2章10話 ドワーフは、遥か先で繋がっていた
少し経ち、ようやく念願のノアの部屋が完成したころ、コルダ村からベゼルがやってきた。
「お久しぶりです!ノアの兄貴」
「久しぶり、べセル!早速だけど、これから君には魔女に逢ってもらうから」
そう聞き、みるみる顔色が悪くなるベゼル。
「え、魔女……本当にいるんですね……魔女……」
ノアも説明していなかったし、きっとルークも冗談交じりで話したのだろう。ベゼルは少しおびえていた。
「ああ、大丈夫。取って食われたりはしないから。…………失礼がなければ、ね」
「いやもうそれ食べられる奴じゃないですか……」
はははは――とノアは笑った。
そしてそのまま、臆するベゼルの背を押し、魔女の家へと招き入れた。
「ルナリア様。ベゼルをお連れしました……」
ノアは家に入るや否や、膝をつき、声に力を入れてそうルナリアに告げる。
その様子を見て、ベゼルも慌てて膝をつき、頭を下げる。
「…………何の真似だノア。まあいい、ソファに座ってくれ。いま茶を用意する」
すっとノアは立ち上がり、はい、といつもの様子に戻る。
ベゼルはどうしていいかわからず、うろたえていた。
「ほら、ベゼル。座りなよ。いいソファだよ」
立ち尽くすベゼルに、ルナリアが助け舟を出す。
「ノアがなに吹き込んだが知らんが、そう構えないでくれ。取って食いやしないから」
「………失礼が無ければ、ね」
ノアがいたずら気に口を挟む。
「君は少しいたずらが過ぎるところがあるな……。ベゼル、といったか。本当に気にしないでくれ」
はい、それでは――と、ベゼルは恐る恐るソファに腰掛ける。
「ごめん、少しからかい過ぎた……ルナリアさんはとてもいい人だよ。安心して」
「ほんとやめて下さいよ……ただでさえ知らない人と話するの苦手なんすから……」
わるいわるい――と謝るノア。
「それで……少し話を訊きたいんだが、ノアから詳しい説明は聞いているか?」
「いえ……いい鍛冶師を紹介してもらえる、とだけは」
ルナリアに怪訝そうな顔で責められ、ノアはベゼルに詳細を説明した。ドワーフ鍛冶師ドレイクのこと、魔族の森に入る必要があること、その適性を調べたい旨を。
「…………」
「どうだい?魅力的な話だとは思うんだけど……」
「…………怖い、ですね」
「ドレイクさんのいる村は僕の知り合いもいる。慣れは必要かもしれないけど、挑戦してみる価値はあると思うよ」
「そうですよね……めったにない機会ですよね…………俺、やってみます!」
「そしたらあとは魔素への適正…………」
話はルナリアに代わる。
「ベゼル。代々コルダ村で鍛冶師をしている家系と聞いたが」
「はい。コルダ村が出来たころから、と」
「ふむ……で、それを証明できるものはあるか?」
「そうですね…………いえ、そういうものは」
「代々残っている物とかは無いか?」
「ううん…………………あ、初代が打ったと言われている包丁なら」
「なるほど……その包丁はまだ使えるのか?」
「ええ、かなりの業物で、切れ味が全く落ちないんです!それが……これです」
鍛冶師に見せるつもりだったのかもしれない。ベゼルはその代々継がれてきた包丁を持って来ていた。
「うん…………やはりな。これはドワーフが打ったものだろう。わずかだが、ドワーフの魔力を感じる」
「え、つまり……ベゼルにはドワーフの血が……?」
「ああ、コルダ村は開村するとき、鍛冶師にドワーフを迎えたと聞いている。かなり昔だがな。そしてそのまま人間と添い遂げた者もいたと聞く。それがもしかしたらベゼル。君の一家がそうなのかもしれない」
「え、でも僕の父も母も、人間でしたが……」
「ドワーフは長命種だから繁殖力が弱い。だから人間と交われば、基本人間が生まれる。しかし、魔力への適性は受け継がれることはありえる。まあドワーフも魔法が使える種族では無いから、子孫も魔法は使えないがな。きっとドワーフが混ざったのは数代前の話だろう」
「えっと……」
「つまり、ベゼルに魔素への適性があってもおかしくない、って話さ」
ノアが話を要約する。
「ここにきて、体に変化とか、気分とかどうだ?」
「そうですね……特には。馬車に長く乗ったのは初めてでしたが、その割に少し体の調子がいいような感じはします」
ノアがここにきて初めての朝に感じた爽快感と同じなのかもしれない。
「なるほど……それなら、魔族の森に入れても問題ないかもな。体調が優れなくなったら、すぐに伝えてくれ。ここも魔素は人間領よりは濃い」
「わかりました」
こうしてベゼルは、少しの間魔女の家でお世話になった後、ドレイクに逢いに行くこととなった。
***
数日後――
薬草を届けに来たビズ一行に、野菜や干し肉と共にノアとベゼルを荷車に乗せてもらった。
そしてビズマの村へ到着。
ビズにドレイクを呼び出してもらい、3人にそれぞれ紹介、改めて説明をする。
「まずはドレイクさんには先日ビズさん経由で話させて貰っていましたが、彼が人間の弟子、ベゼルです」
「は、はじめまして。ベゼル、です」
「ドレイクだ。腕、見せてみろ」
ドレイクは挨拶もそこそこに、ベゼルの腕――筋肉を確認し、そして手のひらも見る。
「まぁ槌は毎日振っているみたいだな。腕は細っこいが、手は悪くない」
「あ、ありがとうございます!」
「俺は教えたりしない。見て学べ。採掘と錬鉄は出来るな」
「大丈夫です。…………あと、これなんですが」
ベゼルは、代々継がれた先代の包丁をドレイクに見せる。
「これを打てるようになるには、どれくらいかかりますか?」
「…………ほう、なかなかの包丁だ。お前次第だが、早くて50年……ってところか」
まじまじとその包丁を確認するドレイク。
「…………ん?ヤ、ン?おいベゼルと言ったか、これどこで手に入れた?」
「それは俺の家で代々受け継がれてる初代の打った包丁です」
「どうやらドワーフが打ったらしいですよ」
ノアが補足を加える。
「ああ……確かにドワーフの仕事だ。それにこの小さくて消えそうなヤンという文字…………ヤン…………そうか、お前の…………」
「お知り合い……ですか?」
「俺の…………息子だ。100年以上前に出て行った、俺の…………そうか…………」
一同が驚きを隠せなかった。
「つまり……ベゼルは……ドレイクさんの……子孫?」
「そういうことになるな」
なんとも複雑な顔でお互いを見るドレイクとベゼルは、喜ばしいことなのだろうが、どう触れていいかわからず立ち尽くしていた。ノアとビズも間に入ることが出来ず、見守ることしかできない。
そんな中、重たくなってしまった口を最初に開いたのはドレイクだった。
「…………人間の寿命でどこまで打てるようになるかは、わからん。だが、この包丁を超えられるようになるまで、面倒見てやる」
「あ、ありがとうございますっ!!」
こうして、ベゼルは自らの祖先にあたるドワーフのドレイクに師を仰ぐこととなった。




