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4章2話 公女は、男に迫った

 明朝――


 ナイトハルト、クリス、ルナリアは、それぞれの目的地へ移動の準備を進める。


「すみません、皆さん。少し計画を変更します。僕は日中、コルダ村に常駐することにします。なのでクリスさんはニース村に残っていてかまいません。もし誰かに任せられそうなら、コルダ村へ」


「了解した!」

「かしこまりました」


「ルナリアさんはルーデンでの仕事が終われば魔女の村へ戻ってかまいません。その際にマギナ村の行商人か、居れば僕に、結果報告を。もしルーデンに残るようでしたら、使者にマギナ村まで伝言を」


「わかった」


「では皆さん、お気をつけて!」


 一同は散開した。



 ***



 ノアとナイトハルトがコルダ村へ到着する。


 既に数組がコルダ村へ着いていたようで、すぐに受付窓口を開設する。


「初めまして、難民受付のノアと申します。人数とお名前、ご職業をお聞きしてもいいですか?」


「カルロだ。人数は俺だけ。行商人をしている」


「普段はどのような行商を?」


「以前はヒルダンテの港からファシルファへ交易を。だがここ最近はそれが出来てねぇ」


「ありがとうございます。それでは、もう少しご足労いただきますが、マギナ村で受け入れます。そこでダリア商会かルーク商会の者がいますので、行商の指示を仰いでください」


「ここじゃダメなのか?」


「ここもキャパがありますので……マギナ村なら倉庫もあります。行商人にはうってつけかと」


「そうかい。ありがとう!」


 難民一組を受付する度に、あとで混乱しないよう集計を取っていく。部屋数、職業、人数、名前を記入した名簿も保管する。即席のアイデアなので、どこにほころびが出るかわからない。なるべく思いつく限り必要になりそうな情報は書きだめておく。


 昼前から始まった受付だったが、行列ができるような事は無く、最初の受付さえ終わってしまえば、途切れ途切れの難民対応となっていった。


「ノアさん、そろそろマギナに戻れるんじゃないかね?」


「そうですね……」


 ノアは溜まった十数枚の名簿と集計を何度も見直す。

 半分ほどが行商人。2組が家族連れの小売商、1組は真シルド神正教神父一家。他は元ヒルダンテ公国民――つまり元難民だった。


「ヒルダンテからの難民も多いですね……」


「そうだな。きっとまだハイデンに土着していなかったんだろう。だから素早く逃げて来られたのでは?」


「なるほど…………」


「それでも、ヒルダンテの難民も、商売人が多いようだ。小売商ばかりに偏ると村の生計が難しいぞ」


「そうなんですよね。だから一時的にでも職を変えてもらう必要がありますね」


「確かに。それに逃げてきた以上、贅沢は言わないはずさ」


「そう祈ります。それでナイトハルトさん、とりあえず数日は僕もここで様子を見ようと思います。もしくはクリスさんが来てくれれば、交代ということで」


「了解した!それなら、手が空いてるうちにノアさんは少し休んでいてくれ」



 ***



 大きな混乱は無く、一日目が終了した。


 やってきた難民は家族も含め総勢40名程。すでに3村の受け入れできる数の限界に近い人数だった。


 そして二日目――


 やはり国を離れるとなると準備に時間がかかるのだろう。この日は前日よりも多くの難民が押し寄せた。ルーデン公国への誘導と、既に受け入れた人との入れ替えも行う。クリスが戻ってきてくれたが、難民の数が多かったため、ノアはコルダ村に常駐し受け入れ判断に専念した。その甲斐もあり、大きな混乱は無く二日目も終了。


 三日目――


 この日は家族連れが多かった。真シルド神正教信者なんかも少なからずおり、中には負傷者もいた。


「この傷はどうされたのですか?」


 クリスが難民へそう質問する。


「異端審問官にやられたのさ……たまたま襲撃の時に聖堂にいてね……」


「それは大変でしたね……手当や治療などは必要ですか?」


「ああ…………いや、でもシルド神教会に行くのは避けたい……」


「わかりました。ポーションがありますので、痛みが引く程度ですが治療しましょう」


「ありがとう……」


 クリスは手持ちのポーションをその難民にかける。


「おお、痛みどころか、傷も消えてなくなったぞ……なんだいそのポーションは」


「これは、ルーデン公国の特別なポーションです。シルド神教会を通していないので、内緒にしてくださいね?」


 ノアがそう口を挟む。本当は魔女ポーションを濃い目に薄めたものだが、あまり吹聴されるとまずいので、ルーデン公国製とした。

 まあ、ルーデン公国のポーションも魔女ポーションなのだが。


 そんなことが何度かあり、三日目が終了。


 4日目となると、だいぶ難民数が落ち着いた。聞いたところによると、行商人以外の出国を制限するため、ハイデンを囲うように兵士が配置されているようだ。城壁がある訳ではないので、囲うのも大変、そしてもちろんすべてを見きれていないので、難民を完全に抑えることは出来ていない、とのこと。


 今後はこの数を大きく超えることは無いと判断し、コルダ村はクリスに任せ、ノアとナイトハルトはマギナ村へ戻ることにした。



 マギナ村へ戻ってきて数日後、ルナリアが帰ってきた。


「ルナリアさん!長旅お疲れ様でした!」


「ああ、フレデリカも二つ返事で難民の受け入れを許可してくれたよ。そして少し落ち着いたら、こちらへ様子を見に来る、とも言っていた」


「え、わざわざ来るんですか?ルーデン公国だって、フェルニス王国のこともあって緊迫しているでしょうに」


「だからなおの事、だそうだ」


「そうですか……なにか考えあってのことなら、仕方ないですね」



 そして数日が経過した。


 ノアが思っていたよりも早く、フレデリカ公女陛下一行がマギナ村へとやってきた。


「順調かしら?ノアさん」


「フレデリカ公女陛下……お久しぶりです。今回の難民受け入れの件、大変助かりました」


「ケルヒ領民の恩をお返ししたまでよ。それで?状況はどうなのかしら?」


「難民の世帯数は72組で総数189名。そちらへは142名が行っています。現在はひとまず落ち着いており、1日2~3組ほど。ハイデンで何か大きなことが無い限りは、この調子かと」


「そう。それで、今後の方針は?」


「1か月後以降から、徐々にルーデン公国へ行った難民の受け入れを開始できるかなと。マギナ村、ニース村、コルダ村それぞれの人口も増えるので、村の特性や難民の職業で最適化をはかって割り振っていこうと考えています」


「そうね。でも、私が訊いているのはその先の話。村々の運営はどうするつもりかしら?」


「村々の運営……ですか……規模はそれぞれ2倍ほどになってしまいますけど、今まで通り、ではダメでしょうか?」


 フレデリカは、ふぅ――と細く長い、ため息のような息を吐き、改めてノアを見る。


「それでは、今後またハイデンと同じことにならないかしら?」


 確かに、難民の中には真シルド神正教信者や神父までもいる。同じ活動が起こらないとも限らない。そしてハイデンからの難民を受け入れた村々の発展は加速するだろう。そうなると、再びフェルニス王国の標的となるのではないか。


 ノアはそこまでまだ考えていなかった。


「すみません……そこまでは思い至っていませんでした」


「そうね。でもきっと思い至っていたとしても、私の望む回答はきっと貴方には出せないでしょう。だから私はここへ来たの」


「そう、でしたか…………すみません、力不足で」


「力不足……そういうわけではないのだけれどね……。貴方はどうも、裏方へ廻ろうとする節があるものだから。まぁそれが貴方の良い所でもあるのだけれどね」


「はあ…………」


 なんだか褒められているのか、諫められているのかわからないノア。


「それで本題。ノアさん。貴方、国を作りなさい」


「え!?国を!?」


「そう。国。この3村を統合し、国を作るの。理由は二つ。外交と内政よ」


「外交と内政……」


「国を作れば、フェルニス王国やシルドニア皇国、ルーデン公国と立場上は対等となるわ。そこで外交をし、戦争から村を守るの。そして内政。大きくなっていく3村の運営を俯瞰してみることができ、円滑に活用し豊かにする方法に幅が出来るわ。こうなってしまった以上、立国するほかない、と私は思うのだけれど」


「しかし、ヒルダンテ公国ですら、敗戦しているんですよ?立国したからといって……」


「そう。だからヒルダンテに無くて、ここに在るものを強みにしなくてはいけないわね?」


 ヒルダンテ公国に無くて、ここに在るもの――


「魔女ポーション……魔族の森との交易……それと、フレデリカさん」


 ちらり、とノアはフレデリカを上目づかいで見やる。

 するとフレデリカは、くすっと笑いを漏らす。どこか嬉しそうに。


「ええ、そうね。私、いえルーデン公国との関係性も、ヒルダンテには無かったピースね」


「フレデリカさんは、これらが牽制できる材料になりえる、と?」


「なりえるわね。一番はルーデン公国との同盟。これがあれば簡単には攻めて来られないはずよ。そして魔女ポーション。兵力の回復力は兵数と同じくらい恐ろしいものよ。あとは、軍事力。魔族と生活面で協力関係にあるのであれば、偽りでも魔族軍の存在をほのめかすことが出来れば、まず攻めてこないでしょうね」


「なるほど………………」


 目から鱗が出るのであれば、とっくにノアの目からはボロボロと出ていたことだろう。


「立国するのであれば、ルーデン公国は正式に同盟を結び、支援を惜しまないことを約束するわ」


「そこまでしてどうして…………」


「この同盟はルーデン公国にとっても有益な取引だからよ。決して私情ではないことははっきり言っておくわ」


 つまり、フレデリカも自国を想って行っていることなのだ。ノアはその言葉に少し救われる。


「わかりました……立国の件、考えさせてください」


「時間の猶予もまだあるわ。ゆっくりお考えなさい。でも、貴方はこういう事に逃げ腰だからあらかじめ言っておくわ。王となるのは、貴方よ。いいわね?」


「………………」


 ノアは、返事が出来なかった。


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