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6章5話 元都市国家は、かつての賑わいを取り戻した

 ファシルファ王国陥落から半年が経過した。

 フェルニス王国領と化したファシルファは、フェルニス王国から移住者が殺到し、元ファシルファ王国民との衝突も少なくないようだった。

 そして、その移住者を駆使して、シルド神教会の大聖堂を建設中。どうやらシルドニア皇国はファシルファ領へと移国するようだ。ノアもまさか国ごと引っ越すとは思ってもみなかった。


 エルノア国内といえば、水路が完成した。魔動モーターを駆使して、水源豊かな国へと生まれ変わった。作物の水やりも、雨以外にこの水路から散布しているせいか、品質や収穫量があがり、今では食料自給率150%目前のところまで来ている。

 魔動モーターはナイトハルトの提案で、農機へと形を変えた。小型の耕運機だ。収穫量が上がったのはこのおかげでもある。農作業が楽になったことで、農民の笑顔が絶えない。


 そんな中、ダリアからある情報が入った。


 以前、フェルニス王国に占領され、支配下となっていたハイデンが、現在廃街寸前だというのだ。


 ハイデンが侵攻を受けた際に、前身のエルノア国へ最終的にはハイデンの1/4ほどの移民を受け入れたが、その後のエルノア国侵攻があり、さらにエルノア国へ人口が流出。そしてそもそも近隣村や諸外国との交易で栄えた街だったが、フェルニス王国がエルノア国との交易を禁止、さらに近隣国もフェルニス王国の侵攻により支配下となった結果、ハイデンは交易都市としての意味を失い、人口流出に歯止めが効かない状況だったようだ。戦争によりハイデンの若い国民が駆り出されたのも痛手だった。


 これらにより、結果としてハイデンにはもう、街と呼べるほど人がおらず、また新任の領主もハイデンを離れてしまったので、事実上孤立した街となってしまっている、とのことだった。


 ノアは静かな憤りを感じる。罪の無い聖職者や住人を異端と切り捨ててまで奪った街を、このように雑に扱い、最終的には捨て置く真似をしていることに。


「ノアさん……その……私情が無いわけではないのですが……ハイデンを、エルノア国に編入させるというのは、どうでしょうか……」

 ダリアはさも申し訳なさそうに、モジモジしながら言った。


「そうですね…………そうしたいのは山々ですが、現在はフェルニス王国領です。かなり危険が伴いそうですね……」


 ノアはルーデン公国へ一通、エルノア国がハイデンをもらい受けることについての意見が欲しい旨の手紙を送り、後日、定例議会において皆で会話することにした。



 ***



 ルタといい、どうして他国の国王はこうも身が軽いのだろうか?

 エルノア国の定例議会に、なんとルーデン公国国王、フレデリカ公女陛下も参席したのだ。


「あの、わざわざお越しいただかなくても……」


「あら、邪魔だったかしら?」


「いえいえそのようなことは……ご参加ありがとうございます……」


 同じ国王ではあるが、ノアはフレデリカに頭が上がらない。フレデリカはそれをわかってておちょくっているのだが、せめてみんなの前ではやめてほしいものである。


「……さて、今日の議題は、ハイデンをエルノア国へ編入させるべきか、ですが……皆さんの意見をください」

 ノアはエルノア国の要人たちに意見を求める。


「ノアさんはハイデンに思い入れがあると思うが、よもや私情でこのような判断をしているとは私は思えない。がしかし、危険すぎやしないか?フェルニス王国領だぞ?」


 ナイトハルトの意見はもっともだった。そして敢えて皆が感じているだろうノアの思い入れ――主に殉職した聖職者ロイズ神父について敢えて触れ、その私情的判断を否定してくれたことは、彼の優しさだった。

 そんなナイトハルトの意見に、珍しくフレデリカから発言が出る。


「フェルニス王国の現在の内情だけれど、私の知る限りでは、ハイデンほど顕著ではないにしろ、若者がかなりの数ファシルファ領へ移り住んでいるようね。軍部も国の中枢もファシルファへ移ったわ。つまり西側はもぬけの殻状態。私ならこの状況でハイデンを取られても、取り返す気にはならないわ」


「それは、安全ということですか?」

 ナイトハルトがそう訊き返す。


「安全とは言い切れないわ。でも一度は戦って負けた相手に、背を見せているのよ?それがどういう意味か分かるかしら?」

 フレデリカはナイトハルトを試すような言い方をする。そしてこれはノアも同時に試されていると感じた。


「………速やかに編入させ、防衛の手立てがあれば、かなりの確率で安全は保障される……」


「ご名答。唯一注意すべきは先で使われた魔道具……でもそれを持ち込んでくる事態になったら、そもそもエルノア国自体が危険ね。ハイデンどころではないわ」


「つまり、うちにとって、ハイデンを取る取らないはリスクにならない……」


「話が早くて助かるわ。ナイトハルトさん。あなた成長したわね。ノアさんのお陰かしらね」

 うふふふ、とフレデリカは上品に笑った。何がおかしいのかまではノアにはわからなかったが。


「……わかりました。僕はハイデンを編入させたいと思います。もちろんハイデンの住人に決定権がありますが……。皆さんはこれで異論無いですか?」


 反対意見は出ず、一同賛成という決で、ハイデンのエルノア国編入に向けて動き出すこととなった。



 ***



 まずは外交大臣であるダリア直々に、故郷であるハイデンへ出向いてもらい、住人へ説明と賛否の決を採ってもらうことにした。


 回答に数日間を要したが、ほぼ満場一致でエルノア国への編入を希望した、とのことだった。


「それでダリアさん、ハイデンの様子はどうでしたか?」

 ダリアがハイデンを離れて2年以上が経過している。ノアは街の様子を訊いた。


「そうですね……街並みは、変わらないと言えば変わっていませんでしたわ。良くも悪くもですが……。真シルド正教会は解体されていましたが、シルド神教会のほうは……荒れ放題です。実家もルーク商会の倉庫も空き家のままで……まるで抜け殻のような街でしたわ……」

 ダリアはその有様に、感傷と喪失感が入り混じったような感想を述べた。


「そうでしたか……すみません、辛かったでしょうに……」


「いえ、でもこれであの頃のハイデンを取り戻せるかもしれませんから。頑張りますわよ!」



 ***



 ハイデンの防衛は、フェルニス王国との間に流れる大きな川を利用することにした。この川は幾つかの村を経由し、ルーデン南まで流れている。この川にかかる橋を作り替え、魔動モーターによる跳ね上げ式の橋――跳開橋とした。このために滑車クレーンも作り、オーク族とマイルス組による建設は大いに捗った。これで有事の際は橋を跳ね上げることで侵攻を防げる。


 橋の建設と同時進行でハイデンへの移住者も募る。フェルニス王国との交易は途絶えたままなので、交易都市としては機能しづらい立地となってしまったが、それでも移住したいと申し出る元ハイデン民が多く、なんとか街として機能出来るくらいには人口は戻りそうだった。


 そしてそこの街長を誰にするかという話――。


 ノアはダリアを外交大臣からハイデン街長へ推薦したのだが、本人の意向と提案があり、それを定例議会で話し合った結果、ダリアの提案通り、街長をハイリッヒに、補佐としてカシッドに任せることになった。


 ダリアは、

「ハイリッヒさんは国を失って悲しみや迷いの中にいますが、きっとそれは街を治めることで解消されるように感じます。カシッドさんとも意見が一致していましたし」

 とのことだった。カシッドはルタ・スクリット共和国の次期国王なので要職に付かせられないが、補佐なら勉強にもなるのでは、とも言っていた。本当にダリアは人をよく見ている。


 諸外国には、ハイデンの強い意向がありエルノア国へ編入となった、と通達した。

 少しして、元ハイデン領主たちがやってきたようだが、橋を建設するオークたちの姿を見て引き返したようだった。その後、抗議文は届くものの、特に音沙汰がないところを見ると、フェルニス王国も致し方なく受け入れたのだろう。


 これで、かつてのハイデンは息を吹き返し、エルノア国に仲間入りすることになった。

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