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6章3話 一同は、魔動モーターを完成させた。が……

 あくまでこれはノアの仮説にすぎないが――


 シルドニア皇国およびフェルニス王国は、その高濃度の魔素によって住みにくい環境にあり、それで国を別の場所に移すためにエルデ山脈の向こう側――ファシルファ王国へ、侵攻を繰り返している可能性が浮上した。


 そして、魔素に対してここまでの知識がシルドニア皇国に無いとしたら、魔素が充満しているのは魔族の侵攻と捉えてもおかしくはない。そうなれば、エルノア国に対しての印象は、魔族を使って人間領を征服しようと企んでいるように見えなくもない。

 もしそうなら、またはその勘違いに今後至ってしまったら、事態はノアの思っているよりも複雑になりそうだった。


 ノアはその内容をルーデン公国国王フレデリカへ手紙で伝えることにした。本音を言えば、直接会って話がしたいところだが、戦火が引いたばかりのエルノア国をしばらく離れるような決断は出来なかった。



 ***



 3カ月に1度開いている定例会が開催された。

 主に今回のフェルニス王国侵攻についての報告と、その侵攻理由についての仮説を協議する。


「…………と僕は考えています。つまり、現段階ではフェルニス王国は、ファシルファ王国への侵攻が最優先になるのでは、と。それも、この短期間で2度も侵攻しているところを見ると、3度目もそう遠くないかと」


「しかし、そんなすぐに兵を補充出来やしないだろう?すでに正規軍も出しての敗退だ。寄せ集めの兵で落とせるとは思えないが……」


 確かにナイトハルトの言う通りだった。もし、エルノア国への侵攻に使った兵力は、たかが小国と侮り抑えたのではなく、あの数が限界なのであったら、尚のことだ。


「そうですね……ただ、これは仮説にもならない想像の話ですが、もしシルドニア皇国が強力な魔法兵器を開発していたら話は変わります」

 想像の話、としたが、シルドニア皇国付近の魔素濃度が濃いことを考えると、魔法兵器開発のための試作ゆえであるなら、充分辻褄が合うのだ。


「それは…………怖いな。こちらにも矛先が向きかねないだけに……」


「ええ。既にこの話はハイリッヒさん経由でファシルファ王国へ手紙を出しています。そして、これはエルノア国が助けられない話です……せめてこの仮説によって充分な準備が出来ることを祈りましょう」


「こちらの準備はどうする?オーク族としては、派遣を今のまま継続しても問題ないが」


「ありがとうございます、ネスさん。そうですね……お願いしたいのですが、長引きそうですので、コルダ村に兵舎を立てましょう。急だったとはいえ、このまま納屋で寝泊りさせるのも気が引けます」


「お気遣いありがとう!なら堀も作り終える頃だ、次は兵舎を作るとしよう」


「マイルス組にも依頼しておきやすぜ!ネスの旦那!」

 コルダ村の村長ジェイクも頼もしい提案をしてくれる。


「あ、あの、威圧してもアレなんで、控えめの兵舎……見た目宿舎くらいでお願いしますね!」



 ***



 フェルニス王国のエルノア国への侵攻が失敗してから、およそ一か月が経った。

 一度故郷に帰った捕虜たちが、ポツポツとエルノア国へ入り、マギナが一層活気づいていく。

 よく見ると、見ない顔もちらほら。聞けば、捕虜たちが故郷で顛末を話した結果、エルノア国に賛同し移住してきた同郷だそうだ。


 一体どれくらいの移住者がやってくるかノアにもわからないが、もう慣れた話だった。


 そしてさらに月日は経ち、技術開発会議の3回目が開催された。


 今回も数日間を予定していた。内容はドワーフ鍛冶師のドレイクに頼んでおいたコイル芯を使った魔動モーターの試作だ。


「おおノアよ!よくぞフェルニスの侵攻を阻止したな!無事で何よりだ!」

 ルタ・スクリット共和国の国王ルタ4世がそうノアを激励する。


「これも禁書のお陰ですよ……もしよければ、この技術を持ち帰って役立てて下さい!」


「おお!それはありがたい!防衛の要として使わせてもらうぞ!」


 ルタ・スクリット共和国も軍事力のほぼない国だ。それに既に水路が走っている。きっと役に立つだろう。


 魔動モーターの試作は、再び地味な作業となった。ドレイクに頼んだいくつかのコイル芯の試作品に、銅線を巻き付けては動作確認、巻き付けては動作確認――1日では思うような成果は出なかった。


 しかし2日目――。


「おお!ノアよ……回っている!回っているぞ!」

「あぁ……とうとう動いた……ノアさん、これは成功でいいんだよな?」

「ほほう……これが魔動モーター……すごいな、ノア」


「ええ……皆さん……お疲れさまでした、本当に……」


 努力と根性の甲斐があって、魔動モーターは完成した。低回転だがトルクは高そうな、立派な魔動モーターが――。


 一同はその場にへたり込む。ナイトハルトなんかは、少し涙ぐんでいるほどだ。


「さて、今日はここまでにしましょう!僕は試作結果をまとめて、量産できるように設計図を作ります。ルタさんには、その設計図と実際に作った小型のモーターを渡します。自国で必要な数作って活用してください!」


「うむ!ありがとうノアよ!これで双方、さらに豊かになることを祈る!」



 ***


 そしてノアは執務室にて、魔動モーターの設計図と、ルタ用にこの魔動モーターで出来ることを簡単に記した。

 車輪や滑車を回す、川や風でモーターを回しその電気を別のモーターの動力にする、油圧機構による大きな動力をモーターから得る方法――書いているノアもワクワクするほど、この魔動モーターの恩恵は大きい。


 エルノア国も、まずは戦時中に作った堀を活用し、水路を作ろうと考えていた。この魔動モーターはきっと水路へ水を供給するのに活躍してくれるだろう。あとは麦の製粉機や滑車クレーンなんかもあると便利だろう。できれば油圧ショベルもあれば、開拓に革命的な恩恵をえられそうだ。


 翌日、ノアはドレイクの元へ出向き、魔動モーターをノルンの村の獣人たちと協力して制作できるよう、仕組みの解説をした。材料や技術の全てが、ここノルンの村で賄えるからだ。

 ドレイクも弟子のベゼルも目を丸くして聞いていたが、最後には職人魂に火が付いたのか、目を爛々と輝かせて作業に取り掛かっていた。


 1か月後、ドレイクから魔女の家に魔動モーターが大小3つずつ納品された。始動させてみると、それぞれトルクやスピードに明確な違いがあった。精度に差があったのだろうか――そうノアが訝しんでいると、一通の手紙が出てきた。その同封されていた手紙を読むと、どうやらドレイクはさらに改良を重ねたらしく、この6つのモーターはその試作品のようだ。


「ほんとドレイクさんは……」


 彼はモノづくりとなると、いつもノアの想像を軽く超えてくれる。頼もしい職人だ。


 早速ノアが水路の建設に向かおうとしたその時、行商人を仕切る外交大臣ダリアから連絡が入った。


「ノアさん!!落ち着いて聞いて下さい!いいですか!落ち着いて!」

 むしろダリアが落ち着け、と言いたくなるノアだったが、血相を変えた彼女にそう言えるはずもなく、ダリアは話を続けた。


「ファシルファ王国が……陥落したとのことですわ!!」


 え?ファシルファ王国が――?


「ちょっと待ってください!3度目の侵攻があったなんて、ルーデンからは何も……」


「ええ、ルーデンから侵攻の兆しがある旨の連絡は、行商人から来た陥落連絡とほぼ同時でしたわ……つまり、かなり少人数で秘密裏に攻めたのでしょう。そして即日陥落したとしか……」


「そんなバカな……即日陥落?ファシルファはそこまで弱体化を……?」

 いや違う。これはノアの仮説が正しかったのかもしれない。シルドニア皇国は強力な魔法兵器を開発していた。そしてそれを使ってファシルファ王国をその日のうちに陥落させた――最悪のシナリオだった。


「…………わかりました。連絡ありがとうダリアさん。このことはハイリッヒ君には?

 ハイリッヒはファシルファ王国の第3王子だ。故郷を、家族を失ったとなると、16歳そこそこの青年には耐え難いことだろう。


「いえ、まだハイリッヒ君には伝えていませんわ……」


「わかりました。これは僕の方から伝えます」


 ノアはハイリッヒのいる執務室に戻る。彼は無邪気にも魔動モーターの試作品を興味深そうに眺めていた。


「ハイリッヒ王子…………その……大変言いにくいことなんですが…………」


「どうしたんですノアさん?変にかしこまって……」


 ノアはハイリッヒに歩み寄り、彼の肩に手を置いて、ゆっくり、そしてはっきりと伝えた。


「ファシルファ王国が、陥落した」


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