第6話 野菜の種
「次は野菜の種か」
できたばかりの畑は種を蒔けば今にも芽吹きそうなほど生き生きとしている。
そもそもこの世界に元の世界のような野菜ってあるのだろうか。品種改良だってされてるのか分からないし、森に入って探すことも考えたが、無駄足になるのは避けたい。
「ラヴェンドラは何かいい案はないかな?」
「えっ、お野菜の種ですか?」
少し考えこんだ後にラヴェンドラの目がキラリと光り、尻尾が左右に揺れ始めた。
「そうだ! わたしが近くの人間の街から奪ってくるのはどうでしょう!」
ラヴェンドラは鼻をふんふんと鳴らしながら今にも飛び出しそうにしている。
「いや、待て。そんなことをしたらまた人間に討伐されるぞ」
「わたしはそこらの人間になんて負けませんよ?」
そりゃあ、普通の人間は竜になんて勝てないからな。
「そうかもしれないけど、ラヴェンドラはまだ体を治している途中だろう。ていうか、いつも人間を襲ってるのか?」
「いいえ! これまで人間を襲ったことは一度もありません! 人間の里には行きませんし、私の竜の姿を見れば大抵の人間は逃げていきますからね! でもカガセ様のためですから!」
俺のためという言葉は素直に嬉しいが、このままではラヴェンドラが悪の竜になってしまう。
「俺のためを思ってくれてありがとう。でもラヴェンドラにはここで一緒にいてほしいな」
「え、は、はい!」
彼女は満面の笑みで返事をした。
「でも種はどうしましょうか」
ラヴェンドラの暴走はうまくかわしたが、状況が改善したわけではない。
2人で悩んでいると、ふと畑の上でこちらにアピールしている木霊が目に入った。
俺たちの視線に気づいた木霊が、何やら畑の上でくるくると激しく踊り出す。
次の瞬間、その小さな体から緑色の光の粒子が溢れ、次々と畑に吸い込まれていった。
「……種?」
驚く俺の目の前で、次々と土を割って青々とした芽が顔を出していく。それは、見る間に茎を伸ばし、大きな葉を広げ、ついには鈴なりのカラフルな実をつけた。
見た目は元の世界のトマトによく似ているが、一回り大きく、宝石のように輝いている。
「すごい……」
「ピキュイッ!」
俺たちの前まで駆け寄り得意げにポーズを決める木霊。どうやら、ヒーリングだけではなく、植物を育てる力もあるようだ。
隣を見ると、ラヴェンドラが目を丸くしてその野菜を見つめている。
「おいしそうなお野菜ですね! あなたは何でもできるのね」
ラヴェンドラに撫でられた木霊は、ピキュピキュと嬉しそうにしている。
「早速一つ食べてみるか」
俺は目の前のトマトの様な野菜に手を伸ばした。
一口噛んだ途端に、薄い皮がスッと破れ、口の中で水分が弾けた。甘味が強いがしっかり
とした酸味もあり、何よりも味が濃厚だ。さらにトマト特有のヌルっとしたゼリー状の部分もない。
「うまい!」
異世界の野菜がここまでうまいとは。これもデスワームと木霊のおかげだな。
「ラヴェンドラも食べてみてくれ」
俺は目の前の大きな実をラヴェンドラに手渡した。
「美味しいです! お野菜ってこんなに美味しいんですね! これまであまり食べていませんでした」
そのままかぶりついたラヴェンドラは恍惚の表情をしている。
「今日の昼食はこの野菜にしようか」
「大賛成です!」
これで食料にも一定の目処はつきそうだ。
まあ、この収穫はすべて昼食で消えたのだが……。




