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8章4話 男は、分かり合えないのか?

 翌々朝――ノアは二日の眠りから目が覚めた。

 動くたび体の節々が小さな悲鳴を上げるが、頭のほうは異様にはっきりしていた。

 ノアは机の上に置かれた食事を摂る。まだほんのり温かい。きっとダリアが毎食事時に取り換えてくれていたのだろう。温かいスープが心にしみる。


 食事を摂り終え、ノアはまずナイトハルトに、エルノア国の要人を集め緊急議会を開きたい旨を話した。すると既に招集済みだそうで、昼前には議会を開く、とのことだった。


「そうでしたか。ありがとう、ナイトハルトさん。それと……勝手に出て行ってすみませんでした」


「ああ、こうして戻ってきてくれたんだ!私は何も言う事は無いさ!それで旅は……どうだった?」


「そうですね。ルナリアさんの事はしっかり僕の中に受け入れることが出来ました」


「そうか……それは何よりだ……。それで、ノアさん……その……言いにくいんだが……」


 体を洗い、身なりを整えた方が良い、と小声で指摘する。聞こえていたのか、遠くでダリアも何度も頷いている。確かに1か月間野ざらしのままだ。


「すみません、そうしますね……」


 ノアは風呂に入ることにした。



 身ぎれいになったノアは、鏡を覗く。

 普段はしっかり剃っていた髭は、頬から顎にかけてだんだんと濃くなり、顎髭は摘まめるほど伸びていた。


「…………………」


 以前とは全く違う顔つきになったものだな――

 しかし、ノアは気に入った。頬だけ剃り、もみあげとつながった髭は残すことにした。


 ナイトハルトは認めてくれたが、ダリアはとても嫌がった。



 ***



 昼になり、エルノア国主要陣が揃ったところで、議会を始める。


 まずノアは、勝手に国を出て行った謝罪と、その間の出来事を簡潔に説明した。


「それであの人数の獣人を…………」

 ナイトハルトは顎に手をやり俯く。


「ええ。それで急ではあるんですが、その崩壊したヌレイの村を復興するために、ナーレ、ノルン、ビズマの各村から、移住者を募りたいと思います。さらに、再び攻撃を受けぬようミネスの村からは、その移民者に同行する数人の護衛を付けたいと考えています」


 その言葉を聞いて、場は騒然となる。


 移住者は出せるか、護衛を出せるか――それ以前に、それはエルノア国がやることなのか、と。


 ナイトハルトが、その場の意見の代表として発言する。

「ノアさん。助けたい気持ちはわかる。しかし、移住となれば、それは仲間をエルノア国の外に出すということだぞ。国外の事を、国内の人間を削ってまですることだろうか?」


「ヤドさん、バズさん、ビズさん。今の獣人たちの人口はどうですか?」


 ノアに言われ、三人は数を報告し合い、代表してビズが答える。


「ここ1年で近隣獣人の移民も多くあり、数は当初の倍近く増えています。自治自体は問題ないですが、これ以上増えるとなると狩場の拡大をせねばならず、移動も大変になるかと」


「ありがとうございます。やはりそれなら、移住者を募るべきでしょう。男性を多めに20名ほど募れれば理想です」


「いやノアさん!私はエルノアの国民に、一度襲撃を受けている東側に移住させるという危険を冒させるのかと訊いている。ヌレイの村をエルノア国へ編入させるわけでもあるまい」


「ええ、編入は考えていません。それにミネスの村から護衛を出してもらえれば、襲撃の心配も無いでしょう。復興が済んだら戻ってもらい、代わりにオーク族が統べるグランの村に、護衛をお願いするつもりです。そして彼らには同時に、東側の魔族の森に、人間の軍隊を一切入れぬよう、防衛ラインを形成してもらおうと思います」


「なっ…………」

 ナイトハルトは言葉を失う。ノアはどうしてそこまでして東側にこだわっているのか、理解できなかった。


「ノアさん………移住させようとしているのは、エルノアの国民なんだぞ………どうしてそれがわからない……」

 エルノア国の豊かさを捨てさせ、危険を冒させてまで、東側に移住させようとするノアを、ナイトハルトにはやはり、理解できなかった。


 ナイトハルトの、そのこぼれ出たような小さな声を最後に、議会は静まり返った。

 ノアもまた、俯くその顔は苦渋に満ちていた。






 重い静寂の中、採決となる。結論は、エルノア国から移住者と護衛を出す――つまりノアの提案が通る形となった。しかしそれは、納得の上の賛成というよりは、ノアがそう言うのならそうなのだろう、という判断の移譲に近いものだった。


 そしてナイトハルトは、賛否どちらにも手を挙げる事は無かった。




 皆が退席する中、ナイトハルトはそのまま会議室に残っていた。

 クリスが、そっとナイトハルトに寄り添う。


「クリス……君は反対したのだな…………」


「ええ。判断は非常に迷いましたが、それ以上に、ノア様がどうも、正気ではないような気がして……」


「クリスも、感じたか…………。正気ではあると思う。しかし、なんというか…………」


 迫力、威厳、畏怖――いやまたはもっと別の、有無を言わせない無言の説得力が、今のノアにはあった。


「ノアさんはこの国の王だ。そしてそれ以上に友でもある。しかし………そんな彼を私は……怖いと感じてしまっている」

 信頼した王を、愛した友を、このように感じる日が来るとは、思ってもいなかった。

 ナイトハルトは深くうなだれた――



 ***



 早速、ヌレイの村への移住と復興が計画された。

 獣人移住者が集まるまで数日を要したが、なんとかノアの希望した人数に到達することが出来た。半数はエルノア国へ移住して来た者で占め、残りは野心のある若者という構成だ。


 ノアはしばらくナイトハルトに任せきりだった執務を引き受け、没頭している。


 内政は全く問題が無い。さすがナイトハルトである。


 問題は国外の情勢だ。


 いくつか届いていたルーデン公国からの情報を確認する。


 やはりヌレイの村への襲撃は、フェルニス王国主導の元ファシルファ王国兵によるもののようだ。出兵の兆し、という連絡に続き、キ・エラ連邦を越え森に入った通達が二度にわたって届いていた。


 そしてキ・エラ連邦への侵攻。これも二週間少し前にその兆しの通達があったようだ。そしてその一週間後には実際にキ・エラ連邦へ出兵した、とも。


 そして最新の通達――

 ルタ・スクリット共和国において、宗教分断による内乱の兆しあり。

 同時に、元ファシルファ王国であるフェルニス王国ファシルファ領においても、フェルニス王国の圧政を原因とする、元ファシルファ国民とファシルファ残兵によるクーデターが起こりえる、と。


 ノアはため息をつく。


 国が大きくなることも、大きくしようとすることも、否定はしない。侵攻だって、必ず大義名分はあるだろう。

 しかし、民を疲弊させ、民を騙してまで無理に強大化することを、快くは思えない。

 実際それで結局はハイデンが廃村間際と化し、元々のフェルニス王国内だって混乱しているのを、ノアは見てきた。国王含め貴族たち権力者は、新天地であるヒルダンテ公国、そしてファシルファ王国に移り、そこにあった富を貪っているようにさえ見える。他者から何かを奪えば、必ずそれを奪い戻そうという揺り戻しが起こる。内乱やクーデターは、それを顕著に表している。


 いずれこの波紋は、全世界を巻き込むだろう。


 そうノアは予見していた。


 しかしそれでも、あるいは――


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