最終話 後編「優しさを撃つ拳」
リングの上で繰り広げられる愛と狂気と暴力の復讐譚、これにて完結です。でも後日談とかあるので、もうちょっとだけ続くんじゃ。
【ユリカ視点】
ぶっちゃけ、舐めてた。マツリがここまで来るとは思ってなかった。
いや、強くなるとは思ってたさ。でも、まさかあたしのボディで立ち上がってくるなんてな。
「……やるじゃん、あんた」
歯を食いしばってるマツリの顔は、痛みも恐怖も呑み込んで、ただ真っ直ぐだった。
昔の自分を見てるみたいで、ちょっと、胸がざらつく。
(何やってんだろ、あたし)
マツリを見て、久しぶりに思い出した。拳を交えるって、こんなにも心を曝け出す行為だったんだって。
あたしはずっと、強さを貫くために優しさを捨ててきた。
最初は違った。強くなれば、誰かを守れると思ってた。でも勝ち続けるたびに、挑戦者たちの目が変わっていった。あたしに潰されたあと、二度とリングに戻らない子もいた。立ち上がれないまま泣き崩れた子もいた。
(そのとき、あたし、何て言ってたっけ?)
"頑張ったね" って、言ったんだ。頑張った? それが、どれだけ相手のプライドを粉々にしたか、わかってなかったんだよ。
優しさが、ナイフになるってこと。
だから捨てた。強くあるために、あたしは怪物になった。
でも今、目の前のこの子は違う。マツリは、恐怖も怒りもすべてを受け止めて、それでもまだ誰かのために拳を握ってる。
(……あたし、ずっと間違ってたのかもな)
だから――
「全力でぶっ叩き合おうぜ、マツリ!」
【マツリ視点】
ユリカの拳が、さらに速く、さらに重くなった。
これまでの誰よりも、強くて、怖い。でも私は、逃げない。
お兄ちゃんが、あのとき立ち上がれなかった相手。
その人に、私は、私の拳で――
「これが……お兄ちゃんから、託された拳だッ!!」
身体の奥底から絞り出した渾身のボディブローが、ユリカの鳩尾に突き刺さる。
その瞬間、ユリカの身体が、ほんの一瞬だけ震え、そして、崩れ落ちた。
――カンカンカン!!
静寂の中に、ゴングの音が響く。
ユリカは、リングの上に倒れたまま、ふっと笑った。
「やられたわ……まいった、あんた、本物だよ」
その笑顔は、優しさを思い出した人の笑顔だった。
【フミヤ視点】
気づけば、涙が頬を伝っていた。
もう、マツリに守られるばかりの兄じゃいられないな。
「……お疲れ様、マツリ」
マツリはリングの上で私を見つけて、小さく笑った。
「うん……ただいま、お兄ちゃん」
【エピローグ】
復讐は、終わった。
でも、私はまだ、ここにいたい。拳を交わして、誰かと繋がるこの場所に。
「私……まだ、ボクシングやりたい」
この拳は、もう誰かを憎むためじゃなくて、守るために振るいたい。
だから、私はまた拳を握る。
これは、終わりじゃない。ここからが、本当の始まり。
――
『復讐妹のボディブロー』 完




