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5章6話 男は、魔動モーターの開発を始めた

 エルノア国にノア一行が戻り、数週間後――。


 第1回のエルノア国とルタ・スクリット共和国による技術開発会議が開催される。

 メンバーはノアとルナリア、ナイトハルト、ルタ国王である。


「では、第1回目の共同技術開発会議を始めます」

 ノアが司会を受け持ち、壁に大きく広げた紙の前に立ち話を進めていく。


「まず、ルタさん。先日お訊きした圧力容器と爆発物ですが……何か思い当たりましたか?」

 ルタの宿題となっていたこの2つの回答をノアは訊いた。


「いや……思いつかなかった!すまない!」


「いえ、こちらこそ無理言ってすみません……ありがとうございました」

 ノアは仕切り直す。


「では、代案があるので、少し僕の説明を聴いてもらおうと思います」


 ノアが説明したのは、モーターの仕組みだった。

 ノアのいた世界の現代では、ありとあらゆるものに使用されているモーター――ノアはそれを、魔法と融合させて魔動モーターを作ろうと考えていた。


「…………といった仕組みで、ここから電気を流すと、このコイルが回り、動力を得られます」


「すみません教官!その電気とは何でありますか?」

 ナイトハルトが元気よく手を挙げて質問する。


「いい質問です!電気とは……そうですね……わかりやすく言うと、雷が電気です」


「雷……か。それをどうやって手に入れるんだ?落ちたところを拾いに行くのか?」

 ナイトハルトの頭に疑問符が出る。


「まず、雷は物質というより、可視化されたエネルギー……つまり光って見えるようになった力の一種です。他にも、動物の毛皮で埃を払うとくっついたり、それを触った時にパチッと痛くなることも、電気のせいだったりします」


「なるほど……あれが電気というわけか!」


「しかし、その電気をどのように生み出すのかが問題です。実はこのモーター、逆に手でコイルを回せば電気が生まれます。しかし、動力を得るのに動力を使っていては意味が無いので、何かの時に使える知識として覚えておいてください。話は戻りますが、そのモーターを動かす電気を得るために、雷の魔道具を作れないかな、と」


 皆がそこで黙り込んでしまう。

 その静寂の中、ルナリアが申し訳なさそうに話し始める。


「ノア……その、だな……雷の魔法は、東側では概念として確かにあるし、出せもするんだが……前にも言ったが実用性が無いんだ。雷はどこに落ちるか分からない。制御が難しいんだ……」


「それを、何とかできるのでは、と僕は考えています。まず雷の性質ですが……」


 ノアは雷の仕組みと、それを構成する電気の概念や性質を一通り説明する。


「なるほど……電子エネルギー……か。理解に苦しむ理論だが、ノアの世界では完全に制御出来ていたんだな?」


「そうですね。稀に高圧の電気に触れて死ぬ事故もありましたが、技術としては確立されていました」


「それなら、早速その雷の魔道具とやらを作ってみようではないか!何が必要だ?可能な限り手配しよう!」

 ずっと聞き手に回っていたルタから心強い言葉をいただく。


「そうだな……まずは雷魔法の魔法陣は必要だろう。西側では概念すらない。私もこの間手に入れた書物を漁るが、ルタも国に帰ったら探して欲しい」

「あとは絶縁体……電気を通さない素材が必要です。木細工で使うニスか、もしくは木からとれるヤニなどを集めてもらえると」

 ルナリアとノア、それぞれルタに注文する。


「了解した!特に古い魔導書は一部禁書として王宮に保管してある。必要なら持ち出そう」

 禁書と聞いてルナリアが、真面目な顔のままよだれをたらし、それを何事も無かったかのように拭った。


「あとは私の技術だな!集まり次第、ノアさんと実験してみよう!」

 素材が集まれば実験あるのみ。元魔道具技師のナイトハルトの腕の見せどころだ。


「あとはモーターの開発も同時に進めたいですね。磁石……ってありそうですか?」


「稀に鉱物として発掘するが……あまり需要があるものではない。我の国にもあるかどうか……」


「そうですか。一応コルダ村やノルンの村でも鉄鉱石を掘っているので、確認してみますが……ルタ・スクリット共和国に無いようなら、期待は薄そうですね…………それなら、雨の日に製鉄した棒を高い所に置いて雷に打たせましょうか。もしくは雷魔法で一発ドカンとかましてみるか……」


「待てノア。雷は……ああそうか。高い場所の電気を通しやすい物質に落ちるんだったな……」

 ルナリアは雷を理解し始めている様子だった。


「そうですそうです!そして鉄は大きな電気にあたると磁石になります。あとは伝導率の高い物質……銅かそれに代わるものですが……」


「銅ならルタ・スクリット共和国で採れるぞ!」


「それを髪の毛程細く加工出来ますか?」


「………うむ、努力してみよう」


「ノルンの村にいるドワーフ鍛冶師にも訊いてみますね。彼は腕がいいですから!」


「むっ!それは負けられない……早速国に帰ったら技術者を集めて尻をひっぱたくとしよう!」

 ルタの中の国王としての威信が、ここは譲れない戦いだと告げる。


「それでは、今日はこの辺でお開きと言う事で。それぞれ宿題があるので、次回までによろしくお願いします!もし問題が発生したら僕まですぐ報告を!」


 ひとまずはこれで魔動モーターの試作準備は整いそうだ。あとは実際にモーターが組めるのか――ノア自身、知識としてはあるが実際にモーターを一から組んだことはない。長い道のりになるかもしれないが、新しいことを生み出すんだ。労力を惜しんではいられなかった。



 ***



 一同は解散し、ノアとルナリアも魔女の家に帰宅する。


「それにしても、ノアのいた世界の技術とはとてつもないな……雷を制御できるなんて……」

 実際には雷ではなく電気だが、ルナリアは非常に感心しているようだった。


「……実は、こんなもんじゃないですよ。鉄の塊が人間を200人乗せて飛んだり、ルタ・スクリット共和国よりももっと遠い場所の人間と顔を見て話せたり」


「もうそれは……想像もつかないな……」

 ルナリアは天を仰ぐ。


「要は、魔法がなかったので、それを全て自力でどうにかしようとしたんですよ。その過程や延長線上で、自然界の法則を見つけ出そうと研究した。あらゆることを試し、法則性を調べ、再現する。その繰り返しで、人類の英知である科学を手に入れたんです」


「魔法研究に似ているな。違うのは、かつての賢者が作った魔法陣の法則性を研究するのか、そもそもの事象の法則性を研究するのかという点なんだろうな……後者は、つまりノアの世界は、本当に途方もない研究だ……」


「そうですね。実際電気も、存在が見つかってから実用までに2000年程かかってますし……」

 そうルナリアにいうノア自身、本当に途方も無いと感じる。


「だから、これは仮説ですが、魔石から出せる魔法やその量にも、法則性があると僕は考えています。その法則と、対応した魔法陣があれば、魔法研究は一旦確立したと言えるんじゃないでしょうか」

 ノアのその言葉に、ルナリアの研究心に火がつく。


「なるほど……先日話していたのはそういう話だったのか……確かにそうだ。今となっては魔法陣の研究は、あるものをどう組み合わせれば欲しい結果になるかばかりだが、その源流をたどるというのは非常に興味深い!きっとルタ・スクリット共和国で買った本も活用出来るだろう!……うん。私はその研究を生涯進めて行こうじゃないか!」


 ただ知りたいという欲求で書物を漁っていたルナリアは、その先に目的を見出した。きっとしばらくは家に籠って書物を読み漁る日々が続くのだろうが、興味ではなく使命感に燃えたルナリアを見るのは、なんだか嬉しかった。


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