5章4話 男は、国王に技術開発の協力を打診した
翌朝。少し早めに起きダイニングへ顔を出すと、既に朝食の用意がされていた。
いつのまに用意されたのだろうか。物音も感じなかったし、料理はまだ暖かい。これが東洋の神秘というやつなのかもしれない。
皆が起きてきたので、ノアは一度部屋に戻り、ルナリアを起こす。
「ルナリアさん……朝食の時間です……ルナリアさん!」
「ぁあぁ……ぉぉお…………」
完全にルナたん状態。しかしノアはこの状態から一発でルナリアにする技をつい先日編み出していたのだった。
「…………エルナリア!」
「んはいっ!?」
名付けて、秘儀、真名で呼ぶ――これで今まで、目を覚まさない朝は無かった。
しかし、ルナリアの心臓への負担が大きいので、使うのはいざと言う時だけ。
「はい、おはようございます。着替えたら、食堂に来てくださいね」
「はい……わかりました……」
ルナリアは心臓辺りを軽く押さえながら、そう返事をした。
食事を済ませて少し経った後、迎えの使いがやってきた。
促されるまま馬車で移動し、王宮へと入っていった。
「ここが王の間です。扉が開きましたら、中へ」
大きな扉がゆっくりと開き、中へと入っていく。
天井は高く、中はかなり広かった。赤い絨毯の先には、王座があり、国王ルタ・スクリット4世が座っていた。
「おお!我が友ノアよ!よくぞ参られたな!」
ルタは大きく腕を広げ、歓迎してくれた。
「ルタ国王……謁見ありがとうございます!この度は……」
「よいよい!堅苦しい挨拶は無しだ!我らの仲ではないか!」
ノアはすっかりルタに気に入られている様子だった。正直、そんな簡単に信用するルタを心配になるほどだ。
「ありがとうございます。それで、今日はまず……あ、いえその前に仲間を紹介しますね!」
ノアは連れてきた面々を一人ずつ紹介した。
「そして、彼女が今後外交を担当する、ダリアです」
「外交大臣、ダリアと申します。元は商会を営み、行商人をしておりました。以後お見知りおきいただければ幸いです」
ダリアは、最敬礼と共にそう丁寧に挨拶をする。
「うむ!全員の顔は覚えた!ハリスよ!お客人たちに、通行証を渡しておいてくれ!」
かしこまりました。と、ハリスと呼ばれた男性が返事をする。
「それで、本題は……同盟の件か?」
ルタは察しよくノアたちの来国理由を言い当てる。
「その通りです。結論から申しますと、そちらのお気持ちが変わっていないようでしたら、ありがたく同盟をお受けいたしたく」
「おお!それはなんと嬉しい回答だ!ノアならそう言ってくれると思っていたぞ!それで、ルーデン公国とはどのような話を?」
ルタは、エルノア国と同盟を結ぶ際の懸念――エルノア国とルーデン公国間の同盟について訊いた。
「特に問題ない、と。エルノア国とルタ・スクリット共和国との同盟には、一切ルーデン公国は関与しない、と回答いただきました」
「ふむ。それなら問題ないな!で、それをわざわざ国王自ら伝えに来たのか?」
「東側諸国へのダリアの顔合わせもありましたし、私自身、ルタ・スクリット共和国を見てみたいというのもありまして。他の者も、それぞれ観光や見分など様々ですが、この国に興味があり、ぜひ同行したい、と」
「そうかそうか!それでは存分に見て回るがいい!どこも自慢の村や街だ!そしてもし何か気づいたことがあれば言ってもらいたい!すぐに改善を検討しよう!」
ルタのこういう転がる石のような性格が、ノアには心地よく感じる。
「それと、ルタ国王。折り入って二人で話があるのですが……」
「ああ、かまわないぞ!それでは皆、散開してくれ。我らは奥の間で話そう」
こうして王への謁見は終了し、それぞれ自由行動となった。
ノアとルタは、奥の間へと移動する。
奥の間は応接室のような作りだったが、ルタの執務室も兼ねているようで、奥には大きな机が備わっていた。
「とりあえず掛けてくれ。じきにコーヒーが用意される」
コーヒー――この世界に来て初めて飲む。てっきりノアは、コーヒーは無いものだと思っていただけに、少し心が躍る。
そして間もなく用意されるコーヒー。この芳醇な独特の香り――懐かしくて少し涙が出る。
「…………あぁ……とても、美味しいです。今度このコーヒーを交易させてください」
「かまわないぞ!それで、話とは?」
「今から話すことは、エルノア国でも要人のみしか知らない重要事項で、他言無用でお願いしたいのですが……」
ノアは、自分が異世界人であることを打ち明けた。
「なんと!!まさかそのようなことが……まるで勇者ではないか!」
「勇者……ではないと思いますが、僕が異世界人であるというのを前提に、これから話すことを聞いて欲しいのです」
ノアは、今、頭にある構想を話す。
それは魔法と異世界技術――つまり科学を融合させ、この世界に新たな技術を生み出そう、というものだ。主に欲しいのは動力。ノアの知る限りでまず浮かんだ、民間利用も軍事利用もしやすい技術だ。
「そこで、ルタ・スクリット共和国にあればいいな、と期待する技術がありまして。それは、爆発する物体と高圧力に耐えられる密閉容器技術です」
ノアが仕組みとして再現できそうな動力技術として、モーター、蒸気機関、エンジンだった。特に蒸気機関もしくはエンジンは、ノアの挙げたものが必要不可欠だ。
「特に爆発物があれば、技術はかなりの進歩を見せるかと」
「なるほど……いや、すまない。すぐには出て来ないな」
「そうですよね……。それと、同盟を結んだので、実際に技術開発を進めたいと考えています。これは僕が異世界人だということが前提ですので、参加するメンバーに注意を払う必要がありますが、まずは僕と元魔道具技師のナイトハルトさん、長年魔法研究をしているルナリアさん、そしてルタさん。このメンバーが定期的にエルノア国に集まって研究会を開きたいのです」
「なるほど!なんともワクワクする会合だな!了解した!」
ルタは快諾した。
「ありがとうございます!第1回目ですが、先ほどお願いした技術の返答も含め、来月のはじめに行うのはどうでしょう?」
「問題ないぞ!」
これで具体的に技術開発は進むだろう。技術者、研究者、そして国力。ノアは何でも出来る気がした。
ノアは一度宿舎に戻り、一休みしてから辺りの散策に出ることにした。
ちなみにルナリアとダリアは商人区画へ、ナイトハルトとアル、エルは食べ歩きの旅へ出て行った。
ノアは、入ってきた城門とは反対側の城門をくぐる。すると目の前には白い砂浜と青い海が広がる。ルーデン公国の海とは違う、生暖かい風がノアの頬を撫でた。
その砂浜の両端では、漁師が浅瀬で漁をしている。きっとあの辺が農民区画なのだろう。
この世界では遠洋航海技術がない。漁も遠くまでは行けず、大陸を離れるような大航海もない。もしかしたら、この大陸以外にも、人が住む大陸があるのかもしれない。
そんなことを考えていると、ノアはなんだかロマンを感じる。かつてノアのいた世界の、大昔の人々は、今のノアのように海の先に思いを馳せ、それを知るために考え、挑戦し、その答えをつかみ取ったのだろう。そう思うと、生きていた時代の当たり前が、途方もない努力の積み重ねによってあったことを実感する。
ノアは、ただぼーっと、夕暮れまで海を眺め続けた――




