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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第四章 僕らにとってのハッピーエンド
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動画研究会

 みんな忙しいのでみんなが集まって話せるのは昼休みくらいしかない。イベントについての話し合いをするためにご飯を食べたらみんなに声をかけてみよう。今回は僕がみんなを巻き込む側になるんだ。

 そうとなったら急いでご飯を食べなければ。

 と、思っていたけれど先に声をかけられた。


「なあ、優大」


「え、あ、どうしたの二人とも……」


 珍しく、と言ってはなんだけれども、小嶋君と雛ちゃんが並んで僕の所へ立ってきていた。

 あの時から二人一緒にいることは少なくなっている。ほとんどなくなっていると言ってもいい。

 その二人が並んで僕の所へやってきた。

 一緒にご飯を食べてくれるのかなと思い二人の手元を見てみると、思った通りお弁当を持っていた。


「お弁当食べるの?」


 僕がそう確認すると、雛ちゃんが不思議そうに若干疲れたように僕に聞いてきた。


「いやお前、部室に行くんじゃねえの?」


「え、あ……うん…………」


 つまり、部室でご飯を食べると言うことだろう。…………って、


「え? 部室? 部室って何?」


 部室と呼ばれる場所に全く心当たりがない。小嶋君はバスケ部を辞めたし雛ちゃんは何部にも所属していない。当然僕も帰宅部だ。ご飯が食べられそうな部室には心当たりが全くない。一体何部の部室なのか全く想像がつかないので聞いてみた。

 僕の言葉に二人は顔を見合わせ、小嶋君が僕に顔を向け尋ねてきた。


「なんか、『部室を確保したから昼休みそこでイベントの話し合いをする』って若菜ちゃんに言われたんだけど、佐藤が言い出したんじゃねえの?」


 ……。


「えっと、僕初耳なんだけど……」


 部室って、いったいなんだろう……?

 その前に、僕にも教えておいてくれてもいいのに……。




 僕らの疑問はすぐにその部室とやらで解決することになった。

 部室棟と呼ばれる部室だけでできた校舎。その使われていなかった一室で、僕雛ちゃん小嶋君沼田君市丸さんが、くっ付けた長机二つを囲うように座り、一人入口付近に立って僕らを見ている楠さんに注目していた。

僕らが不思議そうな顔を向けているのもなんのその。楠さんがにっこりと笑顔で自然に言った。


「と言うわけで動画研究会を作ったから」


 そう言うことらしい。

 言っていることは理解できるけれど、突然過ぎてよく分からない。

 少し考える時間が欲しいのだけれども楠さんは次々に僕の頭に攻撃してくる。


「ちなみに部長は佐藤君だから」


 ……。

 ……。


「……え、あ。あーびっくりしたー」


 びっくりしたー。


「冗談だよね? 楠さんは本当に冗談が、」


「冗談じゃないよ。だって佐藤君が言い出しっぺだし」


「……」


 冗談じゃないんだって。

 初耳だ。初耳すぎてびっくりだ。

 言い出しっぺと言われても、動画を撮りたいと言い出したのは小嶋君だし……。でもみんなでやりたいと言って声をかけているのは僕だ。だから僕が言い出しっぺと言われても仕方がないとは思う。みんなを引っ張って行こうとも思っていた。でも上に立つつもりなんてなかった。みんなで仲良く楽しくやって行きたいと思っていたので部長だなんて突然言われても困る。部長が必要だと言うのであれば他の人がやるべきだと思う。


「その、僕にはとても部長だなんて務まらないから、その、楠さんがやった方がいいと思う」


「もう部長は佐藤君と言うことで部活申請用紙を提出しちゃったからもう遅いよ」


「え、そんな……」


 僕の知らないところで僕に肩書がついていた。


「大丈夫。私が副部長としてサポートするから安心して」


「え、あ、そうなんだ……」


 どうせなら、部長になってもいいのに。

 楠さんが早速リーダーシップを発揮する。


「じゃあ今からみんなには入部届を書いてもらうから。二つの部活に入ることは出来るのかどうかを聞いてみたら全く問題ないって言っていたから沼田君も書いてね。市丸さんは書かなくてもいいけど」


 みんなの前に入部届を置いていく楠さん。市丸さんへの入部届は若干遠目に置いていた。

 それを笑顔で自分の元へ引き寄せる市丸さん。


「そんなこと言って。私も誘われたんだからやらせてもらうよ!」


「……はぁ……。部活申請用紙提出しなきゃよかった……」


 なるほど、そう言う理由で僕に『金曜日に言ってくれれば』と言っていたんだね。

 まあ、それはいいとして。

 そろそろ聞かねばならないことがある。


「あの、楠さん」


 発言するために挙手をして注目を集める僕。


「なに? どうしたの? もー、まだ部長が嫌だって言いたいの?」


 楠さんが困った顔で手を挙げる僕を見る。


「あ、それはもういいんだけど、それ以前のお話と言いますか」


「あー、市丸さんが邪魔だって? うんそうだね。じゃあね市丸さんお元気で」


「全然違うよ?!」


 とんでもない勘違いだ!

 市丸さんは冗談だときちんとわかっているようでニコニコ笑顔だ。


「若菜ちゃん酷いなぁもう。私だけ扱いが酷いよー」


 それに対して楠さんは冷たい顔を向けただけで特に何も言わない。そして楠さんがまだ少し冷たさを残す顔を僕に向けて続きを促す。


「……で、佐藤君。何が問題だって?」


「あ、問題とかじゃないんだけど、部活作ったんだなと……」


 まさかこんなに本格的なことになるなんて思ってもいなかった。ただのお遊びのつもりだったのに……。


「うん。作っちゃった。どうせ何かをするのなら後戻りできないような状況にしておいた方がいいかなって思ってさ」


 お遊びでも全力で。それが楠さんらしい。


「ただまあ、裏目に出ちゃったけどね!」


 裏目かどうかはまだ分からないよ。きっとこれからよかったと思えるようになるんだ。

 後戻りできないことは僕にとって全然悪い事ではないのだから。全力で頑張って楠さんが裏目ではなかったと思えるようにしてみるんだ。

 頑張ろう。


「んで、部活なんて大層なもん作っておいていったいどんな立派な映画を作るんだよ」と雛ちゃん。


「映画? 映画に決定したの?」と市丸さん。


「何撮るか決めてないんじゃなかったっけか? そういうふうに聞いてるけど」と沼田君。


「何を撮るか今から話し合うんだろ? だから集まったんだろ」と小嶋君。


「そうそう。今から決めようと思ってるんだよね。で、どうするの佐藤君」と楠さん。


「えっと……」


 突然話を振られたけれど、焦るなんてことは無い。

 僕だって色々考えているんだから。


「あの、僕はみんなで何かをしたいだけで別に動画にこだわらなくてもいいかなって思うんだ。何かを撮りたいのは僕と小嶋君だけで、みんなのしたいことをするべきなんじゃないのかなって」


 きっとみんなやりたいことがあるはずだ。動画ではなくても僕はみんなと一緒にいるだけでいいんだ。

 僕の言葉を聞いて、みんなが顔を見合わせた。そして、雛ちゃんが困った顔をして言う。


「いや、別に特にこれと言ってやりたいことはねえけど」


「え、あ、そうなんだ」


 次いで沼田君が苦笑いで言う。


「俺も佐藤に動画撮るって誘われただけだから、やりたいことはなぁー」


「そう、だよね」


 そして最後に楠さんがとどめを刺してくれる。


「『動画』研究会を作っちゃったんだから動画以外選択肢はないと思うけど?」


「あ、そうですね」


 ほんとだ。

 とりあえず、方向は動画一本に決まったようだ。むしろそれ以外に道は無かったらしい。

 次に決めるのは内容だ。

 さっそく市丸さんが僕に聞く。一応僕が部長だからなのかな。


「じゃあどんなものを撮るの? 映画? ドラマ? それともアニメ?」


 と、突然言われても……。結局動画になるなんて思っていなかったし……。


「えーっと……」


 正直に言えば、やりたいことはある。馬鹿みたいなことをしてみんなで笑いあいたい。

 でもそんなことはみんなやりたがらないだろうし……。

 追い打ちをかけるように楠さんが言ってくる。


「どうするの佐藤君。無難に動物物? あざとく子供使うの? つまらないコメディ? それとも歯の浮くようなラブロマンス?」


 なんだか全部に悪意がこもっているね。学校では優しく接してくれていたのに。

 なんと言おうか迷っていたけれど、僕ではない人が楠さんに答えた。


「……あー、いやラブロマンスは私が嫌だわ」


 雛ちゃんだ。


「そうなの? 佐藤君といちゃいちゃしてもいいんだよ?」


 えっ、僕が演じることは決定しているの?

 そんなのは嫌だ、と思い何とか阻止をしようと思ったけれどその必要はないらしい。


「……いや、いいわ」


 雛ちゃんも絶対にやりたくないようで気まずそうに机に視線を落としていた。

 小嶋君も同じように机を見ていた。

 ……そりゃ、そうだよね。

 何か空気を察したのかそれ以上は誰も何も言わなかった。

 楠さんが気を取り直すために別の提案をした。


「じゃあ佐藤君の好きなホラーでもする?」


「えっと、確かにホラー好きだけど、ホラー撮るのって楽しいかな……」


 沼田君もそう思ったらしい。


「そうだなよぁ。自主製作ホラーなんてB級臭がとんでもないことになる気がするし」


 それに同意する市丸さん。


「ホラーじゃあ私達も盛り上がりそうにもないし、私ホラー苦手だしちょっといやかなぁー」


「じゃあホラーで」


「若菜ちゃーん。冷たいよぉー。若菜ちゃんだってホラー嫌いでしょ?」


「私に苦手な物なんてない。あるとすれば市丸さんだけ」


「冷たいなぁ。でもそう言うところが私は好きだなっ」


「……」


 楠さんと市丸さんはどこからどう見ても仲が良いようにしか見えない。これを仲が悪いと言ってしまっては僕も悲しくなってしまう。

 だから二人は仲が良いんだよね。


「んじゃあどうすんだよ。もう佐藤のしたい事でいいんじゃねえの?」


 小嶋君は若干疲れているので投げやり気味だ。


「僕のしたいことはみんなで何かをすることだからもう半分叶っているようなものだし……。小嶋君はなにか無いの? 動画を撮りたいって最初に言ったのは小嶋君だし……」


「……俺は別にねえよ。むしろ――」


 むしろ、の続きは言わなかった。誰も続きを聞こうとしなかった。

 結局その後も意見がまとまることは無く、何をするのか決めるのは放課後に持ち越しとなった。




 部室をそのまま後にするのかと思いきや、僕は沼田君に引き留められ部室に残っていた。


「どうしたの? 何か内緒話?」


「別に内緒話ってわけでもないんだけどな」


 長机二つを挟んで向かい合う僕ら。

 何か緊張する話なのかと思ったのだがそんな空気は全くない。

 僕はほっとしながら沼田君の言葉を待った。


「んでまあ、早速聞きたいんだけど、佐藤って楠さんを脅してるんだろ?」


 思ったよりも強烈な話題だった。


「え?! あ、いや、そう言えば、そういう事実もあったような……」


 どうしよう! 沼田君と楠さんは付き合っているんだから気になって当然だよね……。

 にこやかな顔が何だか恐ろしい……気がする。


「脅しの材料ってなに?」


「いや、その……それは言えないけど……」


 そもそも僕脅してないし……。


「まあ教えてくれないよなぁ」


 ふうと息を吐いて天井を見上げた。

 あれ? 怒ってないのかな?


「その、知りたいだけ、なの? 怒っている訳じゃないの?」


「ん? なんで俺が怒るんだ? 怒るようなことしたのか?」


「え、えーっと、僕が楠さんを脅しているから……?」


「え? 別に楠さん怒ってないみたいだし俺が怒る理由にはならないだろ」


「そう、だね。えと、じゃあどうして今それを聞いてきたの?」


「いやな? 楠さんのあの顔をどうすれば引き出せるのかなってずっと気になっててさ」


「あの顔と、言うと、その、Sっ気たっぷりの、あの顔?」


「そうそう。俺にはまだ見せてくれないんだよねー。とは言っても最近は佐藤にも見せてないみたいだけど」


「……」


 学校外や、誰にも見られていないときはSっ気満載で接してくれているけれど、沼田君に対しては違うのかな。

 プライベートな事なので聞こうとは思わないけれど。


「最近あの顔を見せているのは市丸さんにだけなんだよなぁ。こうすればあの顔が見られるんだ、ってのを是非佐藤にご教授願いたいんだよ」


「えーっと、その――」


 なんと言えばいいものか……。僕が楠さんの裏の顔を見ることが出来たのは偶然だし、こうすればいいと言うアドバイスは出来ないよ。

 どうすればいいのか困り言葉に詰まっていると、沼田君が手を突き出し、もともと出る予定の無かった僕の言葉を遮った。


「あー、いややっぱりいいかなー」


「――え? その、いいの?」


 もともと何も言えなかったけれど。

 沼田君は握りこぶしを作り見るからに気合を入れていた。


「自分でその表情を引き出してこそ、だよな」


「……そうだね」


 よく分からないけれど。多分そうなのだろう。


「よーし。頑張るぞー。とにかく、何か弱みを握ればいいんだよな?」


「え、あ、それは、どうなんだろうね?」


 弱みを握るというのはいい事ではないよね。

 出来れば末永く幸せでいてほしい。

 絶対に、絶対にそうなんだ。

 それ以外の考えは間違っている。


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