からくり競艇人物外伝第4話:鎌倉明菜編
外伝:『真紅の氷華、静かなる独走』
――女子レーサーNo.1、鎌倉明奈の肖像
「女王」という呼び名を、鎌倉明奈はあまり好まない。
その言葉に含まれる「守られる存在」という響きが、彼女の誇りにそぐわないからだ。
大阪支部のエースとして君臨する彼女のマブイは、透き通るような純白に、時折混ざる鋭い真紅。属性は、水の極致である**「氷華」**。彼女が水面を駆ければ、その軌跡は一瞬で凍りつき、後続の機体の操作を狂わせる。
「明奈ちゃん、今日も完璧やな。ファン投票もぶっちぎりやで!」
周囲の喧騒を、彼女は柔らかな微笑みで受け流す。しかし、整備室に入り、愛機のハッチを閉じた瞬間、その微笑みは消える。
彼女の戦いは、常に「自分」との対話だった。
女子レーサーNo.1という看板は、少しのミスも許されない重圧となって彼女にのしかかる。ましてや、大峰幸太郎や篠田篤といった怪物たちと渡り合うには、誰よりも冷酷に、誰よりも精密にマブイを制御しなければならない。
ある日のTG予選。
鎌倉は、西野貴志率いる「ポンコツ会」の執拗な強襲にさらされていた。
「おらぁ! 女王様を玉座から引きずり下ろせ!」
西野の「爆炎」が、鎌倉の視界を真っ赤に染める。渡辺優子の「ダンプ」が、機体の装甲を激しく叩く。
普通のレーサーなら、その気迫に気圧される場面。
だが、鎌倉の瞳に宿るマブイは、さらに静寂を深めていった。
(……うるさいわね。その熱、全部凍らせてあげる)
鎌倉のマブイが臨界点を超えた。
機体から放たれた極低温の波動が、西野の炎を瞬時に沈黙させる。氷の刃のようなターンで、わずかな隙間に機体を滑り込ませた彼女は、一瞬で3艇を抜き去った。
ゴールを駆け抜けた彼女を待っていたのは、割れんばかりの歓声。
ヘルメットを脱ぎ、長く美しい髪をなびかせながら、彼女は再び「女王の微笑み」をカメラに向けた。
だが、その胸の内で、彼女は静かに独りごちる。
「……次は大峰さん。あなたの『日』の光でさえ、私の氷は溶かせないわよ」




