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甲殻類アレルギーなのに新鮮なら死なない? 命がけの食事会と崩壊した婚約  作者: 品川太朗


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4/10

第4話:会社の話し合い──婚約者、墓穴を掘る

自信満々で会議室に現れた婚約者。 彼は本気で信じているのです。「自分は正しい」「悪いのは騒ぎ立てた美咲だ」と。


さあ、常識ある大人たち(上司)の反応をご覧ください。 公開処刑の始まりです。

 月曜日の朝。

 私は重い足取りで出社し、直属の上司である課長に「至急、お話ししたいことがあります」と告げた。


 私の憔悴しきった顔色と、ただならぬ雰囲気を察したのか、課長はすぐに会議室を押さえてくれた。


 数時間後──。


 会社の小会議室には、異様な緊張感が漂っていた。

 私と悠真。

 そしてテーブルの向かいには、課長、部長、さらには人事部長までもが顔を揃えている。


 ことの重大さを鑑みて、課長が上層部へ声をかけてくれたのだ。


「……で、大野くん。君が川島さんに対して『非常識だ』と婚約破棄を申し出た、という話だが」


 部長が低い声で切り出す。


 悠真はスーツの襟を正し、自信満々な表情で頷いた。まるで、これからプレゼンでもするかのような態度だ。


「はい、その通りです。私としても残念ですが、彼女の人間性に重大な欠陥があることが判明しまして。会社にもご迷惑をおかけする前に、はっきりさせておこうかと」


 悠真はチラリと私を見て、鼻で笑った。

 『お前が俺に勝てるわけないだろ』という顔だ。


「具体的に、何があったのかね?」


 人事部長の問いに、悠真は待ってましたとばかりに口を開いた。


「実は週末、私の実家に彼女を招いたんです。両親と姉が、彼女のためにとびきりのご馳走を用意して待っていました。しかし彼女は、その料理を見るなり『殺される』などと騒ぎ出し、両親を罵倒して、裸足で逃走したのです」


 悠真の説明に、上司たちが眉をひそめる。

 確かにこれだけ聞けば、私は異常者だ。


「それは……穏やかではないな。川島さん、事実かね?」


 部長の視線が私に向く。

 私は膝の上で拳を握りしめ、静かに口を開いた。


「……逃げ出したのは事実です。ですが、その『ご馳走』というのが問題でした」


「ほう?」


「私は重度の甲殻類アレルギーです。診断書も会社に提出していますし、彼にも何度も伝えてありました。それなのに、食卓には山盛りのカニが用意されていたんです」


 私の言葉に、会議室の空気がピタリと止まった。

 課長が目を丸くして悠真を見る。


「おい大野。知ってたのか? 彼女のアレルギーのこと」


「ええ、知ってましたよ」


 悠真は悪びれる様子もなく、平然と答えた。

 そのあまりの堂々とした態度に、逆に上司たちが混乱しているのがわかる。


「知っていて……カニを出したのか?」


「ですから! そこが彼女の誤解なんですよ」


 悠真は「やれやれ」といった風に両手を広げ、得意げに語り始めた。


「普通のアレルギーならわかりますよ? でも今回用意したのは、母さんが北海道から取り寄せた朝獲れの超高級カニなんです。鮮度が違います。スーパーの安いカニとはわけが違う」


「……は?」


 人事部長の口から、素っ頓狂な声が漏れる。


「ですから、『新鮮な本物ならアレルギーなんて出ない』んですよ。母さんも姉さんもそう言ってますし、ネットにも書いてあったそうです。それを彼女は、一口も食べずに『殺される』だなんて……。これ、生産者への冒涜ですよね? 作ってくれた母さんへの侮辱ですよ」


 悠真は一気にまくし立てると、「わかっていただけますよね?」と上司たちに同意を求めた。


 ──沈黙。

 痛いほどの沈黙が部屋を支配する。


 最初に口を開いたのは、普段は温厚な課長だった。


「……大野。お前、本気で言ってるのか?」


「え? 何がですか?」


「新鮮ならアレルギーが出ない? そんな馬鹿な話があるわけないだろ!」


 課長の怒鳴り声に、悠真がビクリと肩を震わせた。

 部長も頭を抱え、人事部長に至っては、汚いものを見るような目で悠真を見ている。


「いや、でも母さんが……」


「お前の母さんは医者なのか? 科学者なのか?」


「いえ、専業主婦ですけど……でも、母さんは僕のために……」


 しどろもどろになる悠真に、課長が冷徹なトーンで言い放った。


「いいか、大野。お前が言ってるのはな、『重度の花粉症の人に、山から採ってきたばかりの“新鮮なスギ花粉”なら大丈夫だろ?』って鼻に突っ込んでるのと同じなんだよ!」


 その例えがあまりに的確で、私は思わず顔を上げた。

 悠真はポカンと口を開けている。


「え、いや、それは……花粉とカニは……」


「同じだ! アレルゲンなんだから! 命に関わるアナフィラキシーショックを、精神論で語るな!」


 部長がため息交じりに引き取る。


「大野くん。君のやったことは、ハラスメントを超えて、傷害未遂に近い。もし川島さんが食べていたら、最悪の場合、会社として警察沙汰に対応しなきゃならんところだったんだぞ」


「け、警察……!?」


 ようやく事の重大さに気づいたのか、悠真の顔から血の気が引いていく。

 彼は助けを求めるように私を見た。


「み、美咲……お前からも言ってくれよ。俺は、ただ良かれと思って……」


 私は冷めた目で見つめ返し、用意していた封筒をテーブルに置いた。


「部長、今回の件で精神的なショックを受け、彼と同じ職場で働くことは困難だと判断しました。退職願です」


「待て待て待て!」


 人事部長が慌てて手を振る。


「川島さん、君が辞める必要は全くない! 被害者は君だ。会社としては君を全力で守るし、配置転換が必要なのは君じゃない」


 そして、人事部長は冷ややかな視線を悠真に向けた。


「大野くん。君の処遇については、追って沙汰を出す。君の常識のなさが、会社の信用リスクになりかねないからな。……今は下がっていい。顔も見たくない」


「そ、そんな……部長……」


 悠真はフラフラと立ち上がり、亡霊のように会議室を出て行った。

 去り際、彼は小さく呟いた。


「……でも、母さんが言ってたのに……」


 その言葉を聞いた瞬間、私の中で彼に対する未練は、完全に、一ミリも残らず消滅した。

「新鮮なスギ花粉なら大丈夫だろ?」 課長、ナイス例えです。MVPです。 会社がまともな組織で本当によかった……。


ようやく彼の異常性が公になりましたが、これで終わりではありません。 元凶である「実家のあの人」がまだ残っています。


次話、義母が突撃してきます。 しかも、まさかの「被害者ヅラ」で。 斜め上の言い訳に、美咲の怒りは氷点下へ。


全話投稿済みです。 絶縁へのカウントダウン、第5話へお進みください!

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