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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第四章 僕らにとってのハッピーエンド
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セーシュン少年

 僕は秘密基地へ向かう準備をしている。

 今日は十二月二十八日。

 あと数日で大晦日。今年一年が終わる。

 そろそろ大掃除を始めなければならない。もしかしたらもう始めている人もいるかもしれない。もう終わっている人だっていると思う。大晦日ギリギリまでやらない人もいるかもしれないし、何だったらやらない人もいるだろう。

 色々な人がいて、色々な考えがある。

 綺麗好きな人、面倒くさがりな人、行動を起こすまでの腰が重いけれど、やりだしたら止まらない人。

 この世界に同じ人は一人だっていない。

 そんなことは僕が言うまでも無い事だ。誰だって知っている。みんな違うのに、誰だって分かっている。

 でもそれを受け入れられるのかどうかはまた別の話。

 みんな同じだと思い込んでしまう人は相手に自分の考えを押し付け、相手が自分の考えと違えば自分の世界から排除する。

 それはよくないことなのだけれども、それでいて普通のことなのだ。自分の考えと合わなければ追い出そうとするのは、仕方がない事なのだ。

 どこかに情けない人間がいて、その人間の態度や考え方が気に入らないとする。みんなは当然追い出そうとしてしまう。

 情けない人間は、追い出されたくなければ、考えを合せるか同じ力で押し返すか、選ばなければならない。受け入れるか、受け入れさせるか。

 しかし、分かっていても出来ないこともある。

 あった。

 勇気が無かったから僕にはどちらも出来なかった。情けなかった故に出来なかった。

 でも、もう違う。

 勇気を出して、反発したんだ。

 楠さんに出会ったあの時から今までを思い返すと、僕はずっとわがままだった。

 一学期末はクラスメイトに僕の考えを受け入れさせようとした。夏休みはまりもさんを否定した。文化祭はみんながしようとしたことを邪魔した。二学期末は真実を拒絶した。

 僕はわがままだから。

 そして僕はみんなに受け入れられた。みんなが僕を受け入れてくれた。

 勇気を出して、自分を語る。

 それが、初めの第一歩でとてつもない距離の一歩だった。

 ゴールまであと一歩。

 そのゴールが一体どういうものなのか分からないので、踏み出しようがないけれど。

 さて、大掃除。

 本日は今年最後の学校へ行ける日。だから今日を逃してしまえば部室の大掃除はあと一年待たなければできなくなってしまうのだ。ほとんど使っていない部室の大掃除。ほとんど使っていないからこそ大掃除が必要なのかもしれない。

 新しく使うために。


「にいちゃーん。友達が来てるー」


 一階で弟が僕を呼んでいる。


「すぐ行く!」


 ドアから顔をだして弟に答えたあと、自室に戻って窓から友達を確認してみた。


「おはよう」


 門の前に立つ二人の女の子に声をかけた。

 二人が顔を上げ僕の姿を見つける。一人の友達がもう一人の友達と腕を組み僕に向かって笑顔で手を振った。腕を組まれた方の友達は嫌そうに振りほどいて腕を組んできた相手に何か言っている。そして始まる二人の言い争い。

 あぁ、大変だ。喧嘩が始まってしまう。

 これはいけないと僕はヘラヘラした顔を引っ込めて部屋を飛び出した。

 いつもの登校時よりも遅い時間。友達同士が喧嘩をしている状況だと言うのに、妙にワクワクする。そんな気持ちを抑えることもせず、僕は階段を駆け下りた。


「行ってきまーす」


 それに返ってくる行ってらっしゃい。

 僕は振り返ることもせずに、扉に手をかけた。

 家の前で、二人の友達が楽しそうに言い争いをしている。

 まぁまぁと声をかけるけれど収まらない。

 歩きはじめてもまだ収まらない。

 いつまで続くのか分からない言い争い。それと、僕らの関係。

 今は少しだけぎくしゃくしているけれど。

 それでも僕らは大丈夫。

 両側から聞こえてくる罵声のキャッチボールを聞きながら、僕はそう思った。

 何となく、空を見上げてみる。


「うん」


 何に対してか分からないけれど、僕は小さくつぶやいた。



 僕らは秘密基地へ向かう。

 この半年間、色々あった。

 白馬の王子様ならぬ白馬そのものに出会い、幼馴染と復縁し、同じ趣味を持つ友達が出来て、ディスプレイの中にいた親友が幻想だと知って、生まれて初めて告白されて、生まれて初めて断って、人生二度目の告白をされて、二度目も断って、生まれて初めて告白をして、生まれて初めてフラれて。

 こうやってまとめてみると、交友関係がめちゃくちゃになっているように聞こえるかもしれないけれどそんなことは一切ない。とても素敵な半年だったんだ。

 山あり谷あり。

 波乱万丈、なんて大げさな言葉を使えるほどではなかったけれど。それでも、僕からしてみれば大事件の連続だった。

 実際に事件に巻き込まれたり、友達を傷つけたり、悲しいことも沢山あった。でも、きっとそれは今の僕らには必要な物だったのだろう。

 全部が全部水に流せるわけではない。

 それを抱きしめ、一緒に歩いて行く。

 僕らは、そうやって生きて行こうと思っている。

 この先いつ終わるか分からない僕らの関係。

 笑顔で終れるように、みんなで頑張ろう。

 みんなが優しい事は僕が一番知っている。だからきっと何とかなる。

 ――あぁ、そうだ。いつか馬山さんに会いに行こう。どこにいるのかは分からないけれど、どこかにはいるはずだから。

 そして教えてあげよう。

 信じることは無駄な事じゃないって。信じる者は救われるんだって。



 僕らは秘密基地へ向かう。友達が待つ、部室という名の新しい秘密基地へ。

 この素敵な半年間の物語。ヘタレから卒業したいと願っているけれどなかなかそれが叶わない中途半端な僕の物語。

 今年が終わりそうになっている今、新年へ向けて新たな一歩を踏み出すために、仕切り直すためにとりあえず締めの言葉が必要だとするならば。締めの言葉は決まっている。一般的には喜ばれる言葉ではないけれど、むしろ嫌がられる言葉かもしれないけれど、僕としてはこの言葉以外考えられない。

 終わりの様で、まだまだ続く僕の人生。新しい始まりを告げるこの言葉。子供でも大人でもない中途半端な僕らが迎えるエンディングは、きっととても中途半端な物なのだと思う。だからこそ、僕はこの言葉を選ぶ。

 エンディングであり、オープニング。

 終わりで始まり。

 人生は一回きりだから、次回作なんて用意されてはいないし、もしあったとしても楽しみにしているのは僕だけかもしれない。

 でも、まあそんなわけで、細かい事は気にせずに。色々あったけれど、いや、色々あったからこそ、僕はこの言葉が言える。









 ――僕たちの青春は、これからだ――って。








(終わり)


ご愛読ありがとうございました。佐藤先生の次回作にご期待ください。




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