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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第四章 僕らにとってのハッピーエンド
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雑談

 お弁当を食べ終えしばらく話す僕と小嶋君。


「俺アニメって会社気にしたことなかったけど結構沢山あるんだな。郷土アニメーションってなんかぬるぬる動きすぎじゃね?!」


「……うん」


 ……小嶋君はとある女子高の軽音楽部を見て信者になったらしい。信者とは言葉が悪いかも。


「作画崩壊が無いのは凄いよな。抜群の安定感。神作画と言えばジャブドもすげえよな。独特の演出だけでジャブドだって分かるよな」


「……そ、そうですね」


 演出とか気にしたことが無いよ……。面白ければそれでいいと思う。


「つーかさ、話変わるけど、漫画原作のドラマってどう思う?」


「どう思うとは、どういうこと? 良いと思うけど……」


 何も考えていない僕の言葉が小嶋君の琴線に触れる。


「いいわけあるか! いーいわけあるかぁ!」


 とたんにご立腹だ!


「えと、どうして嫌なの?」


「え。だってミリも面白くねえじゃん」


 すごい。ズバッとバサッと切り捨てたね。

 確かに、『どうなんだろう?』と思うものもあるけれど、大成功したのだってたくさんあるはずだ。多分。


「どこの層を狙ってるんだよ。老若男女誰も望んでねえよ。下手すりゃ原作者も望んでねえんじゃね?」


「僕あまりドラマとか見ないんだけど、結構テレビで宣伝していたりするよね? 人気が無いと宣伝費もったいないからそれほど宣伝してくれないんじゃないかな」


「ちげえよ! 右に倣えの日本人は宣伝で『大人気!』とか謳われると何の疑いも無く見ちまうんだよ! マスコミってのは簡単に流行を作れるんだよ! 許せねぇですよ!」


「最後に何気なくイソデックスで出てきたセリフを言ったね」


 きっと最近見たんだね。


「でも確かに、情報源をテレビに頼っている僕みたいな人は、テレビで『流行ってる!』って言われたら何の疑いも無く見ちゃうかも」


 テレビというものは情報の塊だ。情報そのものと言ってもいい。

 たとえ今現在その役割がきちんと果たせていなくてもその情報に頼る人は多く、電波を独占されている以上見ざるを得ないという状況だ。嫌なら見るなとは言うけれど、テレビという娯楽は僕らの生活に深く根付いてしまっている物なのでそう簡単に切り離すことなんてできやしない。特に高齢者や機械の苦手な人たちはテレビに頼るところが大きく、勝手に配信される情報を受け身で得る事しか出来ない。強烈に送られてくる映像、いわばプロパガンダにより知らず知らずのうちに印象操作されてしまう。

 それが商売として正しい事なのか正しくない事なのかは分からないけれど、多くの人が望むものを送りだした方が最終的にはプラスになるのではないかなと僕は思う。


「ステルスマーケティングとかなあ。まあなんだ? 情弱っていうの? 情報弱者。そういう奴らを騙すのってどうなんだよって思うわ。騙される方が悪いとはよく言われるし俺もそう思うけどよー、度合いで言えば騙す方が明らかに悪いだろ。詐欺じゃねえの?」


「詐欺かどうかは分からないけれど、ステルスマーケティングは国によってはダメなところもあるみたいだね」


「へえ、そうなんか。まあ、今はネットとかで簡単に情報が取捨選別できるんだから押し付けられた情報を信じるだけじゃなくて自分で考えなくちゃいけねえよな」


「そうだね」


 押し付けられた情報。受け取らざるを得ない情報。

 怖いね。


 

 色々な話をして話題が尽きることは無かったけれど、そろそろ教室に戻ろうということで僕らは立ち上がった。

 忘れ物を確認して校舎裏を後にしようと一歩踏み出したところで、ある人物が校舎裏を覗いてきた。

 足を止めた僕らにその人が声をかけてくる。


「あ、佐藤君。その隣の人もクラスメイトだったよね?」


 市丸さんだ。

 ショートカットの可愛い人。

 とっても社交的で人とすぐに仲良くなれる人。

 その市丸さんが僕らの方へ駆け寄ってくる。そして素晴らしい笑顔を作って小嶋君に手を差し出した。


「初めまして。私市丸百合。今日からクラスメイトになったからよろしくね」


「まあ、知ってるけど。俺は小嶋翔」


 小嶋君が差し出された手を取り握手をする。

 市丸さんのこの社交性は見習わなければいけないね。こうなれるように頑張ろう。

 ところで。


「どうしたの市丸さん。こんなところに何か用事が?」


 ここは何もない。見事に何もない。ある物と言えば痛い思い出くらいだ。

 僕の言葉に市丸さんが握手していた手を離し僕の方を向いた。


「若菜ちゃんを探しながら校内を探検してたらここに迷い込んだだけだよー。若菜ちゃん見なかった?」


 きょろきょろしながら僕らに聞く市丸さん。


「俺らはずっとここにいたけど来てねえよ」


「そっかー。久しぶりの再会なんだからゆっくり話したかったんだけどなぁ。残念かな」


 そうだよね。朝も楠さんと話していなかったみたいだし。


「なら僕一緒に探すよ」


 それが楠さんの為にもなるはずだ。喜んで手伝わせてもらおう。


「本当? 助かるなぁ。あ、なら校内を案内してくれないかな? まだ配置を覚えていなくってさっ」


「うん」


 そういうわけで、僕と小嶋君は市丸さんを案内することになった。




「市丸さんは東先生の親戚なんだよね?」


 楠さん探し兼学校案内をしながら親睦を深める為に色々と聞いてみる。


「そうそう。結構遠いけどね。お姉ちゃんに聞いたの?」


「うん」


 親戚が教師として学校にいるなんてなんだか羨ましい。特に理由はないけれど何となく。

 一歩前を歩く小嶋君が顔を市丸さんに向けて聞く。


「若菜ちゃんとはどういう関係なんだ? 妙に親しげだけど」


 そっか。小嶋君は知らないんだ。


「私はずっと若菜ちゃんと同じ学校に通っていたの。親友、かな?」


「ふーん」


 幼馴染と言ってもいいかもしれない。

 幼いころからの絆が学校を越えて二人を再会させるさせるなんて、ただの偶然と言ってしまえばそれまでだけれどもやっぱりすごい事だと思う。


「今小嶋君、若菜ちゃんのことを『若菜ちゃん』って呼んでたけどもしかして仲良いの?」


 市丸さんがニコニコと笑いながら小嶋君に聞いている。


「別にそんなこともねーんじゃね? 普通」


「そうなの? でも若菜ちゃんって呼んでるよね? 佐藤君のことは『佐藤』なのに」


「呼び方なんて別にどうでもいいじゃん」


 市丸さんに向けていた顔を正面に戻した佐藤君。


「ま、そうだよね」


 やっぱり市丸さんは楠さんの交友関係が気になるらしい。一つも心配することは無いのだけれども。みんなと仲良しなのだから。

 と、言っている間に紹介すべき教室に到着した。

 しかしそこはあまり記憶が無い場所。


「ここが…………。……家庭科室……」


 いい思い出が無いので暗く言ってしまった。僕の声色がすぐれないのを聞いてか、小嶋君が笑顔で僕に言ってくれた。


「いろいろ大変だったな。なぁ佐藤」


「……うん。そうだね」


 腫れ物のように避けるよりはこうやって言ってくれた方が僕としても気が楽だ。

 小嶋君としてもそうなのかもしれない。


「色々って何があったの?」


 何も知らない市丸さんが気になったの興味深げに聞いてくる。

 語るべきことでもないので僕らは語らない。


「別に大したことじゃねえよ。個人的なことだ」


「えぇー。気になるなぁ。教えて教えて!」


 少し幼く見える仕草で小嶋君にすがる市丸さん。とても可愛らしかったので小嶋君の口が滑ってしまうのではないかと心配したがそんな気配は全くなかった。


「教えられねえな」


 冷たく言い放つ小嶋君。やっぱり吹っ切れていないのかも。

 冷たくされても市丸さんは諦めきれない様子。


「お願いっ! ほんのちょっとでいいから! 概要だけ!」


 可愛く手を合わせ上目遣いで小嶋君を見る。


「うるせえな。教えねえっての」


 それをまともに見ることも無く小嶋君は次の案内へ移った。


「ぶー。ケチ」


 小さくつぶやく市丸さんだったけれど、素直に小嶋君を追った。

 案内は進む。


「ここが美術室」


 美術は苦手だ。

 いや美術も苦手だ。

 こうなってくると何が得意なのか逆に教えてもらいたい。


「へー」


 市丸さん的には特に興味がなさそうだ。美術が嫌いなのかも。

 詳しく紹介できるほど美術室への造詣が深くないので次に行こう。

 次にやってきたのは、


「ここが……生徒会室」


 生徒会室。

 文化祭のことを思い出す。


「ふーん? ここでも何かあったの? 妙に元気ないみたいだけど?」


 やっぱり暗かったらしい。市丸さんが僕の顔を覗き込む。


「……うん。ちょっとね」


「なになに?」


 うわさ好きらしく色々と聞きたがる。それほど楽しい話ではないのだけれども。

 言い渋る僕にかわり小嶋君が軽く説明してくれた。ありがとう。


「市丸朝聞いてたろ。俺達の文化祭の中止騒動だよ」


「あぁ。あれね。救世主と言うことしか聞いてないけど生徒会と一悶着あったんだね」


「……うん」


 生徒会と、と言うよりは三田さんとだけれども……。

 言いたくないので不自然かもしれないけれど生徒会室を離れる。


「次行こうか」


 さっさと歩く僕についてきてくれる市丸さん。これ以上聞きたいとも思っていないようだ。

 次にやってきたのは保健室。


「ここは覚えておいた方がいいよね」


 いつお世話になるか分からないからね。僕も一度お世話になっている。


「保健室かぁ。もしかして、若菜ちゃんはよくここへ来ていたりする?」


「え? どうかな……。知る限りでは来ていないと思うけど」


 四六時中監視している訳でもないし……。

 そりゃ、目で追うことは時々しているけれど、別に変な気があるわけでもないし、ストーキングとかしてないし……。

 とにかくよく知らないよ!

 僕は助けを求めるように小嶋君を見た。その視線を受けて小嶋君も笑いながら言う。


「女子の保健室事情なんて知らねえよ。知っている方が気持ちわりぃだろ」


 そうだよね。


「そっかー。若菜ちゃん保健室行ってないんだね。それはいいことだ。中学時代は結構保健室に行って

いたからさ、気になってね」


「え、そうだったの? 楠さん体が弱かったの?」


 全然知らなかった。むしろ健康的で眩しいほどなのに。……健康的で眩しいって、なんだかちょっと卑猥な響きを含んでいるような気がする……。僕がそう感じるだけかもしれないけれど。

 体が弱かったのかとの問いに市丸さんは首をかしげて答える。


「そんなことも無いんじゃないかな? まあ元気みたいでよかったよ」


「う、うん」


 でもならばどうして保健室に?

 気にはなったもののこれこそ詳しく聞いてはいけないことのはず。詳しく聞きはしないけれど気になった物は仕方がない。楠さん体が弱いなんて一言も言っていなかったし、そんな素振りを見せていないけれど今後は注意してみてみよう。痩せ我慢かもしれない。


「んじゃ、次行くか」


 小嶋君の声に従い僕らは次へ向かった。


「ここがパソコン室」


「ふーん」


 ここもあまり興味が無いらしい。

 特に思い出があるわけでもないし詳しく説明できるわけでもないので僕らはササっと次の場所へ向かった。




 そして、僕らはたどり着いた。


「ここは、見ての通り屋上」


 色々と思い出がある。

 良い思い出もつらい思い出もあった。僕は学校の中で一番屋上が好きだ。素晴らしい場所なのにいつ来ても誰もいないのが不思議だけれど僕としてはそっちの方がいい。


「ここで何かあったの?」


 どうやら市丸さんは不自然さを敏感に察知するらしくフェンスからグラウンドを見下ろす僕の隣に並んで聞いてきた。

 心の底が見透かされているようで恐ろしさも覚える。

 僕はその小さな恐怖がばれないように笑顔を作って答えた。


「何もないよ」


 屋上での思い出は僕達だけのものだ。人に言うことではない。


「気になるな。教えてくれない?」


 やっぱり聞いてくる。

 当然僕はこたえない。


「なにもないんだよ。気にしないで」


 教えないよ。

 納得のいかない様子の市丸さんだったけれど、小嶋君が話しはじめたのでこれ以上僕が追及されることは無かった。


「大体校舎内見て回ったけど、若菜ちゃんいなかったな」


 そう言えばそうだった。案内することで精いっぱいだった僕は大切なそれを忘れてしまっていた。


「いなかったね……。僕全然探していなかったけど……」


 どこにいるのだろう。

 教室に戻っているのかもしれない。もしかしたら楠さんも市丸さんを探して校舎内を回っているのかもしれない。なんだったら直接楠さんに電話をかけてどこにいるのか聞いてみようかな。出会うためにはそれが一番早いよね。

 そう思い、ポケットに手を突っ込み携帯電話を触っていたところ、屋上の扉がゆっくりと開いてきた。

 扉を開けた人がそーっと顔を覗かせ、僕らの姿を認めた瞬間小さくて綺麗な声を上げる。


「……うわっ」


 これほど通る声を持っているのは楠さんだけだ。

 でも、どうして嫌そうな声を上げたのだろう。

 不思議に思っていたところ、隣にいた市丸さんの足がものすごい勢いで動いた。


「若菜ちゃん!」


 市丸さんはそのまま駆け寄り楠さんに飛びついた。


「……」


 ……なんだか、抱き着かれた楠さんの眉が八の時になっているけれど……。別に嫌がっている訳じゃないよね? 親友なんだから。


「若菜ちゃん久しぶりなのにどうして私としゃべってくれないの?」


 抱き付いていた体を話し楠さんに問う市丸さん。

 見える楠さんの眉はやはりマイナス方面の傾きをしている。


「……別に仲良くないから」


 はっきりと告げる楠さん。二人は親友だと思っていたので僕と小嶋君は結構衝撃を受けたけれど、市丸さんはそう言われることに慣れているのか全く気にしている様子はない。むしろ楽しそうに楠さんの隣に並んだ。


「もう、そんなこと言って。私と若菜ちゃんの仲じゃなぁい」


 肩を組み、額を楠さんにくっ付けぐりぐりする市丸さん。

 楠さんは、普通に嫌がって顔をそむけた。


「やめてよ気持ち悪い」


 酷いこと言ってるよ!


「そんな態度とっていいのー? あの秘密、みんなにばらしちゃうよ!」


 幼馴染だからこそ、色々と楠さんの秘密を握っているのだろう。


「……」


 なんだか楠さんがうんざりしているような……。

 仲がいいからこその表情なのか、本当に嫌がっているのかは分からない。

 せっかく親友と会えたというのに、嬉しくないのかな。

 楠さんは大きくため息をつくと、遠目に二人の様子を見守っていた僕らに弱弱しい笑みを見せ優しく言った。


「……ゴメンね二人とも。今から私が市丸さんを引き取るから。迷惑かけちゃったね。ありがとう」


 その言葉に市丸さんが不満そうに言う。


「市丸さんだなんて他人行儀なんだから。前みたいに百合って呼んでよ」


 頬にぐりぐりと頭を押し付けられているが楠さんは無視をするという選択をした。


「……じゃあ、二人とも。また教室で」


 市丸さんを肩に持たれかけさせたままやってきたばかりの屋上を後にした楠さん。

 怒涛とも呼べる展開に、僕らはしばらく呆然と立ち尽くしていた。

 ちょっとだけ気を持ち直せたところで、小嶋君がぽつりと気になったことを漏らす。


「……なんつーか、もしかして、市丸って名前の通りの奴なんじゃねえ?」


「……」


 名前の通りと言うと、そう言うことだ。

 市丸『百合』さん。

 まあ、その、ね? 僕も同じことを思ったけれど物凄い勢いで前橋さんと雛ちゃんが被って見えたけれど……、きっと違うよね。楠さんが嫌がっているように見えたけれど違うよね。多分……。

 ………………あとで楠さんに遠回しに確認してみようかな。

 楠さんとは文化祭が終わってからまともに話していないけれど、このままではいけないしまず話しづらく思うこと自体が間違っているんだ。

 これをきっかけに話をしよう。

 疎遠になんてなりたくない。

 大丈夫だよ。

 僕たちは友達なんだから。

 僕たちは、友達、なんだから。


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