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魔女に拾われた男は、ただ静かに生きたかった  作者: 黒田百目
異世界新生活編 ※クソ長ぇ序章
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2章2話 男は、初めての村で圧倒された

 数日が経ち、いよいよルークと共に交易路を回る日となった。

 魔族の森に入る時もそうだったが、やはりこの魔女の家の、外の世界に飛び出すということにノアは興奮気味だった。


「毎度さん!ノアさん!もう準備万端だね!」


 ノアは待ちきれず、玄関前で座って待っていた。


「おはようございます!ルークさん!今日からお願いします!」


「こちらこそ!大体7日くらいの旅になるけど、旅費とかの準備は大丈夫かい?」


「はい!問題ありません!」


 ノアはルナリアから旅費として少し多めにお金を借りていた。

 もちろん、借りたものなので、返さなければならない。出世払いで。


「それじゃ行こうか」


 ルークとノアは荷車のような馬車に乗り、出発した。



 ***



 まず向かう村は、魔女の家から一番近い、マギナ村。徒歩で1日、荷馬車でも半日ほどの距離がある。

 マギナ村は、不可侵の谷、と呼ばれる人間領と魔族の森を分断する非常に長い渓谷の付近に位置し、魔女の家からはその不可侵の谷を挟んで反対側になる。魔女の家からマギナ村に行くには、不可侵の谷の切れ目――ちょうど魔女の家の付近から、谷に沿って向かう形となる。


「マギナ村は……まぁ今は普通のさびれた農村だよ。20年くらい前までは、『魔法使いの村』なんて呼ばれて、もう少し活気があったんだけどね」


「どうして『魔法使いの村』なんて?」


「宮廷魔導士とか、教皇直属神父なんかに、この村の出身者が非常に多くてね。なんでも、魔石から出せる魔法効率がよくて、一般人じゃ扱えないような大きな魔石も発動させられるとか。それで、シルド神教教皇がこの村に助成金を出して保護していたんだけど、10年位前からそういう人たちが生まれなくなってしまって、助成金も打ち切り。残ったのは、活気があった頃のまま麦を作っている農家と、忘れ物のように残っている小さな教会くらいなものさ。私ら商人は、その大量につくられた麦を買い付けて、他所に売って、なんとか村にお金を落としているってわけさ」


「なるほど…………それでどうっすか?儲かってますか?」


「ははは……まぁ食っていく分にはね。小さな商会だけど、収穫時期や高値で売れそうな時期を見計らって、上手く回しているよ」


 え――と、ノアは思わず声が出た。


「ルークさん、まさか社長さん?」


「ほんの数人の商会だよ?社長なんてそんな……こうして自分の脚で仕事しないとならないくらいだし。前はもう少し大きかったんだけどね。以前、魔族の森で襲われて……って、この話は前にしたことあったね」


「その時から、規模を小さくしたんでしたっけ?」


「そう。昔はフェルニス王国のゼファーという結構大きな街に拠点があったけど、今はフェルニス王国から離れて、ハイデンという街に移してる。ゼファーに比べると小さいけど、いい街だよ。最後に寄ることになるから、楽しみにしていてね」


 他にも、ルークの商売の話、家族の話、荷馬車の運転の仕方などを教えてもらった。



 そして夕方――



「はい、お疲れさん。ここがマギナ村だよ」


 こじんまりとした小さな村――

 収穫時期をそろそろ迎えそうな麦畑を夕日が金色に輝かせ、やけに大きく見える古びた教会の尖った屋根に夜の影を落としていた。村人はもう家の中なのだろう。夕食の匂いがどこからとなく漂ってくる。


 ノアは、久々に人々の営みを感じて、すこしだけ懐かしくなった。


「さ、今日はもう遅いから、まずは教会に行って一晩泊まらせてもらおう」


 ルークはそう言って、再び荷馬車を走らせた。



 ***



「マリエッタさーん!毎度さーん!」


 ルークが教会の戸を叩き、名前を呼ぶ。

 マリエッタ――名前からして女性なのだろう。

 ということはシスター?――ノアは期待した。若くて美人なシスターを。


「はいはい、ったく、ルークじゃねーか。来るならもちっと早く来いよ。こちとら食事中だってのに」


「いつもすまない!魔女の家から来るとどうしてもね」


 出てきたのはシスターマリエッタ。期待通り、美人でそこそこ若い!が――


「お、今日はお連れさんもいるのか。神のご加護を……よしまぁとりあえず入ってくれ。飯食うだろ?」


 口調といい、投げやりに祈るポーズを取る姿といい、なんとも粗雑な人のようだった。



 ***



 教会の中は、小さな礼拝所と見知らぬ像――きっとこの教会が祭っている神様なのだろう。ルークの話ではシルド神教の教会らしいので、多分これがシルド神?なのだろう。


 ノアたちはその礼拝所横の扉へ案内された。

 食堂か何かなのだろう。10人ほどが座れる食卓があり、既にマリエッタの食べかけが置いてある。


「今日は……というかいつもの、麦のスープだ。酒もある。が、これは有料」


 ???――ノアは何が何だが勝手がわからない。教会で酒?そもそも食事は無料?じゃ宿代は?


「なんだそこの……ええと……そいや名前聞いてなかったな」


 私はマリエッタ。シスターマリエッタ――と、祈りのポーズをとり、今までのガサツな声色とは違う、よそ行きの美しい声でそう名乗った。


「……僕はノアといいます」


「ノア!ノアね!あんたは教会の施しは初めてみたいだな。顔みりゃわかる」


「ええ、その、実はそうです」


 特に信仰心も無いことは伏せておいた。


「ここはシルド神教マギナ教会。持たざる民に祝福を授け、貧しき者に施しを与え、罪なる者に赦しを与える神聖なる場所…………とまぁこんな感じで、旅人に寝泊りさせたり、飯食わせたりしてる。宿代も飯代もタダ……だが、みんなあそこの献金袋にいくらか入れていくようだな」


 前半は例のよそ声。そしてなんだかパチンコ屋の景品交換のようなシステム。


「ただ、この酒はあたしの私物なんで、有料。OK?」

 ぐびっと喉を鳴らして酒を飲むマリエッタ。


「あの酒も、私が仕入れているんだよ。樽で」


 ルークのいらない情報が横から耳打ちで入ってくる。


「おおそうだノアよ。懺悔しないか?懺悔!あるだろ?懺悔!いまならお布施半額で良いぞ!」


 お布施半額ってなんだよ――


「いえ、いまは特に。お酒も結構です。疲れているので」


「なんだ……そうか。じゃ奥で休むといい。どうか安らかに眠り給え……」


 それ死んだ人に言うやつでは?――と、脳内で突っ込みが止まらないノアだった。




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