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5章7話 男は、宗教同士の小競り合いを仲裁した

 魔動モーターを早く完成させたい――ノアの気持ちははやるばかりだったが、国王であるノアは、そればかりにかまけていられるわけではなかった。


 実際、世界の情勢は常に動いており、今朝ファシルファ王国の第3王子ハイリッヒから、フェルニス王国とシルドニア皇国の連合軍が、ファシルファ王国から撤退していったと報告があった。つまり、フェルニス王国の第2次侵攻も失敗に終わったのだ。

 戦争が終わったのだと一安心したいのは山々だが、これはそんな単純な話ではない。ハイデンは、ファシルファ王国への第1次侵攻敗戦後に侵略を受けた。第2次侵攻に敗戦した今、もしかしたらここエルノア国へ侵攻してくる可能性は十分あるのだ。


 ノアは、魔族の村々に、万が一のエルノア国への侵攻に備えてほしい、と書状を送った。


 そしてノアは、ルークに頼んでいた、現在の各村の食糧事情を輸入量から割り出したものを確認する。


 エルノア国の現在の食糧自給率は、約80%だった。つまり20%は交易による輸入に頼っている状態。輸出による利益で賄えてはいるが、ここは100%を目指したい。食料輸入先の大半が同盟国のルーデン公国と関係性による不安は無いが、やはり食料を自国で賄えていない状況は気持ち的に避けたい。


 輸出品目は、魔女ポーションの金額がやはり大きい。生産を平常時に戻して久しいが、ファシルファ王国が戦火の下にあることで需要が高いのだ。ハイリッヒを通じてキルトベルグ国王からは、フェルニス王国を追い返せたのは魔女ポーションのお陰だ。と感謝の言葉を貰ったほどだ。

 今まではシルド神教の存在がありポーションを公に売ることが出来なかったが、エルノア国を建国したことで、他国との交易でポーションを売ることが出来るようになった。それでも、民間用には薄めた物を、王族管理用には原液を、というルールは変えていない。


 ノルンの村で作っている高級茶葉も好調だった。ネスが農作の技術指導をしてくれたおかげで、ぐっと収穫量が増えた。反対に、革細工と鉄製品が不調だ。鉄製品は国内需要が高く輸出出来ていないのが現状だし、革細工はあまり人気が無いようで、これも国内に供給しているのみとなっている。


 戦時中だったこともあり、コルダ村の鉄鋼も需要が高かった。ポーションもそうだが、戦争特需なので、あまり喜べたものではないが。


 そんなことを、ルークが作った資料を見て考えているノアを、ファシルファ王国第3王子ハイリッヒと、もう一人――ルタ・スクリット共和国第1王子カシッド・スクリットが見守る。


「ごめんね、つまらない仕事ばかりで」


 さすがに頭の中を見せるわけにはいかないので、出来るだけ独り言のようにぶつぶつ解説していたが、完全に内情の報告書なので、よくわからないだろう。


「いえ、勉強になります!」

「私も、勉強になりました!」


 少々疑わしいが――まぁ見てて損のあることではないし、いいだろう。


 そんな中、ナイトハルトが走ってやってくる。


「ノアさん!すまない、力を貸して欲しい!」


 ノアと王子二人はナイトハルトに連れられて執務室からマギナ中心部へ向かった。



「ノアさん、あれだ。あれをどうにかしてほしいんだ……」


 ナイトハルトの指を差す方を見ると、マギナ教会前で、マリエッタと真シルド神正教神父――レアーズが言い争いをしていた。


「ちょっとちょっと二人とも……どうしたんですかそんなに声を荒げて……」

 あわや殴り合いが始まりそうな二人をノアが仲裁する。


「おうノア!コイツほんっっと話が分からん奴でよ!言ってやってくれよ!ハイデンに帰れって!」

 マリエッタは中指をおっ立てて挑発している。仮にもあなたシスターでしょうに。


「国王様!どうしてこのようなシルド神教崩れの教会に特別扱いするのです!しかもこんなはしたないシスターなんかに!」

 レアーズも怒り心頭といった感じだった。まぁ、一部彼の言う通りかもしれないが。


「マリエッタさんがはしたないのは謝ります!ですから一旦二人とも落ち着いて!」


「なんだとノア!誰がはしたないババァだって!!!」

 いや、そこまでは言っていませんがな――


「ああもう折角の美人が台無しですマリエッタさん!だから落ち着いて!マジで!」


 落ち着くまでにかなりの時間を要した――。



 ナイトハルトの気遣いで、教会ではなく首都長の応接室を借りて話を聴く。


 少しどちらかが話せば、それは違う!だの、そんなこと言っていない!だの話が全然進まなかったが、要はエルノア国におけるシルド神教への厚遇が気に喰わないと、レアーズがマリエッタにやっかんだのが発端のようだ。


「まずレアーズさん。エルノア国はどの宗教も厚遇はしていません。それを前提に話をしましょうか」


「しかし実際、マギナ教会ではエルノア国から教育を担当しているではないですか」

 レアーズが言っているのは、マギナ村からの習慣で、10歳から15歳を対象に読み書きや計算を教えていることだった。


「あー……たしかにそう見えるかもしれませんね……」


「つまりエルノア国ではシルド神教を国教として、子供の教育の一環でその教義を布教していると言う事でしょう?それは国王の言う平等に反しています!」


「だから違うっつってんだろがボケナスがっ!」


「マリエッタさん落ち着いて……そんなんじゃ話し合いになりませんから。すみませんレアーズさん。この人いつもこんななんで、気にしないでください……。それで、教育の一環で布教している、とおっしゃっていますが、その事実は確認できていますか?」

 マリエッタに蹴られながらも、ノアは終始穏やかにレアーズに問う。


「いや、実際に見たわけではない……しかし、教会で教える、ということはそういう事でしょう?」


「まず、マギナのあの教会は、今シルド神教から孤立しています。かなり前からそうだったようですが、ハイデンがああなってしまった時に、ここを監視していた神父が亡くなりまして……。きっとシルド神教側も、マギナ教会の存在はもう忘れているでしょう」


「ロイズ神父、ですね……亡くなっていたんですね……あの時に……」

 レアーズは深く肩を落とす。


「ええ。私も友人でしたので、ひどくショックでした……。まあそれはさておき。つまり今のマギナの教会は、シルド神教かと言われると、そうであるし、そうとも言えない状態なのです」


「それは、本部とつながりは無いが、シルド神教の教会として存在している、と」


「そうです。つまり、あなた方と同じではありませんか?」

 シルド神教と真シルド神正教は、教典と教義については全く同じ。単純に、侵攻を繰り返すシルド神教総本山であるシルドニア皇国に対してのアンチテーゼなのだ。


「同じ、とは言い切れません。確かにシスターマリエッタとは同志なのかもしれませんが、信徒は別でしょう。ここをシルド神教の教会として来る、その信仰心は結局、シルドニア皇国が総本山のシルド神教へと通じていく」


「確かにそうかもしれません。では、ここの信徒は何を求めてこの教会に来ると思いますか?」


「救い……でしょうか。シルド神の……」


「そうです。それはあなた方、真シルド神正教と何か異なりますか?」


「いえ………………」


「では、何が問題でしょうか?」


 レアーズは沈黙した。深く考えているのだろう。事の発端。怒りの理由。根本の事情。そして答え。それらは自分が今ここで納得し得るものなのかを何度でも反芻して。


「…………いえ、取り乱してすみませんでした。言われてみれば、怒るようなことではないですね。真シルド神正教の神父も今となっては私だけです。使命感に囚われていたのかもしれません」


「今後、あなた方がどのように活動するかは、僕の言うところではありませんが、ぜひマリエッタさんを助けてもらえると助かります。それと今回の件で、今後宗教活動にはある程度制限が必要だとも感じました。エルノア国として中立でいるために」


「そうですか……ありがとうございます。最後に、改めて国王とシスターマリエッタに深く謝罪を」


 マリエッタは返事こそしなかったが、話が分からない人ではないし、基本慈愛に満ちたシスターだ。きっと赦してくれているのだろう。


「それでは、この件は決着と言う事で、お二人ともよろしいですね?」


 二人は頷き、喧嘩は解決した。

 ――これがエルノア国初めての小議会となった。



「ありがとうノアさん。ああやって話し合いを解決させていくのだな。大変参考になった!」

 ナイトハルトはノアの手を握り、何度も上下させる。


「最初は時間がかかるかもですが、コツさえ掴めば何とかなります。今回はレアーズさんに解決の糸口があった。妥協できそうなラインを早い段階で見つけられたのが良かったです」

 ノアはそう解説する。それを聞き、さすがノアさんだ――と、今度は背中をバシバシと叩くナイトハルト。


「ノアさん……その……今の仲裁、感動しました!特に、マリエッタさんとレアーズさんの共通点を指摘するところは……正直震えました!ぜひ今後勉強させてください!」

 カシッドは尊敬のまなざしでノアを見つめた。これに感動してくれたなら、仲裁の才能があるのかもしれない。


 ノアは、ほんの少しだけ、得意げになった。


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