第3話 鱗の傷
「ラヴェンドラ! 大丈夫か! どうしたんだ!」
慌てて彼女に駆け寄り、助け起こしながら呼びかけるが反応はない。
かろうじて息はしているようだが、その顔色は紙のように白く生気がない。 俺は彼女を抱きかかえると、完成したばかりの煉瓦の家へと急いだ。
幸い、家の中には最低限の家具やベッドが設置されていた。
「ラヴェンドラ、しっかりしろ!」」
ゆっくりと彼女をベッドに横たえ、再度呼びかけるがやはり反応はない。
このままではラヴェンドラの生命に危険があるかもしれない。
そう考えた俺は、彼女の呼吸を助けようと服の襟元を緩めていった。
首元の服を開いたとき、俺の手が止まった。
「なんだ……これは」
鎖骨の間付近に彼女の雪のように白い肌とは、明らかに異質な赤銅色の鱗のようなものが存在していたのだ。
その鱗のようなものには、つけられてから間もないと刃物によると思われる切り傷が生々しく刻まれていた。
さらに、その切り傷の周りは青黒く変色しており、鱗自体を今にも呑み込まんとしている。
この傷は、さっき俺を追っていた化け物の仕業ではない。あの化け物ではこんな傷は着かないはずだ。だとすれば誰がこの傷を……。
その傷に恐ろしさを覚えたが今は原因を考えている場合ではない。ベッドに寝かせた後もラヴェンドラの意識は戻っていないのだ。このままここで待っていても彼女が良くなるとは思えない。
……そうだ! ユグドラシルに戻れば何か治療に役立つものあるかもしれない!
俺は急いで先ほどの場所まで戻り、紋章に手を触れた。
「いた! こいつなら!」
『木霊』というモンスターにはヒーリングの能力があり、森の力を借りて少しだけ他者を癒すことができるとある。ラヴェンドラに効果があるのかはわからないが、今はこれしかできることがない。
急いで木霊を召喚し、ラヴェンドラの元に戻る。
「木霊! お願いだ! ラヴェンドラを助けてくれ!」
「ピキュイ!」
木霊は元気よく返事をすると、ラヴェンドラの枕元の枕元で踊りだした。
木霊が舞うたびに淡い光がラヴェンドラを包み、彼女の全身を覆っていく。
すると、ラヴェンドラの顔色は徐々に明るさを取り戻し、呼吸もゆっくり落ち着いたものとなってた。
「よかった。これなら大丈夫そうだ。ありがとう木霊」
このまま木霊にヒーリングを続けてもらえばラヴェンドラも大丈夫だろう。
しかし、胸にある鱗の切り傷は青黒い色のまま変化はない。ラヴェンドラが倒れた理由もあの切り傷に関連していると考えるのが自然だが、何があったのだろうか。
---ラヴェンドラが倒れてから三日経った。未だ彼女は目を覚まさない。
木霊にはヒーリングを毎日朝夕2回行ってもらっている。モンスターといえど無制限に能力を使えるものではなく、回数には限界があるようだった。
ダンジョンマスターの力を持っていると言っても、目の前の少女一人助けられない自分がもどかしい。
今朝も木霊にヒーリングを行ってもらい、共に森に出る。
幸いにも近くには果物が豊富に生えており、きれいな水が湧く湖があったことから食料や水には困らなかった。
湖に映る自分を見た際に若返っていることにも改めて気づいた。
「ただいま」
静かに寝入っているラヴェンドラに話しかけ、いつも通り顔や手を濡らした布で拭いていく。水を替えに部屋を出ようとした、その時だった。
「ん……」
か細い、消え入りそうな声が聞こえた。
慌てて彼女に駆け寄る。
「ラヴェンドラ! 目を覚ましたのか!」
俺は急いで彼女の元に戻り、呼びかけるように声をかけた。
時が止まったような感覚の中、彼女はゆっくりと瞼を開き、その透き通った瞳で俺を捉えた。
「あ……魔王様……ここは……」
弱々しいがはっきりとした声で彼女は答えた。
その姿を見て、俺は張り詰めていた心の糸がふっと緩むのを感じた。




