第4話 中編「仇と名を呼ぶ者」
ミサキみたいな特徴的な口調のキャラを生成AIで作ろうとすると、再登場のたびに口調がぶれるので、いちいち再設定するのがちょっと面倒くさいです。
ドスッ。
胃の奥がひっくり返るような衝撃。私はぐらりとよろめいた。
「どうしたの? 怒りで燃え上がってたわりには、全然大したことないじゃん」
カレンが笑っていた。息ひとつ切らさず、軽やかに、残酷に。
私の頬に返った汗が、血に変わっていくのを感じる。
「ほら、お兄ちゃんみたいに吐いちゃえば? いっそ動画回そうか、またバズるかもよ?」
頭に血が上った。
でも、拳を振るうより先に、カレンの打ち下ろすストレートが私の顔面を打ち抜く。
「ほーら、簡単に崩れるんだ。フミヤくんとそっくり。妹ってそういうとこも似るんだね」
倒れない。絶対に倒れない。
そう心で叫ぶのに、身体はもう何発目か分からない打撃に、反応すら遅れていた。
——ああ、無理かもしれない。
足がもつれる。呼吸が、うまくできない。
そのとき。
私の脳内に、あの“声”がまた現れた。
《やっぱり無理だったんだね。自分にできるはずないって、本当は分かってたんじゃない?》
女の声。でもそれは、私の中の“もう一人の私”。
《所詮あんたも、お兄ちゃんを助けられなかった無力な子供だよ》
「……やめて」
《口だけで正義ヅラして、結局何もできない。だからお兄ちゃんは潰された。あんたも今、同じ目に遭ってる》
「やめてってば……!」
《ほら、言ってごらんよ。『お兄ちゃん、助けて』って》
涙が滲む。
目の前のリングが歪んで見えた。
私は、心の奥から言葉が漏れるのを止められなかった。
「……お兄ちゃん……助けて……」
——その瞬間だった。
「立ちなさいまし、マツリさんッ!!!」
耳に、甲高く、けれど凛と響く声が届いた。
視界の隅、ロープの向こう側。そこにいたのは、ミサキ。
長い黒髪をポニーテールに束ねて、ジムのTシャツを着た彼女が、両手を口に当てて叫んでいた。
「わたくし、あなたに倒された者ですわ! でも……それでも……! あなたが負けるなんて、絶対に見たくない!!」
カレンが鼻で笑った。
「なにそれ。罰ゲーム一緒にやったくせに? 今さら正義の味方面して、何がしたいの?」
私は、ふらふらと立ち上がった。
膝が震えている。でも拳は、ちゃんと握れていた。
「ミサキさんは……仇だよ。今でも、私の中じゃ、そういう存在」
「え、なにそれ。じゃあ——」
「でも、それでも」
私はカレンを睨んだ。
「罪悪感を持てる人間が、最低のままで終わらないってこと……私は信じたいの。だから彼女の声は、私を支えてくれる。仇であっても、それくらいは——認めてあげてもいい」
カレンの笑顔が、ピクリと揺らいだ。
その表情が、私に小さな火を灯す。
私は深く、息を吸う。
「だから——私はあなたを憎む。心の底から。私の目の前にいる“この女”に、全部の怒りをぶつける」
それは、怒りに溺れるのではなく、怒りを支配するということ。
復讐の炎を、暴力ではなく、意志に変えるということ。
「お兄ちゃん……見てて。今度こそ、私は……守れるよ」




