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5章1話 男は、初めての議会を開催した

 建国宣言の翌日――


 来賓の方々はそれぞれ自国へと帰っていったが、ファシルファ王国の第3王子ハイリッヒとルーデン公国国王フレデリカだけはエルノア国に残るようだった。


「すみません、ノア国王。父であるキルトベルグ国王からは、そのまましばらくエルノア国に滞在し見分を広げてこい、と言われていまして……」

 ハイリッヒは昨日の晩餐会から、最初に逢った時の印象よりも少し幼く感じる。きっとノアに親近感を抱いているのだろう。聞けば歳は16歳。これでも同年代ではかなり大人びている。


「そうでしたか!ではそうですね……私の下でしばらく働いてみるのはどうですか?」

 ノアはそうハイリッヒに提案する。


「はい!大変光栄です!あと、ノア国王……その、敬語は……」


「そうだね。代わりに僕のこともノアさんでかまわないよ」


 こうしてハイリッヒはノアの下で働くこととなった。



 その日の午後。エルノア国の要人―マギナ村村長ナイトハルトと従者クリス、ここ最近代替わりしたコルダ村の村長ジェイク、クサナギ村村長ミズハ、魔族の森からはビズマの村村長ビズ、ノルンの村村長バズ、ナーレの村村長ヤド、ミネスの村からはネスと妻で副村長のロスが、それぞれ執務舎へ集う。このために残っていたフレデリカと、ハイリッヒも傍聴する。


「それでは、エルノア国初めての議会を始めたいと思います。まずは、初顔合わせなので、それぞれ自己紹介をお願いします」


 右回りに、それぞれ自己紹介をしていく。傍聴人のフレデリカとハイリッヒはノアが紹介する。


「そして最後、私がエルノア国王、ノアです。ジェイクさんは初めましてですね!よろしくお願いします。自己紹介……ですが、まず初めに皆さんに告白しないとならないことがあります」


 ノアは、自分が異世界から来た転生者であること、この30代前半の姿は転生後の姿であること、そして転生前の自分に関する核なる記憶が欠落していることを打ち明けた。

 皆は、それを聞いて驚いている様子だったが、特にそれ以上でもそれ以下でもなかった。だからどうした――そんな雰囲気に優しさを感じた。


「余計な混乱をさせたくないのでいままで黙っていてすみませんでした。基本的には他言無用でお願いします。そしてもしここにいる皆さんの中で、エルノア国の併合を考え直したい方がいらっしゃれば、席を外してもらって結構です。後出しの情報なので、咎めたりは決してしません」


 皆は顔を見合わせてはいるが、立とうとする気配は一切なかった。


「ノアさん。だから何だというのだね?つまらん冗談なら遠慮いただきたいものだ」

 ナイトハルトは腕を組み、皆を代弁するように言う。遠慮のない言いぶりだが、どう反応して良いか分からない雰囲気になりそうになっていた場を溶かすのには効果的だった。


「そうだ!ノア殿!つまらんぞ!」

 バズが乗っかってくる。


「すみませんね……つまらん男で。じゃ、気を取り直して、議会を始めますか!」


 まずはエルノア国の特徴ともいうべき仕組み『議会』について説明から入った。


 議会とは、国の運営にかかわる事柄を、ここにいる要人が集まって決めましょう、というもの。3か月に一回定例会を、緊急時は臨時会を行うことを説明した。


 そして小議会。これは村内の争いや困りごとを、当事者と第三者を交えて話し合いで決めていくものだ。基本的には第三者には村長が介入する旨を説明した。


「とまぁ、こんな仕組みです。小議会は初め、勝手がわからないでしょうから、私が執り仕切りますのでご安心を。ここで大切なのは、両方正しいのでは、または両方間違っているのでは、といった、それぞれの立場や考え方を尊重しながらも一方では疑いつつ、物事を俯瞰して公平にみることです。それも少しずつ教えていきたいと思います」


「獣人はノア殿に頼りきりになりそうだな……」

 ヤドは少し弱気のようだ。


「ネスさんは、こういうの苦手ではないですよね?」

 ノアはネスに話を振ってみる。


「そうだな……得意というほどでは無いが……」


「みんな得意不得意はありますので、そこを皆で補っていきましょう!だから無理そうならはっきりと言ってもらえると、かえって助かります!」


「その時は頼みます、ネス殿……」

「お互い様ですよ、ヤドさん」


「それじゃ次の議題ですが……」


 ノアは、エルノア国の編成について提案する。


 基本的には、全ての領土はエルノア国の所有とするが、これはノアの持ち物ではなく、エルノア国全員で共有しているという意味であること。しかし運営は今まで通り、各村には村長を置き、村長も今まで通り続投してもらう事。新しい村長を任命する際は必ず議会を通すことと、村長以下の役職については村ごとに任せること。そしてマギナ村は首都として格上げし、首都マギナとして長をナイトハルトとすること。さらにマギナは今後東方向に拡張し、クサナギ西端付近――執務舎がある付近まで伸ばしたい旨を話した。


「その都合もあって今後は移民をマギナに集中させていきます。これについて異論はありますか?」


「コルダ村には、今後も受付を置くのですかい?」

 ジェイクはハイデン難民用に今も配置している受付の事を言っていた。


「そうですね……とりあえずしばらくはそのままお願いします!クサナギ村にも東側諸国から移民が来る可能性がありますが、マギナとも近いですし、そのままマギナの執務舎に通してください」


「ご配慮ありがとう、ノア様……」

 ミズハはゆっくりと頭を下げた。

「こちらも了解しましたぜ!」

 ジェイクも承知!と言わんばかりに大きな拳を握る。


「あとは、大臣の配置ですが……」


 ノアは、ダリアを外務大臣に、ルークを財務大臣に、それぞれ任命することを提案した。

 特に異論はなく、今後の定例会にはこの2名も参加することとなった。


「次に、これはフレデリカ公女陛下にもご参加いただく議題なのですが」


 ノアはルタ・スクリット共和国から同盟の話が来ていることを伝えた。


「ルタ・スクリット共和国ね……ルーデン公国自体が直接同盟を結ぶわけではないから、エルノア国がルタ・スクリット共和国と同盟を結んでも、ルーデン公国はあまり関係ないわよ。でも……………いえ、これはノアさんの判断に委ねるわ」


 フレデリカはちらりと、隣のファシルファ王国第3王子ハイリッヒを見て、そう応えた。

 ノアには彼女の言いたいことが伝わった。万が一ファシルファ王国がフェルニス王国に侵略されれば、次の標的はルタ・スクリット共和国になりかねない。そうなれば、同盟国として関与を迫られるだろう。


「…………私はルタ・スクリット共和国との同盟を望みます。理由は3つ。人も含め資源が豊かであること。国王と僕の思想が近いこと。そして共同技術開発を打診されていることです。私は異世界の、それも魔法の無い世界の技術を知っています。それをルタ・スクリット共和国と協力すれば、実現できるものも多いのではと考えています」


「…………それは、軍事利用か?」

 ナイトハルトが鋭い指摘をする。


「……………………はい。ですが軍事転用、と捉えてください。前提は民間利用です。軍事はあくまで緊急時の自衛として、です」


「しかしノアさん!昨日の演説にも、話し合いで平和を、と言っていたではないか!軍事力を持つことはそれに反する考え方ではないのか?」


「確かにそうです。軍事力は持てば使ってしまう、恐ろしい力です。私はそれを持ちたくはない。しかし一方的に殴り掛かってくる相手に、話し合いだけで解決できるという甘い考えは国を亡ぼすように感じています。もちろん話し合いは前提です。ですが、向こうに攻めるデメリットを大きくさせるには、最終的には、短慮かもしれませんが防衛力だと思います……」


「しかし…………いや、確かにノアさんの言うとおりだな…………」

 ナイトハルトは、感情的になりそうな自分を必死で抑えた。理屈では理解している。しかし感情では納得いっていない。そんな表情だった。


「ナイトハルトさんの思いも分かります。私が昨日言ったことは決して嘘ではない。しかし改めて現実を考えると、なんとも薄っぺらな言葉だと思い知る。それでも、理想をかなえたいと考えていますし、それを前提にこの件を考えています。ですが、この防衛力……つまりは軍事力を、避けて通れない可能性も一方では想定しなくてはなりません。それを皆さんに理解してもらいたい」


「一応、我々は、万が一の時は国を守るために戦う約束はしている。我がオーク族と獣人族が共闘すれば、人間が束になってかかってこようとこの国を守れるだろう。その力を持ってしても、ノアさんは技術転用による防衛力に必要性を感じている。ノアさんは優しいお方だ。きっとそれは、例え魔族であっても、極力戦ってほしくないという想いの現れだと、私はそう感じている」

 ネスがそうノアを代弁する。


「それはつまり、建国前から軍事力のあては作っていたという事だろう?…………いや、それが正しいのはわかっている。わかっているのだが…………」

 ナイトハルトは頭を抱えてしまう。


 結局その場は多数決となり、ルタ・スクリット共和国との同盟は可決された。ナイトハルトのみが保留、他は賛成という形で――。


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