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1章4話 獣人は、男と仲良くなりたかった

 ポーションの増産をルナリアにお願いし、了解を得たのは良いが、作業負担が増えたのはノアの方だった。

 ポーション生成は、器具と材料、それと絶妙な量の魔力で作れるようで本来は高度な技術が必要、だそうなのだが、ルナリアにとっては造作もないらしい。しかし、作業場に張り付いていなければならず、材料収集はノアが受け持った。


「薬草が主な採取、とはいえ、よくわからないんだよな……」


 植物の素養があっても、見極めるのは難しいらしく、実際、昨日持って帰った薬草の半分は薬草ではなく、さらにその半分はポーションの材料になりえない薬草だった。


 こうなると、もうそれらしいものを片っ端から採取する方が早そうだ――と、難しいことを考えず採取に没頭することにした。


 採取場所は家の奥の深い森――魔族の森、と呼ばれているようだ。実際この奥地には魔王城跡があったり、エルフ、獣人、ドワーフ、オーク、オーガなどの魔族集落があったりするそうな。

 ルナリアからは、決して奥には入らぬように。と忠告を受けている。


 先日から入り始めた森――鬱蒼とはしているが、緑が深く、木々の合間から注ぐ陽と、寒さとは違う湿り気のある穏やかな冷気が、なんとも心地よい。


 そんな森の中、大変なものを発見してしまう。


「え、獣人……の死体??」


 人間で言うと16歳くらいだろうか。子供でも大人でもない猫耳の少女が木陰に倒れていた。


 ノアは恐る恐る生死を確認する。息はまだしている。外傷もなさそうなので、とりあえずルナリアの所へ連れて行くことにした。



 ***



「なんだ、私の真似事か?」


 獣人を抱きかかえたノアを見て、開口一番はそれだった。


「息はしているな。そのまま床に寝かせろ」

 こくり、とノアは頷き、ゆっくりと床に寝かせる。


 ルナリアは、その獣人の心臓辺りに手をかざし、目を閉じる。すると薄っすらとだが手のひらが光り、そして消えた。


「いまのは……」


「精霊魔法だ。ヒールとは違うが、生命力が戻る。じきに目を覚ますだろうさ」


 それと――と、ルナリアは立ち上がり、窓を開けて手をかざし、何やら呟いている。


「精霊の使いも出した。時間はかかるかもしれないが、保護者もいずれやってくる。それまで面倒を看てやれ」



 ***



 獣人の彼女が目を覚ましたのは、それから少ししてからだった。


「…………はっ!どこにゃここ!?」


 目を覚ますや否や、すぐに飛び起き、周りを見渡す。

 そしてノアを目が合う。


「人間……貴様、ミィに何する気にゃ!」


 ミィ?それとも一人称の『ミー』だろうか。ノアがそんな疑問を抱えていると、ルナリアが部屋の奥から声をかける。


「目が覚めたか獣人。その様子だと怪我は無さそうだな」


「なっ!エ……エルフ!?」

 獣人はすぐにルナリアがエルフだと気が付いた。人間にはない感覚で、なのだろう。


「つまりここは……魔女の家?よし!やったにゃ!ミィは成し遂げたにゃ!しかし人間がいるとは聞いていなかったにゃね」


 ちらりと、獣人はノアを見やる。怪しむような、探るような、そんな視線だ。


「……初めまして、僕はノアといいます。ここで居候をしています」


「なんだ、魔女のペットかにゃ」


 相手を舐めたようなため息を一つこぼす獣人に、ルナリアはいつもの試すような口調で、


「いいのか?獣人。お前を助けたのはそこにいるノアだぞ?私だったら捨て置いているところだがな」


 その言葉に、はっとした顔でノアへ振り返る。


「なんだぁ……そうだったかにゃぁ……早く言えにゃぁ……じゃああの気持ちいい抱かれ心地も、いい匂いも、全部お前だったのかにゃぁ……」


 急になつき始める獣人。ゴロゴロと喉を鳴らしながら、ノアにすり寄っている。


「そ、そういえば、名前を訊いても?」


「そうだったにゃ、ミィの名前はミィだにゃ。ナーレの村から来たにゃ」


 ナーレの村?――ノアはルナリアを見た。


「ナーレの村は、ここから一番近い獣人村だ。歩いて3日くらいか」


「まぁ、人間ならそれくらいにゃね」


「それで、ミィさんはなぜ倒れていたんですか?」


「そう!それにゃ!実は道中、人間のハンター数人に見つかってにゃね」


 それで戦闘になり気絶して――いや、おかしい。それらしい外傷は無かったはずだ。


「それで気絶を?」


「違うにゃ。そんなヘマはしないにゃ」


「じゃどうして気絶なんか……」


「お腹が空いたから、木に登って果物を取ろうとしたら、落ちたにゃ」


 ハンター、関係なかった――


「で、気が付いたらここにゃ。何がともあれ、無事ついて良かったにゃ。さっすがミィにゃ」


 全然無事ではなかったし、自分の力でもなかった。


「それにしても人間……おまえ本当にいい匂いがするなぁ……気に入ったにゃぁ……」



 ***



「うちの村のもんが、大変お世話になりましたっ!」

 筋肉質な壮年の獣人――ゾフが、ミィを迎えに来た。近くまで来ていたようで、意外と早かった。


「なに、いいさ。それに助けたのはそこにいる人間だ」


「初めまして……ノアと申します。ここで居そう――」

「いやーありがとうノアさん!なんてお礼を言って良いか!ほらミィ!こっちきてちゃんとお礼をいいな、さいっ!」


 ゴチン!と強めのげんこつがミィにはられ、べったりと張り付いているノアから引きはがされる。


「どうもにゃ……ああ!これ以上は頭が真っ二つにゃ!ちゃんと!ちゃんと言うにゃ!」


 ミィは改めて居直り、ぺこりと頭を下げた。


「…………どうもありがとうございましたにゃ。助かりましたにゃ」


 よし、と振り上げたげんこつを下ろすゾフ。


「無事だったのがなによりです。それはそうと、ミィさんは、村からここに用があって来たんですよね?どのような用だったんですか?」


「へ?忘れたにゃ」


 ゴチン!とかなり強いげんこつが、ミィの空っぽの頭を鳴らした。



 ***



「…………おっと、長居してしまいましたな!俺たちはこれで」

 そういうとゾフは席を立ち、帰り支度をする。


「ゾフのおやっさん、次はもっといい手土産を持ってくるにゃよ!」

 それをソファの上で、ひらひらと手を振りながら見守るミィ。


「お前も帰るんだ、よ!」

 ゴチンっと、今日何発目かのげんこつ。あれで平気なミィにも感心してしまう。


「やだにゃ!ミィはこの人間と結婚するにゃ!子沢山にゃ!」


 はぁ!?――と、ゾフ、ノア、そしてルナリアまでも驚きの声を発した。


「『人間』などと呼んでいる仲で結婚など出来るものか!いいから帰るぞ!」


「い、や、だ、にゃ!この人間……ノ、ア?はめっちゃいい匂いするにゃ!絶対結婚するにゃ!」


 匂いだけでそんな――


「ん?待て。そんなに良い匂いがするのか……?」


「するにゃ!もうごろごろにゃーだにゃ!特にこの耳の後ろはヤバイにゃ!」


 ふむ――と、急にトーンを変え、神妙な面持ちになるゾフ。

 訳が分からず、きょとんと話の行方を見守るしかないノアは、部屋の奥にいるルナリアを見やったが、なにやら諦めた様子で視線を本へ戻した。


 少しの沈黙の末、ゾフは神妙なトーンのまま話し始めた。


「ノアさん……出会ったばかりでアレなんだが、ミィとの結婚……考えてもらえないだろうか?」


 え、何故そんな急に――


「戸惑いも理解してる。しかし、獣人の伴侶探しは、大概匂いで決めるものが多い。ミィがこういっている以上、俺達にはどうすることも出来ない。悪い娘ではないんだ……どうか、前向きに!」


「そんな急に言われても……出会ったばかりですし……それにほら、ミィもまだ子供?のようですし、種族感とかもいろいろ……」


 なんとか、やんわりと断る口実を考えるノアへ、ルナリアから助け船が出る。


「獣人と人間との子供は、ほとんど獣人として生まれる。繁殖力が人間より強いからな。それにその獣人は繁殖適齢期だ。子供ではないぞ」


 まさかの反対方面行の助け舟!?


「よかったな、モテ男さん」

 などと皮肉も付け加えてくるあたり、きっとルナリアはこの状況を楽しんでいる。


「ま、まぁ……友達から、なら……」


 この異世界に来て、人恋しかったのかもしれない。それに、ここまで慕ってくれる人を無下にも出来ない。しかしなによりも、ミィとの時間は楽しかったのだ。


「だってよ、ミィ。良かったな!ノアさんに嫌われるんじゃねぇぞ!」


「分かったにゃ!」


 それじゃ、また――と踵を返したゾフは、ノアとともに見送ろうとしたミィを引きずって帰っていったのであった。

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