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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第四章 僕らにとってのハッピーエンド
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善意の在り処と悪意の行方

「この物語の登場人物は仲良しな女の子達三人。始まりはこの子たちが中学生の時でした。

 一人の女の子は可愛くて頭も良くて運動神経抜群、性格もすごく良くてみんなから頼りにされる綺麗な髪の子。

 一人は勉強も運動もできないけれど明るさでは誰よりも眩しい存在だった長町みちかちゃん。

 そして最後に、私。

 ご想像の通り私の昔話だよ。ううん、私『たち』の昔話。

 くだらない昔話の始まり始まり。

 昔昔……、それほど昔ではないけどね。数年前、とある町に、仲良し三人組がいました。

 髪の綺麗な子と、明るい子と、私。

 三人は小さなときからずーっと一緒で本当に本当に仲良しだったんだよ。

『だった』ね。ここはよく覚えておいてね、大切なところだから。必要ならばメモっていてもいいよ?

 仲良しだった私たちは、小さい時からの親友で本当に何をするにも三人一緒。三人でいない日の方が少なかったくらいだったなぁ。

 綺麗な髪の子と、明るい子と、私。

 自分で言うのもなんだけど、あの頃の私たちは、自分たちを中心に世界が回っていると勘違いしてしまうほどに毎日を楽しんでいたんだ。楽しさを振りまいていたんだ。

 ある時は綺麗な髪の子が中心となってみんなを引っ張って、ある時はみちかちゃんがみんなを楽しい事件に巻き込んで、ある時は私がみんなを非日常へとコントロールして。

 本当に毎日が楽しかった。

 あの頃世界で一番楽しかったのは私達だと言い切れるほどに完璧な毎日だったよ。その日々を知っている人に聞けばきっとその人たちも私達の方が楽しそうだったと言うと思うよ。間違いない。

 クラスの中心で、学校の中心で、街の中心で、世界の中心だった。世界の中心で何かを叫ぶときは私たちに囲まれて叫ぶことになっちゃうね。

 あぁ、佐藤君にも見せてあげたいなー。多分きっとおそらく、いやいや間違いなく、遠くから見ているだけで楽しくなってしまうよ。それほど素晴らしいものだったと私は思っている。

 もしかしたら、眩しすぎて見ていられないかもしれないよ? 本当に大げさではなくそれくらい楽しい毎日だったんだ。戻れるのならあの頃に戻りたいなぁ。美化されている部分もあるだろうけれど、私はあの頃に一欠けらも不満は無かった。

 私は、ね。

 そう、不満を持っている人がいたんだよね、残念なことに。

 誰だと思う?

 ……。

 答えは聞かないけどたぶんそれは間違い。

 不満を持っていたのはみちかちゃん。

 明るさで全てをカバーしていたみちかちゃん。

 あれほど楽しかった時の中で一つだけ、みちかちゃんには気になることがあったんだ。

 それはね、言わなくても分かると思うけど、さっきまで私たちがしていた話の内容を考えれば分かるだろうけれど、当然綺麗な髪の子の隠し事についてだよ。

 例え世界の中心に立っていようとも、あの時に満足していようとも、綺麗な髪の子は今と同じようにみんなに隠し事をしていたんだ。

 腐った性格を隠していたんだ。

 私とみちかちゃんは綺麗な髪の子と共に育ってきているからその隠し事のことを知っていたよ? でも他のみんなは知らなかった。ご存じの通り、綺麗な髪の子はそれを隠すのがとってもうまかったからねー。

 佐藤君もすでに知っていることだから説明する必要はないかもしれないけれど、一応説明をすると、綺麗な髪の子の性格はいいものではなかったけれど、それが好きだという人が少数派ながらいるんだよね。

 私とみちかちゃんもそのうちの二人だった。

『本当の姿も素敵だから別に隠さなくてもいいのに。隠すのは疲れるだろうからやめればいいのに。絶対に受け入れられるのに』

 この前私が佐藤君に言ったこと。

 これは私が思ったことじゃなくて、実はみちかちゃんがずっと思っていたことでね。

 みちかちゃんは何度も綺麗な髪の子に提案していたんだけど、その子はそれを言われる度にきつい言葉で拒否したんだ。

 酷い話だよね、本当に。友達の為を想って言ってあげているのにさ。

 まあ、腐った性格だから仕方がないけどさ。

 でもね、それに負けず劣らずみちかちゃんもみちかちゃんで少し厄介な性格をしていてね。自分の信じたものは絶対に貫き通す心の強い子だったんだー。まあ、そう言えば聞こえはいいかもしれないけれど、実際のところはは思い込みが激しくて行動力があっていつも全力だっただけ。よくそれに振り回されていたっけ。ふふ、懐かしい。

 でも結局みちかちゃんのその厄介が始まりだったていうんだから笑っていられないよ。

 綺麗な髪の子が自分を偽ることは間違っていると思ったみちかちゃんは、中学校に上がって新しいクラスメイトが増えるタイミングで、綺麗な髪の子の本当の性格をみんなに話しはじめたんだ。

 綺麗な髪の子を知らない新しい『お友達』に、嘘偽りのない、その子そのものを受け入れてもらおうと思ったみたいなんだ。ステージが変わるこの機会に、ってね。もちろん良かれと思ってね。だって、親友だったんだから。悪意なんて一片も無いよ。

 でもその結果が大失敗だったんだから悪くないとは言えないんだけどねー。

 秘密をばらされた綺麗な髪の子は受け入れられるどころか拒絶されてしまったんだ。

 当たり前だよねぇ、性格が『悪い』んだから。

 それを魅力と感じるのは少数だよねぇ。

 そんなの分かり切っていたことなのにねぇ。

 だから綺麗な髪の子は受け入れてくれる人が受け入れてくれるだけで良かったと思っていたんだろうね、だから悪い性格を受け入れろと周りの人には強要しなかったんだろうね。

 結局それが分からなかったみちかちゃんが悪いのだろうけど、『みちかちゃんが悪かった』だけではこの話は終わらないよ。終わらせないよ。終わらせるもんですか。

 むしろ話したいのはここからだよ。ここからが本題だよ。

 みちかちゃんの行動に対して綺麗な髪の子が怒ってね。すごくすごく怒ってね。

 性格の悪いその子は普段から私たちに対する当たりが強かったけど、その時は全く違う当たりの強さでさ。いつも怒っているけれど、その時は本気の本気だと分かるような怒り方だったんだ。

 綺麗な髪の子が怒るのは仕方のない事だとは思うけどさ、そこまで言わなくてもいいじゃないて私は思ったよ。だって友達の為を想った行動だったんだから。

 友達に向けて泥のような言葉を投げ続けたんだ。謝っても許さなかったんだ。

 ただひたすらに、悪意のない行動を悪意たっぷりの言葉で責め続けて。

「気持ち悪い」「腐っている」「近寄るな」

 そんな言葉をぶつけ続けたんだよ。

 その結果は言いたくもない。でも言わなくちゃね。それを伝える為に佐藤君に聞いてもらっているんだからね。

 始めの方に言った『だった』、覚えてる? 大切なことだから覚えておいてって言ったよね?

 私達は仲良し『だった』。

 覚えてほしかったのはここだけじゃないんだよ。

 明るさでは誰よりも眩しい存在『だった』みちかちゃん。

 だった、んだよ。

 みちかちゃん、壊れちゃった。

 思い込みが激しくて行動力があっていつも全力だったみちかちゃんは、落ち込むときも思い込みが激しくて全力だった。

そして、『行動力』もあった。

 壊れちゃったんだよ。

 みちかちゃんは綺麗な髪の腐った性格の子に壊されちゃったんだよ。

私の親友は、私の親友に壊されちゃったんだよ。

 私はそれが許せなかった。

 善意を悪意で返したことが許せなかった。

 大切な友達をそんな風にしておいて普通に過ごしていたあの子が許せなかった。

 だから私は若菜ちゃんを同じ目に遭わせようと思ったの。

 腐った性格のあの子をみちかちゃんとおんなじようにしてあげようと思ったの。

 それこそが、償いであり、当然の報いだと思わない?

 だって、親友だったんだから」

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