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4章5話 男は、方々に提案を持ち掛けた

 ルーデン公国へ来て数日間、ノアはフレデリカ公女陛下の夫、宰務官ダンの指導を受けた。

 元々生前、中間管理職をしていたノアにとっては、半分ほどは知識としてはあり、残り半分はこの世界ならではものが多かった。


 数日の教育を受け、ノアは魔女の家に戻ることにした。

 一方ルナリアは、まだ教育がかかるようで、1週間は覚悟してほしい、とのことだった。


 ノアはまずマギナ村へ向かった。


「おおノアさん!戻られたか!」


 ナイトハルトが出迎えてくれる。


「はい、ただいま戻りました!それで、いない間はどうでしたか?」


「特に変わった事は無いな!それぞれで家の建築が始まったところだ。強いて言えば、今後木材が不足するだろう。足りない分は行商人たちにかき集めてもらって、なんとか今は間に合っているが」


 木材――ここら一帯はそれほど森林資源がある訳ではない。それに、あまり木材に金をかけてしまうと、当面の食料確保が難しくなる。なんとか自前で用意したいところだが――


「わかりました。考えておきます!それでナイトハルトさん、少し中でお話よろしいですか?」


 ノアは、ルーデン公国での会合の報告を行う。

 エルノア建国の話、宗教や種族の垣根のない自由な国を作りたい話、それにあたって、獣人の村も併合する考えであることを。


「ふむ……なるほど。思い切った決断だな。私もこの身を捧げるつもりで協力しよう」


「ありがとうございます!」


「しかし、一部……特にニース村はノアさんと繋がりが弱い。国としての思想を彼らが受け入れるかは、少し課題に感じるな」


「そうですね。それはどの村もそうかもしれませんが、賛同してくれるかが大きな課題になりそうです。しかし、デメリットを極力ゼロにし、メリットを上手く抽出できれば、納得は得られるかと」


「そのデメリットが問題だな。自由というのは人の数だけ価値観がある。騙す自由、殺す自由……自由の定義をしっかり定めなければ、自由の名の元に無法地帯と化すぞ。特に宗教と種族は価値観を共有できない事が多い」


 自由――聞こえはいいが、規律無き自由は堕落だ。自律、モラル、正義感、そういったものはあてにはならない。思想や文化が異なれば、その定義も変わるのだ。


「そうですね。簡単ではないでしょう。全てを赦す、というよりも、妥協点を常に探す作業になるかもしれません。お互いが許容できる部分は必ずあるように感じます。それを僕は自由と定義したいです」


「ノアさんらしいな。言うほど簡単ではない茨の道だが、協力しよう!」


 ノアにとって、これほど頼もしい仲間がいることをありがたく思った。



 ***



 翌日、早速獣人の村――ビズマへと向かった。


「これはノアさん!お久しぶりです!今日は一人ですか?」


 ノアは以前、ナイトハルトに作ってもらった魔除けの馬具を活用し、一人でもビズマの村までは来れるようになっていた。これでわざわざ獣人が魔女の村にやってくるのを待たなくても、ここに来られる。


「ええ、魔道具でここまでは来られるようになりました!それで、折り入ってお話があるのですが。できればヤドさん、バズさんもご一緒に……」


「なるほど。わかりました。二人には使いを出してここに来てもらいましょう。数日かかると思いますが、ここに滞在しますか?」


「いえ、今日は戻ります。そうですね……5日後にここで会合したい旨をお伝えください。それと、ミィはいますか?」


「わかりました。ミィなら家にいると思いますよ」


 ノアは礼を告げ、ミィのところへ向かった。

 彼女には、ルナリアを結婚したことを伝えなくてはならない。あれほど懇意にしてくれていた相手に、どう伝えたものか、正直胃が痛い。


「んあ?ノアーリン!!お久しぶりにゃ!!」


 ミィの家を訪ねると、食事中のミィがいた。


「ミィ……お久しぶり」


「まぁ入るにゃ。ご飯は食べたかにゃ?簡単なものならあるにゃよ?」


「いや、大丈夫。何か温かい飲み物を貰えるかい?」


 とても胃に物をいれられる気分じゃなかった。せめて温かい飲み物で落ち着きたかった。


「はい、温めたミルクにゃ。それで、なにかあったかにゃ?」


 深刻さはきっとミィの言う匂いで気が付いているのだろう。元気づけようと、茶ではなくミルクを出してくれたのも、優しい気遣いを感じる。


「ミィ……落ち着いて聞いて欲しいんだけど……」


「大丈夫にゃ。ミィはいつだって冷静沈着だにゃ」


 とてもツッコミをいれる気分ではないのでスルーする。


「僕……この度ルナリアさんと結婚することにしました……」


 恐る恐るミィの顔色を伺う。きっと怒っているだろうと思ったが、その顔はあっけに取られたような、驚いているような、そんな顔だった。そして――


「め…………」


 め――?


「めでたいにゃ!!!おめでとうにゃ!!!さっすがノアーリンにゃ!!!」


 体めいっぱいに喜ぶミィ。まるで自分が結婚したかのような喜びよう。フレデリカのそれとは違うものの、同じくらい、喜んでくれているのがわかる。


「ありがとう……ミィ……正直すごく怒られるのかと……」


「へ?なんでにゃ?こんなめでたいのに?」


「だってほら……ミィはその……僕と結婚するといってたし……」


「うん。ノアーリンとは結婚するにゃよ?」


 ん?――


「ノアーリンは人間界でエルフと結婚するにゃよね?でもそれとミィとの結婚は関係なくないかにゃ?だって魔族の森は人間界じゃないにゃよ?」


 え?獣人のルールってそういう感じ?――


「それに獣人族は結婚相手が一人とは限らないにゃ。お互いの理解があれば、何人とも結婚するにゃ。まぁそんな甲斐性がある獣人は稀にゃけど」


「そ、そうなの……?」


「そうにゃ。ビズにも聞いてみればいいにゃ。つまりあのエルフとの結婚はミィにはそこまで関係ないにゃ。問題は、ミィとノアーリンが結婚するのか。これだけにゃ」


「いやいや!それだけではないでしょう!ルナリアさんの了解も無いと!」


 あの人はなんて応えるんだろうな――


「まぁそれはそれにゃ。だから、まずはおめでとうにゃ!さすがミィが見初めただけのことはある!」


 まあ、ひとまず祝ってくれているので、ノアは良しとした。



 ***



 ノアはひとまず魔女の家に帰り、ここ数日の事を振り返っていた。

 5日後には獣人村3村との併合を話し合う。

 それまでに、マギナ村、コルダ村、ニース村へ、建国と国としての方針を公表し、反応を見たい。

 それらが上手くまとまれば、フレデリカと相談し、各国に招待状を書き、建国宣言を行う。

 後は役職の配置だ。村長はそのまま維持するとして、マギナ村は首都として格上げする。そうなれば領主はナイトハルトに頼むことになるが、彼は有能だ。本当はノアの側近としてサポートをお願いしたい。

 つまり、人材不足なのだ。内政や外交に関しては、正直もっと人を厚くしたい。

 ノアは、もっと外の世界に出て人と会っておくべきだったと、ここにきて後悔した。



 ***



 翌日、マギナ村、コルダ村、ニース村へ、併合と建国、エルノア国としての思想や方向性を書いた文書を送った。一応民意を確認したかったので、反対意見がどれくらいあったかも報告してもらうことにした。


 結果は数日で届き、マギナ村はほぼ100%賛成、コルダ村は少しだけ票が割れたが、それでも80%が賛成となったようだ。他の20%も反対という訳ではなく、判断がつかない、という保留の意見だったそうだ。


 問題はニース村だった。返答が来なかったのだ。行商人に様子を伺うと、反対意見が多く、まずはしばらく様子を見てから判断したい、という形でまとまりそう、とのことだった。確かに、ノア自身行ったことのない村で、この併合の話も、近いから、という理由だけで誘っていた節がある。つまり、ナイトハルトの言う通り、ノアの影響力が及んでいない村なのだ。仕方ない結果だった。


 まずはマギナ村を中心に、コルダ村を有する国としてエルノア国を建国する流れになるだろう。

 あとは獣人の村がどう反応するか――


 そして会合当日――


 早速ノアはビズマの村へ向かった。


 既にナーレの村村長ヤドとゾフ、ノルンの村村長バズと他3名がビズマの村へやってきていた。


「久しぶりだな、ノア殿!」


「ヤドさん!挙式ぶりですかね!お元気してましたか!」


「ああ元気だとも。次の村長が成人するまでは、老いるわけには行かん!なぁバズ」


「まったくだ!俺なんか次の村長探しから始めないとならん!流石にこの歳でガキをこさえるのは大変だ!」


 あっはっは!――と、二人は豪快に笑い飛ばす。


「さ、では早速話し合いましょうか」


 ビズが場を取り仕切る。


「それでは、ノアさんから」


「はい。まず皆さんにお集まりいただいたのは、この度、人間領のほうで僕が仲良くさせて貰っているマギナ村とコルダ村があるのですが、これらを併合して、この度、エルノア国という国を建国することになりました。国王は僕、ノアが務めさせてもらいます」


 一同が、おお!――と感嘆の声を上げる。


「この国は、宗教や種族を越えた自由の国を目指していきます。そこで皆さんにご提案があります。エルノア国に編入しませんか?」


「ほう……ノア殿の国に編入、か……」

 ヤドは長いあご髭を撫で、考え込む。


「……ノアさん。編入に関して、こちらのメリットとデメリットをわかりやすく説明できますか?」

 ビズがそう訊いてくる。どうやら彼も、統治についていろいろ勉強しているようだ。


「はい。まずメリットですが、この大陸のエルデ山脈より東側については、この村がある魔族の森へ行くには魔女の家付近を通る必要があります。まずビズマの村がエルノア国へ編入となると、完全にこの行路がエルノア国の物となります。つまり、東側から、基本的には人間が勝手に出入りできなくなります」


「なるほど……つまり、ハンターなどから守れる、と」


「これにはまだ課題もありますが、そうなるように善処します。あとは、エルノア国となれば、村の運営を直接的に援助できますし、他国との直接的な交易も可能ですので、もっと幅の広い運営が可能になります」


「なるほど……つまり、人間の知恵や技術を今まで以上に享受できる……」


「そうです。あとデメリットですが、もし仮に他国と戦争になった場合、人間側につき戦ってもらうことになるかもしれません。それと、これは僕の能力にも左右しますが、もしかしたら、いままでのような自由な運営が出来なくなるかもしれません」


 一同、下を向いて考え込む。


「ノアさん……すみません。正直な俺の感想としては、人間の為に命を懸けることに、同意しかねます……」

 ビズが申し訳なさそうに言った。


「…………そうだと思います。では、バズさんにお聞きしますが、そちらにいるベゼルですが、彼は人間です。彼に危険が迫った時、あなたはどうしますか?」


「ベゼルはもう私たちの仲間だ!命を懸けて守るさ!」


「そうですか、ありがとうございます!」


 そう言い切ってくれたバズに、感動し少し涙が出そうになるノア。


「……つまりですね、エルノア国にいる人間に対しても、いずれそういった感情が芽生える可能性は、あるのだと考えています。それにはもちろん、お互いの交流があって、支え合って、初めて芽生えるものですが」


 ビズははっとした顔でノアを見やる。

 人間、という種族のひとくくりは他人かもしれないが、自分の身近の人間は、仲間なのだ。


「たしかに……その通りかもしれませんが……」


「もちろん、人間に憎悪している者もいるでしょう。それを払拭するのは難しい。ですが、その憎悪する人間は、誰か個人かもしれませんし、なにかしらの集団かもしれません。しかし、それを種族単位で偏見を持ってほしくない。そしてその偏見を払拭するために、エルノア国があると考えています」


「……難しい。本当に難しい問題だ。しかし……ノア殿の考えには賛成だ。ナーレの村は、エルノア国に編入することにする!いいな?ゾフ」


「もちろんです」


 ヤドとゾフは編入を了解してくれた。


「ふむ。それなら我々ノルンの村も編入せざるをえないな!乗ったぞノア殿!」


 バズも、この話に乗ってくれた。


「お二人とも決断が早い……そうですね。俺も特に否定したいわけではない。しかし慎重に行きたいのも事実……ですが、ここは勢いの任せてノアさんについていきます!俺らはそうやってここまで来ましたから!」


「ビズさん……ありがとうございます!バズさんもヤドさんも……ありがとう!」



 こうして、エルノア国にはマギナ村、コルダ村、魔族の森からビズマの村、ナーレの村、ノルンの村が加わることになった。


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