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4章10話 王は、盟友を手に入れた

 建国の準備は一通り整った。

 来賓の宿泊場所はマイルスたちが作ってくれたクサナギ付近の宿舎とマギナ村の宿を、建国宣言と諸パーティーの開催場所は、同じくクサナギ付近に作ったエルノア国の執務舎を利用する。

 参加者はエルノア国内でざっと500人、国外からの来賓は50名ほどを想定している。各国や近隣の村には行商人を通じて招待状を送付済み。ちらほらと返答もいただいている状態だ。

 開催日は約1か月後――ノアはなんだか気持ちが落ち着かない中、建国宣言の文言を考えている。


 そんな中だった。


 フェルニス王国によるファシルファ王国侵攻が再び始まったのだ。


 この第二次侵攻には、シルドニア皇国の聖騎士団や宮廷魔導士も参加しているとのことだった。敗戦は許されない――いよいよなりふり構っていられない状況なのだろう。しかしこれで、この侵攻におけるシルドニア皇国の立場がはっきりした。


 しかしかといって、ノアに出来ることは何もなかった。フェルニス王国とシルドニア皇国は繋がっているとしても、なぜこのような侵攻を繰り返すのか――その答えが出ていない以上、防衛以外の対策を取りようが無いのだ。



 そして後日、フェルニス王国とシルドニア皇国から建国宣言への招待について、返答があった。

 案の定だが、不参加――と。



 ***



 いよいよ建国宣言を2日後に控え、各国から来賓がやってくる。

 その対応を執務舎で、ルーデン公国国王であるフレデリカ公女陛下と共に行う。


「すみません、フレデリカさん……本来は来賓ですのに」


「私はエルノア国の後見人みたいなものですもの。当然の役割よ。それよりもノアさん。先ほども話したけれど、どの国が誰を遣わせたか、それをよく見ておくのよ」


 それはつまり、エルノア国に対してどのように捉えているかの物差しとなる。密で友好な関係を望むなら国王自らか王位継承権の高い王子が、様子見であれば宰相や有力領主がくるだろう。あらかじめ人数は招待状に返信してもらっているが、誰が来るかはわからなかった。


「それにしても、暇ですね……」


 失礼が無いように、こちらは出迎え待機しているが、せいぜい3つの国、6つの都市国家や村がやってくるのみ――いつくるかもわからない相手を待ち、ノアは時間を持て余していた。



 そんな中、初めての来賓が姿を見せた。


「初めてお目にかかります、エルノア国王ノア様。私はファシルファ王国の第3王子、ハイリッヒ・フォン・ファシルファと申します。本来は国王であるキルトベルグが対応せねばならないところ、私のようなものが参上したこと、深くお詫び申し上げます」


 ファシルファ王国の第3王子は跪きながら深く頭を下げた。


「頭をあげてください。戦時中にも関わらず第3王子がいらしてくれたことに感謝いたします。そして改めて、初めまして。私がエルノア国王、ノアです。」


「勿体なきお言葉、ありがとうございます。国王より、祝辞と贈り物を預かっております。お時間のある時にご確認いただければ」


「これはありがとう。必ず、その返事をしましょう」

 ノアは満面の笑みでそう返した。


 ハイリッヒは深くお辞儀をし、下がっていった。礼儀正しい好青年だ。さすが第3王子。


「ファシルファ王国軍は第1王子と第2王子が大半の兵を率いているわ。第3王子を遣わせた、と言う事は、最大限の敬意と受け取って良さそうね」


「そうですね」


 ノアはファシルファ王国の武運を心の中で祈った――。


 この日はその後、東側の都市国家のうち3つ――メルト、シズ、カトレが挨拶にみえた。

 メルトはファシルファ王国の北側に位置し、鉄鋼で栄えた街。カトレはルタ・スクリット共和国に近く、文化的にその影響を強く受けている街だ。そしてシズはハイデンと同様、交易で栄えている街だった。

 それぞれ、その街を統べる領主が挨拶に来たところを見ると、今後の関係に期待が持てそうだ。


 そして最後に、キ・エラ連邦が挨拶にみえた。


「初めまして、エルノア国王。私はキ・エラ連邦の宰務官、アゥクという。この度はご建国おめでとうございます」


 ベージュの布を頭から覆ったかのような服装の、とても整った顔立ちの男性――アゥクは手のひらで三角形を作り、それを掲げながら頭を下げた。独特の挨拶に、ノアは少し面食らう。


「……あれは、キ・エラ地方の最敬礼よ」

 フレデリカが耳打ちで助け舟を出してくれる。


「遠路からのご足労、感謝します。アゥクさん」


「クサナギといったか。あの行路のお陰でだいぶ楽をさせて貰った。それにしてもよくミズハが許可したものだ」


「まぁいろいろありましてね。双方納得の上の行路開通です」


「そのようだ。ミズハの表情を見ればわかる。……エルノア国王。あなたはどうやら調律を整える才がおありのようだ」


 アゥクはじっとノアを見やり、そう言った。全てを見通しているかのような眼差し。物怖じしない態度。何故かどこかで逢ったことがあるような、そんな既視感をノアは感じていた。


「調律……ですか」


「いずれわかるだろう。それでは私はこれにて失礼する。では後日」


 そう言ってアゥクは踵を返し、執務舎を出て行った。


「…………不思議な方でしたね」


「そうね。私も初めて会ったわ。キ・エラ連邦はあまりこういった他国との馴れ合いを好まないのよ」


「そうなんですか……仲良く出来そうですかね?」


「どうかしらね。向こうも伺っているようだったけれど、ここに来たことを考えると、ひとまずは友好的と捉えていいのではないかしら」


 ノアはフレデリカの分析を信じることにした。

 それにしても、得体の知れない方だった。キ・エラ連邦もきっとそうだろう――。どう付き合っていけるか、ノアは思いを巡らせた。


 こうして1日目は終了した。



 そして2日目。建国宣言とそのパーティーの前日だ。


 この日最初にやってきたのは都市国家リッタ。キ・エラ連邦とルタ・スクリット共和国の間に位置する街だ。豊富な森林資源と広大な農業を特色としている。ここも他の都市国家と同様、領主直々に挨拶にみえる。


 その後に続いたのはコニト村。クサナギ村のさらに東に位置し、キ・エラ連邦に面している村だ。クサナギ村と交流があり、主にコニト村からは食料を、その代わりに祈祷やお祓いなどで貢献しているようだ。ここも村長がやってきた。


 そしてこの日最後に見えたのは、ルタ・スクリット共和国であった。


「やあ初めてお目にかかる。我はルタ・スクリット共和国の国王、ルタ・スクリット4世だ!エルノア国王ノアよ、以後互いの国益のために友好の証を!」

 色黒の肌に白い衣装、金のアクセサリーが印象的なルタ・スクリット共和国国王――ルタがノアに握手を求める。ノアはもちろんそれに応じる。


「ありがとう友よ。エルノア国は多種族、多宗教国家と聞く。我は大変興味深い!どのようにしてそれらを治めていくのか!我らも国として一応は一括りだが、様々な文化、習慣、特色の村々が集まっただけの集合体。似た構図の国同士、協力できればありがたい!」


「そういっていただけるとこちらもありがたいです。……そうですね、時間も時間ですし、続きは食事をしながらでもどうですか?」


 なんだか話が長くなりそうだったので、ノアは別室で食事と酒をふるまい、話をすることにした。

 食事をこちらで用意しようとしたが、ルタが、我々で用意しよう!と連れてきた料理人が自前の食材を使い、豪華な料理があっという間にテーブルに並んだ。


「どうだ!これがルタ・スクリット共和国の郷土料理というやつだ!我の国は珍しい食材から香辛料、そして調理方法も大陸一を自負している!ご賞味あれ!」


 並んだのはどれも見た事の無い料理だ。カレーのような煮込み、何かの葉でくるまれた蒸し料理、色とりどりの野菜――見ているだけで腹が鳴りそうだ。


「素晴らしいですね……どれも見た事の無い料理だ。食欲をそそる……」


「そうだろうそうだろう!ノアは判る男だな!それでは食べながら話すとしようか!それでノアよ。君はどのように国をまとめていくつもりなんだ?」


「そうですね、エルノア国は自由と平等の国にしたいと考えています。具体的には、それぞれの村や都市はそのまま自治しつつ、なにか問題があれば議会という話し合いの場を設けて、皆で解決策や折衷案を模索し、国家運営する、といった感じでしょうか?」


「なるほど。我の国にはない仕組みだな。我らは階級で民を管理している。王族、商人、農民、奴隷の順に身分階級があり、それぞれ村単位で集まっている。村の位置も、階級ごとだ。そこの村長は皆よりも階級が一つ高い。奴隷階級の村には農民が村長として、農民の村には商人が村長として管理している」


「奴隷……ですか」

 ノアは獣人を狩るハンターを思い出した。


「ああすまない。西側は獣人を奴隷にするのだったな。我の国の奴隷は、主に罪人だ」


「西側でも、獣人を奴隷にするのはフェルニス王国とその文化圏の村くらいですがね……」

 ノアはそのルタの西側一括りの言い方に、少し気分を害した。


「重ねてすまない。エルノア国は平等の国だったな!以後言葉に気を付けよう」

 ルタはそうすぐに謝罪する。


「でもその仕組みだと、貧富の格差で争いとか起こりそうですが」


「そうならないように、国として富の分配を全員に行い、最低限の生活は保障している。税も商人以外からは取っていない。だから基本、稼いだ金は自分で使える。国家運営で必要な経費は、民が生産したものを交易して賄っている。確かに生活の質に階級差はあるが、そのために居住区を分けている。格差を知らなければ、羨むことも無いだろう」


 ノアはその上手く出来た仕組みに感心した。社会主義的といえばそうだし、社会主義にいい印象が無いのも確かだが、個人の富を認めることで自由競争が促されているのだろう。そもそも金や香辛料といった高価な資源が豊富なルタ・スクリット共和国ならではの運営だった。


「なるほど……よく出来た仕組みですね。勉強になります」


「しかしまぁ、問題が無いわけではない。軍事力だ。我らはこれを最小限に留めている。ここに歳費をかけると、民への分配が難しくなる。これまではあまり考えて来なかったが、今の時勢だ。ノアはどのように考えている?」


 ノアもまさに課題に感じている問題だった。


「僕も出来れば軍事力は持ちたくありません。今はルーデン公国と同盟関係にあるので、軍事力を頼っている状態です。エルノア国は魔族領にも村を抱えているので、獣人族やオーク族に助けてもらうことも想定はしていますが……そもそも、力を力で牽制しあう構図自体を好ましく思っていません」


「ノア……君は素晴らしい考えをお持ちだ!我も全く同意見だ!力とは誇示するものではなく弱きを助けるものだ。正しき使い方、というものを見つけられれば良いのだが……。我はそこを技術力で補えるのではと考えている。戦争で領地は奪えれども、ここ……つまり知恵は奪えない。奪えないもので圧倒出来れば、奪おうとしないのでは、と」


「確かに……それは良い考えです!まさにルタ・スクリット共和国が行っている統治方法もその一つですよね!領地を奪ったところで、民を管理しきれない」


「なるほど!確かにその通りだ!」


「あとは魔法に頼らない技術体系……特に動力なんかを発明できれば、万が一の時の自衛力として転用もできそうです」


「おお!それは大変興味深い!いやーノアよ……今すぐ我らと同盟を組もう!この話は国家同士協力するほかあるまい!」


 ルタは大興奮だった。ノアももちろん興奮している。ここまで考えの合う国王に出会えたのだから。

 しかし、ルーデン公国との同盟の事が気にかかった。ルーデン公国はルタ・スクリット共和国とは同盟関係にない。つまり、エルノア国が同盟を結んでしまうと、間接的にルーデン公国とルタ・スクリット共和国が同盟関係になる可能性があるからだ。


「そうしたいのは山々ですが……僕らはルーデン公国と同盟関係にあります。そちらはルーデン公国とは同盟関係に無いですよね……僕の一存ではなんとも……」


「そうだな。いや失敬した。つい興奮してしまってな。しかし、我らは共同研究という意味のみで同盟を結ぶことも可能だ!いずれにしても、エルノア国はルーデン公国とつながりが深いのだろう?フレデリカに確認してからでかまわない。ぜひ良い返答を期待している!それで、先の話だが……」



 こうして、ルタとノアの語らいは終わることを知らず、夜は更けていった――。


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