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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第四章 僕らにとってのハッピーエンド
119/163

皆と一緒に

 始めて手ごたえの感じたテストが終わりカレンダーは十一月。霜の降りはじめる月になっていた。

 制服はとっくの昔に冬服に変わっており、春に見慣れたはずの制服を見て新鮮な気持ちになることはなくなっていた。

 銀色の風が灰色の雲を彼方へ流していく。今日雨は降らないらしい。

 自分の部屋から見える遠くの山に目をやる。青々と茂っていた葉は枯れ始め、残った力を振り絞り最後の命を真っ赤に燃やしている。

 秋だ。紛うことなき秋だ。

 秋はとても寂しい感じがする。何故かはわからない。もしかしたら色合いが寂しいのかも。色んなものが寂しい色になってしまうから寂しくなるのかも。

 葉っぱや服や空。多分もっともっとあるけれど、これだけの色が寂しくなったら寂しくなるはず。

 だから秋は寂しいんだ。

 さみしい季節のせいなのか、はたまた僕を取り巻く環境のせいなのか、最近秋空を見上げることが多くなくなっていた。

 空を見ただけで秋だと分かる、と思うのは気のせいなのだろう。

 はぁ。

 吐いたため息が白く変わりすぐに消える。

 ため息は消えても僕の悩みは簡単に消えてくれない。顔の前に漂う白いモヤモヤはいつ消えてくれるのだろうか。僕の心が暖かくなってやっと消えるのかもしれない。それはいつになるのだろう。僕にはわからない。

 僕はもう一度白い息を吐いて部屋の換気をやめた。




 今日は自由と平和を愛し文化をすすめる日である、いわゆる文化の日だ。

 文化をすすめるためなのか、久しぶりに小嶋君が僕の家にやってきて面白かったアニメの上映会をすることになった。


「ニヤニヤ動画に投稿してえ」


「え?」


 それを見終わった時に、唐突に小嶋君が何かつぶやいた。


「今、なんて言ったの?」


 耳の悪い主人公の真似をして聞こえなかったふりをする。

 だが小嶋君は「なんでもない!」など照れる幼馴染の真似はしない。

 言葉を続ける小嶋君は先ほどと同じようなトーンで、特にこだわりを持たない様子だった。


「いや、ニヤニヤ動画に投稿してみてえなって」


「え?」


 なんだか心の奥底から湧き上がるものを感じる。

 このままの溢れ出す情熱のままハイテンションで話すとウザがられる可能性があるので一旦落ち着こう。


「ニヤニヤ動画、見てたの?」


 アニメを見るのに忙しいものだとばかりに思っていた。


「最近ちょっと暇つぶしにな。結構面白いんだなあれ」


「うん! 面白いよね!」


 面白いと思ってくれていてなんだか嬉しい。しかも投稿したいとまで思っているなんて驚きだ。


「歌ってみたとか、俺結構歌うまいしいけるんじゃね?」


「え、あ、そうなんだ。僕歌うまくないから羨ましいよ」


 何かできればそれを動画にしていたのだけれども残念ながら僕にできる事は極めて少ない。数少ない内の一つを挙げるとするのであれば、料理なら人に見せられるレベルだとは思う。色々な人が褒めてくれたので自信がついたんだ。だけど所詮は素人に毛が生えた程度なので面白い動画になることは無いだろう。

 いやそんなことよりも!


「小嶋君何か動画撮るの? 僕も手伝うよ!」


 僕の心の中からまだ文化祭気分がまだ抜けていないのか何かがしたくてたまらない気分だ。以前から僕も何か動画を撮りたいと思っていたしワクワクが抑えきれない!


「是非手伝いたい!」


「なんか佐藤すげえ乗り気だな。まあそうなればいいと思って言ったんだけどさ」


 僕と一緒に何かをしたいと思ってくれるなんて嬉しすぎる。何よりこの前まで仲違いしていたのでより嬉しさがプラスされている。何より何より動画を投稿することはずっとやりたいと思っていた言わば夢だったので嬉しさは何倍にも膨れ上がる。嬉しさゲージは青天井でその上昇は留まることを知らない。

 行き場を失った喜びが喉を激しく震わせる。


「実は僕ずっと何か投稿したかったんだ!」


 僕の大きな声に小嶋君の上体が反らされる。引かないでよ。


「な、なんか今まで見たことないくらいはしゃいでんな。そんなに動画投稿したかったのかよ」


「うん! 色々な人の動画を見る度に楽しそうだなぁって思って動画が撮りたいなぁって思って人気が出ちゃったりしないかなぁとか思ってそうなったら僕も楽しいなぁって思って!」


「分かった分かった」


「でも僕得意な事ないしかっこいい動画を編集する技術もないし面白くない人間だから一人で動画を作ったりするのは寂しいなって思っててだから小嶋君が動画作りたいって思ってたことに僕驚いてて、」


「分かったって言ってんだろうが! お前はしゃぎすぎだろ!」


 しまった。予想通りテンションが上がりすぎて恥ずかしい事になってしまった。さらに恥ずかしい思いをする前に落ち着かなければ。


「ごめん。すごく楽しそうでちょっと興奮しちゃった。でも僕本当に何か動画投稿したいんだ。だから、何か動画撮ろうよ! きっととっても楽しいよ! これこそが僕らの青春だよねきっと! 楽しくないはずがないよ! ねえねえ、動画撮ろうよ!」


「だから撮りてえって言ってんだろ! お前に対して恩義を感じてる俺でも流石に鬱陶しく思うぞ!?」


 しまった……。またテンションが上がりすぎてはしゃいでしまった。


「ゴメンね……。でも、僕本当に楽しみで……」


「お前は女子か! もじもじするんじゃねえよ!」


 う。文化祭でのトラウマが蘇ってしまう。こんなんだから女装させられたんだ。もっと男らしくしなくちゃ。

 早速実践だ。背筋を伸ばし出来るだけ凛々しい顔を作って小嶋君を見る。だが小嶋君は男らしさを演じる僕に関してはなにも言わず動画の話を続ける。


「んじゃあ何撮るよ」


「え? ……えっと、僕は何もできないけど」


 ご存じの通り。


「はしゃいでた割にやりたいことねえのかよ。何かねえの? これが出来るとかこれなら得意とか」


「えーっと……。……口笛とか……」


 実は少しだけ自信があるんだ。


「口笛を延々と吹くのかよ。何? 得意なんか? ちょっとお前吹いてみろよ」


「任せて!」



―演奏中―



―演奏終了―



「まぁ面白くはねえよな」


「そ、そうだよね……」


 そうですよね……。…………そうですよね……。


「どうしよう」


 困ったので小嶋君に助けを求める。

 僕にはもうお手上げだ。


「どうすんだよ」


 小嶋君もお手上げらしい。


「どうしよう……」


 何をすればいいんだろう。

 歌えないし踊れないしやってみれないし。何をすればいいのかさっぱり分からない。

 実況動画とかたくさん見てきたけれど面白いしゃべりが出来るわけでもないしプレイがうまいわけでもないし。うーん。本当に何ができるんだろう?

 二人で悩むもいい案は一向にでない。

 しばらく無言で悩んだあと小嶋君が冗談めかして僕に言った。


「女装するか」


「絶対にヤダ」


 冗談だとしても嫌だ。


「強い拒絶だな。ネットアイドルになりたくねえの?」


「なりたいわけないよ」


 僕は男らしくありたいんだよ。


「そうか。なら動画撮れねえな」


「僕の選択肢はそれだけなの?」


 さすがにそれだけではないと思うけど……。


「女装が嫌だってんなら何かアイデア出してくれよ」


 やる気がそがれたようにごろりと床に寝転がる小嶋君。そしてそのまま傍に置いてあった漫画本を手に取り読み始めた。


「えーっと……」


 どうしよう。このままでは企画倒れになってしまう。……いや、企画はまだ立っていないので企画倒れ以前の問題、やる気倒れだ。やりたいとは思うものの行動は起こさない。僕にとってはなじみ深い現象で、今まで幾度となく経験してきた。やろうやろうと言うだけで、何一つやろうとはしない。多分それは特別な事ではなく誰しもが経験することで、その壁を越えられる一握りの人間だけが自分のやりたいことをやり遂げて人生を謳歌しているんだ。

 僕は特別ではないからその壁を超えることは出来ないけれど。

『僕ら』は特別だからきっと簡単に壁を越えられるはずだ。

 一人でやろうとしているわけではないのだから。

 だからどんなことでもどんな結果になってもやらなくちゃ。

 やって後悔する方が絶対にいいんだ。

 しかしこのままなんのアイデアも出なかったらせっかく訪れた絶好の機会もいつものように泡となって消えてしまう。そうならないようにしっかりと握って離さないようにしよう。


「えーっと……、えーっと……」


 しかし、離したくはないけれどチャンスを留めておくためのアイデアというものが何も思いつかない。

 今まで普通に過ごしてきた僕の頭では奇抜で楽しそうなことなど思いつくはずがない。普通の人間は普通の事しか考えられないのだと思い知らされた。


「なんかいいアイデアねえかな。二人でできる事ってなんかあるか?」


 考えているのか考えていないのか、小嶋君は寝転がったまま漫画本を読んでいる。


「うーん……。……ここはやっぱり、僕が口笛を吹くしか……」


「そんなもん誰が見ようとするんだよ。少なくとも俺は見ねえよ」


「そ、そうだよね……」


 そうだよね……。…………そうだよね……。


「佐藤絵とか描けねえの? こんだけ漫画本があるんだからちょっとは描けるんだろ」


 僕を舐めてはいけない。


「……僕、美術2……」


「えっ、俺より低いじゃねえか」


 驚きで思わず顔をあげた小嶋君。それほど驚くことでもないよ。

 副教科も苦手なんだ。

 ちなみに家庭科も2だった。調理実習がもっとたくさんあればまだ違った気がする……。


「どうすっかなー」


 そう呟きながらむくりと起き上り本棚に近づいた。

 今読んでいた本を本棚にしまい、次巻を抜き出して本棚の側に座った。どうやら本に集中したいようだ。

 小嶋君は動画に対してそこまで熱くなっている訳ではなく、出来ればやってみたいなという程度の事らしい。このままではやる気倒れの共倒れになってしまう。

 大切な大切な時間。

 出来るだけ笑って過ごさなくちゃもったいないんだから。

 できる事はやって、楽しい事はやって。できれば笑い続けたい。

 だから受け身じゃなくて僕から楽しい事に巻き込んでいかなくちゃ。

 仲のいい人たちを。

 積極的にわがままに。

 自分が楽しくなれるように。

 思い出した時に一緒に笑える思い出を作らなくちゃ。

 ――みんなで。


「……ねぇ、小嶋君」


「ん? なんかいいこと思いついたんか?」


 僕の声に顔を上げる小嶋君。

 僕はやりたいことを小嶋君に告げる。わがままを告げる。


「何をすればいいのかは全く思いつかないんだけど、楽しいアイデアがあるわけじゃないけど」


 でもやりたいことはある。


「みんなで何かをするっていうのはどうかな」


 ただ何かをしたい。みんなで何かをしたい。みんなで何かができればいいと思う。

 僕の言葉にピンとこないようで、それどころか少しまずそうな表情を見せた。


「みんなで……、つーと……有野とか、だよな」


 雛ちゃんとの間に色々とあった小嶋君としては気まずい事だろう。でも僕はそれでもみんなで何かがしたい。僕はわがままだから。


「……その、嫌、だよね。でも僕はみんなでなにか一つのことがやれたら楽しいと思う」


「嫌、じゃあねえけど……。有野誘うとかお前結構残酷だな。俺振られたばっかだぜー……。心の傷えぐれまくりだぜえー。どれだけ気まずいのかお前分かってねえだろ」


 分かるよ。


「……僕は、わがままだから」


「佐藤をわがままだって言ったら俺なんて傍若無人になっちまうよ」


 そう言って笑う小嶋君。その笑顔のまま本を閉じて言った。


「……まあ、気まずいままってのもあれだし……。それもいいのかもなぁ……」


 なんだか悟ったような顔の小嶋君。

 実は、それも一つの理由だったりする。

 雛ちゃんの好きな人が誰なのかは全く分からないけれど、そのことを気にして二人の仲が悪くなるのは嫌だ。余計なお世話かもしれないけれど、僕はわがままだから。

 しかし自分が分からない。二人が仲良くしている時は嫉妬していたくせに二人の距離が離れ出したら距離を縮めようとする。一体何がしたいのかさっぱり分からない。

 けれど。

 仲が悪いより仲が良い方がみんなが幸せになれるということはわかる。

 だから僕はわがままになるんだ。

 僕も色々な人との関係を修復したいし、これがきっかけになればいいなって思う。

 しばらく考えていた小嶋君が立ち上がり、本を元の場所に戻す。そして背を向けたまま小さく、


「そうすっかー……」


 そう呟いた。

 新たなる本は持たずに窓に寄る小嶋君。

 窓を開け冷たい空気を顔に浴びている。白い息を吐いたあと、こちらを振り返り窓枠に腰掛け苦笑いを作った。


「んじゃ、とりあえず有野に声かけてみるか。人が多くなりゃ動画のアイデアだっていくらでも出てくるだろ」


「……いいの?」


 小嶋君がまた笑った。


「俺が嫌な顔すんの分かった上でみんなでやりてえって言ったんだろ。なら気にすんなよ。お前自分で自分はわがままだって言ったじゃねえか。人のこと考えんなよ」


「……うん」


 僕は、わがままなんだ。

 本当に優しい友達を持った。僕は幸せだ。


「じゃ、早速電話かけてみようぜ」


「……うん。そうだね。ありがとう」


「なんで礼を言うんだよ」


 小嶋君がまた笑った。




 善は急げ。果たして僕のしていることが善なのかどうか考えなければならないところだかひとまず脇においておこう。

 僕は雛ちゃんに電話をかけた。


「あ、もしもし……?」


『んー? どうしたー?』


 機嫌の良さそうな声。しかし僕はすぐに機嫌を悪くするんだ。


「えっと、今暇?」


『暇暇。超暇。家でゴロゴロしてたところだよ。なに? 優大も暇なの? なら家来る?』


「その……実は今小嶋君といて……」


 それを聞いて途端に声が小さくなる。


『え。あ、あー……。そっか。なら無理だな…………。……んじゃ』


 用件を聞かないうちに電話を切ろうとす雛ちゃんを慌てて引き止める。


「あ、待って待って」


『あ? なんだよ』


 う。声色だけで引き止めるなという気持ちを教えてくれる。

 僕は怒られるのを覚悟で言う。


「その……今から二人で行ってもいいかな……」


『はぁ? 何言ってんだよ。二人で遊んどけよ』


「えっと……。雛ちゃんに話があるんだけど……」


『……電話じゃダメなのか?』


「電話でも終わるけど、直接話した方が分かりやすいかなー、とか……」


 電話でも済むとは思うけれど、実はそれ以外の用事もあった。盗み聞きしたことも今日謝ろうと思ったんた。

 雛ちゃんと小嶋君が一緒にいる時に謝った方がいいに決まってる。今日はいい機会なんだ。

 しばらく黙り込んで考えていた雛ちゃんが囁くような声で言った。


『……小嶋は私と会ってもいいって言ってんのか?』


「……うん」


 それを聞いて、再び小さな声で囁くように言った。


『……そっか……。……なら、いっか。じゃあ、私がそっちに行くわ。そっちの方が助かる』


「あ、うん。じゃあ待ってるね」


『……ん』


 電話が切れた。


「有野なんて?」


 じっと僕が電話をしている姿を見ていた小嶋君が気にした様子で僕に聞いてくる。


「あ、こっちに来るって」


「……そっか」


 言葉に出来ない表情を見せる小嶋君。


「……なあ佐藤。お前、この前の事有野に言ったのか?」


 僕の盗み聞きの件だ。

 情けない僕はまだ雛ちゃんにそれを言えていない。


「まだ謝ってない……」


 だから今日謝ろう。


「……。まあ、どうでもいいんだけどな……。……あ、お前今日いうなよ?! いくらなんでも気まずすぎる!」


「え、あ、ハイ」


 危なく言うところだった。

 僕は今日も謝れないらしい。




 雛ちゃんはすぐにやってきた。

 部屋に入ってまずパソコンの前に座る小嶋君をちらりと見る雛ちゃん。


「……よう」


「おう」


 小さく挨拶を交わして一瞬の無言を作ったあと、雛ちゃんは小嶋君から一番離れた扉の前に座った。

 僕は何となく二人の中間に腰を下ろす。


「んで、話ってなんだ」


 元気のない目で僕を見る。早く話を終わらせたがっている。

 だから早く話をしよう。


「あの、僕達動画を撮ろうかと思ってて……」


 僕の説明はイマイチだったらしくあまり伝わっていない。


「動画……? 映画とかか?」


「まだ何を撮るのかは決めてないけど、とりあえず撮ろうっていうことだけは決めたんだ。そしてそれをインターネットで公開しようかなって」


「ふーん……。そか。まあ頑張れよ。で、話って何?」


「え、あ、もう始まっているんだけど……」


「動画の話? え? 手伝えってこと?」


「あ、うん。雛ちゃんも一緒に、どうかなって」


 雛ちゃんは考えることなく答えた。


「いや、私は別に興味ねえからいいよ。二人でやってろよ」


 予想通りなのか予想外れなのか。

 断られてなお僕はわがままをぶつける。


「そんなこと言わずに、一緒にやらない……?」


 しつこい勧誘に少し揺らぐ雛ちゃんだったが、


「……あー。うーん……。……いややっぱりいいわ。カメラなんて触ったことねえし映りたくもねえし」


 答えは変わらない。


「あ、えっと……」


 ど、どうしよう。皆で何かをやりたいという計画が早速頓挫だ。


「その……どうしても、嫌かな……」


 自分をどん底に落とす最終確認をする。


「んー。今回は遠慮させてもらうわ」


「……そ、そっかー」


 とても残念だ。

 親友である雛ちゃんと動画を撮ったり仲良く言い争う雛ちゃんと小嶋君をなだめる姿を妄想していたのだけれども所詮は頭の中だけの出来事。現実はそううまくいかないものらしい。


「じゃあ、私帰るわ」


 立ち上がる雛ちゃん。


「あ」


 雛ちゃんの中ではもう話は終わったらしい。


「あの、もし気が変わったら……」


「そだな。楽しそうだったら参加するわ。じゃあ頑張れよ」


 軽く僕に目を向ける雛ちゃん。でも多分意識は小嶋君に向いている。

 でも。それがわかったからと言って何が変わるでもなく。僕は扉に手をかけた雛ちゃんにさよならを言おうとした。

 けれど小嶋君は違う言葉を選んだ。


「そんなこと言わずに一緒にやろうぜ」


 小嶋君の勧誘に雛ちゃんが驚いた顔をむける。僕も驚き同じように小嶋君をみる。

 小嶋君は特に気にした風でもなく雛ちゃんに続けて言う。


「どうせお前暇なんだろ? いいじゃねえか」


 お化けでも見たかのような顔をした雛ちゃん。色々と信じられないらしい。


「……お前……。それマジで言ってんの?」


「マジで言ってるんだよ。なんだ? なんか気になることでもあんの?」


「いや、私は別にパソコンとか興味ねえし、不特定多数の人間に見られるなんてまっぴらごめんだし、それに……」


「それに何? 俺がいるのが嫌だって? なんだよお前、好き嫌いしてんじゃねえよ」


「いやそうじゃねえけど……。…………お前、なにも気にならねえの?」


「何言ってんだよ。逆にお前は何を気にしてんだよ」


「…………」


 どうしていいのか分からない雛ちゃん。僕もどうしていいのか分からない。まさか小嶋君が雛ちゃんを誘うとは思わなかった。てっきり嫌がっている物だとばかりに思っていた。


「きっと楽しいぜ。興味ないとか言わないでやってみようぜ」


 爽やかすぎる笑顔。

 眩しくて思わず呆然としてしまう。

 何となく僕と雛ちゃんは目を見合わせた。

 そして、


「……なら、参加してみようかな」


 よく分からない内に、雛ちゃんが参加してくれることになった。

 小嶋君のおかげだ。小嶋君のおかげで僕のわがままが通った。

 これはもう、絶対に楽しい企画にしなければならないようだ。


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