表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/30

3章3話 娘は、魔女に会いたがった

 ナイトハルト率いる元ヒルダンテ公国ケルヒ領の領民の、マギナ村への移住が本格的に始まった。


 ルーデン公国から大工などが多数派遣されたこともあり、倒壊していた家屋の再建はほぼ完了。ついでに宿兼酒場の建設、食料や日用品を扱う店も小さいながら完成し、マギナ村は見違えるほど綺麗になった。


 そしていよいよ、一部だった村への移住者も、数日後には全数が移住してくる運びとなった。

 元ケルヒ領領民に加え、ルーデンからも新天地で店を開きたい者などが集まり、総勢50名ほどと膨れ上がった。急に大きな村へと変わることにノアは少し臆していたが、村長ラエルもルーデン公国公女フレデリカも好ましい目で見守っているのを見て、心配するのを辞めた。


 食糧問題はじめ交易については問題が多かったが、ルークの計らいで、専門のルートを用意すると言ってくれた。魔女の家、マギナ村、コルダ村、ハイデンに合わせて、酪農中心のニース村などの近隣村との連携強化もそうだが、将来的にはルーデン公国との交易強化を狙ってのことらしい。いかにもルークらしい先を読んだ投資だ。


 そして、そのルークの計らいでやってきたのは――


「お久しぶりですわ。ノアさん」


 ルークの長女にして、現在ダリア商会を立ち上げた商人、ダリアであった。


「お久しぶりですダリアさん!改めて、独立おめでとうございます!」


「ありがとうございます。これでノアさんへのお約束、果たせそうですわね」


 約束――?


「私はお約束しましたわ。ノアさんに幸せになってもらう、と!」


「ああ、そういえばそうでしたね!こちらこそ、商売のお役に立てそうで何よりです。それで、今日はどのようなご用向きで?」


「大工がいる今のうちに、拠点を作っていただこうと思いまして」


「拠点?ここに?」


「ええ、ダリア商会はハイデンを離れ、ここマギナ村に拠点を移すことにしましたわ。まぁ父の言葉添えもあってのことなのですが……」


 今後マギナ村はきっと大きくなる。ルーデン公国との交易や魔族の森との交易も考えるなら、マギナ村は良い立地となるはず。今のうち唾をつけておくことは、今後大きな利益となるだろう――と。


「なるほど……さすがルークさん……見えている視野が広い……」


「それで、大きめの倉庫と事務所を立てたいのですけれど、まだ場所はあるかしら?」


 ノアは良さそうな場所を見繕い、村長へ取り次いだ。


「ありがとうございますノアさん。村長の許可が下りましたわ。今後はここを起点に、ニース村、コルダ村、そして魔女の家。この4点の内部流通を私ダリア商会が担当します。外部とはルーク商会を通じて仕入れと卸しを。ですので……その…………」


 ダリアは少し言いにくそうにする。


「ん?なにか頼みごとでも?」


「あの!私を魔女の家に!案内していただいてよろしいですか!!」

 鼻息荒く、ダリアはそう懇願した。



 ***



 マギナ村から、空の荷馬車で半日かからない距離の魔女の家に戻ってきた。ここしばらくはマギナ村の再建を手伝っていたこともあり、帰るのは数日ぶりだった。


「ここが……夢にまで見た……魔女の家……まぁ素敵!まさに魔女の家!!」


 大興奮のダリアであったが、このままルナリアに会わせては、お互い粗相をしかねない。まずはダリアを落ち着かせるために、ビズマの村から届いた交易品が置いてある物置に案内した。


「なるほど……これらを獣人族が…………ぜひともお会いしてみたいですわね!」


「そのうちね。魔素の適性があれば、獣人の村へ連れて行くことも出来たかもしれないけど……」


「それは残念……私にはその素養がありません……はぁ獣人の村……一体どんなところなのでしょう……」


 まるで夢見る乙女のように、ダリアは天を仰いだ。


「今日は魔女で我慢してね」


 これで少しはルナリアへのハードルは下がったはず――ノアはダリアを魔女の家へと案内した。



「ただいま戻りました」

 ノアが魔女の家へと入る。続いて恐る恐るダリアも中へ入っていく。


「お邪魔……しま……す……」

 ダリアは興味津々といった具合に、家の中をまじまじと観察する。


「おかえり、ノア。なんだ、今日は生きた人間を連れてきたのか?」


 きっと以前、ミィを抱きかかえて帰ったことを言っているのだろう。それにしても言い方というものがある。


「初めまして、生きた人間、ダリア商会のダリアと申します。ルーク商会から引き継いでお取引させていただく事になりましたので、そのご挨拶に」


 仕事モードのダリアは頭がよく回るようだ。ノアに向けられたルナリアの皮肉をあえて受け、冷静に自己紹介をしてのけた。


「ふむ……魔女に臆しないとは、大した度胸だ。私はルナリア。初めまして」


「ルナリアさん……お近づきの印に、手土産を用意いたしました……どうぞ」


 ダリアは鞄から一冊の本を取り出す。


「おお、これは!魔法研究論文の新刊!ダリア……君とはいい取引ができそうだ!」

 ルナリアは大層喜んでいる。流石商人。心をつかむ方法を心得ているようだ。


「…………………ルナリアさん、もしよろしければ、こちらも」


 なにやら小声でルナリアに耳打ちをし、そっと小さな本を手渡す。


「ん?これは………………なっ!!!」

 ルナリアは少し読んだ後、顔を真っ赤に染める。


「もし、お気に召したようでしたら、続きを手配いたしますわ…………」


 ずる賢いキツネのように目を細め、ルナリアにそっと耳打ちをする。


 パタン、と本を閉じたルナリアは、まだ火照る頬のまま、考えておく、とだけ返した。



 ノアは、なんとなく、本の中身を察していた。



 後日、ルナリアの隙を見て中身を確認したが、予想は的中。


「ルークさん…………案の定、交易品にしてますよ、ダリアさん…………」


 きっと近隣の村々で流行るんだろうなぁ――ノアは遠い目をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ