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1章7話 男は、とにかく争いを避けたかった(2)

 ノルンの村へは、半日ほどで到着した。

 ヤドとノア、それにゾフも同行してくれた。

 ――同行してくれた、というより、ノアの運搬係だったが。


(なにかこう、僕にも移動手段があればいいのだが……)


 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 ノルンの村の手前でノアとゾフには待機するよう言い、ヤドはノルンの村の裏手側に回った。

 そして、石ころを掴み、少し立派に作られている家に向かって投げた。


「えっ!!」


 何かの作法だろうか?――そう驚いていると、投げた石であろうものが投げ返された。しばらくして、ヤドと同年代と思われる獣人がこちらにやってきた。


「久しぶりだな、ヤド、それにゾフも。みな健在か?しかし、昔のような呼び出され方をされるとは思わなかったぞ!」


「はっはっは!懐かしかっただろう?ほら、正面からだとどうも刺激してしまうだろうから」

 どこか少年のように笑うヤド。


「相変わらずの策士だなー!それはそうと、この方は……?」


「こちらはノア殿。いまそちらとこじれてしまっている件について、相談していてな」


「ノアと申します。お会いできて光栄です」


「魔女の家から来てもらっている。魔女ルナリアのお墨付きだ」


 ヤドの紹介を聞き、なるほど――と品定めするように見やり、


「私はここの元村長、バズという。よろしく頼む」



 ***



 一行は場所を移し、森の中の切り株に座った。


「すまないな、お客人にこんなもてなしをしてしまって」


「私からも非礼を詫びる。すまない」


「いえいえ!お二人とも!気にしないでください!話をしたいといったのは僕の方なんですから」


 頭を下げるナーレ村長とノルン元村長に、思わず恐縮してしまうノア。


「……ここはノア殿の優しさに甘えるとしよう。で、話とは?」


「単刀直入に訊くことを許して欲しいのですが――」


 ノアはバズに、この件のノルン目線での話と、バズ目線での状況を話してもらった。


 要約するとこうだ。

 ノルンの村は最近、人間に襲われた村の難民を受け入れており、人口が増えてしまっていること。その狩場領域のルールを知らない難民狩人が、ナーレの狩場へ度々侵入してしまっていることと、そもそも狩場が少なく、いまのままでは村を維持できないこともあり、黙認してしまっていること。そのことを相談するため、ナーレに使者を送ったが帰ってこず、ナーレから抗議文が届いていることもあり、宣戦布告と受け取ってしまっている、という事だった。


「なるほど……ナーレからの抗議文への返答は?」


「それも、その帰ってきていない使者が持っている」


 そうか――と、ノアは深いため息をする。

 つまり、行き違いなのだ。確かにナーレの狩場に侵入していることはノルンに非がある。しかし難民を受け入れた今、食料確保は重要課題だ。そしてノルンへ来てみて気が付いたが、ノルンは立地上、岩山に村の半分が囲まれている。自然の要塞といえば理にかなった立地だが、ナーレの村は、そこに蓋をするように位置してしまっている。つまり、狩場が拡大すれば、ナーレの狩場を侵食するのは自然のことなのだ。

 ナーレへの使者が帰ってきていないことが気になるが、ふとノアは、ミィが言っていたことを思い出す。


 実は道中、人間のハンター数人に見つかってにゃね――


 もしかしたら、彼らに襲われたのかもしれない。

 憶測の域を出てはいないが、少なくとも、元村長であるバズは、決して争いを望んではいない。


「…………バズさん、この件を僕が村長からお話を聞くことは可能ですか?」


 バズは、ううん――と唸り、腕を組みうつむく。


「私経由だと、かなり難しい。正規のルートでもまず無理だろう。村内はかなりピリついているし、いっそナーレを潰そうという動きもある……」


 確かに、食糧難と立地を考えると、ナーレ潰しを考えても仕方がない。


「そうですか…………息子さんを、なんとか説得も……難しそうですか?」


「あれは人望はあるが、プライドが高く独裁的な面がある。特に先代の私が出て行けば、内容の是非を問わず否定するだろう……」


 ノアは天を仰ぐ。

 状況はかなり把握できた。問題も特定できている。解決策も案がある。なのに、あと一歩のところで、大きな壁にぶつかっている。薄そうで分厚い壁、伸ばせば手が届くのに――このもどかしさが、なんともノアを苛立させる。


 そんななか、ヤドは自信なさそうに手を上げる。


「うちの次女が……助け舟になるやもしれない」



 ***



 今朝にも言っていた話――ヤドの次女は、どうやらノルンに想い人が居て、逢瀬を繰り返しているらしいのだ。相手はわからないが、そこをきっかけに、ノルンの村長まで話を持って行けないか、という、確度の低い提案だった。


 しかし、それに乗るしか方法は無かった。今とれる最善策なのかもしれない。

 早速話をまとめ、ノアたちは早々にナーレの村へ戻ることにした。


 しかし、ナーレの村へ戻らずとも良くなった。


 ヤドの次女マイと、バズの息子――村長ビズの逢瀬に、出くわしてしまったのだ。



 ***



 ノアは、軽く眩暈がした。今起きている問題が多すぎるのだ。


 まずは、争いを避けるための話し合いをするということ。

 これだけで腹いっぱいなのに、その前に、ヤドと次女、バズと息子が、それぞれ逢瀬について釈明しなければならないのだ。

 ましてバズと息子は親子仲険悪。これを解消しなければならないというキツい前菜が添えられた問題フルコース。


 そもそも、この親子仲に入って良いものなのかも、もうノアにはわからなかった。


「父さん……?」「親父……?」

「マイ……」「ビズ……」


 双方、戸惑いのなか膠着する。


 ノアとゾフは、もうただ木のように立ちすくみ、ただ見守ることしかできない。


 もうこの緊張感――


 ノアは胃から酸っぱいものがこみあげてきている。




「お…………」



 長い沈黙を破ろうと声を発したのは、バズだった。


「お前!ヤドの娘をめとるとは、良い目をしているな!!」


 カラ元気で、しかもちょっと早とちりしていたが、勢いで何とかしようという気概を感じた。

 そして、さすが旧友ヤド。そのバズの意図を汲んで、乗っかる。


「マイ!お前もバズの息子を狩るとは、大した女だ!!」


 そう言って二人はお互い、緊張で丸くした目を見つめあい、肩を組んで喜んだ、ふりをした。


「いやめでたい!これは孫も楽しみだな!」相変わらず気の早いバズ。

「隣の村長と結ばれるとは、これは安泰だな!」こちらも気が急いている。


 端から見て、明らかにテンパり、わざとらしく、勢いだけでどうにかしようというのは見え見えだった。

 それでもしかし、こちら側の空気感はまだピシッと冷たく、その異様な光景にも関わらず、握った拳がほどけず、じっとり汗がにじむ。


 と、その異様な二人を、真正面から見ていたビズとマイだったが、しばらくしてスッと肩の力を落とした。


「はぁ……なんかこっちが馬鹿らしくなってくる……親父、ヤドさん、それと後ろの二人も、話を聞いてくれるか。説明したい」




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