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5章3話 一行は、旅を楽しんだ

 ダリアは本当に仕事が早く、そして完璧だった――。


 翌朝執務舎に来てみると、既に用意された幌付きの大きな馬車と、荷馬車には獣人――アルとエルが待機していた。


「ダリアさん……これは一体……」

 ノアは困惑する。4人で一つの馬車で行くはずでは――?


「国王と王女様、首都長が移動するんですわよ!護衛がいなくては!それにルナリアさんはきっと物凄い買い物をするでしょうし、こちらも各国への手土産も必要です!そのための荷馬車を兼ねてアルさんとエルさんに急遽来てもらいました!」


「急すぎて参っちゃいましたよ」

「でも、またノアさんと旅が出来るのは嬉しいっス!」

 アルもエルも、快くOKしてくれたようだった。


「本、来、は!ルーデン公国のように豪華な馬車が必要です!ですが新国エルノア、華美になり過ぎては思想に触ると思いまして、この程度の仕上がりとさせていただきましたわ!」

 ダリアはそこまで考えていた。本当に仕事が出来る。


「ありがとうダリアさん……僕ではここまで気が回らないですよ。流石です!」


 ノアにそう褒められ、ダリアは誇らしげに腰に手を当て胸を張る。どや顔、というやつだ。


「さあ、それでは出立しますわよ!」


 一行はルタ・スクリット共和国へと出立した――。



 新たに開通させた行路――クサナギを通り、エルノア国最東端であるクサナギ村を通過する。しっかりとお布施を弾み、さらに東、コニト村に到着する。


 50人に満たない小さな村で、マギナと同じく農業が盛んのようだ。

 村人皆の歓迎を受けながら、宿に馬車を止めた。ダリアは村長へ手土産を渡し、ノア一行は村人と会話する。特に村の子供には獣人が大人気のようで、アルとエルはされるがままだった。


「いやー改めて子供のパワーを思い知ったっすね……」

「まぁ、ミィの子供の頃ほどじゃなかったがね……」


「二人ともお疲れ様でした……」

 ノアは宿の酒場で二人に感謝の酒を手渡した。



 2日目――

 一行は朝早く次の街――都市国家シズへと向かう。

 ルナリアは相変わらず朝が弱いので、ほぼ荷物のようにノアに抱きかかえられて馬車に乗せられた。


「大変なハネムーンだな!」

 ナイトハルトがそんな冗談を言う。ノアは苦笑いで返した。


 大陸の東側とはいえ、植生はあまり西側と変わらないようだった。

 昇る朝日が麦畑を照らし、金の草原が辺りを包み込む様は、いつぞやのマギナ村を思い出させる。

 あの頃には、まさか自分が国を作るだなんて思いもしなかった――。この景色は、ノアを少し感傷的にさせた。


「次の街シズは、ほぼハイデンと言ってもいい街と聞きますわ。キ・エラ連邦とファシルファ王国、ルタ・スクリット共和国との丁度真ん中にありまして、東側諸国の中では、手に入らないものが無いほどだと」

 ダリアは、父であり行商の師でもあるルークから聞いたのであろう知識を披露する。


「私が旅をしていた頃はなかった街だな……最近出来たのか?」

 ルナリアがダリアに訊く。


「そう、ですわね……30年は前ですが……」

 ダリアが少し気を使って返答する。


「ルナリアさんの、最近、はもうボケみたいなものなんで、合わせなくていいですよダリアさん」

 そうノアが言うと、ルナリアは恥ずかしいのか顔を赤くして俯いた。



 そんな他愛のない話をしていると、ようやくシズの街並みが見えてきた。

 交易の街シズ――ほぼハイデン、とダリアは言っていたが、ハイデンの3倍は大きいのではないだろうか。都市国家だが、人口はエルノア国よりもはるかに多そうだった。


 シズの中心にある宿に到着したのは夜。明日朝には出発なので、観光はお預けとなった。

 それでも、道すがら見る街は活気づいており、もの珍しい物もたくさん売っていたのが印象的だった。

 しかし、少し大通りを外れると、その活気の陰で路上生活者やごろつきもちらほら。ハイデンもそうだったが、決して治安がいいわけではなさそうだった。



 3日目――

 昨日同様、ルナリアの積み込みを終え、シズを出る。

 次の街はカトレ。ナイトハルトがパーティーで美味しいと言っていた、煮込み料理を出していた料理人のいる都市国家だ。それは郷土料理らしいが、ノアがルタ・スクリット共和国の料理人に出してもらった料理に似ていたことから、同じ文化圏なのがわかる。


 シズの南から続く長い長い林道を抜けると、カトレが姿を現した。


 カトレ――ハイデンよりも少し小さそうな都市国家。ダリアが言うには、小さいルタ・スクリット共和国。大体が自給出来ており、こじんまりとまとまった街であることから、そう呼ばれているらしい。


 カトレに入ると、流石に異国情緒を感じる。来ている服も、ノアのいた世界で言うところの、いわゆる洋服ではなく中東系のそれに近い。エルノア国よりも南だからだろうか。気温も若干暖かい。


「…………ナイトハルトさん、なんかすごくワクワクしていませんか?」

 さっきから、ナイトハルトはなんだか落ち着きが無かった。


「いや、ほら、先日頂いたカトレの煮込み料理……あのような料理が食べられると思うとつい、な!」

 ナイトハルトは意外と食いしん坊――いや食通なのかもしれない。


 カトレは宿に酒場が無く、代わりに屋台が周りに数多くあった。ルタ・スクリット共和国文化の特徴らしい。

 ナイトハルトは、それはもうここ一番のはしゃぎぶりで、食べきれないほどの料理を持って来ては、それを皆でつつきあった。


「いやー!カトレとは素晴らしい街だな!食の豊かさは国の豊かさ!これで小さいルタ・スクリット共和国とは……実物はいかなるものなのか、楽しみでならない!」


 楽しみ、という点では、一同が同意した。ノアはルタ国王との話が、ルナリアは書物漁りを、ダリアは交易品探しを、それぞれが楽しみにしている。ノアは仲間との旅を改めて楽しく感じた。



 そして4日目。

 カトレからルタ・スクリット共和国の首都ダンガルまではかなり距離があるので、陽が昇る前に出発する。ルナリアは寝たまま衣服で包んで幌馬車に放り込む。


 陽が出てややしばらく走ると、ルタ・スクリット共和国が見えてくる。流石、大陸随一の人口を誇る国だ。行けども行けども村が途切れない。

 ルタの話だと、身分によって住む区画が違うと言っていた。どのような形で区画分けされているのか。そしてその区画分けされた民がどのように暮らしているのか。ノアは注意深く周りを観察する。

 ルタの言う身分制度だと、最下級は奴隷――罪人が主だと言っていた。次が農民、そして商人、最高階級に王族だったか。

 いま走っているここはほぼ農村。きっと農民か、もしくは奴隷の身分だろう。建物は古く傾いていたりするが、玄関などは綺麗にされており、路上生活者などがいる様子はない。そしてさらに走ると、建物は綺麗に立派になっていく。なるほど。そうなると、先ほどの区画はきっと奴隷身分で、ここが農民の区画なのだろう。この時点で、エルノア国の建物が少々見劣りするレベルだった。よほど豊かなのだろう。


 さらに走り続けると、ノアたちは区画の境目にたどり着いた。決して頑丈な作りではないが壁があり、こちらからは中が見えない。そして出入り口に門番が立っていた。


「初めまして。私たちはエルノア国から首都ダンガルへルタ国王へ謁見するためにやってきました、国王と王女、そして従者一行です」

 ダリアが毅然とした態度でそう門番に伝える。


「通行を許可します。お気をつけて」

 意外にも門番はあっさり通してくれた。


「そういえば、国王への謁見って、あらかじめ約束とかいらないんでしたっけ?」

 ノアは少し不安になる。行商人へ文書を手渡してもらう感覚でここまで来てしまったが、よく考えたら突然訪ねるのも失礼なのでは――と。いまさらと言えばそうなのだが。


「ここを通る分には大丈夫だと思いますわ。さすがに王族領へは国王の許可が必要でしょうけれど」

 ダリアはそう応える。これも行商人の知識なのだろう。


 先ほどの壁を越えて中に入る。すると先日通ったシズに負けずとも劣らない活気の街が広がっていた。


「こんな商人の街が、先ほどの門の数だけあるそうですわ」

 つまり、いくつかの農村ごとに門があり、その先の街の行商人が農村と交易しているのだろう。


「一体いくつの門があるんだろう……」

 ノアはルタに逢ったら聞いてみようと思った。



 陽が落ちかけた頃、農村ほどの距離は無く次の門――王族領手前までやってきた。


「私たちはエルノア国王とその一行です。国王ルタ・スクリット4世へ謁見しに参りました。お取次ぎをお願いいたします」


「ご確認します。しばらくお待ちを」


 流石にここでは止められてしまった。しばらく待つこと小一時間。陽が目の前の頑丈そうな城壁に隠れたころ、先ほどの門番が走ってやってきた。


「確認が取れました。既に宿もおさえておりますので、今日はそちらでお休みください。明朝、国王へ謁見となります。迎えが来ますので、それまでにご準備いただければ幸いです」


「ありがとうございます。それでは宿までご案内いただいても?」

 ダリアは礼をいい、門番に宿への案内をお願いする。


「こちらになります」


 今晩の宿――いや、これは宿なんかではない。ほぼ宮殿だった。


「すみませんが、どの部屋を……」

 ダリアが少し困ったように門番に問いかける。


「ええと……お好きな部屋をお使いください。貸し切りですので」


 なんとこのほぼ宮殿が貸し切りだった。国王へのもてなしとなると、このくらい必要なのか――ノアはエルノア国のもてなしについて考え直す必要性を感じた。


 きょろきょろと都会へ出た田舎者のように一行は宿舎へと入った。


 エントランスはなんとも煌びやかな調度品が並び、いくつもある寝室のどれをとっても最高級さを感じた。ベッドやソファなどは寝ころべばもう立ち上がろうと思わないほど、快適だった。


「まるで異世界ですね…………」

「君が言うと真実味があるな……」

 ノアの一言に、同じく唖然としているルナリアがそう突っ込む。


「ルタ・スクリット共和国が生産する工芸品や生活用品は、大陸でも高値で取引されていますが……さすがの私もこのレベルのソファは……………あぁ……すばらしや……」

 ソファに腰掛けたダリアは、すっかりダメになっていた。


 アルとエルなんかは、委縮してしまい玄関前で震えながら正座をしている。


「……あれ?ナイトハルトさんは?」


 一緒に宿舎に入ったはずのナイトハルトの姿が見えない。

 しばらく探すと、ダイニングに並んだ食事を前にして、壁に倒れこんでいた。


「すまない。軽いめまいがしてね……この料理たちは……食す前からすでに美味しい……」

 寝言のように寝言を言っていた。


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