4章7話 男は、建国について考えた
マギナ村、コルダ村での難民受け入れ準備がようやく整いつつあった。
食糧事情はしばらくルーデン公国からの支援を頼りにせざるを得ないが、それもじきに解消できる目途も見えてきた。
ノアは、エルノア国の設計について詳細を考える。
まずは立地。
現状、大陸の西側において魔族の森と人間領は、魔女の家付近でのみ繋がっている。不可侵の谷が西の果てにあるルーデン公国まで伸びていて、その切れ目が、人間領を南北に二分するエルデ山脈との交差付近――つまり魔女の家付近だからだ。
そしてノアは、この魔族の森への立ち入りを制限したいと考えている。主にハンターの制限だ。魔族や大型の魔物からは良質な魔石が取れるので、魔道具の材料として需要が高い。そのせいで、実際獣人族が人間のハンターに狩られる事態になっている。他にも、獣人族が捕獲され奴隷としてフェルニス王国などへ売られることもあるのだ。
立ち入り制限をする案としては、この森との出入り口となっている所に街と関所を設けられればと考えている。当初マギナ村を首都として考えていたが、ここに首都を作ったほうが、コルダ村や魔女の家とのアクセスがいい。まだ先の話になるが、各村から移住者を募りつつ、首都の建設を進めていきたい。
そして国家運営。
建国時から法律を整備する必要があるかと考えていたが、元々この世界に準じた村々を併合して作る国なので、まずはこのままがいいのではという結論だ。しかし『平等と自由』。これだけは強く掲げていきたい。それを実現するための仕組みとして『議会』を採用しようと考えている。
議会――それは、全てを話し合いで決めよう、というものだ。国民間のトラブル、村単位の問題、国家運営においても、それらは関係者を集め話し合う。規模も当人同士レベルから国会のようなものまで、内容によって変え、必ず第三者――つまり議長が介入する。そうすることで、声の大きなもの、力の強いものといった権力者が自分の利益のために他者を虐げるような構図は避けられるだろう。
「となると……会議室が必要なのか……」
小規模なら、教会などが使えるだろう。しかし、もっと大人数での議会となると、広い会議室が必要だ。ルーデン公国なんかは、そもそもフレデリカの屋敷が大きく、集まる場所に苦労しない。そうなると、国王として大きな屋敷や城が必要なのでは――
「でもなぁ……そういう権力の見せびらかしみたいなのはなぁ……」
ダンやフレデリカが聞いたら怒るだろうが、やはりノアにはそういった『見て分かる国王』は好きにはなれなかった。確かにダンからは、国王としての振る舞いを教示いただいた。その中には、見て分かる権力として装飾なども大切だと言う事も。対外的にはそう振舞おうとノアも考えている。それも外交の一種だからだ。しかし国民に対してはそうはしたくない。議会を作ることだって、権力がノアに集中するのを避けるためでもある。
折衷案として、ノアの家は今まで通りとして、執務用に庁舎みたいなものを作るのが良いのかもしれない。
後は、領主制や貴族制は採用しない。領土は平たくエルノア国とする。領土の範囲は今のところ曖昧で問題なさそうなので、各村周辺とする。
それと外交。
特に交易は、いままでハイデンを経由してフェルニス王国やファシルファ王国とも交易が出来ていた。それが今となっては難しくなってしまった。フェルニス王国はハイデンを攻め落としたことで、ハイデンからの移民者がエルノア国には多い。正直、あまり関わりたくない。ファシルファ王国は積極的に交易したいが、ヒルダンテ公国がフェルニス王国に攻め落とされた今、最短の交易路であった港はフェルニス王国下だ。
つまり現状、国として交易できているのはルーデン公国のみと言う事になる。ルーデン公国はフェルニス公国やファシルファ王国、そしてさらに東、ルタ・スクリット共和国とも交易があるので、ルーデン公国を介せば交易は可能だが、出来れば早々に自前で交易路を用意したい。エルノア国に港は無いので、望みは最近見つけたエルデ山脈の切れ目――魔女の家のすぐ南である。この行路が使えれば、大陸東側の国々、ファシルファ王国やルタ・スクリット共和国、キ・エラ連邦とも交易可能だ。
外交で注意が必要なのは、間違いなくフェルニス王国とシルドニア皇国だ。建国するや否や攻めてくる可能性だってある。まずは初動で牽制をしなくてはならない。しかしこの牽制の方法に、ノアは頭を悩ませている。
なぜなら、そこには軍事が関わってるからだ。
正直なところ、軍事力を持とうとは考えていない。暴力は、持ってしまえば使ってしまうからだ。しかし、自衛のために軍事力を持つことは国防の定石のように感じる。これを軍事力に代わる何かで補えれば越した事は無いのだが、ノアにはそれが何かまでは見つけられていない。
その為の外交、という考え方もある。要は、エルノア国を敵に回すよりも、仲間にした方がメリットが大きければ、攻めてくる事は無いだろう。ひとまずは、ルーデン公国との同盟があるので、エルノア国自体に軍事力が無くとも牽制が出来る。魔族との交易もあるので、魔族軍の存在をちらつかせれば、より効果はあるだろう。しかし、ノアはそもそもの部分――暴力を暴力で牽制しあう構図を変えたいのだ。それに必要なのは、双方が武器を捨て、信頼することだ。それをエルノア国だけが武器を捨てても、解決はしない。つまり非常に難易度の高い、もしくは解決しない問題なのかもしれない。
それでも、方法を模索しつづけようとノアは考えている。
「ふう…………こんなところか……」
ノアは一息つき、ノートを書いていた手を止めて、冷めてしまった紅茶をすする。
国作りなんて規模の仕事、どこまで考えても、どこまでやっても、終わりが無いように感じる。
しかし、ナイトハルトの言うように、王は生まれつき王ではない。ある程度決めたら、後は走りながらでも良いのかもしれない。
――そう思うことにした。




