5章10話 一同は、魔動モーターの試作を繰り返した
数週間後、第2回目の技術開発会議が開かれた。
今回は、報告する事や試したいことが多かったので、数日間の日程を確保した。
「まず初めに、ルタ国王から借りた禁書についてお話します……が、これはくれぐれも内密にお願いします。話の出所が禁書なのと、内容が世界レベルでヤバイので……」
ここにいるルナリアとナイトハルトは内容を知っているが、初耳のルタは固唾を飲んだ。
「まず、それに書かれていたのは…………」
ノアはある程度かいつまんで話す。元素周期表と魔法の対応関係は特にベースの知識が必要なのと、広く伝わり悪用されないようにするために賢者が隠匿した可能性を考えると、この詳細はノアをルナリアに留めた方がいいと、ルナリアとの相談で決めた。
「…………ということでした。ここでは、概ねの内容と、これが世界に広まる危険性を理解してもらえればと」
危険性とは、これが大量に、そして効率的に人を殺す道具になりえる点だ。そして、魔石を体内に保有している魔獣の乱獲は、エルノア国民である魔族の生活に影響を及ぼしかねない。さらには、さらに大きな魔石を体内に持つ魔族の狩猟、なんてものが横行してしまえば、エルノア国の掲げる自由と平等に反してしまう。
「了解した。我は聞かなかったことにするぞ。これはきっと、この世界の住人が聞いていい話ではないのだろう」
知ってしまえば――ルタはその怖さを、自分の国の持つ身分階級制度になぞらえて捉えているのだろう。
「ありがとうございます。しかし、これから開発しようとしている技術の中には、この魔法知識を前提として進めることになります。それはきっと、今後の世界でオーパーツ化してしまうかもしれない。しかしそれでも、あくまで異世界人でこの禁書を読み解けた僕が提供できる富として、平和的に利用してもらいたいのです」
「ああ、わかっている。ノアはそういう人だ!だから我も信用しているんだ。さあ!前説はこれくらいでいいだろう?早速次の話をしようじゃないか!もうすでに何か作ったのだろう?」
ルタはノアの手にある布で覆われた何かを見て、察していた。
「ルタさんは鋭いですね……じゃあ、もったいぶらずお見せしましょう!」
ノアは、ナイトハルトと開発した検流計を披露する。
「これは検流計といって、電気の強さを測る魔道具です。そして、モーターと同じように、コイルを使った電磁石の仕組みを活用しています。つまり、モーターの試作でもあります」
ノアは内部の仕組みと動作を説明し、実際に動かしてみる。
おおおおお!!!!――ルナリアとルタは驚きの声を上げる。
「これさえあれば、魔動モーターの開発中に不足箇所を特定できます!」
現代科学がどこまで通用するか、この世界やノア自身の知識でどこまで作れるか分からない状況で、その通電を確認できる検流計は、まさに頼もしい一台だ。
「あとは僕が作った強力な磁石と……すみません、銅線は間に合いませんでした。ルタさんはどうですか?」
「持ってきたぞ!追加で指示を貰った通り、ニスで表面を加工している!こんな感じで問題ないか?」
ルタが持ってきた銅線は、ノアが知っている銅線とほぼ同じような細さ。長さもかなりあり、太さも均一だった。
「これは……素晴らしい出来ですね……正直ここまでとは思いませんでしたよ……」
「そうだろうそうだろう!ルタ・スクリット共和国の威信にかけて作らせた最高傑作だ!なかなかこの細さを均一に仕上げるのが難しくてな!専用の器具を何度も試作し作り上げたのだ!ニスにも苦労したぞ!なにせくにゃくにゃと曲げるものに使うのだからな!硬くても薄すぎてもダメ。本当に技術者泣かせだったぞ!」
ルタは大層誇らしく語った。語り口から、その苦労が伝わってくる。
「それだけの価値がこの銅線にはありますよ……なにせこの銅線の良し悪しが、モーターの良し悪しといっても過言じゃないですから」
「国に戻ったら今の言葉、技術者たちに伝えようぞ!では早速その魔動モーターを……」
ルタは勇み足で話を進めようとする。まるで新しいおもちゃで早く遊びたい子供のようだ。
「そうですね!まずはこの銅線をつかって簡単に魔動モーターを試作してみましょう」
ノアは銅線を何重かを巻き取り円にして、簡単なコイルを作る。それを銅線で作った支えに乗せ、下に磁石を置く。そして電池代わりに作った魔道具を、その支えにつなぎ、電気を流した。そして軽く手でコイルを押してやると――
クルクルクルクル――
おおおおお!!!!と、今度はその場の全員が歓喜の声を上げる。
特にナイトハルトは、技術者ゆえか、その回るコイルをうっとりとした目で見ている。
「はぁぁ……不思議だ。こんなことが………いくらでも見ていられるな……」
「その気持ちわかるぞナイトハルト!我の執務室に置いておきたいほどだ!」
ノアもその気持ちは痛いほどわかる。子供のころに理科の実験で作った時のことを思い出す。
「回って良かったです…………これで、この材料でモーターが理論上作れることが証明されました!あとは実際に作ってみましょう!」
「あ、その前にノアさんに一つ訊きたいんだが……」
ナイトハルトは遠慮がちにノアに質問する。
「このコイル、回ると支えに負担が掛かっているだろう?確かモーターも、ブラシ?とかいう機構で電気の流れを変えてやる必要があると言っていたが……これを逆にして、磁石のほうを回してやれば、そのブラシをすり減らさないでもいいんじゃないか?」
ナイトハルトが言っているのは、つまりブラシレスモーターの仕組みだった。ノアは思い付きでその仕組みを考えつくナイトハルトを末恐ろしく感じた。
「……ナイトハルトさん。貴方は天才かもしれません……確かにあるんですよ、ブラシレスモーターという仕組みが……。しかし、電気の流れを制御するのに基盤が…………」
と、ノアは言いかけてやめた。確かにブラシレスは電気制御が通常よりもはるかに難しくなる。しかし魔道具はある程度電子基盤の役割を果たす。もしかしたら、複雑な基盤構成も、回路図のみで解決するのかもしれないと気づいたのだ。
「いえ、可能かもしれませんね……。ナイトハルトさん、今すぐ僕が描く魔法陣を魔道具に描いてもらえませんか?」
ノアは記憶を振り絞り、ナイトハルトに回路図を描き渡した。
ナイトハルトが魔道具を作っている間に、ノアは先ほどの試作モーターをブラシレス型に改良する。
「出来たぞ、ノアさん!」
「では、試してみましょうか……」
一抹の不安と、大きな期待を胸に、ブラシレスモーター試作品に電気を流す。
すると、中心に置いた磁石はクルクルと回り始めたのだった。
三度、全員が大歓声を上げる。
「よっしゃぁぁぁあああ!」
特にナイトハルトの雄叫びが大きい。自分の発案で成功したのだ。喜びもひとしおだろう。
「やりましたね!ナイトハルトさん!!」
「素晴らしい発想力だ!ナイトハルト!ぜひ我が国に欲しい人材だ!」
こうして1日目が終了した。
二日目は、ひたすらコイルを皆で巻いては試動、巻いては試動を繰り返した。モーターは人間が一抱えするほどのサイズ。そのコイルは巻くのにも一苦労だったが、いざ巻き終えても、なかなかモーターは動いてはくれなかった。
「コイルの形状がダメなのかもしれません……確かに僕の知っている形とは違うんですが、理論上は動くと思うんですがね……」
「ふむ……電気もコイルには通っているんだろう?」
全体を見回しながら、ルタは検流計係のナイトハルトに訊く。
「ええ、検流計はしっかり読んでいますね……ノアさん、どうしようか?」
「そうですね……。一旦僕の方で預かることにします。コイルも、改めて芯をドレイクさんに頼んで、僕の知っている形状に作ってもらいましょう。在りもので作ろうとしているのがダメなのかもしれません」
元々ブラシレスで進める予定ではなかったので、材料があり合わせだった。理屈では動きそうでも、実際は動いていない。こういう場合はもう一度基礎に立ち返った方が、案外早いのだ。
「ここまで作ったが……ノアさんの言う通り、そのほうがいいのかもしれないな」
疲れと落胆が空気を重くする。
しかし、確実に前へは進んでいる。何事も、失敗は前提だ。失敗無くしては成功も無い。ノアはそう、皆に伝えて鼓舞し、第2回目の技術開発会議は終了したのだった。
しかしその後、魔動モーターの開発どころではない事態に見舞われてしまう。
――フェルニス王国がエルノア国に侵攻する兆しあり。
そうルーデン公国から通達があったのだ。




