分、女の子……。

 泥棒……?

 怖い……。

 襲われちゃうかもしれない。

 殺されちゃうかもしれない。

 でも。

 でも、あそこには僕の家族がいる……。お父さんお母さんお姉ちゃん弟……。

 そうだ……。僕の人生に必要なのは勇気だって教えてもらったじゃないか。それに、今は僕だけしか気づいていないんだ……。

 僕がやらなきゃ誰がやる! 強気に行けば相手だってびっくりして逃げるはずだ! ガツンと言ってやる!


「あ、あのー……、す、すみません……」


 僕は近づいて声をかけた。


「?!」


 ニット帽の人は、僕の存在に気づき慌てて逃げて行った。

 ……。

 ……とりあえず、追い返すことができたね。僕の勇気の勝利だ。

 でも本当に泥棒だったのかな?

 郵便受けの中に手を突っ込んでいたから、もしかしたら夜の郵便配達だったのかな。だったら悪い事しちゃったなぁ。びっくりさせちゃって申し訳ないよ……。

 僕は郵便受けの中を確認してみた。


「あ、何か入ってる」


 やっぱり夜の郵便配達だったんだ。


「ごめんね」


 僕は郵便受けに入っている手紙を取り出した。

 ピンク色の封筒にハートのシール。これはどう見てもラブレターだね。きっと女の子が僕の弟にラブレターを持ってきてくれたんだね。ならやっぱり悪い事しちゃったなぁ……。責任を持ってこのラブレターを弟に渡そう。罪滅ぼしではないけれど、せめてそれくらいはやらなければ。

 僕は家に入って弟の姿を探した。

 あれ、いない。

 お風呂かな。

 なら、弟の部屋に置いておこうかな。

 僕は二階への階段を上がりながら何気なくラブレターを眺めてみる。

 ……。


「あれ僕の名前が書いてある」


 ……。

 ……。

 ……。

 あ、これ僕への手紙だ。


「ええええええええええええ!」


 僕の驚きの声にお姉ちゃんが部屋から飛び出して抱き付いてきたけれどなんとか引きはがして僕は自室へと逃げ込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 僕は部屋に入ってすぐに扉に寄り掛かる。


「なんてことだ……!」


 こんなのあり得ないよ! 僕なんかがラブレターをもらうなんて……!


「い、いや、まだラブレターと決まったわけじゃないよね……!  漫画とか、アニメとかなら、こういう手紙は大抵果たし状とか、脅迫状とか、ラブレター以外の内容なんだよ……!」


 僕はゆっくりと開封した。

 きっと、この手紙の中身は、果たし状か、脅迫状だよ。

 どっちかなんだよ!

 思い切って手紙を取り出し読んでみた!


『呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ』


 呪詛だった!


「ひぃぃぃぃぃぃ!」


 なんだこれ!

 さっきまでのドキドキとは別のドキドキが胸を襲う。

 実はちょっとラブレターかな? って期待していたのに! がっかりだし怖いし、どうすればいいの僕は! このもやもやをどう発散すればいいの?!

 ってそんなこと考えている場合じゃない! これはいったい何?! 怖いよ?!


「いい一体誰が?!」


 がたがた震える僕の手から、と言うより手紙の間から何か白っぽい糸のようなものが落ちた。

 なんだろうかと思い、しゃがんで拾い上げてみた。


「……」


 ぐわー。

 これは銀色の髪の毛だー。


「……前橋さん……」


 どこからどう見てもクラスメイトからの呪詛ですね。


「なんで……」


 手紙の本文は『呪われろ』だけではなかった。

 続きを読んでみる。


「えーっと……」


 いろいろと雛ちゃんへの思いが書かれていたが読み飛ばす。

 ……ざっと読んだところ、重要だと思うところはこの一行だけ。


『有野さんの邪魔になる人間は排除します。排除します。排除します』


 三回言わないで。怖いよ。

 やっぱり、どうにも、僕は、前橋さんに嫌われまくっているようだ。

 わざわざ僕の家まで来てこんな手紙を入れていくなんて……。

 ……やっぱり、今日雛ちゃんに抱きしめてもらったことが原因だよね……。

 ……なんとか前橋さんと仲直りしたいよ……。こんな身近なホラー嫌すぎるよ……。

 僕は手紙を封筒の中に戻し机の中にしまった。

 ……。うん。

 とりあえず、今日のところは寝よう。

 何もかも忘れよう……。

 僕は眠った。

 逃げるために、忘れるために、夢だと錯覚するために、眠った。




 でもそれは間違っていた。僕はこの時点で前橋さんからの手紙の意味をよく考えてみるべきだった。

 ――この手紙は、僕だけに宛てられたものではなかったのだ。


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