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6章1話 国は、他国からとうとう侵攻を受けた

 ――フェルニス王国がエルノア国に侵攻する兆しあり。


 早急に、全村へ通達を送り議会は開かれた。


「まず、ジェイクさん。コルダ村からみて侵攻の兆しはありましたか?」

 ノアは、今やフェルニス王国の手に落ちたハイデンから最も近い、コルダ村の村長ジェイクに話を訊く。


「ここに徴集の知らせを受けた後ですが、怪し気な人影を見たと農民から報告がありやした。武装していたわけじゃなかったが、馬に乗った数人、とのことです」


 馬に乗った数人――きっと斥候だろう。


「これは思っていたよりも急いで対策を取らねばなりませんね……。ネスさん。労働力として、今コルダ村に滞在している方以外に、追加で5名お借りできますか?」

 ノアはオーク族村長ネスに依頼する。


「かまわんが……戦闘員ではなく、か?」


「戦闘の可能性も否定できないので、準備はしておいてほしいのですが、まずは労働力としてです」


 ノアは以前より考えていた計画を話した。


 まず、コルダ村にある国境沿いに広く浅い堀を作る。そこにエルデ山脈から流れている川をひきこみ、水を流す。そしてその川に電気魔道具を設置し、防衛時に電気を流す。この川を越えている最中の兵士は感電し、引き返す。というものだ。


「感電はきっとフェルニス王国兵士にとっては初体験でしょう。これを川を介した雷魔法と悟られぬよう、これが神の御業だ!なんて吹聴すれば、きっと二の足を踏むはずです」


「ノア殿。その雷魔法は安全なのか?魔族でも一部の者しか使えんし、そもそも狙って打つには技術がいる」

 獣人族のバズがそう疑問をノアにぶつける。


「それがですねバズさん……丁度素晴らしい魔道具が出来たばかりなんですよ」

 ノアは誇らしげに、先日開発した電気の魔道具を披露する。


「これはナイトハルトさんと開発した魔道具です。電気……いや、雷の強さや放つ場所を制御できます。ナイトハルトさん、これにダイヤルを組み込んで、強さの調節は可能ですか?」


「ああ、問題ない……がしかし……」

 ナイトハルトは、少し訝しげに何かを言いかけ、やめる。


「水と鉄は電気をよく通します。兵士にはうってつけでしょう。さらに、強さを調節すれば、殺してしまうリスクはかなり低い。酷くて失神か火傷か……もしその場で動けず、撤退する兵士に置き去りにされているようなら、治療してあげてください。コルダ村は戦闘の最前線なので、出来る限りポーションを配備します」


 それを聞き、ナイトハルトは胸を撫でおろした。



 ***



 早速、ミネスの村から20人ものオークの作業員がやってきた。相変わらずネスはノアの注文より多く人をよこす。そしてさらに相変わらず、ネスも同行している。

 ネス曰く、多いことは良い事だ!――だそうだ。ありがたい限りだった。


 その甲斐があり、5日ほどでコルダ村国境付近の堀は、ニース村付近を流れる川へ繋げることができた。これでフェルニス王国軍は、川を避けてエルノア国に入るにはニース村まで大きく迂回することになる。人の脚で3日のロスだ。

 もし川を避けてエルノア国に攻め入った場合、標的になるのは首都マギナ。ここも防衛線を張りたいところだが、同じように堀を作るには少し水源が遠い。ゆくゆくは農業用水として活用できるので、ぜひマギナまで堀を作りたいところなのだが――。


 問題はニース村だった。王国軍が迂回した場合、侵攻拠点として襲われかねない。ニース村はエルノア国編入を断っている村であるし、断った理由も、平和を脅かしたくない、というものだ。村長のガイエスには巻き込むかもしれない旨と、万が一の時はオーク族を派遣することを伝えることにしたが、出来る限り迷惑が掛からないことを祈るのみだった。


 後日、ルーデン公国から援軍提供の打診があったが、ノアはとりあえず今回は断ることにした。防衛線も張れているし、強力なオーク軍もいる。自国の防衛は出来る状況にあると感じているし、例え同盟軍でも簡単に命を借りるわけにはいかなかったからだ。



 ***



 マギナ国境付近の堀を作り始めた頃、とうとうフェルニス軍が侵攻してきた――。


 報告では数は30人程度。歩兵は20程度、弓兵が10とのことだった。思っていたよりも大分少ない。きっと速攻をかけ一気にコルダ村を落とす計画なのだろう。たかが200人程度の村だ――そう高を括ったのが見て取れる。


「歩兵が大方堀に入ったら合図を送ります。それで一斉に魔道具を起動してください」

 ノアはコルダ村の屈強な鉱夫たちにそう伝える。


「ん?あれは…………皆さん!すみません!魔道具のダイアルを3から5に変更してください!」

 ノアは近づいてくる兵士を見て、慌てて指示を出す。

 兵士は、鉄ではなく革の鎧を着ていたのだ。革は電気の伝導性があまり良くない。濡れているとはいえ、鉄の鎧を想定しダイアルを設定していたので、効かない可能性があったのだ。


「皆さん!いいですか!………………今です!!!」


 鉱夫たちが慌ててダイヤルを直し終えたすぐ、ノアからの合図が入る。


 特に音は出ない。やや離れた物見やぐらから小さく見えている堀。そこを通る兵士の脚は――止まっていた。

 少し経ち、弓兵に抱えられるようにして堀を抜け出す兵士や、自力で這いつくばって堀を出る兵士が見える。

 そしてしばらく膠着したあと、兵は撤退していった。


「国王……どんな具合ですかい?」


「…………やった………やりましたよ皆さん……」

 ノアは何度も確かめるように堀を見やる。しかしこちらに向かっている者はいない。


「やりました!皆さん!兵が引いていきました!!」


 おおおお!!!!――


 勝どきのように、全員が雄叫びを挙げる。それはきっと撤退した兵たちにも聞こえているのではと思えるほど、大きかった、


「さぁ皆さん、堀で倒れている兵を捕虜としますので、ここまで連れてきてください」


 ノアは目視できている残った兵士数人を救うよう、指示を出した。



 ***



 捕虜として捕まえたのは5人。全員が少しやつれた壮年の男性だった。


 ノアはその捕虜たちを前にして自己紹介をする。

「初めまして。私はエルノア国王、ノアです。まずは安心してほしいのですが、我々はあなた方に危害を加えるつもりはありません。投降してくれれば、戦時中の衣食住は保証します」


「こ、殺さないのか?」


「殺してほしいのなら、そうしますが……」

 ノアは少し悪い笑みを浮かべ、悪い冗談を言う。優しい言葉をかけた後だ。少し恐怖心も与えた方が舐められないだろう。


「ああ、いっそ殺してくれ……俺らはフェルニスの農民だ。帰っても何もねぇ」


「………それは、どういうことですか?」


「フェルニスは戦争続きだ……若いもんは領主様に連れられてみんな戦争にいっちまう。税もどんどん高くなる。麦を作っても作っても、俺らの腹には入らねぇ……」


「そんな…………フェルニス王国は豊かな国だと……」


「それは戦争前までの話さ…………それでもまぁ、生活は苦しかったがね……領主様には税を治め、教会にも献金を捧げにゃならん……」


 献金――そんな生活が苦しい者たちまでシルド神教会は取っているのか。ノアは憤りを感じた。


「だからフェルニスに戻るくらいなら死んだ方が楽だ……家族には申し訳ないが……」


「分かりました。ここにいる方で、フェルニスに戻りたい方はいますか?」


「…………戻りたくはねぇが……俺はハイデンに家族を残してる……」


「わかりました。皆さんの家族も含めて、エルノア王国へ難民として受け入れます。体が回復するまでは捕虜として扱いますが、帰れるようになったら一度故郷へ戻り、ここへ逃げてきてください。エルノア国の風土を受け入れてくれるなら、だれでも歓迎しますよ」


「エルノアは……豊かかい?」


 その捕虜の問いに、コルダ村の鉱夫が答えた。


「ああ、豊かだ!この国王のお陰でな!」


 ――捕虜たちは跪き、ノア国王に頭を垂れて礼を言った。


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