【第8話】神にクレームして即BANされる
異世界転生から時間が経って、気づいたことがある。
俺──志無野 睦夫(49)、人生再起不能──には、共感力という概念がまったく馴染まない。
数値はゼロ。人間関係は事故。職歴:婚活ギルド出禁・魔王軍クビ・推しから条例BAN。
そして、ふと思った。
「これって俺のせいじゃなくね?」
そうだ。
誰がどう見ても、初期設定にバグがある。
チート能力? 聖なる加護? 異世界ってそういうもんじゃないの?
俺が持ってるのは“言い訳(Lv99)”“責任回避(常時発動)”“共感遮断(呪い)”。
どう考えても、転生ガチャでバグキャラ引いてる。
俺はついに決断した。
「神にクレーム入れてやる」
向かった先は王都の聖神殿。
厳かな石畳を踏みしめ、神託の間に通される。
まばゆい光。舞う花びら。天井から響く聖歌。
その場の空気を切り裂くように、俺は叫んだ。
「おい神、仕様バグ起きてんぞ!!」
巫女がガタッと震え、手に持った祝福の杖を落とした。
「ひ……ひぃ……感情が……刺さってくる……!」
神官たちは硬直し、空間の神気がバリバリと軋む。
神像の目がゆっくりと潤み、ぽたぽたと黒い涙を流し始めた。
俺はさらに一歩踏み出す。
「なぜ俺だけ共感ゼロなんだ!? 初期設定から不公平じゃねぇか!」
すると、ステータス画面に強制的なログが表示された。
【あなたは神の領域に“配慮欠如”を行使しました】
【罪状:情緒不敬罪/神域混乱】
【処分:神域アクセス永久BAN】
【自動適用称号:「信仰遮断型生物」】
巫女が泣きながら言った。
「この人……神聖スクリプトの整合性まで歪ませてる……!」
その瞬間、祭壇の魔力水晶がバチンと音を立てて割れた。
白い鳩が飛び立つ──かと思いきや、悲鳴を上げて方向転換した。
俺は、神にすら嫌われたのだった。
帰り道、石段を降りながら、俺は空を見上げてつぶやいた。
「……信仰も、数値で裁かれるのかよ……」
すると頭上から、光の声が最後にひとこと。
「神は、お前に“共感”を与えた記憶がない」
第8話、終了──俺、異世界で神すら巻き込むスクリプトクラッシャーとしてBANされる。