【第4話】共感という言葉を、初めて検索する
この世界では、どうやら“共感力”が全てらしい。
恋愛も、冒険も、就職も、最終的には“あなた、他人の気持ちわかる?”で査定される。
魔法の精度も、コミュニティの信頼度も、すべてこのスコアで決まる。
俺の共感力は【0.0】。
婚活ギルドにも、冒険者ギルドにも、魔王軍にも拒絶された。
もうこうなったら、勉強するしかない。
俺は図書館に向かった。
そこなら、何かしらヒントがあるかもしれない。共感を数値で管理するこの世界で、きっと体系化された理論があるはずだ。
だが、入館直後から空気がざわつく。
「……来た、遮断者だ」
「やばい、感情結界が乱れてる!」
司書の精霊が本棚の影から顔を出し、俺の姿を見るなり全速力で逃げた。
「その人、共鳴ノイズ発生体です! 魔導Wi-Fiが干渉されます!」
は?俺、電波障害か何かかよ。
完全に警戒されながら、俺は“初心者向け感情学”というコーナーに辿り着いた。
唯一残っていたのは、ホコリをかぶった絵本のような本。
表紙には、笑顔のスライムとでかい字でこう書いてあった。
『なかよくしようね!きみのこころ、よんでみよう!』
対象年齢:6歳以下。
完全にバカにされてる気がするが、これしかない。開いてみる。
1ページ目──
『おともだちにイヤなことを言わない』
2ページ目──
『きもちをつたえるときは、こころをこめて』
……こめろって言われてもな。
他にも、“笑顔はこころのプレゼント”“わかってくれてありがとうを言おう”など、俺の脳内にエラーが出るフレーズが並ぶ。
俺は自分でも驚くくらい真剣に読み進めた。
ページの端には魔導メモ欄があり、AIが自動的に読者の反応を記録してくれる。
【読者反応】
・理解度:4%
・疑問回数:31回
・つぶやきログ:「いやそれ義務なの?」「で、誰得なの?」
終了後、貸出記録にこう刻まれた。
【読者名:志無野 睦夫(49)】
【評価:感情年齢5歳未満】
【感想:なかよくの意味がわからなかった】
司書が遠くからそっと言った。
「……あなたの精神スキャン、ページ数に比例して劣化してました」
つまり俺、読めば読むほど共感力が減っていたらしい。
帰り道、俺は思わず呟いた。
「……共感って、ググっても出てこねぇのかよ」
第4話、終了──俺、情緒の検索で“該当データなし”と表示される。