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1章9話 獣人も、平穏に暮らしたかった

 あれから数日が経った――


 ナーレの村の方は大方話がまとまり、ノアの提案に乗ろう、という事だった。


 ノルンの村の様子も伺いたいところだが、行って村に入れるほど状況は変わってもおらず、ひたすら待つことしかできなかった。


「ノーアリン!元気かにゃ?」


 若干ダーリンが混ざった呼び名だったが、大きな進歩だ。甘んじて受け入れよう。


「ミィ……どうしたの?なにかあった?」


 ノアも、友人なら敬語はやめよう、と思い立ち、少し前からミィにはフランクに接している。


「いいにゃ?なにもぉ?何か用がなきゃダメかにゃあ?」


 相変わらず、べったりとくっついてくる。少しは人の目を気にしてほしいものだ――いや、人目が無いなら、こいつは襲ってきかねない。


「そういえば、ミィは魔法使えるの?」

 素朴な疑問だった。


「使えるにゃよ。身体強化と………………まぁそれくらいにゃ」


「なんか妙な間があったけど……」


「一応……火も使えるにゃけど……いつも火傷するからやだにゃ」


 そういうこともあるのか――と、ノアは少し感心した。




 そんな他愛もない会話の最中だった。


 ――ノルンから使者が到着した。



 ***



 使者が伝えたのは二つ。


 新村創立関連に関しては合意となった、とのこと。


 ヤドの次女――マイと、バズの息子で村長――ビズは、正式に婚約することになり、挙式を5日後にノルンで開き、その後可能ならナーレでも披露宴を予定している。


 とのことだった。


 この挙式をきっかけに、争いの緊張は払拭されるだろう。ノアはひとまず安堵のため息をついた。


「むぅ……よくわからん!」


 ミィは首をかしげている。こんな頭でも、身体強化の魔法は覚えられるのか――と、ノアは少しだけ魔法習得に興味が出た。



 ***



 さて、ここからが内政の本番であった。

 話はノアの計画で進んでいる。最も大きな山場は、3つの村を再編成すること。役割、住人――とりわけ急ぎたいのは、役割だ。これが決まらないことには、次へと進めない。


 ノルンからきた使者に、役割を決める会合を持ちたい旨の文を渡す。ノアは今まで文字を書かなかったので、書けることに驚いたが、まぁ言葉が通じている以上、不思議は無かった。



 数日後。


 文の返答があり、会合はナーレでの披露宴の翌日、そのままナーレで行うこととなった。

 ビズさんはじめ、ノルンの幹部にはバタバタとさせてしまい申し訳なかったが、多少距離がある故、仕方が無いのかもしれない。



 そしてさらに数日が経った。


 ノルンでは盛大な挙式が上げられ、そこでナーレとの平和宣言も行われた。くすぶっていた火種も、勘違いだったということで収まり、お祝いムードに村は大変活気づいたようだ。


 ノアも挙式に招待されたが、行けば仲人扱いだろう。目立つのは避けたかったので、ナーレの村に残り、静かに過ごした。

 といっても、挙式のその脚で親族たちはナーレへと披露宴をしにやってくるので、こちらの村も準備に明け暮れている。

 こちらの披露宴での挨拶は……避けられないかもしれない。



 そして、ナーレでの披露宴当日。


 それはもう、盛り上がった。焚火は3mを超え、飲めや歌えやの大宴会。かしこまっていたのは最初のうちだけで、あとはもう、酔いつぶれて倒れている人もいるほどだった。

 隣村へ嫁ぐことにこれだけ盛り上がれるのだ。そもそも争いの火種なんて、起こるはずも無かったのだ。


 争いの火種、といえば、凝りもせずミィが寝込みを襲いに来た。必死で抵抗するノアとレスリングよろしく攻防戦を繰り広げ、やってきたヤドに連行されていった。そのヤドの後ろで残念そうにうなだれるお母さんのことは、脳裏に焼き付いて離れなかった。


 結婚式を見て盛り上がって結婚――なんて、その後あまりいい話は聞かないんだよ。と、ミィに教えてやりたい。



 さて、会合当日。


 集まったのは、ナーレ側としてヤドとゾフ、ノルン側はバズと側近が1名、ビズは2名を連れている。


「それでは、一応僕の方で仕切らせてもらおうと思います。まずは確認ですが、ナーレ村長は継続、ノルンへはバズさんが、新村へはビズさんがそれぞれ村長に就く、ということでよろしいですか?」


 各々、決意を込めて返事をした。


「ありがとうございます。それではまず、それぞれの役割、というか特色のようなものを、ざっくりと決めていきたいと思いますが、まずはたたき台として、私が感じていることから。立地に関してですが、ナーレは西側に拡張性があるので、大きくしようと思えば可能かと考えます。一方、ノルンは、拡張性は少ないものの、天然の要塞として崖に面しているので、軍備に利点があるように感じています。これを踏まえると、ナーレには主に食料調達、ノルンには軍事力と、なにか交易品になるような特産物などを生産できると良いのではと考えているのですが」


「なるほど……特産物か……あまり考えたことはなかったな……」


「しかし、中には非常に手先が器用なものもいるぞ。革細工なんてどうだ?」


「技術さえあれば、織物なんてのも出来そうですね!」


「あとは、獣人は鼻が利く。薬草や茶葉の嗅ぎ分けなんてお手の物だ」


 みんな口々に様々な意見を出してくれている。とても心強い。


「なるほど!どれも良い案だと思います!特に薬草と茶葉はすぐにでも交易出来そうだ!」

 ノアもなんだかテンションが上がる。


「そうですね、うん。とりあえず、魔女の家との交易で、薬草を取引しましょう。ちょうどいまポーションの材料集めに苦労していたところです!」


 おおお――と、方向性が少しずつ定まっていくことに、皆興奮していく。


「では少しまとめます。ノルンの村には、まずは薬草と茶葉を特産品とし、新村を経由して交易していきます。今後はナーレから皮も流してもらい、革細工を。ゆくゆくは織物なども挑戦していきましょう」


「なんだか夢が広がるな!」

 頭の固いバズですら、このワクワクよう。本来は野心家なのかもしれない。


「で、交易の概要なのですが、ナーレは食料と皮を流す代わりに生活用品や嗜好品などを、ノルンは薬草や茶葉、加工品を流す代わりにナーレからは食料と皮を、新村からは生活用品や嗜好品を、新村はノルンからの交易品を売り、交換で得た交易品を各村と交易し、食料などの必要な物資と交換。という感じとなります」


「うむ……なかなか複雑だな……獣人はそもそもさほど賢くないからな……少し不安だ」

 ヤドの不安はもっともだった。


「はじめのうちは、私もサポートしますし、信頼できる行商人もいますので」


 通貨が無いので、交易に多少の不安はあるが、ルークなら何とかうまくやってくれるだろう。

 結局ルーク頼りなのが心苦しいが……あの人も商売人。儲けられるのなら、協力してくれるだろう。


「そして、新村の場所なんですが、どこが良いでしょう。交易がメインにはなりますが、最低限の狩場なども確保するとなると、それぞれの場所と同じ距離にあり、かつある程度離れていて、魔女の家に近いところが良いのですが。」


 魔女の家近隣は、立地上、魔族の森と人間領とを結ぶ唯一のルートとなっている。


「場所に関しては、それほど心配はしていない。水源があれば、割とどこでも暮らせるしな」


「そうですか!それでしたら、早速、候補地を探してください。決まり次第、村の建築を進めていきましょう」


 おう!――と全員が声を上げてくれた。


「あとは、住人の再配置ですが、どうでしょう?うまくいきそうな感じですか?」


「それもまぁ、何とかなると思うぞ。好奇心が強いものも多い。どういう集計になるか、楽しみに待っていてくれ」


「それはよかった!では、集計が出たころ、また会合を開きましょう」


 ――というところで、第一回の会合は終了した。



 夜――


 食事を終えたノアは、借りている自室で今後のことを考えていた。


 話はまとまってきているし、うまくいくと信じている。しかしやはり不安はぬぐえない。この計画を提案したのは自分だ。その責任はずっと付きまとう。そして、この計画自体を具体的に進めていくのは彼らだ。自分ではない。今後村を運営するなかで、シビアな問題も当然出るだろう。立ち行かなくなることだってあるかもしれない。計画の中に将来構想まで練った自分なら対処できる問題も、彼らはそううまく対処できないかもしれない。そう考えると、自分はどのタイミングでこの責任を手放せば良いか――


 ふと、既視感を感じる。


 自分はかつて、この類の悩みに直面していたのではないか?――


 しかし、それを打ち消すように思い出されたのは、ヤドの言葉だった。



 仲間は、頼ることで成長する――

 一番大変なのは、仕事を任せて見守ること――



 もしかしたら自分は、ただ自分に酔い、自分の有能さをアピールしたかっただけなのかもしれない。いくつもある正解を、独善的に選び、独りでこなす。仲間を信頼して任せないから、いつまで経っても頼られる、負のループ――これに、生前散々苦しめられたのではないか?



 こんなだから、こんなだからあんな――



 ノアは眠りについた。



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