第5話 モンスター召喚
次の日、俺が目を覚ましたのは、まだ朝も間もない頃だった。
リビングに向かうがラヴェンドラはいない。
どこに行ったのだろうなどと考えていると、木霊が玄関でこちらにアピールしている。
木霊について外に出ると、ラヴェンドラがユグドラシルの前に佇んでいた。
「おはよう。もう外に出ても大丈夫なのか」
俺に気づいた彼女がこちらに笑顔で手を振っている。
「はい! ぐっすり眠ったので問題ありません!」
ラヴェンドラは元気そうに体を伸び縮みさせて見せた。
「ラヴェンドラが元気になってくれて安心したよ」
元気になったといってもあれだけの傷を負っていたのだ、ラヴェンドラもまだ本調子とはいかないだろう。まずはここでの生活を安定させることが必要だ。
「じゃあ、この世界での第一歩を踏み出さないとな。まずはこの拠点を充実させることからだ」
「拠点の充実と言えば……もしかして……」
「ん、なにかアイデアがあるのか?」
やはり俺よりこの世界の知見があるのだろう。ラヴェンドラは自信がありそうな表情をしている
「魔王城ですか!?」
「なんでだよ!」
ラヴェンドラのまさかのボケに、つい突っ込んでしまった。
「えへへ。やっぱり魔王様と言えば、まずはお城が必要かなと思いまして」
可愛く笑うラヴェンドラを見てはこれ以上の反論もできない。
やはり喫緊の課題としてはやはり食料の調達か。
ここ数日で集めた果物は昨日ラヴェンドラの胃袋にすべて飲み込まれてしまった。
いくら果物が豊富だといっても、このままでは食いつくされてしまうかもしれない。
まさか自分のことを考えられているとは思っていないであろうラヴェンドラは、こちらを見て微笑んでいる。
「取り急ぎは食料の調達かな。近くには果物が豊富に生えているけど、それだけじゃ心許ないからな」
「なるほど! やっぱりまずはご飯ですよね!」
ラヴェンドラの手からポンっという音がこぼれた。
「野菜を作ってみたいんだけど、やったことある?」
食料と言えばまずは農業だ。狩猟もいいが安定という面では農業に敵わない。
「野菜作りですか? 人間の畑は見たことがありますが、育て方などは知りません…」
竜である彼女に農業の知識を求めるのも酷か。
俺も部屋で観葉植物を育てたことがある程度だが、最低限畑と種は必要だろう。
ユグドラシルシステムで何かできないだろうかと考え、俺は紋章に手を触れた。
改めて確認すると源素の総量が増えている。初めて確認した時は1000だったが、その後煉瓦の家で300、木霊で150使ったはずだ。今が850だから、もしかしたら1日で100ずつ増えるのだろうか。
考えていてもしょうがないか。今は農業に役立つものを探そう。
そんなことを考えながら、モンスターのリストを眺めていると、一体のモンスターが目に留まった。
ーーデスワーム。ミミズ型のモンスターのようだ。
元の世界で、ミミズは土を耕しその糞も栄養になるなど土壌改良の効果があると聞いたことがある。
こいつなら農業の役に立ちそうだ。必要な源素も200だし問題ないだろう。
《デスワームを召喚する》
煉瓦の家の時と同じように、頭の中で言葉を唱えると正面に淡い光が現れ、そして弾けた。
そこには、ぬめりを帯びた黒ずんだ皮膚と退化した目、牙だらけのすぼんだ口を持った1メートルほどはあろう巨体を絶え間なくうねうねと動かすモンスターが現れた。
うわっ……でかいミミズって思いのほか気持ち悪いな……。
横目で見たラヴェンドラは口を手で押え、引きつった顔をしている。
「よ、よし。デスワーム。家の前あたりに畑を作ってくれないか」
デスワームは分かったと言うように一度飛び上がった後、土に潜っていく。
デスワームが縦横無尽に土中を進んでいるのであろう、家の前の地面の土がどんどん盛り上がり、みるみるうちにふかふかの大地に変貌していった。
「すごい……」
俺がその働きぶりに見とれていると、目の前の大地が噴出し、デスワームが飛び出した。
顔にかかった土を払いながら目を開けると、数畝もある立派な畑が俺の目に飛び込んできた。
「よくやったデスワーム!偉いぞ!」
俺に褒められたデスワームは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている。
ラヴェンドラに同意を求めて振り返った俺の視界に映ったのは、その状況をうらめしそうに眺めている彼女の姿だった。
「カガセ様に褒めてもらえていいなあ……」
微かに聞こえたそのつぶやきは、飛び跳ねる土音にかき消されていった。




