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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第四章 僕らにとってのハッピーエンド
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狭い世界を飛び出して

 こんなに早く来ても楠さんの友達である長町みちかさんは学校へ行っているので会えないのではないだろうかと思っていたけれど、そうでもないらしい。


「長町さんは高校へ行っていないらしいよ」


 楠さんがこの町に住んでいたと言うことは当然お兄さんも住んでいたと言うことで、この町にはお兄さんの知り合いがたくさんいるようだった。そのお兄さんが長町みちかさんの情報を手に入れていてくれたらしい。すごいやお兄さん。主人公みたいだ。


「長町さん、高校へは進学せず、毎日スーパーでバイトをしているんだって。どうせならそこでお昼ご飯を買う?」


 まさか会うことがこんなに簡単だと思わなかった。

 もっと一悶着起こるのではないかと思っていたけれど、そういう波乱万丈は物語の中だけらしい。

 でも、一悶着起きないのは喜ばしい事だけれども、心の準備が出来ていない。お昼ご飯を別の場所で食べて一旦落ち着いてからでもいいのではないかな。

 と思っていたけれど、


「そうと決まればさっさと買いに行こうぞ。もう俺ってば腹減って死にそうなんだにゃん♪」


「……」


 別に、お昼ご飯のことは気にならないけど……。


「ん? どうしたんだい優大タン。俺の顔なんかじっと見て……。はっ! まさか……、俺の事デブだと思っているのかにゃ?!」


 前から思っていたことを思い切って言って見た。


「個人的な意見だけどにゃんってやめた方が良いよ」


「にゃんで?」


「……似合わないから」


 容姿が変わろうが趣味が変わろうが國人君は國人君で何一つ変わらないけれど、にゃんだけはやめて欲しい。僕の中の尊敬の念が薄れて行ってしまいそうな気がする。


「似合わないわけないじゃんよ。現実世界で、俺以外の誰が似合うってんだにゃん」


「そう言われたら、困るけど……」


 にゃんと言う言葉を現実で使う人を見たことが無い。


「それなのに似合わないとか言えるんだな優大タンは」


「それも、そうだね……」


 確かに、世界でただ一人しかそれを使わないと言うのであればそれは一番似合っていると言えるし一番似合っていないとも言えるね。とりあえず、誰か言っていても違和感のなさそうな人を上げなければ。


「じゃあ、にゃんって言っても違和感が無いのは……えーっと、雛ちゃん?」


「ごふぅっ」


 吐血をした、訳ではないけれど、口から血が出たようなしぐさで体を丸めた國人君。


「ど、どうしたの國人君」


 國人君が苦しそうに地面に膝をつき、右手で胸を押さえ左手の親指を立てる。


「に、似合う……。似合うよ!」


「そ、そうだね」


 それほどダメージを受けてしまう程に似合っているのだろうか。ちょっと想像してみた。

 ……。

 とてもかわいかった。


「でも楠さんも似合いますよね。むしろ自由気ままな楠さんの方がネコ語は似合うかもしれないですね」


「もし猫の類だとしても、ネコ科はネコ科でもあれはライオンだから可愛い物は似合わないよ」


 ライオンだなんて、そこまで怖くないよ。


「一番似合うのは俺だけどにゃん!」


 仕草を交えて言う國人君。

 多分世界で一番似合わないよ。


「そんなことより、ご飯を食べようか。もうすぐお昼だ」


「……そうですね」




 長町さんが働くスーパーマーケットもあっさりと見つかり、長町さんも休みという訳でもなくあっさりと見つかった。


「あ、あそこにいるのが長町みちかさんだよ。多分」


 お兄さんが指を指す先には一人の女の人がいた。


「あれが……」


 商品陳列をしている、市丸さんよりも髪の短い女の人。


「可愛いじゃねえか……。まず俺が話しかけてみよう」


 引き止める間もなく國人君が特攻した。その様子を棚の陰で見ていようと思ったけれど、國人君は食欲に負けて長町さんを通り過ぎそのまま奥のお総菜コーナーへと行ってしまった。お腹が空いていたのだから仕方がない。


「……。行こうか」


「え、あ」


 何のためらいも無く近づくお兄さん。僕らはそれについて行った。

 僕らの接近が横目で見えていたのか、あと一メートルのところで長町さんが声を出す。


「いらっしゃいませー」


 ただの挨拶だ。お兄さんには気付いていない。

 何も気づいていない長町さんに、お兄さんが話しかける。


「こんにちは」


「こんにちはー」


 最初は挨拶を返すだけでこちらを見ようとはしなかったけれど、僕らが長町さんの傍を離れて行かないことに気づいたようで挨拶から数秒後不思議そうな顔を僕らに向けた。


「……。……え? あれ? もしかして……、若菜のお兄さんじゃない?」


 一目で気づいた長町さん。


「そうだよ。久しぶりだね」


「久しぶりー。若菜は元気? そう言えば疎遠になってて全然話せてないや」


 懐かしそうに笑う長町さんだけれども、お兄さんの言葉でその笑顔が消えた。


「うん。それがあまり元気ではないみたいでね」


「え?」


「そのことで長町さんに会いに来たんだ。佐藤君」


 後ろに立っていた僕が呼ばれる。

 僕は一歩前に出て長町さんの前に立つ。


「初めまして、佐藤優大です」


「私は長町みちか。若菜は一体どうしたの?」


「えっと……、すぐに終わるような話じゃなくて……」


 ここでするような話でもない。


「……分かった。もうすぐお昼休憩だからその時に話そ」


「うん」


「近くに公園があるからそこで待ってて。三十分もしないうちに行くから」


「ありがとう」


 トントンと話が進む。

 全部こんな感じで話が終わればいいのに。


「あ、一つだけ聞いていい?」


 出口へ向かうために背を向けていた僕を長町さんが引き止める。


「佐藤君は若菜とどういう関係なの?」


「……友達です」


「そっか。あ、ちなみに私は若菜の親友だから」


「……え?」


「『え?』って、何?」





 公園でお昼ご飯を食べていると、長町さんはすぐにやってきた。

 僕はお兄さんたちから離れて長町さんと二人でベンチに座り話す。二人で話したほうが話しやすいだろうからと言うことでお兄さんが言ってくれた。言っていないことだらけなので、ありがたかった。

 ベンチに座り、まず長町さんが聞いてきた。


「あそこの大きな人は誰? 佐藤君のお兄さん?」


 お兄さんたちの方を指さしている。

 國人君のことを言っているのだろう。そう言えば自己紹介も何もしていなかったので誰かわからないよね。


「あれは、楠さんの友達のお兄さん」


「ふーん……そっか。友達のお兄さんがどうしてここついて来てるの? えっ、もしかして、若菜のお兄さんと付き合ってるとか……」


「そんなわけないよ」


 こう言ってはなんだけれども、それは嫌だ。


「あはは、だよねー。ところで佐藤君は付き合っている人とかいるの?」


「え、い、いませんけど」


「へー。じゃあ若菜のお兄さんは付き合っている人いるの?」


「えっと、分からない……。聞いてきた方が良い?」


「そこまでしなくていいよ。ただ気になっただけだから。あそこのおっきな人は?」


「多分、いないと思う」


 画面の中になら嫁は沢山いると思うけど。


「そっか」


 そんな他愛のない話をしてから、僕は話しはじめた。

「実は」から始まる長町さんの親友たちのお話。

 この出来事に含まれる悪意を可能な限り隠しながら僕は話す。何故こんなことをしたのか分からないけれど、多分友達が友達を傷つけているのだと言いたくなかったからなのだと思う。

 僕の話を聞いた長町さんはすごく驚いた。


「百合はどうして私と同じことをしているの……」


 本当の楠さんをみんなに教えると言うことだ。

 市丸さんがしている理由は悪意しか含まれていないから、僕は何故同じことをしているのかを教えない。


「分からないけど、とにかく市丸さんがしたことは楠さんの為にはなっていないんだ。だから僕はそれをやめてもらいたいなって思って、どうすればいいのか聞きに来たんだ」


 連れてこられただけだけれども。


「百合の考えていることなんて分からないよ。百合ってば、頭良いから。それに比べて私は頭悪いから」


 自虐的に笑う長町さん。


「過去に失敗したことを敢えてしているんだから何かきっと理由があるはず。もしかしたら、自分ならうまくやれると思ったのかも。まー百合ならできそうな気がするけどさ」


「うまくなんか行ってないよ。楠さんは落ち込んじゃっているよ」


「……そうなんだ。やっぱり、失敗したんだ」


 いや、むしろ成功だ。市丸さんにとっては今の結果は大成功だ。

 僕は話を進める。


「それでね、市丸さんは、その話と同時に長町さんについての話もしているんだ」


「私の話ってどういうこと?」


「……楠さんが、秘密をばらした長町さんに酷いことを言ったって」


 むしろ、これを利用して楠さんをいじめている。ここからが本題だ。

 長町さんに言った酷い事。それが事実なのかどうなのか。

 長町さんは、笑いながら答えた。


「そんなの若菜にとってはデフォじゃんか。あの子は酷い事しか言わないよ」


 楽しそうに嬉しそうに懐かしそうに。長町さんの言葉にはネガティブな感情なんて一切含まれていない。


「そうかもしれないけど、そうじゃなくて、長町さんが楠さんの隠し事をばらしたときに、それに対して本当に酷いことを言っていたって、市丸さんは言ってたよ」


 いつもとは違う、本気の言葉をぶつけていたと。


「酷い事は言われたけどさ、別にいつもと変わらないことしか言われてないよ」


 やはりネガティブなんて垣間見えない。


「そ、そうなの?」


「そうだよ」


 拍子抜けというか、安心したというか。


「……なら、どうして、疎遠になったの?」


 長町さんが間違って、楠さんを怒らせて。

 楠さんが酷いことを言って、長町さんが壊れて。

 それで疎遠になったのだと思ったけれど、なんだか違うようだ。


「さあね。でも普通に考えたら、私が若菜の秘密をばらして若菜を傷つけたからじゃないの?」


「でも、そうじゃないんだよね……?」


「さて、どうなのかな。友達でもなんでもない佐藤君には教えられないよ。秘密だよ秘密」


 とても大切なところのような気がする。

 とんとん拍子に話が進んでいたけれど、大切なところで躓いた。


「じゃあ、友達になってください」


「いいよ。でも教えないよ。親友になったら教えてあげる」


「それは、長い時間がかかりそうだね……」


「まあ、そうだよね。私の親友は二人だけだし」


 楠さんと、市丸さん。

 色々と問題があったようだけれども、まだ親友だと言う。

 ちょっとだけそれが気になった。


「……あの、楠さんとはまだ親友なの……?」


「さっきも言ったでしょ。親友だよ。確かに疎遠になってはいるけれど、それでも親友であり続けているはず。ちょっと話していないだけで親友じゃあなくなるなんて私はイヤ」


 心の底から言っている。別に何も裏に隠してはいない。

 やっぱりなんだかしっくりとこない。

 市丸さんは言っていた。

 楠さんが長町さんを傷つけ長町さんを壊してしまったと。

 長町さんは言っている。

 楠さんは親友であり続けていると。

 普通なら、いや僕ならば、友達に酷い事をしてしまったらその人のことを親友だとは言えない。言う勇気が無い。

 雛ちゃんのこともそうだ。怒らせてしまったから親友と言えなくなったし幼馴染とも言えなくなった。

 でも長町さんは楠さんのことを親友だと言っている。僕以上にごちゃごちゃとした関係なのだけれどもそれでも親友だと言う。

 しっくりこない。

 ただ単に僕がおかしいだけかもしれないけれど。

 市丸さんと長町さんから話は聞いた。この気持ち悪さを綺麗に収める為に、あとは楠さんから話を聞かなくちゃ。

 とりあえず、今は情報を正確な物にしよう。

 僕は市丸さんについて聞いてみた。


「市丸さんとは、連絡取ってる?」


「百合が高校行き出してからは取ってないね。それ以前も頻繁に会っていたわけじゃあないけどさ。若菜と一緒で徐々に疎遠になっていたね。でも親友だよ」


「市丸さんとは、どうしてあまり会わなくなったの?」


「……さあ、なんでだったかな。色々と思うところがあったんだよ私達にも。まあ、秘密だけど」


「その秘密って一体何?」


「秘密だってば」


「だよね」


 やっぱり友達でもなんでもない僕には教えてくれないらしい。


「長町さんは、楠さんと、市丸さんとは、いつから話さなくなったの?」


「若菜とは私が間違いを犯してしまった時くらいから。百合はその少し後くらいから話さなくなったかな」


「……うーん……」


 色々と、よく分からない。僕の処理能力ではうまい事捌けないよ。

 長町さんが不思議そうに言う。


「でも百合はどうして私と同じ間違いを犯してしまったんだろ。それじゃあ若菜がまた孤立しちゃうじゃない」


 それが目的だから。


「あーあ。私はどうしてあんなことしちゃったんだろう。本当に悪い事したなぁ」


「僕も、その、秘密をばらすことはよくないことだと思うから、市丸さんのしていることをやめさせたいんだ。どうしたらいいか、分かる?」


「分からないし、もう手遅れじゃない? 一度ばれちゃったらもうそれは止まらないよ」


「……」


 確かに、そうかもしれないけれど。


「だから君が離れて行かなければそれだけでいいんじゃないかな」


「……僕は離れるつもりないけど、楠さんいじめられちゃうよ……。それは耐えられないよ」


「いじめられないって。何言ってるの佐藤君。若菜は逆にいじめるくらい強いんだよ。知ってるでしょ?」


「楠さんは強いかもしれないけど、みんなから冷たいことされたらとても無理だよ」


 僕がこう言うと、長町さんは困惑したような顔を見せた。なんと言えばいいものか悩んでいるような。

 そして、言葉を見つけて僕に言った。


「……私は、悪い事をしたと思っているけど、間違っているとは思えないんだよね」


「え?」


「若菜の性格を知らないで、容姿や成績だけで判断しているような薄っぺらい関係なら断ち切った方が楽だと思うもん。でもそれを押し付けるのは間違っていたみたい。若菜は本当にそれを望んでいなかった」


「……」


「だから私は、本当の若菜を知っている佐藤君が本当に若菜と仲良くしてあげればいいだけの話だって、そう思うんだよね。だからあの時だって若菜が悲しんだから本当に申し訳ない私はなんてことしてしまったんだって思ったけど、クラスのみんなが若菜と仲良くしないことについては特に何とも思わなかったもん。むしろよかったと思ってたくらいだよ。私が思っていただけで若菜はそうは思っていなかったけど。押し付けるのはよくない! 今自分で言った!」


「長町さんは、今起きていることがそれほど大した問題ではないって、思っているの……?」


「私はね。でも若菜が嫌がっているんだからやめた方が良いと思うけどさ」


「なら、市丸さんに言ってくれないかな。もうやめてって」


「だから、手遅れでしょ? もうみんな知っているみたいだし、それに何より百合は私の話を聞かないよ」


「え? どうして? 親友、なんだよね……?」


 ちょっとびっくりした。

 長町さんは、遠い目をして言った。


「疎遠になったあたりから百合は私のことを可哀想な人を見る目で見るようになったんだ。それから私の言うことをあまり信じなくなった」


 壊れたと、市丸さんは言っていた。だから、なのだろうか。


「わざわざこんなところにまで来たのに大した事教えれあげられなくてごめんね。何か他に聞きたいことは無い? 教えられることなら何でも教えてあげよう」


「えっと、じゃあ……疎遠になる直前に楠さんから言われた『酷いこと』で、傷ついたりした?」


「ちょっとだけショックなことはあったけど、それだけだよ。ただ単に事実を言われただけだし」


「事実……?」


「若菜は天邪鬼なくせに正直者だから。それは、佐藤君もよく分かっていることだろうけど」


「うん」


 楠さんは言いたいことを言っているだけだ。思ったことを言っているだけだ。


「多分、そういうことが聞きたかったんじゃないよね、佐藤君は。それを気にして疎遠になったんじゃないかって、そう言いたいんだよね。だとしたら、佐藤君は勘違いしている。事実を言われただけだから、それを気にして離れて行くなんてことはない」


「でも事実だとしても、言っていい事と悪い事がある、よね。事実だから別に構わないという訳でもないはずだよ」


「気にしていることを言われたらそれはとても傷つくだろうけどさ、私の場合は別に気にしていないことだから深く傷ついてなんかいないよ。強がりじゃないよ。ホントにホント。私は一切気にしていない。気に病むことがあるとすれば、それはやっぱり若菜の性格をみんなにばらしちゃったことかな。それだけが今思い出しても悔やまれるよ。本当に悪い事をしちゃった」


「じゃあ、別に楠さんのことを恨んでいないの?」


「私が恨むわけないでしょ。離れて行ったのだって、若菜からだもん」


「僕は、市丸さんから『長町さんが壊された』って聞いたけど、それは、一体どういうことなの? 今の長町さんを見ても、全然そんなこと思わないけど……」


「頭のネジが飛んでいるのは元からだよ。そう見えないって言うのはただ単に佐藤君との付き合いが短いからだよ」


「……うん」


「私は、若菜の親友だよ」


「うん」


 僕も、そうだと言いたい。

 なら人の事気にしている場合じゃないよ。

 だから少しだけ、市丸さんが楠さんに向けている悪意を言うことにした。


「実は、楠さんと市丸さんが喧嘩をしていて、なんとか仲直りしてもらいたいなって思って話を聞きに来たんだ」


「二人が喧嘩?」


「うん」


「……それは、何とかしてあげたいけど、二人じゃなきゃ解決できないような……」


「喧嘩の理由に、長町さんも関係しているみたいで。その、市丸さんが言うには、長町さんを壊したのは楠さんだから、って」


「それは違う。私は元からこんな性格だもの。分かった。今日電話してみるよ。ネジが無いのが私のデフォだって」


「あ、ありがとう……!」


 これで解決だ。……とは思わないけれど、長町さんは壊れてなんかいないと分かっただけで僕は凄く安心した。

 楠さんは酷い事をしていないんだ。

 ほっと安心していると、長町さんが聞いてきた。


「佐藤君学校は?」


「え、あ、ちょっとさぼっちゃった」


「若菜の為に?」


「そ、そんな感じ」


 拉致られただけだけれども、話をややこしくはしたくない。


「さすが若菜。いい友達を持ったね」


 そう笑い、長町さんが立ちあがった。


「じゃあ、とりあえず今日百合に電話しておくから。若菜と喧嘩をするのはやめなさいって」


「ありがとう」


 これで何かが起きてくれればいいな。


「じゃあね。若菜によろしく」


「うん」


 長町さんが手を振り僕から離れて行く。

 その時に、長町さんの口から小さく漏れた言葉を、僕は聞いてしまった。


「……がっかり」


「え?」


 何のことか、誰に言ったのか、さっぱり分からなかった。

 追って聞けばよかったのだけれども、それをしたところで何も教えてはくれないだろうと何となく分かっていた。

 長町さんは、本当に壊れていないのだろうか。


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