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第2話 竜の少女とダンジョン

 「魔王様! このような場所でお会いできるなんて!」


 急に抱きついてきた少女は潤んだ瞳で俺を見つめている。


 いやいや、待ってくれ。魔王って何のことだ。俺は逃げも隠れもしない普通のサラリーマンだぞ。


 しかも、さっきまで竜がいたはずなのに、なんで今は少女に抱きつかれているんだ。


 怒涛の急展開に理解が追いつかないが、結構やばい状況じゃないのか。


 「何か勘違いしていないか。君は誰だい。さっきまで竜がいたと思ったけど」


 俺は少女に話しかけた。


 「失礼しました。わたしは『ラヴェンドラ』と申します。先程の竜はわたしでございます」


 この少女があの竜だって?


 驚きのあまり気付かなかったが、俺から離れ身なりを直している少女ーーラヴェンドラの頭のハーフアップの三つ編みをよく見れば角のような質感をしている。

 更に腰には明らかに人間にはない尻尾のようなものも見えた。


 たしかに普通の人間だとは思えない。


 「それで、ラヴェンドラさんはなぜ俺を魔王と呼ぶんだ」


 「魔王様。わたしのことはただ『ラヴェンドラ』とお呼びください。敬称などは不要です」


 少女は微笑みながらこちらを見ている。


 「分かった。ラヴェンドラ。なぜ君が俺を魔王と呼ぶのか教えてくれないか」


 なぜ俺が魔王などと呼ばれるのか訳がわからない。俺には特別な力も何もない。


 「それは……魔王様がお持ちになっているその種です」


 俺は種に目を落とした。それは変わらず淡い光を放っている。


 「おそらくそれは『迷宮の種子(ダンジョンシード)』。使用された場所に『迷宮(ダンジョン)』を生み出す奇跡の道具」


 この種にそんな力が…。


 「そして、『迷宮の種子(ダンジョンシード)』を持ち、『迷宮(ダンジョン)』を支配する能力を持つ方、すなわち『迷宮のダンジョンマスター』こそ、我らが魔王様なのです!」


 俺がダンジョンマスター……。


 もしかしたら、この種は女神ウルズの贈り物なのだろうか。しかし、贈り物が魔王の象徴とはどういうことだ。勇者の象徴ならまだしも。


 「魔王様。ちょうどここは誰も近づかぬ不毛の地。よろしければこの場所でダンジョンシードをご使用いただけませんか。」


 いきなり魔王と言われても何がなんだか分からないが、ここにいても先程の化け物に襲われかねない。ここは彼女に従うしかないか……。


 「分かった。やってみよう」  


 俺は灼熱の砂をかき分け手の中の種を埋めた。


 しばらくの静寂の後、大地の底から唸り声のような音が響き、小さな芽が顔出したと思った直後……。


 芽を中心に放射状に根が暴れる多数の大蛇のように大地を駆けていった。根から飛び出した幹がミシミシと音を立ててひしめき合い、開く葉の音が心地よいリズムを奏でながら、天を突かんばかりの巨樹が空を覆っていく。


 数分後、静寂に包まれたそこは、広大な森が現れていた。


 「これが……俺の力……」


 俺が目の前の光景に唖然としている中、正面にそびえる大樹の傍らにラヴェンドラは佇んでいた。


 「おそらく、これは『迷宮核ダンジョンコア』。このダンジョンの力の源泉でございます」


 改めて見れば、それは周囲の樹木とは異なり、幾何学的な9本の枝で構成された『樹』というにはあまりに異質な存在であった。 


 巨大な幹の中央には円形の紋章のようなものが刻まれており、俺は何かに引き込まれるように、その紋章に手をかざした……。


 指先が触れた瞬間、頭の中に電流が走り、脳に何かの情報が強制的に書き込まれたような感覚に襲われた。


 数秒して俺がその感覚から開放されたと思った直後、紋章が光を放って輝き出し、空中に浮かび上がったと思うと、形を崩し光の渦のようになりながら、徐々に長方形を成していった。


 しばらくして光が収まると、俺の眼前に半透明の薄い横長のモニターの様なものが出現している。

 そこには大きく『welcom to Yggdrasill System』と表示されている。


 俺がその光景に驚いているとラヴェンドラが不思議そうに俺に話しかけてきた。


 「魔王様、どうかされましたか?」


 「このモニターみたいなものに驚いていただけさ。ラヴェンドラはこれが何かわかるのか」


 「何のことですか。わたしには魔王様のお手元しか見えませんが…」


 彼女にはこれが見えていないようだ。俺にあるというダンジョンマスターの力がこれを見せているのだろうか。


 改めてモニターを見ると既に『welcome to Yggdrasill System』の表示は消えており、画面の最上部に『 Yggdrasill System」、その下に『迷いの森/Rank1』、その右横に『源素1000」と表示されていた。


 迷いの森か。まさにダンジョンといった名前だが、この森のことだろうか。しかもRank1とあるということは、Rank2や3もあるのかもしれない。


 それらの表示の下部には左側の画面大部分を占めるように円形の地図のようなものが表示され、その右横には『MAP』、『BUILD』、『MONSTER』、『SKILL』との表示が並んでいる。

 地図の中央には樹を思わせるアイコンが表示されているが、おそらく目の前の大樹なのだろう。そうすると今いる場所は地図の真ん中ということになる。


 それにしてもユグドラシルといえば、神話に出てくる巨樹のことだったはず。もしかしたらこの大樹がユグドラシルなのだろうか。


 今表示されているのは『MAP』だと思うが、その他の項目はどうやって確認するのだろうか。特に操作するものなどは見当たらないが。


 俺は試しに頭の中で『BUILD』と唱えてみた。


 すると、地図の表示はなくなり、代わりに「木の小さな家」や「煉瓦の家」、「石の倉庫」といった項目が並んだリストが画面の左半分に表示された。それぞれの項目には右側に「250」や「300」などと表示されている。


 俺は試しに『木の小さな家』と頭の中で唱えてみた。すると、画面上にポップアップが表示され、木でできた家の画像と共に『木材でできた小さな家。最低限の設備と家具は備え付けられている。必要源素量300』との説明文が記載されていた。


 ただの想像だが、記載された量の源素を消費してこれらの建造物を生成することが可能なのではないだろうか。


 源素か……。聞いたことがないが、ラヴェンドラは何か知っているだろうか。


 「ラヴェンドラ、『源素』ってなんだか知っている?」


 「源素ですか。源素とはこの世界を形作る根元たる物資です。この世界は大地から小さな虫に至るまで全て源素で構成されています。もちろん私も。一般的な知識だと思っておりしたが魔王様はご存知ありませんでしたか?」


 元の世界の原子に似たものなのだろうか。


 俺はその時、淡々と答えるラヴェンドラの顔が、心なしか少しだけ青ざめているように見えた……。


 改めてモニターに目を移し、『MONSTER』と唱えると先ほどと同じく、画面の左側にモンスターのリストが並ぶ画面に切り替わった。


 だが、続いて確認した『SKILL』の項目は、すべて「???」と表示され、何もわからない状態だった。該当する項目を唱えてみても、押してみても特に変化はない。今は何もできないようだ。


 これですべての項目を確認してみたわけだが、源素を消費してダンジョンに建造物を生成したり、モンスターを召喚したりできるもののようだ。


 魔王が持っていそうな能力だな……。


 ラヴェンドラの言うとおり俺は魔王としてこの世界に来たのだろうか……。


 そうこうしているうちに、いつの間にか日暮れになっていることに気づいた。


 できればこのまま野宿することは避けたい。


 俺は、物は試しと『煉瓦の家』を生成してみることにした。


 現在の源素量はおそらく1000。『煉瓦の家』を生成するのに必要な源素は300だから問題ないだろう。


 場所は、左奥に見える湖の湖畔辺りが良さそうだ。


 俺は湖の方を見ながら頭の中で『煉瓦の家を生成』と唱えた。


 すると、湖の湖畔にどこからともなく光の粒が集まり淡く大きな光の塊になった。


 数秒すると光の塊は再び光の粒に戻り、霧散していったが、そこに出現したのは、重厚な雰囲気の赤茶けた煉瓦の家だった。


 「おお!見てくれラヴェンドラ!家ができたぞ!」


 俺は元の世界では考えられない状況に興奮してラヴェンドラの方を振り返ったが、その目に飛び込んできたのは、力なくその場に倒れ込むラヴェンドラの姿だった。


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