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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第一章 キョーハク少女
23/163

プッシュプッシュ

 二日目。

 朝一で、小嶋君の元へ向かう。向かっている途中ですでに睨み付けられているが僕はひるんでいられない。


「小嶋君。おはよう。僕小嶋君に見てもらいたいものがあるんだ」


 と、言った瞬間。小嶋君が立ち上がり、僕を掴んで投げ飛ばした。派手に机をなぎ倒しながら転がる僕。いきなりのことで驚いた。


「いたた……」


 痛いで済んでよかった。


「てめぇいい加減にしやがれ! 何なんだよ一体! ぶっ殺されてえのか!?」


 小嶋君がとても怒っている。


「ご、ゴメン。でも、僕小嶋君に見てもらいたいものが……」


 ずんずんと近づいてくる。う、怖い……。

 小嶋君が近づいて、上半身を起こしていた僕の肩に足を置き勢いよく押す。


「俺に何を見せてえんだよ。何の嫌がらせだよオラ。言ってみろよ」


 そのあと何度も何度も僕のふくらはぎを蹴ってくる。痛い。


「嫌がらせなんかじゃ、ないよ。あの、僕、小嶋君に見てもらいたいアニメがあって……」


「アニメェ? 誰がそんなクソみたいなもん見るんだよ! いい年こいてアニメアニメ気持ち悪いんだよこのオタク野郎! さっさと死ね!」


 そう吐き捨て、自分の席へ戻って行った。


「う、ごめんなさい……」


 つぶやいてみても、多分聞こえてない。

 ダメだ。もう話を聞いてくれそうにない。また時間をおいて話そう。




 一時間目、体育。

 今日の体育はバスケ。

 僕は小嶋君にマンツーでマークする。


「ねえ、小嶋君」


 イライラ。


「僕小嶋君に見てもらいたいものが、」


 イライライラ!


 う! 押された!

 審判が笛を吹く。


「ファール」


 こちらボールになった。




 四時間目、美術。

 今日の美術は校内スケッチ。

 校舎内を自由に歩いていいので僕は小嶋君に着いて行った。


「ねえ、小嶋君」


 イライラ。


「僕小嶋君に見てもらいたいものが、」


 イライライラ!


 うわ! 蹴っ飛ばされた!

 これはフレグラントファウルだよ!? ……美術だけど……。




 昼休み。

 食堂にて。


「小嶋君」


「うるせぇ! ンだよしつけぇな! キモいんだよ!」


 僕のしつこい勧誘に耐えかねて小嶋君が怒鳴り声を上げる。食堂中の視線が一気に集まり僕は少し恥ずかしい。


「てめえ、まだ殴られてえのか?!」


「な、殴られたくはないけど、その、僕、見てもらいたいものが……」


「お前はそれしか言えねぇのか? 昨日からそればっかりじゃねえか! んなもん見ねえからさっさと失せろボケ!」


「ゴメン……。じゃあ、また次の休み時間に」


「くんなよ! うっとうしいんだよお前! 諦めろよ!」


「それは、できない……」


「なんで俺に見せようとすんだよ気持ちわりぃなあ! お前はホモか?!」


「ち、違うよ。僕はホモじゃないよ」


「うるせぇオカマ野郎! とっとと視界から消えろ!」


 お腹を殴られた。

 これ以上説得してもダメなようなので引き下がることにした。

 うう……。なかなか強敵だよ……。




 放課後。

 ホームルームが終わり真っ先に向かうところは当然小嶋君のところ。


「こじ、」


「うるさいもうくんな」


 それだけ言って、僕の方をちらりとも見ずに教室から出て言った。

 ……今日もダメだったね……。

 落ち込んじゃうなぁ……。


「お前何してんだ?」


 雛ちゃんだ。

 雛ちゃんが不思議そうに僕を見ている。


「休み時間の度に小嶋に話しかけに言ってたけど、どうしたんだお前。いままで散々殴られてきたんじゃねえの?」


 そうです。しかも今朝は投げ飛ばされました。でも雛ちゃんはまだ学校に来ていなかったから見ていないね。

 しかしここで殴られていると認めてしまってはいけない。雛ちゃんと小嶋君が喧嘩になってしまうといけないから。


「僕はただ小嶋君と仲良くなろうと思っているだけだよ」


「仲良くって、今すげー拒絶されてたぞ。無理だろ。そもそもどうやって仲良くなるってんだよ」


「うん。僕は、小嶋君の趣味とか好きな物とか分からないから、とりあえず僕の好きなものを見てもらって小嶋君にもそれを好きになってもらおうと思ってるんだ」


「相手の好きなものを作ろうってか。そりゃまあ、好きになってくれりゃあ話題は作れるよな。でも優大の好きな物ってなんだ?」


「僕の好きなものは、アニメだよ」


「……アニメ、ねぇ……。アニメとか漫画とか、あのくそデブの事しか思い浮かばねえわ。気持ち悪い」


 雛ちゃんの顔が渋くなった。


「え、もしかして、雛ちゃんもアニメとか漫画が好きな人って嫌いなの? 楠さんも、小嶋君も言ってたけど、オタクって気持ち悪いって思ってる……?」


 そうだとしたら、もしかしたら僕もそう思われているのかもしれない……。

 でも雛ちゃんはカラッとした顔で言う。


「別に個人の趣味に口出しすするつもりはねえよ。お前が好きならそれでいいじゃねえか」


「でも、今國人君の事思い浮かべて、その、気持ち悪いって……」


「それはあのデブだからだ」


「え、容姿が嫌いなの? それは、その……あまりいいことじゃないと思う、ケド……」


「容姿じゃねえよ。私だって他人の容姿をとやかく言える顔じゃねえし」


 雛ちゃんは可愛いよ? 言わないけど。


「あいつ、気持ちわりぃじゃん。行動とか。発言とか」


「……」


 言葉に困ります。


「そういうところが気持ち悪いって言ってんの。だから別に優大のことは気持ち悪いとか思ってねえぜ。だから安心しろ」


「うん」


 突然小声で話し出す雛ちゃん。


「……でさぁ、その、兄貴の事、出来れば周りの奴にしゃべらないで欲しいんだよな。優大なら言いふらしたりしないだろうけど、一応な」


「うん。分かった。内緒にしておくね」


「悪いな」


 雛ちゃんの気持ちがわかる僕は良い人間ではないね……。


「それで、なんで小嶋と仲良くなりたいんだ?」


「え、べ、別に、理由は……」


「あー、なるほどな。殴られるから、仲良くなってそれを防ごうってか」


「殴られてなんかいないよ?」


「なんだよ。何とかしてほしかったら私に言えばいいのに。即日解決して見せるぜ」


「な、殴られてなんかいないってば!」


「はいはい。にしても、仲良くなりたいからアニメを勧めるねぇ……」


「え、まずいかな」


「別にそういうことが言いたいんじゃねえけどぉー。まぁなんだ。お前が頑張ってるのを邪魔できねえし。しっかりやれよ」


「うん。……?」


 何か、気になることでもあるのかな……。

 まあ、いいや。雛ちゃんに応援してもらったし頑張ろう。

 作戦開始二日目はうっとうしがられて終わった。




 三日目。

 朝。


「小嶋君」


「……はぁ……」


 


 昼。


「小嶋君」


「……はぁああ……」




 放課後。


「小嶋君」


「……。お前、よく諦めねえな……。しつこすぎる……」


 あきれたような顔で僕を見る。


「どうしても、見てもらいたいから」


「見ねえから」


「面白いよ?」


「見ねえから」


「でも、」


「見ねえから」


 カバンを持ってそそくさと教室を出て行った。

 あーあ……。今日も失敗か……。

 今日の結果。

 三日目にして、僕はどうしようもなく呆れられたみたいだ。




 四日目。

 朝。


「小嶋君」


「……はっ……」


 いきなり笑われた。


「ど、どうしたの? 僕何かおかしいかな」


「いや、お前色んな意味ですげえな。見ねえっての」


「でも、面白いよ」


「どうでもいいわ。見ねえよ」


 小嶋君が机に突っ伏した。

 これ以上話を聞いてくれそうにもないし、仕方がない。引き下がろう。




 昼。


「小嶋君」


「ぶはっ。またお前かよ」


 前より大きく笑われた。


「お前マジなんなんだよ」


 苦笑を浮かべながら小嶋君が言う。


「見ないっつーの」


「それでも見てもらいたいんです」


「俺じゃないやつに見てもらえよ。いくら来ても無駄だって」


「で、でも……」


「もうくんなよ」


 ひらひらと手を振って、男子達の輪に混ざって行った。

 さすがにそこにツッコむ勇気はないね……。

 僕はすごすごと自分の席へ戻った。




 放課後。


「小嶋君」


「ははは。またきやがった……」


 あきれ返って笑いしか出ないみたいだ。


「あの」


「みないみない。じゃあ俺部活が忙しいから。もう来るなよ。時間の無駄だぞ」


 僕の話を全く聞かずに去って行った。

 うう……。ダメなのかな……。

 今日の結果。

 作戦開始から四日目、僕は小嶋君の笑顔が見れた。これは小嶋君との仲が進んだと言ってもいいのかもしれない。




 そして、五日目。

 朝。


「小嶋君」


「もう本当に勘弁してください!」


 五日目は、泣かれた。

 僕は小嶋君に泣いてお願いされた。

 まさか、泣き顔まで見れるなんて。これはもう友達と言っても過言ではないね。


「もうマジでなんなのお前?! 嫌がらせだとしたらすげえよこれ! すげぇ参る! もう謝るからこれ以上付きまとうのはやめてくれ! 悪かった! 色々と悪かった!」


 机に手をついて何度も頭を下げてくる。


「そんな。僕謝って欲しいわけじゃなくて、僕のおすすめアニメを、」


「アニメなんか興味ないっつーの! 佐藤の情熱は十分伝わってきた! うん、すごいなお前は。これからもがんばれ。いい趣味だと思うぜ。でも俺には勧めてくるな。分かったか?」


「…………。僕のお勧めはね、」


「やめてくれぇぇぇぇぇぇ!」


 と叫んだあと、椅子の上でぐったりしてしまった小嶋君。

 え?! なんでこんなに精神が衰弱してしまっているの?! 僕精神攻撃してたっけ?!


「悪かった……俺が悪かった……」


 ぶつぶつと口から何かが漏れているけどよく聞こえない。


「あの、これ。僕のおすすめアニメ」


 コピーした最後の一枚。これが割られたらまたコピーする作業で土日を潰さなければならない。

 小嶋君が僕の持っているDVDを一瞬見て首を振った。


「俺、見ねえって……。見ないから、そいつをしまってくれ……」


「でも、とっても面白いんだよ? きっと小嶋君も気に入るよ」


「……やめてくれー……かんべんしてくれー……」


 死にそうだった。

 ど、どうしよう。こんな姿を見せられたら僕困ってしまうよ。もうこれじゃあ勧められない。まるで僕がいじめているみたいだよ。

 どうしようかと、おろおろしているところに誰かが声をかけてくる。


「オハヨウ優大。ン、ドウシタンダ?」


 雛ちゃんが何故か棒読みでやってきた。


「あ、おはよう雛ちゃん」


「優大、イマハ、ドウイウ状況ナンダ?」


 そんなことより雛ちゃんの状況の方が気になるよ。


「えっと、僕が、小嶋君にアニメを勧めているんだけど、小嶋君が遠慮しているっていう状況」


「ヘェ、……ダッたらぁ、私が見てやるよ! な!? 優大のおすすめアニメ見てみたいなぁ! いいだろ? 私に貸してくれ! 優大のおすすめアニメを私に貸して仲良くなろうぜ!」


 小嶋君に貸そうと思って焼いてきたけど……、まあ、仕方がないよね。小嶋君が見たくないっていうんだもん……。わざわざコピーしたものが誰にも見てもらえないなんて悲しいし、見たがっている雛ちゃんに貸そう。うう……、作戦失敗だよ……。


「うん。小嶋君が見ないのなら、雛ちゃんに――」


 僕が雛ちゃんにDVDを渡そうと差し出したとき、それを横から奪われた。

 僕の近くにいるのは雛ちゃんと小嶋君の二人しかいないので、奪ったのは当然小嶋君だ。


「ちょっと待てよ」


 DVDを持って雛ちゃんを睨み付けている。


「んだよ。それは今から私が借りんだよ。てめえは寝てろカス」


「うるせえ。このDVDは佐藤が俺に貸すために持ってきたものなんだよ。誰が有野に渡すか」


 し、しまった。雛ちゃんと小嶋君は仲が悪いんだった! 喧嘩が始まっちゃったよ!


「小嶋、てめえいらねえいらねえ言ってたじゃねえか!」


 あれ? なんで知っているんだろう? 今来たんじゃないのかな?


「はぁ? 知らねえよ。これは俺が借りるんだよ。有野はどっかいってろ」


「んだとてめえ! さっさとDVDよこせ!」


「うるせえ! てめえは俺の次だ!」


 バチバチと火花を散らす二人。


「小嶋の次なんて嫌に決まってんだろうが! ブッ飛ばされたくなかったらそれよこせ!」


「ぎゃーぎゃー喚くな! 佐藤に決めさせればいいだろうが!」


「ああ、いいぜ。そうしよう」


 おろおろと間近で見守っていた僕に二人の視線が集まる。


「う」


「佐藤。これは俺に貸してくれるために持ってきてくれたんだよな? なら、俺だろ」


「優大。こいつ見ねえぞ。嫌がってたじゃねえか。でも私は見る。ちゃんと見る。お前から勧められたから全部見る。二回見ちゃうもんね」


「俺だってちゃんと見るに決まってんだろう。適当言ってんじゃねえよ有野」


「うるせえ黙れタコ。なぁ? 優大。私に貸してくれるよな?」


 雛ちゃんの笑顔。

 こ、怖い。何故だか怖い。


「これは俺に貸してくれる予定だったんだろ。なら俺に貸すべきだ」


「予定は未定なんだよ。いいからそれよこせ」


「渡さねえよ。俺が見た後に見ればいいじゃねえか」


「それが嫌だって言ってんのが聞こえねえのか?」


「あーはいはい。じゃあ、俺が先に」


「勝手に決めてんじゃねえ!」


 うう! 怖い! 逃げていいかな!


「佐藤、俺に貸してくれるよなぁ」


「優大、私だろ? 私に貸してくれるよな!」


「う、うう……」


 どうすればいいんだろう……。

 って、考えるまでも無いよ。


「その、小嶋君に、見てもらいたいな」


「よっしゃ」


 小嶋君が嬉しそうにガッツポーズを見せた。

 それとは対照的に雛ちゃんがとても悲しそうな顔で僕の肩を揺さぶってきた。


「ええー! なんでだよ優大! 私には見せたくねえってのか?!」


「ち、違うよ。その、あの、ここでは言えないけど……」


 國人君の家にBDボックスがあったよって言いたい。けどお兄ちゃんのことを隠したがっているみたいだし言えないよ。あとで説明しておこう。


「とにかく、それは、小嶋君に貸すね」


「ああ、サンキュウ。月曜返すわ」


「………………ちくしょう……」


 雛ちゃんが悔しそうに僕らの元から離れて行った。


「へっ。ざまあみやがれ」


 雛ちゃんの後ろ姿を見て、小嶋君がとても嬉しそうに笑っていた。

 ……ちょっと聞いてみよう。


「あの、小嶋君、雛ちゃんのことが嫌いなの?」


「……嫌いだな。大っ嫌いだ」


「な、仲良くすれば、いいと思うけど……」


「……まあ、そりゃ仲良いことはいいことだと思うけど。…………お前は有野と仲良いな。どういう関係だ」


「僕? 僕はただの幼馴染だよ?」


「……それだけか?」


「うん。それだけだよ。ずっと話していなかったし、幼馴染未満かも」


「……そうか」


 どこか安心している様子の小嶋君。


「どうしたの?」


「なんでもねえよ。これ借りるからな」


「うん。是非楽しんでね!」


「………………おう……」


 何故かげっそりした表情でDVDを眺めていた。

 作戦五日目、金曜日にしてやっと小嶋君に渡すことができた。

 よし、これで小嶋君がこのアニメを気に入ってくれたら、そこから話ができるね。

 元気のなくなった小嶋君を残して、作戦成功に満足した僕は自分の席に戻って行った。

 きっと今日から楽しい人生になるに違いないね。

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