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1章5話 獣人族は、助けを借りたかった

 ゾフたちが帰ったあと、晩飯を二人で食べながら、ノアはぼんやり考えていた。


 ミィとの結婚、ではなく、その前にゾフから話された、ミィたちがここへ来た理由――どうやら、ナーレの村は今、少し離れたところにある同じく獣人の村ノルンと、狩場の権利で大きく揉めているようで、このままこじれ続ければ、戦いになる可能性もありうる、と。しかし、戦いとなってしまえば、村の大きさからしてナーレには勝ち目は無く、何か策は無いか、エルフの英知をお借りしたかった、ということだった。


「なんだ、さっきの話、気になるのか?」


「ええまぁ……でも、向こうが相談したかったのはルナリアさんなんですよ……それをあんな言い方で断るなんて」


 知らん、自分たちでどうにかしろ――とルナリアは一蹴。仕方なく、ノアが間を取り持って、後日また来てほしいとお願いしたのだった。


「知らん。他人の面倒ごとに首を突っ込む趣味は無い。まぁ君にとっては、嫁の実家の話なわけだから、他人事とはいかなくなったがな」


「嫁って……」


「人間の中には、ああいう亜人を好んで奴隷にする数奇な奴もいると聞くが……まさか君がねぇ」


「なっ……!やめて下さいよ!そんなんじゃないですから!」


「でも、くっつかれてまんざらじゃなかっただろうに」


「そ、それは……」


「ふん……まぁいい、それよりもナーレ村の話だが」


 少し機嫌を損ねたようだったが、話は本題に戻った。


「単純に、狩場を変えるか、明確な線引きをすれば済む話のように聞こえたんですけどね……」


「それが出来ない理由があるのでは、と?」


「はい……でもそれは多分、現地へ行ったりしないと、わからない気がします」


「行けばいいではないか。嫁の実家」


 今日のルナリアさんはいじってくるなぁ――


「そのほうが話は早いんですけど……あまり面倒なことは……」


「…………前にも思ったが、君は人助けに首を突っ込む割に、自分では動きたがらない節があるな」


 確かにそうだった。ポーション増産の件も、結局は自分では動かず、ルークに任せようとしている。

 ノアは少し考える。

 面倒な事には身を投じたくはない。しかし人は助けたい。

 なぜ面倒ごとを避けたいのか?――それはひっそりと静かに暮らしたいからだ。

 なぜひっそりと暮らしたいのか?――その答えは出なかった。

 強いて言えば、そうしたいから。


「そう……ですね。どうしてでしょうね」


「まぁ、その『消えた記憶』とやらに答えがあるのかもな。しかしこの件は……ナーレに行ってみてはどうだ?なにかと勉強にもなるだろう。嫁の実家となれば、後見人の私も安心だ」


 いつからルナリアさんは僕の保護者になったのだろう――とノアは思ったが、この執拗ないじり……もしや


「ルナリアさん、もしかして嫉妬してます?」


「なっ!ば、バカなことを言うな。そんなはずないだろう」


 ノアが思っているよりも、ルナリアは好意を持ってくれていたようだ。それはなんだかこそばゆく、とても嬉しかった。



 ***



 後日、再びゾフとミィがやってきた。


「ダーリン!会いたかったにゃ!」

 会うや否や、ミィはノアに抱き着いてきた。猫耳だが、なんだか大型犬のような懐きようだ。


「ははは……ミィも元気そうで。あとダーリンはやめて。ゾフさんもお久しぶりです」


「おう!元気してたか!それで、例の件、どうだろう?」


 少し打ち解けられているのだろうか、ゾフの口調は少しフランクになっていた。その小さな変化も、ノアには嬉しかった。


「結婚を認めてやる」

 遠くからルナリアが割って入る。もちろん冗談だ――そうあってほしい。


「え!やったにゃ!ノアを連れて帰るにゃ!」


「いえいえ!アレはルナリアさんの冗談ですよ!」


 しゅん、と耳が垂れるミィとゾフ――いや貴方もですか!?


「それで本題ですが、まずはこのまま、ナーレの村へ僕が同行しようと思います。そこで色々とお話を伺って、微力ながら僕がお力添えしたいと考えております」


「おおう!それは助かる!で、魔女さんは……?」


「…………先日の通り、行かん、知らんの一点張りで」


「そうか…………ま、でもノアさんが話を聞いてくれるなら、頼もしいぜ!」


 ドン、と背中をたたいてくれてはいるが、本音はエルフの英知を戴きたかったのだろうことは、ノアも気づいている。失敗は許されない。しっかり解決せねば、と気合が入る。


「それじゃ、早速だが出発するか!」



 ***



 魔女の家を出ると、森の入り口に別の獣人が2人、待機していた。

 訊くと、流石に森の中で単独行動はせず、近所でも最低三人組で行動するそうだ。

 彼らの村――ナーレまでは、人間の脚で3日、獣人なら1日あればつくそうだ。


「へぇっ……そうっ……なんですっ……ね……っ」


 そんな話を、ノアはゾフの背中の上で聞いていた。

 森に入るなり、移動に時間がかかるからと、ゾフに抱きかかえられたが、流石に恥ずかしいと、背負ってもらうことになったのだ。


「重くっ……ないですっ……か??」


「いやぁ、このくらい平気ですよ!ただデカイだけでは無いですからね!」


 はっはっは――と豪快に笑うゾフだが、それでも人間が走るよりは速い速度で移動している。確かに、行動を共にしている獣人二人はノアよりも少し小柄で、ゾフの大きさが際立って見えた。




 そのまま日が暮れるまで走って、夜。

 適当なところを見つけ、野営となった。

 夜の森は、星空が木々に隠れて少なく、初めての夜よりも暗かった。


「すみません、ゾフさん……疲れたでしょう」


 ゾフはノアを下ろし、大きく伸びをしていた。


「いえ、と言いたいところですが、流石に少し疲れましたな!いやぁ歳には勝てんな!」


 訊くところによると、「仲間三人担いで3日走り続けた」だの「丸太を5本引きずって山を登った」だの、本当かどうかも分からない昔話が出たくらいだ。さぞかし体力には自信があったのだろう。


 焚火の用意をし、各々携帯食料を口にしながら、談笑する。


「そういえば、ノアの旦那はいつから魔女の家に?」

 アル――と名乗る、森の前で待機していた片方が、そうノアに訊いた。


「そうですね……割とここ最近ですよ?」

 半月ほど、と答えようとしたが、この世界の暦が判らなかったので、ニュアンスで答えた。


「で、どうやってお嬢を射止めたんですかい?」

 エル――と名乗る、若そうなもう片方が、くいくいと肘で小突きながらそう訊いてくる。


「射止めた……というか、なんかこう、一方的に……」


「そんなこと無いにゃ!目と目が合った時から、自然な流れにゃ!」

 ミィが背中に覆いかぶさり、ノアの話を遮る。


「本当かよー!お嬢はお転婆だからなー!」

 うんうん、と他二人も同意する。


「もう少しお嬢様らしくしてもらわんと、長も心配でおちおち寝てもいられんわ」


 お嬢様――?


 そういうゾフに、ノアはそれぞれの身分をそれとなく聞いた。


「俺は村長の補佐役、村同士や外部とのやり取りや、戦いがあれば指揮をする。アルとエルは俺の部下。で――」


 ミィ。村長の3人娘の末っ子であった。


「え、うそ、めっちゃお嬢様じゃん…………」


「でしょう!ほらミィ!これが素直な反応ってやつだ!」

 けらけらと、エルはミィを指さして笑う。馬鹿にされて、ミィは喉を唸らせていた。



 大層なメンバーに囲まれたものだな――と、ノアは手土産一つ持っていないことを少し恥ずかしく思った。


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